最後の囚人と古代遺跡

 激烈にやばい予感がする。リリア達のいる場所に降り立ったが、その途中で騒ぎ始めた街を見た。


「こっちは終わったぞ。どうなっている?」


「街中に聖地への使徒が!」


「ヒジリさんは敵の掃討に向かったわ」


 街が大騒ぎだ。逃げ惑う人を兵士が守りつつ誘導しているが、敵と味方がよくわからん。


「健康なやつがいるぞ!」


「一緒に病に浸ろうぜええぇ!!」


 聖地への使徒がアレなことを叫びながら走ってくる。当然だが魔力波で安全に消した。味方を近づけたくないし、俺も近づきたくない。


「汚物共が、馴れ馴れしくこいつらに触るんじゃない」


「兵士に攻撃されたあああぁぁ!!」


 なんか村人っぽいおっさんが騒ぎ始めた。


「なんてこった! あの人の言う通りか!」


「軍人が善良な市民を攻撃したぞおおおぉぉ!!」


「なるほどそう来るか」


 おそらく町人に化けた敵だろう。そうやって街の人間全員を疑心暗鬼にするつもりか。兵士が剣を向けるのをためらいそうだ。


「やばいぞ、大衆なんてアホだから簡単に騙される」


「その発言がやばいと思います!」


「オトノハ様、敵にルワイが混ざっているようです! 大至急拠点にお戻りください! 護衛します!」


 ヒジリさんが慌てて帰ってきた。


「るわい?」


「ゲオダッカルの囚人最後の一人です。有効的な国々をけしかけて戦争させたり、街の人間を煽って自軍と険悪にしたりする戦争犯罪者です」


「最後に残ったのがそんなやつかい」


「自分で戦わないから残ったんじゃろ」


「あそこにエルフがいるぜ!!」


 なんかこっちを見ている使徒や村人Aがいる。嫌な予感がするなあ。


「エルフに病気をうつせば聖地へ召されるぞ!」


「かかれ! どうせあいつらも悪い兵隊の仲間だ!!」


「なにそのクソみてえな発想」


 どうやったのか知らんが、モブを扇動するのがうまいじゃないか。

 とりあえずこっちに石を投げてきたアホには投げ返して頭をかち割っておく。


「しょうがない、ヒジリさんそこに立ってて。オトノハ、ちょっと権力貸してくれ」


『トーク』


「斬新な頼み事だぜぃ」


 俺の声を完全な他人へと変え、広場全域から街中へと広げる。


「聞け! 今この街には超人ヒジリ様がいらっしゃる! この街を騒がせているのはゲオダッカルの囚人と、それに連なる聖地への使徒というテロリストだ! やつらは街に疫病を広げ、聖地を汚そうとしている!そこで聖地への使徒一匹につき、十万の賞金をかける!!」


 モブがどよめく。いいぞ、混乱と沈黙はこちらに喋る機会をくれる。


「あの、完全に知らないのですが何を勝手に……」


「ふざけんな! オレたちゃ金目当ての民間人に負けるほど……」


 さっき騒いでいた敵の首が飛ぶ。背後のおっさん剣士が切り飛ばしたのだ。


「兵隊さんよ! これでいいのかい!!」


「最高だ! ヒジリ様より一番槍の褒美として二十万が与えられる!」


 俺が二十万を出し、ヒジリさんに持たせる。おっさんがこっちへ歩いてくるのを、静まり返った民衆が見守っていた。


「えっ、あの、はい。よくやりました?」


「ありがとうございます!」


 おっさんは金を天に掲げる。ここだ。ここで女子供の声を多めに作って街中へ響かせる。


「いやっほう! もっと探してくるぜ!!」


 走って路地へ消えるおっさん。いかにも嬉しそうなスキップが難しいな。次回の課題にしよう。


「人殺し! おれらにまで人殺しを強要するな!」


「そうよ! 王家がこんな命令を出すなんて信じられない! ひどいわ!」


「無抵抗の市民に疫病ばらまくテロリストもカルト宗教も人間もどきだ! 殺しても爽快感しかないだろう! しかも金がもらえて自分達をひどい目にあわせたやつに反撃できる!」


「敵をどうやって見分けるんだ! そうやって混乱させるつもりだろう人殺しの兵隊め!!」


「諸君らも同士討ちは嫌だろう。なのでマーキングをする!」


 鎧の探知・識別能力をフル稼働。疫病もちで聖地への使徒をピックアップ。街の空にエネルギーの塊を発射だ。


「はっ!」


 エネルギーが細分化されて、クズどもの足に突き刺さる。


「あぎぃ!!」


「うわああぁ!?」


「なんだあっ!!」


 これでどこかに行くことはない。強そうなやつは肩も貫いておいた。


「ピンク色に光るやつが敵だ! 仲間の敵を討つのだ! まだまだ十万の首は残っているぞ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」


『殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!』


 さらに街の人の声を作って響かせる。ここでちらほら動く連中が出てきた。いいぞいいぞ。ちなみに文句言っていた奴らは敵でした。やったね。


「さらに朗報だ! ルワイという主犯の男を連れてきたやつには百万くれてやる! これは山分けだから、急がないと取り分が減るぜ! 居場所は転がってる連中に聞きな! どうせ首をはねる予定の人間もどきだ! なぶり殺して聞き出しなあ!!」


「うおおおおぉぉぉ!!」


「この野郎! 汚え病気うつしやがって! 殺してやる!!」


「やめ、やめろ! やめろおおぉぉ!!」


 はい大狂乱でございます。敵がどう言おうが現金が出た。そして病気を撒き散らすのが早すぎた。完全にあっちが悪だ。正義と大義は便利だねえ。


「さて、とりあえず安全なところへ行くぞ」


 俺の影から二十万が戻ってくる。これで問題なし。


「よしよし、偉いぞイロハ。打ち合わせなしでよく気づいてくれた」


「当然じゃない。これが愛の力よ」


 偉いので撫でてあげよう。しっぽが揺れている。


「それはおじさんに渡したお金? 奪っちゃったんですか!?」


「違う。おっさんが俺の作った幻影なんだよ。路地裏で影の中に入れて、影の道を使って金を回収した。俺が身銭切るわけないだろ」


「アジュ検定三級くらいの問題じゃな」


「無駄にレベルが高いぜぃ」


 ここまで完全に察して動けるのは最高だ。やはり四人で生きていくべきだ。それを今回の旅行で痛感している。


「あの、百万の賞金はどこから……?」


「そりゃネフェニリタルの国庫から?」


「だから事前に相談してくださいよ!? どう説得すればいいんですか!」


「なーに、国の危機です。きっと予算がおりますよ。それに超人ヒジリさんがいらっしゃる。自分で賞金かけて自分で殺せばただですよ。光速移動の出番です」


「まさか一瞬でそこまで計算して? ここまで他人に迷惑をかけて巻き込む男がいるとは……ああもう行ってきます!!」


 ヒジリさんが消えた。がんばってください。陰ながら応援しています。


「じゃあどこかファミレスで時間潰そうぜ」


「そんな放課後の帰宅部みたいな!? 助けましょうよ!?」


「まだご飯には早いよね」


「じゃあ軽くスイーツとお茶にしましょう」


「女子高生か! いや私以外そうですけども! けども!!」


 オトノハが不満そうだ。女ってケーキ食っときゃ機嫌いいんじゃないのか。


「偏見が滲み出ておるぞ」


「はいはい、じゃあどこ行きたい?」


「どこっていうか、助けなくていいんですか? 病気は?」


「数時間で死ぬものじゃないだろ。この街の医者でなんとかなるはずだ。こっそり回復かけておいたから死人は出ない」


 モブなんぞの生死に興味はないが、捕獲しないとこっちに被害が来る。観光で病気もらうとか絶対嫌。なので病気も魔法で殺しておいた。


「おおー……ありがとうございます! これも全部ア……」


「はーいそこまで。なんのために兵士の格好なのか思い出そうなー」


 オトノハの口を手で塞いで止める。名前を出すんじゃないよ。


「あうう、ごめんなさい」


「まったく……俺達はあくまでも観光客で……」


「はーいいつまでもくっつかないの!」


「オトノハちゃんの教育に悪いわ」


 シルフィとイロハにひっぺがされた。確かに兵士がお姫様にくっつくのは絵面的に危険か。姿勢を正してポテトフライとか食いに行こう。


「あー、これはずれたこと考えてますなあ……大変ですねみなさん」


「これでもかなり改善したんじゃよ」


「いいから行くぞ」


 クリームソーダ的なもん飲みたい。失われつつある観光要素を取り戻すのだ。


「捕まえたぞー!!」


「はええよ」


 どこ行くか決める前に終わった。早すぎるだろ時間かけてもいいのよ。

 なんか街の男衆がぼっこぼこにされたグラサン男を連れてきた。


「ルワイです。手配書と特徴が完全に一致しています」


「こいつは運がいい」


 捕まえてきた連中に金を払ってから、ルワイを護送する。こいつは色々と知っていそうだからね。


「まさか民衆を煽り返してくるとは……どうしてこんな手段を取った?」


「囚人の分際で小賢しくて気に入らん。だから得意分野でコケにしたら面白いかなって思ったのさ」


「ふん、真実を話すつもりはないということか」


「ん? いやいやマジだよ。お前を馬鹿にすること以外は考えなかった。俺は観光客だからな。国も民衆もどうでもいい。お前が邪魔してきたから笑いものにして殺したかっただけだよ」


「どういうことだよおい……そんな理由で死ぬのかオレは」


「アホ丸出しでいいだろ? 連れて行け」


 こうしてファミレス行く時間がなくなった。


「待って、何か変よ」


 街にエメラルドグリーンの光が降り注いでいる。とても暖かくて心が落ち着く光だ。疲れやストレスまでも癒やされる。


「ミュー」


「ミーミー」


 どこから現れたのか、大勢のパチャロが光りながら歌っていた。まさか光の発生源はこいつらか。


「どういうこと?」


「わかんない……けど助けてくれてるのかな?」


「ミュー!」


 オトノハとリリアの服を引っ張って、軽く走ってこちらに向けて鳴く。かわいい。


「来いって、言ってるよね?」


「多分な」


 かわいいからって信用できるかは別だ。この状況の全部がわからん。


「ミュミュー!」


 パチャロ数匹の光が一方向を向き、空の彼方へ消えていった。


「ミュ!」


「街の外っぽいな」


「あっちは……確か古い遺跡があったはずです。とても古くて一般人立ち入り禁止の場所のはずですよ」


「そこに行けってか」


「ミュッ!」


「知能が高すぎる」


 そこらのガキより賢い。意思疎通がめっちゃ楽だな。そしてかわいい。


「私もお供いたします。毒を喰らわば皿までですよ」


 異常事態に慣れているのか、俺達といて慣れたのか。完全に覚悟決まっている。本当に迷惑かけっぱなしですみませぬ。


「じゃあ遺跡に行ってみよー!」


 そして遺跡へ光速移動。本当に封鎖されているらしく、武装兵士が多く見られる。だがヒジリさんがいれば顔パスである。俺達は兵士に偽装しているので問題なし。


「ここも光ってるね」


「ミュー」


「ミュミュッ!」


 パチャロが光って道を作っている。完全に案内役だ。これには兵士達も驚いている。どうやら初めて見る光景らしい。


「おぉ? どしたー? オトと遊ぶかーい?」


「これこれ引っ張るでない」


 リリアとオトノハに懐いている。服を引っ張って誘導しているようにも見えた。


「さて、何が出ますかね」

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