オトノハの決意と敵の狙い
次の街は前より大きくて防衛拠点のようだ。
俺達は大規模な軍事拠点へ案内されて、客室で暇していた。
「ここは国境や他の街への中継地点であり、戦略的にも重要な場所です」
「なんとしても落とされるわけにはいかないぜぃ。責任重大!」
オトノハはまだ緊張している。むしろこれからが本番か。軍に向けて演説しなきゃいけないのだ。
「あまり気負わんでよい。オトノハちゃんだけに国の命運託したりせんのじゃ」
「オトノハ様には私がついています。どうかお一人で背負わないでくださいね」
「ありがとうみんな。がんばるよ、この国が好きだから、オトにできることをやる!」
まだわかっとらんな。どうしてそんなに緊張するかね。少しほぐすしかないか。
「もっとリラックスしろ。暇だったら寝ちまえって」
俺はもうベッドで横になっている。上等な部屋は寝心地がいいのう。
「むしろアジュさんはなんでそんなリラックスできてるんですか?」
「最悪みんなでオトノハさえ守れりゃいいしな」
「言い方に気を遣ったわね」
「うむ、学習しておるのじゃ。えらいえらい」
リリアに頭を撫でられる。まあいくら俺でも考える時間があれば間違えないさ。
「アジュえらい」
「偉いじゃなくて起きましょうよ。なんで寝てるんですか」
「やることないですし。オトノハのスピーチはどうするんですか?」
「もう暗記しました!」
えらい。基礎スペックが高いね。だがまだ緊張しているな。声から少し震えが感じられる。
「オトちゃん、スピーチは緊張してもいいんだよ」
「シルフィ様?」
「わたしもこういう戦いに出たことがあるよ。フルムーンの命運がかかってる、ほんとに危ない戦場でね。神様と戦いっぱなしだった」
「初耳ですが」
「ヒジリさんもオトノハも他言無用で頼む」
シルフィが何を言いたいのかなんとなく理解した。ここは任せよう。
「何人もの神様を倒さなくちゃいけなくて、騎士団長もいっぱい参加した戦いだったよ。本当に死んじゃうかと思った」
オトノハの隣に座って優しく語りかけている。その雰囲気からか、場の空気も少し落ち着いてきた気がした。
「わたしも第二王女で、ねえさまが前に出てくれたんだ。だから何かお手伝いしなきゃって思ったよ。結局前線で戦ったんだけど」
「怖くなかったんですか?」
「少しは怖かったよ。けど信じてた。みんなこんなことで負けないって。ずっとみんなの強さを信じてた。自分だけの力で勝ち負けが決まるわけじゃないよ」
「みんなを信じる……」
「オトノハ様だけに辛い思いはさせません。超人として、この国を愛するものとして、邪神など退けてみせましょう」
今までの街でも慕われていた。少なくとも嫌われるお姫様ではない。ならば悪い方には傾かないだろう。
「難しく考えなくていいから、オトちゃんの気持ちを伝えればいいの。きっと伝わるよ」
「そっか……よーし! ヒジリ、スピーチちょっと変える!!」
「お手伝いします」
こうしてオトノハはスピーチへと赴く。もう迷いはなさそうだ。
「さて、敵は来ないと思うが」
俺達は目立てないので、オトノハが狙撃されないように遠くで見張るだけ。いきなりそこまで準備できるはずがないが、まあ一応ね。
「アドリブでやってきたお姫様を敵陣で倒せるとしたら、それはもう神じゃな」
「流石にないと思いたいわね」
鎧を私服の幻影で偽装して、四人でオトノハを見守っていた。進行は順調に見える。
「だから、私はこの国が大好きです! 絶対、絶対生きてまた会いましょう!!」
オトノハの演説は拍手で終わった。大成功と言っていい。兵の指揮はとても高い。
「敵襲!!」
「タイミングがよすぎるだろ」
ちょうど兵がやる気を出しているんだぞ。いくらなんでもできすぎだろ。
「みなさん、オトノハ様をお願いします」
ヒジリさんがオトノハを連れて来た。
「敵の強さによっては私も前線に出ますので、安全な場所へ避難していてください」
「タイミングがよすぎます。敵の狙いは別にあるかもしれません」
「敵兵は囮かもしれんのう」
「敵軍はかなりの数ですよ?」
「俺なら敵がゲオダッカル軍か100%判別できなくして、全員捨て駒にするか、途中で無駄死にさせます。テロリストと囚人なんて全員死んでいい命ですし、聖地に入れたら邪魔になる」
敵のフットワークの軽さはここにある。所詮死んでいいやつらだ。無駄に突撃させてもゲオダッカル軍は減らないのさ。
「なるほど、兵に言っておきます」
ヒジリさんは簡単に伝令を出し、俺達を頑丈そうな広い部屋へと連れてきた。
「ここなら見張りも熟練者です。そう簡単に突破はされません」
「ネフェニリタル軍はどう戦うつもりなんだろ?」
「まず防衛じゃろ。この街は外から落とすにはしんどい。敵軍に攻撃魔法でも撃ち込めば有利じゃ」
「つまりそれを覆す手段があると」
「威力偵察でなければそうなるわ」
ずっと負けっぱなしの国に囚人足してもたいした戦力じゃない。統率は取れなくなるし、達成できる目標も少ないはず。
「ここに世界樹に影響しそうなアイテムは?」
「ありません。純粋に防衛の要というだけです」
「戦争を本格化させるつもりかも」
「させて負けるのはあっちよ……世界樹の根に反応あり。やっぱり来たわね」
この街にも世界樹の根っこは存在する。どうせ狙ってくるだろうから、イロハに影を使って偵察させていた。
「世界樹への放火か。兵士で対応できると思うが……」
「街の外壁にも火を付けているわ」
「内側にスパイがいたか……外壁?」
なんで街中につけないんだ? 主要拠点だけでも燃やせばいいのに。
「私が行ってきます!」
「紫色のじじいがいたら報告してください」
「了解です!」
ヒジリさんに任せればまあ問題ないだろう。光速移動ができるのだから、街のザコなんて数秒で全滅する。
「街を制圧するなら、壁に火をつけたらいけないよね?」
「だな。ゲオダッカル軍まで入れなくなる」
運よくここの軍を倒せたとして、燃え盛る壁の処理に時間がかかる。外壁から魔法を撃たれることを嫌ったのだろうか? だとしても火をつけるうちに撃たれるだろう。根本的に納得がいかない。
「街の人が無事でいてくれたらいいのに……みんな死なないで……」
「避難場所は複数あるし、軍がちゃんと機能しているわ。安心して」
「街の外に出ない限り、被害は最小限で済むはずじゃ」
つまり街を焼き尽くすことはできない。聖地への使徒も膨大な数ではない。つまり街の内外から攻撃できるが、自力の差で負ける。この戦いはほぼ無意味。では敵の本当の狙いは何だ?
「ここに超人は?」
「いるはずです。敵に超人がいることも考慮して、複数滞在しているはず」
「何か狙いがあるはずじゃ。予想できる狙いはこの街、住人、防衛拠点、超人、聖地への鍵……」
「オトは?」
「お前は完全にアドリブで今日来ただろ。そんなもん予定に入れられない。王族なんだから殺したら聖地への影響もわからない。殺害計画に入れないはず」
「ヒジリさんに援軍の要請を出したのはこの街じゃな?」
「そこからスパイの可能性を考えたらもうきりがないわね」
大人しく待っていようかと思ったその時、上空に不穏な気配が現れて消えた。
「気づいた?」
「上からだよね?」
「めっちゃ遠くじゃな」
「ちっ、お前らはここにいろ」
嫌な予感がしたので、渋々外へ出る。兵士の装備に支給品の兜で正体を隠したら、さっさと空へ向かおう。
「こっちは任せて、ストレス発散してくるのじゃ」
「了解」
雲の上まで来たのに何もない。まだ上だと判断して宇宙へ。
「いた」
黒いローブの三人組が、妙な装置に魔力を込め続けている。巧妙に隠しているようだが、ステルス機能だろうと鎧なら識別可能だ。
「失礼、そこで何を……っと」
一人が突然ビームをぶっ放してきた。攻撃してくれると反撃の口実ができるので助かる。
「宇宙で適用されるか知らんが、公務執行妨害だ」
俺が殴りかかると全員がこちらへ迫る。人型じゃない。大きな目玉だけのやつと、四角いブロックがいくつもくっついているやつ、そして蛇に羽が生えたやつだ。
「人間じゃないのか」
目玉が光ると周囲に光のリングが展開する。そしてリングの中に蛇の火炎と光の羽が入っていく。
「なにをやって……おおっと」
目の前にできたリングから炎が出てきたので避ける。なるほど時空間ゲートみたいなもんなのね。
「無駄なことを」
鎧の勘と計算と予知を上回ることはできない。そもそも火力不足だろ。
「お前は格闘型か」
ブロックの集合体が突っ込んでくるので殴ってみる。妙な感触だ。柔らかくも固くもない。そして力がこちら側に跳ね返ってくる。その力をさらに重ねて殴り返すと、これも返してくる。ちょっと楽しい。
「ほほう、面白いな」
これも無駄だ。どんな現象や技術であろうと、誰を経由したものであろうとも、俺の攻撃は俺に吸収か蓄積される。パワーが戻るか増すことはあってもダメージはない。だが面白いので遊ぶ。
「ほれほれ」
手刀から拳打まで様々な攻撃を試す。これによりメカニズムを解明して、鎧により再現できるようにするのだ。
「あれは……」
ブロック内に次元ゲートが発生している。俺の力を変な装置に流しているみたいだ。そして極太ビームが発射された。
「させるか!」
先回りしてビームを殴り殺す。俺なら簡単に消せるが、かなりの威力を一点集中で撃ち出している。射線から計算すると狙いはあの街だ。
「なるほど、超人を集めて主要拠点ごと吹っ飛ばす計画か」
やつらにとって聖地以外は滅んでもいいのか。その結果どう得するのか知らんが、妙に思い切りのいい作戦だな。
「まさか嗅ぎつけられるとは思わなんだよ」
全身が青色のじじいが現れた。色違いとかゲームのザコかよ。
「運の悪い兵士だ。ここを見つけたものは死んでもらう。解放!」
三匹が数倍に巨大化した。魔力もぶち上がっているようだ。
「ペットの趣味が悪いな」
「主人の趣味だ。さあ死ねい!!」
ひとまずペットを潰して情報を引き出すか。
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