盗賊戦決着
盗賊コールを追って、暗闇のトンネルを進んでいこう。
「団長のためだ。ここで死にな!」
「ガキめ串刺しにしてやるよ!」
敵は二匹。武器は槍。馬は装甲が厚い。めんどいなあもう。
「ライトニングフラッシュ!」
まともに勝負なぞしてやらん。軽く雷光で目眩しして駆け抜けよう。
「うぎゃ!?」
「ぬおおぉぉ!!」
槍をこっちに振り回してくるので、高くジャンプして避ける。
「サンダードライブ!」
雷を地面に滑らせて、敵の左右から攻撃する。方向感覚でも狂えばいいと思ったが、うまいこと無駄な場所に槍を突き出している。
「そっちか!」
「ライトニングフラッシュ!」
「我慢!!」
「うそやん」
そもそもダメージが少ない。やつらの防具は魔法に対して特殊加工でもあるのだろう。
「集中して必殺技でも入れれば別だろうが……」
「あの男を見失うな」
コールは快調に飛ばしていく。槍使いの相手などしていられない。
「雷球招来! 急急如律令!」
追いつかれる前に雷球をばら撒いておく。これでしばらく追って来れないはず。
「ぬうううううん!!」
体格のいい方が槍に魔力を乗せてぶん投げてきた。槍投げのように一直線に魔法を破裂させていく。
「力技すぎるだろ。雷光一閃!」
とりあえず地面に突き刺さった槍は砕いておこう。
「あー!? てめえなにしやがる!!」
「はっはっはっは!」
細かい嫌がらせでストレス発散しよう。こういう積み重ねが冷静な判断につながるのだ。
「もらったあ!!」
細身のやつが連続突きを繰り出してくる。カトラスで弾きながら逃げたいが、槍の刃がぎりぎり届く範囲を心得ているらしい。
「ホーリーカッター!」
キアスの放つ光の刃が敵に連射される。便乗してやるか。
「ライジングナックル!」
雷の拳を連射する。これでちまちまとダメージ稼いでおけばいい。あとは痺れを切らして突っ込んでくれば。
「あばばっば!?」
「がああ! なめやがって! あれやるぞ!」
何か作戦があるらしい。今のうちに距離を稼ごうとするが。
「どっせい!!」
でかい方が細身の方を勢いよくぶん投げてきた。馬より速い。アホか。
「死ねやあああ!!」
「キアス! 道任せる!」
キアスの背中に立ち、突っ込んでくる敵に切り掛かる。槍のリーチに追いつくには長巻しかない。左腕でカトラス、右腕と雷の左腕で長巻を構えて戦闘開始。
「んな!? 腕が三本ありやがる!?」
「死ぬのはお前だ!」
返せない力でも速度でもない。ヴァンに比べりゃザコだ。しっかり見切って確実に攻撃を返していく。
「ちくしょうガキのくせに!」
数回打ち合うと敵の馬かでかいやつが来て、再び投げられる。
何度も付き合うほど暇じゃない。次で決めよう。
「今度こそ風穴開けてやる!」
「ライジングハンド!」
巨大な雷の両手でがっしりと全身を拘束する。ここまですれば電撃も効くらしい。
「ライトニングジェット!」
クナイを飛ばして敵の頭も飛ばす。これでようやく一匹。
「お返しするぜ。ライトニングジェット!」
掴んでいた敵に雷光を纏わせて投擲。突然のことで受け取ってしまい、追撃の隙をくれた。
「プラズマイレイザー!!」
「ばかなあああぁ!!」
完全消滅。こうしてなんとか倒せた。めんどくさい敵だったが、不思議と俺は怪我もしていない。
「普通にやっても勝てた?」
ちゃんとキアスに乗って、ふとそんな考えが浮かんだ。
「無論だ。今まで散々強敵と死闘を繰り広げただろう。鎧がなくともな」
「……強敵と戦うって、ちゃんと効果あるんだなあ」
理解してしまった。ヴァンや試験と比べると弱い。攻撃が見えるし、鍔迫り合いで押し負けない。
「こうして実感すると嬉しいもんだな」
「成長とは素晴らしいだろう?」
「だな。そろそろトンネルを抜けるぞ」
光の先にコールと馬がいる。もう邪魔はできまい。観念したのか馬を止めてこちらを待っている。
「追いついたぜ!」
「たいしたもんだ。素直に褒めてやるぜ」
「そりゃどうも」
余裕で拍手なんかしてやがる。ここから巻き返せる手段でもあるのか?
「盗賊よ、なぜ止まった?」
「この先は国境でね。流石のオレも無理やり突破はできねえ。お前さんらがいると無理だろ。決着つけるぜ」
コールの武器は炎を纏ったロングソードだ。遠距離攻撃も含めて炎属性なんだろう。
「いいだろう」
俺もキアスから降りてカトラスを構える。
「最後に聞いておきたい。目的の展示品はどれだったんだ?」
「聖地に入っていた偉人の装備だよ」
「その中でも剣が多いようだな。お前が馬に積んでいるのもそうだ。本当はもう少し詳しい手がかりでもあるんじゃないか?」
コールはとても楽しそうな笑顔を浮かべた。
「こんな出会いじゃなきゃ弟子にしたいところだぜ。そうさ名前のわからねえ装備が欲しいんだと」
「名のわからぬとはどういう意味だ?」
「他の偉人や歴史的資料と一緒に並んでいるか、それより厳重に保管されているのに所有者がわからねえもんがいいらしい」
わからん。有名な王族の装備じゃだめなのか。敵の目的がマジでわからん。
「そいつを持ってくりゃ聖地への居住権……まあこりゃ微妙だが、過去の俺の罪はチャラだとよ。晴れて無罪ってわけ」
「どうせ本命は聖地の宝だろ?」
「大正解。だがクライアントのお望みの品はなし。曖昧な依頼は好きじゃねえな」
相手の能力を見て交渉を持ちかけているのか。だとすると全員の性格まで把握できるやつが裏にいるはず。
「さーて、おしゃべりはここまでだ。勝ち逃げするとしましょうかね」
「そう簡単にいくかな? キアス、周囲の警戒を頼む」
「承知。武運を」
リベリオントリガーを発動してコールを見据える。
お互いに剣を構え、じりじりと距離を詰めていく。先に動いたのはコールだった。
「しゃあっ!」
驚異的なスピードで詰めてくるコールを、正面から切り掛かることで止める。互いの刃がぶつかり、中央で止まった。
「ほう、オレを止めるとはやるねえ」
「少しは手加減しろよ?」
「犯罪者に頼むことかよ」
足を止めての壮絶な打ち合いが始まる。
コールは全力で振っているように見えて余力がある。迂闊に踏み込むと反撃が来るだろう。
数回避けて深く切り込んでみると、ローキックで牽制された。体術もできるタイプか。
「ふっ、はっ!」
「燃え尽きな!」
「サンダーフロウ!」
火炎剣に電撃の剣で対抗する。熱と光がめっちゃうざいが、止めると相手が有利になる。ひたすらに避けて防いで切っての繰り返し。
こいつの剣はパワーもスピードも追いつけないほどじゃない。少し場を動かすか。雷速で背後に回って横薙ぎに切りつけるとコールが消える。
「甘いぜ!」
俺の背中に気配を感じ、咄嗟に上空へ飛ぶ。さっきまでいた場所をコールの剣が通過した。
「雷光一閃!」
鍔迫り合いに必殺技を混ぜてやる。敵の剣はそれほど耐久力がないのは刃こぼれで気づいた。ここで砕く。スロット三個使って威力を増して振り抜いた。
「しまった!?」
完全に砕き切った。決着をつけようとすると炎の渦が吹き荒れる。目眩しか逃亡か、考える時間を与えないように火炎弾が飛んできた。
「プラズマイレイザー!」
下部分を貫いて消すが、炎の渦はすぐに元通りになった。俺にゆっくり迫って来ているみたいだ。
「場所がわからなきゃ必殺技も無意味だろ?」
「こりゃ面倒だ。どうしたもんかね」
敵に影響されたのか、少し力技の気分だ。
「雷分身!」
渦を囲むように分身を九体出して、上空まで等間隔で配置していく。だるま落とし作戦だ。
「半端な攻撃じゃオレの炎は消えねえぞ!」
「だろうな。全力でいかせてもらう。ライトニングジェット!!」
俺自身を雷でコーティングして、渦に向けて飛び蹴りを放つ。一番下を消し飛ばしたが外れ。だがこれでいい。分身が反対側の少し上空で待機している。キックの姿勢で固定してあるので、そこに飛び込んだ。
「ライトニングジェット二倍!!」
感性も質量も無視して二倍の速度と威力で炎に飛び蹴りを放つ。これも外れ。反対方向に待機していた分身を吸収してさらに三倍。ジグザグに渦をしたから隙間なく消していく。
「五倍、六倍、七倍!!」
「や、やべえ!?」
「十倍ライトニングジェットオオオォォ!!」
気づいてももう遅い。退避の時間は与えない。コールのガードをぶち抜いて、さらに加速する。
「ちゃあありゃあああ!!」
「がっ、うがあああぁぁ!!」
落雷が密集したような大爆発を起こして、この勝負は俺の勝ちで終わった。
「アジュさん!」
トンネルからヒジリさんとリリアが出てきた。同時に騒ぎを聞きつけて国境付近の軍がこちらに来ている。
「ヒジリさん、後は任せます」
軍の相手とかめんどい。リリアと一緒に近くに隠れてやり過ごすことにした。キアスは既に隠れている。
「よく鎧無しで勝てたのう」
「立派であったぞ同士よ」
「一番驚いているのは俺だ」
そして展示品の回収やら軍との話し合いやらを全部ヒジリさんに任せ、俺達は街に戻るのだった。
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