新たな神と明かされる過去

 俺達六人はパチャロに導かれ、緑あふれる古代遺跡の中へと進む。ツタやコケなども多く、相当に古いことが伺えた。空気がとても澄んでいて気分がいい。


「ミュミュミュ!」


 こっちこっちーみたいな声で手を振っている。俺に優しい気持ちが芽生えた。


「ミュー!」


 案内されたのは巨大な台座のある開けた場所だった。

 玉座というより儀式の道具っぽい。まっすぐに階段が伸びていて、中央によくわからんオブジェがある。


「ミューミュー」


「ミュミュー」


 またパチャロが歌いだし、台座全体が輝いていく。やがて光が収束し、オブジェの前に丸くゲートができた。


「移動装置のようじゃな」


「お待ちしておりました。聖地の適合者様」


 中から金髪のエルフが出てきた。申し分ないほどテンプレで、エルフという種族の見本のような……いやこいつどっかで見たぞ。


「船で会ったエルフ?」


「はい、お久しぶりです。鎧の主よ、ネフェニリタルを守っていただいたこと、厚くお礼申し上げます」


 こいつ王族関係者だったのか。なんともまあうさんくさい。


「どちら様ですか?」


「この遺跡は長年の調査でも起動などしたことはないはず。何者です」


 オトノハとヒジリが初見みたいな反応だ。お前らが知らなかったら全員知らんぞ。頼むから解説役は一人いてくれ。


「私はマナ。世界樹でありネフェニリタルの神です」


「神? 私は超人として国を守り、何度もラグナロクに参加しています。ですが見たことも聞いたこともありません」


「私の存在は秘匿されています。各国の王ですら知らず、最上級神以外の前に姿を表すことはほとんどありません」


 さて信用していいものか。本当なら俺達の前に出てくることが異常だ。だがこいつは鎧を知っている。警戒しながらでいい、真偽を確かめよう。


「わしも存在すら知らぬ。本当に神、それも味方なのじゃな?」


「はい、私は世界樹でありネフェニリタルの民が生んだ神。つまりオルイン独自かつこの国出身の神なのです。別次元に同名の神がいるものとは違います。知らなくとも無理はありませんよ」


 土着神みたいなもんなのかな。だが今回に限っては適任だろう。


「オトノハ・サーシャクル、そして超人ヒジリよ、よくやりました。あなたの功績を称えましょう」


「ありがとうございます!」


「パズズが動き出した今、すべてをお話する必要があるでしょう」


 なんか難しい話が始まりそうだな。適当な岩に座って眺めていよう。陽の光と綺麗な空気で寝そうだけど、流石に自重した。


「ミュー?」


 近くにパチャロがいるので、そっと下から手を出してみる。

 くんくん嗅いでいる。敵じゃないぞー、ゆっくり待ってあげよう。


「ミュ」


 おすわりの体勢でじっとしている。できる限りゆっくり、怯えさせないように撫でよう。頭から背中へ、そーっと……毛並みがつやつやだなあ。


「遠い過去の戦いでパズズは消滅寸前まで追い込まれ、神々によって信仰を失いながら消えていくという罰を与えられました」


 もう一匹来たのであぐらに変更。おお、乗ってくれた。慎重に踏み慣らしているので邪魔せず動かず観察しよう。やがてすっぽりと収まって丸くなった。


「その効果によりもうじきパズズは消えるでしょう。聖地への使徒は最後の攻勢に出たのです。どうかネフェニリタルの平和のため、その力を貸してください」


「故郷を守護する超人の私が動くのは当然です。しかしお言葉ですが、あなたがやらない理由がわからない。神なのでしょう?」


「私は聖地を守り続ける神。大衆に名前が知られることはできません。心臓を完全に浄化するまで、この国から動くこともできないのです。これは太古から続く約束ですから」


 俺を警戒する必要がなくなったのか、数匹パチャロが追加でやってきた。かわいい。ここまで動物に群がられるのは人生でも経験がない。もう聖地ここでいいじゃん。俺の聖地にしよう。


「お約束……ですか?」


「はい、今までパズズの心臓が見つからなかったのは、それを浄化し続ける私とその現場が誰にも知られなかったからです。心臓の存在すら知る者はほぼいません。こうして歴史に名前を残さず国を守る。それが当時の王とその親友の取り決めなのです」


「オト……私は聞いたことがありません。姉のフランチェスカなら知っているのですか?」


「いいえ、王族ですら知りません。知ってしまえばそれが心臓へと繋がるかも知れない。よって秘匿されてきました。神ならば基本的に記憶の劣化も寿命も存在しませんから都合がいいのです」


 撫でていい場所でも探ってみよう。耳を直接触るのは嫌がるので、付け根をマッサージしてみよう。


「ミュ~」


 気持ちよさそうだ。別のパチャロが空いている俺の手をぺしぺししている。なでなでを催促されているのだろう。撫でてあげようねえ。


「ミューミュー」


「あなたが姿を表したということは、状況は終結に向かいつつあるということですか。正直に申し上げて、神に勝てる自信はありません」


「恐れずに戦うのです。魔神パズズを倒したのは、当時の王とその親友である人間です。神の手助けがあったとはいえ、人の強さは神に劣るものではありません」


「神様に勝ったんですか!? そんなの全然知らなかったです……」


「世界樹の力を引き出せる王族が現れ、パズズ討伐の目処が立ちました。これも運命なのかもしれませんね。私も協力いたします。どうかネフェニリタルに平和を」


 背中と頭を撫でるのは問題なし。続いてしっぽの付け根をとんとんしてみる。


「ミュッ!」


「おっと悪い悪い」


 拒否られた。大人しく背中を撫でろ、みたいなすり寄り方をしてくる。


「ゆっくりやさしく撫でるのじゃよ」


 俺の横でリリアが実演してくれる。俺よりもパチャロが群がっているのが少し悔しい。まあいいさ。俺に懐いてくれた子をちゃんと相手してあげよう。


「もとより超人としてこの命、国のために使うと決めています」


「私にできることがあるなら……少しでもみんなの力に慣れるなら、めちゃめちゃがんばります!! っていうか話聞いてますかアジュさん! ほのぼの空間作っちゃって! 今国家の一大事ですよ!」


「だって俺部外者だし」


「一旦パチャロを撫でるのやめましょうか。オトだって難しい話頑張って聞いてるんですから」


「えー」


 俺のリラックスタイムが破壊されていく。ごめんなパチャロ。


「パチャロは世界樹のエネルギーから生まれる神獣です。ゲオダッカルが来れば、パチャロの命も危ないのですよ」


「ゲオダッカルごと消そうぜ!」


「極端すぎますって!」


「いいじゃん」


「いいじゃん!?」


「とにかく聖地へ行きましょう。転移ゲートでご案内いたします」


 台座から光の扉が現れる。マナいわく、中心部へ転移できるゲートとしても使う施設だったらしい。


「俺達も行っていいんですか?」


「お願いします」


 そして全員でゲートをくぐると、なんかお城の中っぽい。


「来たわね、オトちゃんにアジュくんたち」


「お姉ちゃん!?」


「よくやったわねオトちゃん。報告聞いたわよ」


「お姉ちゃん、オトえらい?」


「えらいわよ。自慢の妹ね」


 抱きついたオトノハを優しく迎え入れるフラン。仲いいなこいつら。


「フランがいるということは聖地の城か」


「相変わらず変に勘がいいわね。久しぶり。いらっしゃい、かしら?」


「どっちでもいいさ。邪魔するぞ」


 フラン以外には誰もいない。全員マナの要望で席を外しているらしい。


「心臓は聖地にしかないゲートで行ける空間にあります。隔絶されているため、聖地で手順を踏まなければ入れません」


「なるほど、二重認証か」


「時代の最先端じゃな」


「よくわかんない」


「二人にしかわからない話題はずるいわよ」


 少しリラックスしすぎたかな。気の緩みを正して話を聞こう。


「マナ様、まだ私達は何もわかっていません。決戦には不安が多すぎます」


「そのとおりですね。ならば本日はパズズと聖地について話し、戦闘は明日以降にしましょう」


 妥当なところだな。連戦は避けたい。無駄に戦って疲れたんだぞ。


「余裕があるわね。そんな悠長で大丈夫なの?」


「アジュさんとおっしゃいましたね。あなたが敵の主力であり最終兵器を破壊してくれたおかげです。敵はもう微力な信徒か首謀者に限られます」


「あれボスだったんかい」


 ザコにしちゃ無駄に強いと思っていた。できることが多すぎるし、特殊能力も豊富だった。ラッキーだったな。


「心臓はどうなっとるんじゃ?」


「隔離空間にて、世界樹と名もなき英雄の剣で浄化を続けています」


「英雄の剣……コールが探していたやつか」


「はい、ネフェニリタルという名前になる前の、名前を残すことが許されなかった英雄の剣です」


 ネフェニリタルの神だけあって詳しいな。


「当時のネフェニリタルが名前を禁じたのですか?」


「いいえ、もともと名前を残すことができない人でした。なので名を伏せ、仮面を被り、王を影から支え続けたのです。二人はやがて生涯の友となりました。分霊として私も協力し、三人で戦いと冒険の日々を送っていました。今思い出しても波乱に満ちた旅路でしたよ」


「知らない過去が多すぎますね」


「かもしれません。ですがそれは彼の望みでもありました。王の友にして天才剣士であった彼は、世界樹と宝剣を使い、パズズの心臓を封じ込めて弱体化させる術を編み出しました。誰にも知られることなく戦争を終わらせる。それが夢物語ではないと信じられるほど、あらゆる才能を持っていました」


 とても楽しそうに思い出語りをしている。主にその三人がパズズ討伐の立役者なのだろう。そういう冒険の話は嫌いじゃない。


「当時の王の名はカノア・レア・ヒロ。賢王であり武術と軍団指揮を得意とするカリスマ超人で、民に好かれる好漢でした」


「歴史の教科書にものってるわ」


「聖地に銅像もありますね」


「その親友にして戦友こそ、唯一無二の天才剣士にして眉目秀麗文武両道、封印術式の生みの親であり生涯無敗の神殺し、名を伏せられた大英雄――――葛ノ葉王刃」

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