やっぱり邪神じゃないか

「いやあ超人ヒジリさんの活躍は凄かったみたいですね」


「なんで引き継ぎなしで帰っちゃうんですか!?」


 一応ホテルの前に歴史資料館へと戻り、そこで展示品の再設置とか遠巻きに見届けた。

 そしてすっかり夕方である。なんか食いに行こうと話していたらヒジリさんが帰って来たのだ。


「だって俺達はおおっぴらに活躍できませんし」


「それでも近くで説明してくれるとか、やりようはあったじゃないですか!」


 なんかお疲れのご様子。現場でトラブルでもあったのかな。


「ヒジリどうしたの?」


「とにかく大変でした。やってもいないことを褒められ続けるのも、コールをどう倒したのか聞かれたのも」


「説明が手間だったんじゃな」


「わかりますか! 結界の中に展示品があって、流石はヒジリ様です! さあ展示品を回収しましょうって言われた時の私の気持ちが!」


「そこですか」


「そこですよ! なんとなく壊せばいいだろうって切ったら傷つかなかったんですよ! 流石はヒジリ様の結界ですなって、ちょっと間があってから褒められたんですよ!?」


 いたたまれない。これは申し訳ないことをした。実際には俺達が結界に触れればいいだけなんだが、そうかそんなやりとりが。


「生まれ故郷なのに心細かった!」


「次はオトが一緒に行ってあげるからね」


「ありがとうございます」


 オトノハに同情されて冷静さを取り戻したらしい。少々照れくさそうにしながら話を戻す。


「次からは連絡だけしてください。おそらくそういう手段もあるのでしょう?」


「そうですね、気をつけます」


「それと、アジュさんの言っていた名前のない英雄の武器ですが、館長ですら難しいそうです。どれも伝説と共に残っていて、そんな要求は初めてだと」


 コールから聞いたことを伝えてみたが、どうも存在があやふやすぎて難しいらしい。


「ですが、ゲオダッカルとの戦争と英雄の歴史はまとめられるようです。そちらから何かわかればいいのですが」


「いつくらいになるの?」


「明日の朝には届けてくれるそうですから、それを見てから次の行き先を決めましょう」


 そんなわけで次の日。資料を受け取り、昼飯食いながら六人で会議だ。

 今日のメニューはスパイスチキンと新鮮野菜のバーベキュー屋さんでございます。


「バーベキューでチキンとは意外だがうまい」


「プロが骨を取っておいてくれますから、肉の柔らかさを最大限に引き出してそのまま食べられるのですよ」


「ぅおいすぃ!」


「とてもおいしいわ」


 野菜の甘味というやつが感じられる。適当に焼きつつまったり話でも聞くか。


「私とリリアさんイロハさんでざっと報告書を読みました。長すぎるので時系列順にまとめます」


 ・めっちゃ昔にネフェニリタルを侵略した集団がいた。

 ・負けて未開の土地に逃げ込んだ連中が街を作り、何度かネフェニリタルに侵攻してきたが、その度に撃退している。

 ・何回も滅ぼした結果、周辺諸国からもマークされ、発展しない国ができた。

 ・その発展しない国の一番新しい名前がゲオダッカル。


「というのが歴史上の話ですね」


「執着がきしょい」


「そこまでする理由がわからんのじゃ」


「国と世界樹に特別な思い入れでもあるかのようですね。損をするばかりなのに攻め続ける意図は不明です」


 結局のところそこに行き着く。目的がさっぱりわからん。武力で制圧しても国民と諸国が納得しないだろう。なぜ戦うのか。


「聖地に入れたとして、世界樹は人の手でコントロールできないんでしょ?」


「そうですね、世界樹を守ることはできても、意のままに操ることは不可能でしょう」


「神様ならできるのかな?」


 シルフィの疑問は少しだけ可能性を広げる。嫌な方に。というかこれやっぱり神案件だよなあ。いつもこうなるよね。


「コントロールしてどうするんだろ? 復讐なら枯らすだろうし、栄えたら自分の権力にする?」


「神が人間の権力ねえ……」


 神の考えは理解できん。人とは根本的に違うので、常識やセオリーが通用しない。今は考えても無駄か。


「目的が不明なら敵幹部から聞き出す必要があります。各地の超人が囚人の捕獲に成功しているので、誰かが口を割るでしょう」


「ひとまず囚人と聖地はいいとして、大昔の神について知っている人が来るそうです」


「なるほど、戦争始めた邪神の話か」


「それを語るのがうちってわけっすね」


 やた子が横でチキンを食っている。いやお前それいいのか。八咫烏のなんやかんやだったような。


「やた子ちゃん!」


「はいはいお久しぶりっす! やた子ちゃんっすよー!」


「誰ですか?」


 オトノハとヒジリさんは初見なので軽く自己紹介が入る。その間にもやた子はバーベキューを食っていた。勝手に混ざるな。


「朝イチで資料渡して神界に行ってもらったんじゃよ」


「いやーめっちゃ急だったっすねえ。うちくらい速くないと無理っすねえリリアさん」


「じゃから頼ったのじゃよ」


 神界なら大昔の記録も残っているか。やるなリリア。


「しかしお前が来るとなると、いよいよやばいことになりそうだな」


「ういっす、本来王族でも軽々しく話せない内容っすからね。では神の使いやた子ちゃんがお話しするっす」


 俺達は少しだけ神妙な雰囲気になって、やた子の話を聞き始めた。


「遠い遠い昔、この国は世界樹とともに生きるエルフによって、平和で美しい国だったっす。けれどそこにパズズという魔神がやってきたっす。こいつは疫病をもたらす厄介なやつっす」


「魔神?」


「自称みたいっす。邪神と考えておけばいいっすよ。でもってこいつは自分を信仰したり、お守りを買ったりするやつが病気にならないようにするというやり方だったんすけど」


「マッチポンプだったんじゃな」


「大正解! 次の目的をまだ名前の違ったネフェニリタルにしたっすね。理由は不明っすけど、病気は誰でも怖い。簡単に人心を支配できると思ったわけっす」


「ひどい! 神様なのに悪いことするなんて!」


 神にいいイメージがあるんだろうな。オトノハの夢を壊すんじゃないよ邪神め。


「けれど計画は失敗。既に世界樹という浄化できる存在が信仰されていて、その力は絶大。エルフの団結力もあって、国内では勝てないことを悟る」


「流石はネフェニリタルの精鋭。大昔から強かったのですね」


「うっす、それに焦ったパズズは暴挙に出た。なんと周辺国に病気をばら撒き、それをエルフのせいにした」


「なにそれ!? ひどすぎる!!」


 やはり常識が違う。人間など信仰生産装置くらいに思っているのだろう。それと戦うのか……めんどくさいことになるな。


「まあ当然ながらその国を愛する神々に気づかれまして、パズズ包囲網ができたっす。計画は当時の教団ごとぶっ潰され、パズズという神は存在を人類から忘れられ、ゆっくりと消滅していくはずだったっす」


「ならなぜ生きているの?」


「パズズは最後のあがきとして、自分の血を与えた人間を王にしたっす。だからゲオダッカルの王はパズズ信者かつ記憶が残る。それでかろうじて生きながらえた」


「しぶとい」


「だからゲオダッカルの王はしぶとく生きていて、パズズはぼんやりした弱小神へ落ちた。だから国から出る力はない。はずなんすよねえ」


 だから前線には出てこないのか。だとすると解決策が限られるな。


「しつもーん! その時はどうやって倒したんですか?」


「包囲網で逃亡を阻止して、ネフェニリタルの王とその親友がゲオダッカルに攻め込んで倒しきったっす。それはそれは見事な戦いだったらしいっすねえ」


「神殺しか。どの時代でもいるものだな」


「うちから話せるのはここまでっす。今の神は基本的に人間の戦争には加担しない派が大多数っす。戦うならどうかお気をつけて。あとこれネフェニリタル軍からのお手紙っす」


「わかった、ありがとうやた子ちゃん!」


 みんなで礼を言ってやた子と別れた。情報は増えたが、対策は思いつかないという状況だ。


「これさぁ……ゲオダッカルの王様どうにかしないと無理ですか? オトには良案が浮かびません」


「そもそも王様が犯人確定でもないのでは?」


「きっちりゲオダッカル潰して王様と邪神殺すくらいしか思いつかん」


「それができれば苦労はないわね……私達は他国に攻め込めないわよ」


 シルフィとイロハは大問題になるので無理。俺とリリアも人間の戦争には加担したくない。よってかなり難易度が高い。


「うあーしんどい。アジュさんがまたお手伝いしてくれたりとかは……」


「俺とリリアは人間の争いには不干渉スタイルだ」


「お二人はどういう立場なんですかね?」


「基本は観客だな。邪魔されたら潰す」


 自分達から他国を侵略する理由がない。遊び場が減るだろ。よって四人とも軍に入ったりもできない。俺がさせない。


「アジュに期待しても無駄じゃ。それより次の計画じゃろ」


「それなんですが……軍からゲオダッカルが多面侵攻のおそれありと……」


 囚人が潰されたから本隊が出てきたか。あっちの戦力は想像より低下しているのかも知れない。ならまだ望みはあるか。


「なので戦線の要となる街より応援要請が届きました」


「オトも行く! 戦場を鼓舞っていうのをやってみる!」


「いけません。敵にみすみす王族の場所を教えるなど」


「けどお姉ちゃんなら行く! 今は大変な時なんだから、家族で助け合わないと!」


 まだフランへの負い目が断ち切れていないな。このままじゃどこかで先走って死にそうだし、行かせて解消するべきだろう。


「俺達は護衛役であり観光客だ。行くならついて行く。軍には入らないけどな」


「うむ、わしらはお友達じゃ」


「オトちゃんだけにはしないよ!」


「よろしいのですか?」


「元から護衛役を受けた身です。私達のことはお気にさらないでください」


「ありがとうみんな!! ヒジリ! 行くよ!!」


「ありがとうございます。では早速次の街へ向かいましょう」


 こうして少しだけ解決に近づいたのであった。

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