クライマックスへの予兆
よくわからんオブジェ三匹と青色のじじいを殺そう。
「早死にしたい小僧の願いを叶えてやろう」
「おせっかいが好きなやつだな」
オブジェ三匹が一斉にこちらへ攻撃を開始する。全員光速の数十倍は出ている。いまさらだがザコが光速突破できるのずるくね。
「だが無駄だ」
蛇の頭をアッパーで粉砕し、目玉のビームを避けてブロックを蹴り飛ばす。体の一部が消えたくらいじゃ活動停止しないらしい。
「少しはできるようだな。中途半端な強さと好奇心は死期を早めるぞ」
「じゃあちょっかいかけてくんな。ゲオダッカルはやること他にないのか?」
じいさんの全身から青い棘が生える。成分分析すると、どうやら死の概念を棘に変えているらしい。そんな貧弱な概念が鎧に通じるわけがないだろう。
近い順に雑にへし折って投げ返してやる。
「ネフェニリタルの世界樹こそが我らの悲願よ。我が目的は我らの宿願。そのためならば幾百年とて戦おう」
「そんなにパズズとやらは大切かい?」
初めて表情が変わったな。いいぞもっと追い詰めればボロが出るだろ。
「好奇心は早死にすると言ったばかりだぞ」
「疫病でか? そんなもんでネフェニリタルは滅びないさ」
「どうかな? 既に手は打ってある」
拳を合わせると、じいさんの右腕が破裂する。それほど耐久力があるわけじゃないな。追撃で顔を蹴り抜いて近くの隕石に埋める。
「ぬがっ!?」
「落ちろ!!」
俺の魔力波が届く前に、じいさんと隕石が時空ゲートに飲まれて消えた。
「そんなもんが通用すると思っているのか?」
鎧によるサーチ完了。適当に宙を殴って別次元へ打撃を届ける。
「ぶっばあ!?」
はいヒット。じいさんがこっちに戻された。
「おのれおのれおのれ! 合身!!」
オブジェ三匹がじじいと合体して、よくわからん化け物になった。単純にくっついただけな気もする。
「切断してくれる! 時空ゲート!」
俺の足元にゲートが出現し、腰まで飲み込んだ。
「終わりだ小僧!」
ゲートが消える。なるほど、普通のやつならこれで胴体が切断されたりすんのかな。鎧を着ている俺には無意味というか、次元の狭間程度で傷つくわけ無いじゃん。ちゃんと別次元にある下半身は繋がっている。
なんかこういう落とし穴的な性癖ネタあった気がするなあ……壁尻じゃないやつで、感覚がどうとか。
「痛みに声も出ないか? くっくっく、ふはははは!!」
「いや普通に無事だよ」
自分で次元の裂け目を作って出る。鎧に不可能はないのだ。
「なんだとっ!?」
「ちなみに切断できても無意味だ。体が分割することはダメージにならない。普通に動けるしくっつければいいし。ってわけでもう死んでくれ。はっ!」
概念バトルは飽きた。直接接近してボディブローを連発する。
「うががががが!?」
「はっ、よっ、そら!!」
顔面にハイキックを入れてぶっ飛ばし、隕石を何個も突き抜けながら星の彼方に消えるじじいの背後に回り込む。
「ちゃりゃあああぁ!!」
凄絶なラッシュを繰り広げながら別方向に進んでいき、頭を掴んで無人の惑星ごと貫いていく。最早合体じじいはボロボロだ。
「こんな……たった一人に阻まれるとは……こんなことが……」
「そろそろ話せ。パズズ復活が目的なら、ネフェニリタルは関係ない。むしろ復活してから決戦に入るはずだ。なぜそうしない? あの国には何がある?」
「答えるとでも思ったか!」
「だろうな。だから色々考える。ネフェニリタルにパズズの復活を邪魔する何かがあるのかな、とかな」
少し表情に出たな。焦りか。顔に出やすい敵でよかった。
「聖地に何かがある。そしてパズズは全人類の記憶から消えるまで時間がない。誰も覚えていないなら信仰を得ることはなくなり、完全に消滅する。というのが俺の予想だよ」
神は信仰なしで生きられない。上級神くらい強けりゃ別だろうが、パズズは別。しかも神々によって長い年月をかけて消滅していく刑罰に課せられた。だから聖地への使徒は存在をアピールして暴れ回るし、犠牲が出ても突き進む。
「なりふり構わないテロはそういうことだと思っている。で、正解は?」
「パズズ様の心臓を奪い返す。それが我々の目的だ。すべてはそこから始まる」
「心臓があるタイプの神か。そりゃしんどいな。神には臓器なんてハンデだろうに」
「貴様らに邪魔はさせん!」
じいさんの動きは光速の三百倍が限度か。こりゃヒジリさんでもいけるだろう。雑に受け流してカウンターを決め続ける。
「ぬぐあ……あああ!!」
「無駄なガッツを見せるんじゃない!」
「ぬううぅぅ! なぜだ! なぜ勝てぬ! 手も足も出んとは! ならばこれでどうだ!!」
不気味な衛星が飛び出し、じじいにあたる。自爆じゃない。エネルギーを吸収しているのだ。レーザー衛星とすら合体するのかお前。なんでもくっつけりゃいいってもんじゃないぞ。
「これでいい。貴様ごとネフェニリタルに破壊をもたらす! くらえええい!」
でかじじいの拳が振り下ろされる。その衝撃は周囲の星々を震わせた。だが俺は痛くも痒くもない。
「こんなもんか?」
「ありえん! 何者だ貴様!」
「あんたより装備の質がいい男さ」
「くだらん、ならばこれでどうだ!!」
じいさんの巨体が輝き、黒いオーラとともに宇宙へと溶け込んでいく。
「今の私は世界と同化している。感じ取れるか? 世界をどう殴る? どう殺す? 世界ごと私を殺してみせろ! ふははははは!」
巨大レーザーの群れがちかちかして大変うざい。じじいにクリスマスのイルミネーションがくっついたイメージだ。めっちゃ腹立つ。
「小賢しいやつだ。物理無効になったくらいで俺に勝ったつもりか」
『パニッシャアアアァァ! クエーサアアアァァァ!!』
必殺技で決着をつけてやる。膨大な魔力と神力が合わさりながら必殺技を作り出す。無限を超えた数えきれない天体・時空・次元とその裂け目の集合体が渦を巻き、エネルギーとなって莫大な光を放ちながら足元で無限膨張を繰り返していく。
「無駄だと言ったはずだ! 今の私に攻撃は通用しない! パズズ様がくださったこの力が! 因果も概念も改変も通用しない! 私を殺せる攻撃など存在しないのだ!!」
「こいつは攻撃じゃない。中和だ。敵意のあるものじゃない。危害を加えるものじゃない。だから攻撃という認識はされない」
光はただするりと、欠けていたピースがはまるようにジジイの魂に入っていった。
「なんだ!? おのれ何をしたあ!?」
「治療だよ。痛みはないはずだ」
まず宇宙と混ざったジジイを異常な状況だとして人と宇宙を分離。
無効化能力は攻撃じゃないので発動しない。こちらの効果だけが続く。
浸透した光があらゆる能力と防御を中和して消していく。
さらにオブジェ三匹はじじいとは無関係なので消える。
神の力は神のものなので分解消去。
宇宙で呼吸ができてはおかしいので異常を解消するため呼吸不可へ。
悪の意思と思考は危険なのでデリート。
目的も存在意義も完全に忘却。
これらを無限に繰り返し、ただの人間になるまでの過程と時間をゼロに。
そして宇宙で呼吸できずにもがく人間のジジイが残る。
『ニュートライズ――コンプリート』
「私は何をして……息ができない!? 私は……誰だ……ここ……は……?」
「そのまま眠れ。崩壊に耐えられまい」
衛星レーザーもパーツごとに分解されている。こいつが頼れるものはもう何もない。存在そのものが世界から完全に消滅した。
「まったく、いつもいつも変な敵が出るな」
『アジュ! 聞こえる!!』
突然シルフィから通信が入った。かなり焦っているようだ。
「シルフィ? どうした!」
『聖地への使徒が街の人に化けてて、世界樹に!』
「落ち着け。ゆっくりでいい。今そっちに戻る」
宇宙から星へと落下する。あいつらの魔力は見つけやすくていいな。
『世界樹の根っこに血を吐いたり破裂して疫病をばらまいておる』
「クソやん」
『今なんとか食い止めているけれど、おそらく他の街でも同じことが起きているわ』
マジで大規模テロやんクソが。
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