歴史博物館の怪盗
朝早くから光速移動でやってきました別の町。ついでにここは歴史博物館。とても豪華で広い。歴史ある国ってのはそれだけ溜め込むものも多いんだろう。
「でっかいなー」
「ネフェニリタルの歴史は、エルフが国を作った時点で十万年を超えると言われています」
「探すのに手間かかりそうだな」
「観光のついでと考えるのじゃ」
「歴史にあからさまな抜けがあれば、そこを聖地に調べてもらえばいいわ」
そんなわけで見ていくと、これがまた意外と面白い。ヒジリさんが知っている範囲で解説も入れてくれる。
「世界樹のもとに生まれたエルフが恩恵を受け、自然とともに生きていました。やがて他国からもエルフが集まり、そして世界樹への感謝と祈りを捧げる集落が確立されていくのです」
「国になるくらい大きくなると、他国が世界樹欲しさに戦争を仕掛けてくるようになったって、子供の頃に習いました!」
「今みたいに?」
「もっと突然で、世界樹を奪いたいというだけです。十万年も前はそういった血なまぐさい戦争の時期がありました」
そういやフルムーンにも戦いの歴史があったな。実は平和な世界じゃないのかもしれない。神は基本的に人間の戦争には関与しないから、戦争は人間の歴史だな。
「数々の英雄が歴史に名を刻み、ネフェニリタルは強固になっていきました」
「おー、聖剣とかあるのか。これはかっこいいな。勇者の武器っぽい」
当時の壁画とか戦争で使われた英雄の武器なんかもあって、バリエーション豊富で飽きない作りだ。
「男の子ですねぃ」
「まあこういうの好きさ」
銀色に輝くロングソードとか、緑色の宝石が埋められた弓とか、大きなエピソードごとにあって面白い。
「聖剣は世界樹の守り手として、ネフェニリタルに大きく貢献したものしかなれません。中にはみなさんと同じ勇者科のものもいたのですよ」
「ほー……豪華な剣だ……けど振ったら折れそうだな」
「儀礼用の剣に見えますが、どんな鎧でも分厚い壁でも切り裂いたと言われています。今では使い手がいませんけどね」
「使い手を選ぶ剣か」
そういうロマンある武器は好き。俺の鎧と剣もそうだな。これが親近感か。
「武器を見に来たわけではないじゃろ」
「そうだな、他も調べていこう。夏休みの自由研究で使えないかな」
「気が早いわよ」
ここ千年くらいは平和だな。近代に理由はないのかも。ゲオダッカルも他の国も、かなり昔に侵攻を止めている。じゃあ今になって襲う理由はどこにあるのだろう。これ以上昔の歴史は追うのが大変だ。普通に美術品を見ていく感覚でいいかも。
「パチャロの絵がよく出てくるね」
「壁画にも登場しますので、ネフェニリタルにずっと住んでいるのだと思います」
「オトも聖地でよく見たよ。かわいいよね~。癒やされるよぅ~」
「エルフに懐くので、私も小さい頃は森でよく撫でていましたよ」
聖地に多く生息しているようで、馴染み深いものだとか。いいなあ、俺も撫でたい。ああいう人懐っこい動物好き。もっと撫でさせろ。いかん考えが支配される。真面目に考察するぞ。
「エルフは戦って国を守った。それはいい。ゲオダッカルが聖地を奪還するという目的なら、この国を追い出された時期があるはずだ。それを知りたい」
「ふむ、千年前にはもうゲオダッカルとの戦争はないのう。そもそも国の名前が何度か変わっておるようじゃぞ」
「おいおい、そんな前だってことか? そんなもん覚えている人間がいるのか?」
「嫌な予感がしてきたわね」
そんなに長生きな人間がいるのか? 超人でも厳しいんじゃ。異常な執着のある人間じゃなきゃ神だろ。
「失礼いたします、もしや超人ヒジリ様では?」
なんかヒゲの紳士が小声で話しかけてきた。どうやらここの館長さんらしい。
「これぞ天の助け。どうかお聞き届けくだされ。なにとぞ、なにとぞ……」
ヒジリさんがこちらを見ている。オトノハが了承し、全員で客室へと通された。
「盗賊団?」
「はい、街に潜伏しているとの報告が上がっています。どうやらここの品物があれば、聖地への鍵になると思っているようです」
「そうきたか」
かつての英雄の武器なら、聖地の結界を誤認させられるかもしれない。エルフをさらうよりは可能性が高い。
「妙に警備が厳重なのは、それが原因じゃな」
「ヒジリ様が変装して警備に混ざればもう逮捕は確実! できる限りの報酬をご用意します! どうか、どうか!!」
「私は国の治安を守りたいところですが……どうしましょう?」
「いいと思うよ! 世直しの旅だからね! ヒジリのお仕事はちゃんとするべきだと思うのだよ!」
オトノハの言うこともわかる。放置すれば英雄の剣とか盗まれそうで、なんとも不愉快だ。ちなみにオトノハは変装している。騒ぎになると面倒だから。
「報酬ですが、歴史をまとめてもらうことはできますか?」
「歴史……ですか?」
少し交渉してみよう。俺がやっていいのか知らんが、ここ以上に情報がある場所も、その道のプロも探すのが大変だ。
「重要人物がネフェニリタルからゲオダッカルに追放されたり、聖地から追い出されたり、歴史的戦争に抜けがあったりしないか知りたいんです。かなり手間のかかる作業だと思いますが」
「なるほど! アジュさん頭いい! ナイス判断だぜぃ!」
「何やらお困りのご様子……わかりました。必ずやご期待に応えてみせましょう!」
「ありがとうございます。警備は超人である私が責任を持って行います」
こうして夜の歴史博物館で盗賊団を待つことにした。
他の警備兵も大量にいる中で、俺達は自由に動くことが許されている。
俺とイロハとオトノハ組は、一階の武器コーナーを見回っていた。
「名探偵オトノハの事件簿が始まるぜぃ……」
「始まるといいな」
「ここでオトがお姉ちゃんの役に立つのだ!」
張り切っているようだが、窃盗団はゲオダッカルか聖地への使徒である可能性が高い。あまり戦場に出したくはない。
「妙な音がすればわかるわ。リラックスして」
「はい、リラックスして頑張ります!」
「いい機会だから聞く。フランと確執でもあるのか?」
めんどくさいが、懸念材料は消そう。こいつ姉の名を上げることを妙に意識している。なんか事情があるはず。
「うおぅ、直球で聞きますね」
「もう少し聞き方考えましょう」
そりゃそう言われるだろうな。めんどくさいので続行しよう。
「フランと仲が悪いわけじゃないだろ」
「もちろんです! お姉ちゃん大好きですよー!」
「なら何が問題なんだ? あいつ優秀だし、お前も嫌われるタイプじゃないだろ」
目に見えてオトノハの顔が暗くなった。
「あー、なんといいますかその、お姉ちゃんは凄いんですよ。綺麗でかっこよくてかわいさもあって、強くて成績優秀で魔力もあって」
本人もうまく言葉に出来ないのか、表情がころころ変わる。
「カリスマっていうのがあって、全部できちゃうから……オトのこともやってくれちゃうっていうか」
「便利だよな」
「もう少し言い方考えましょう」
「だからオトがやらかしちゃっても、大丈夫よって綺麗に解決しちゃって。オトが何かしてあげたい! って言っても、あなたは気にしなくていいのよ。好きなことをしなさいって」
いい姉だな。あいつは家族を大切にするタイプだ。オトノハはとてもいい環境で育っているように聞こえる。
「家臣もオトノハ様は心配しなくていいんですよ、やってみたい習い事や遊びはありますかって、めっちゃ甘えさせてくれるんだけど……わかんない」
「わからない?」
「どうしてオトにそんなに親切にしてくれるんだろうなって。せめて絶対恩返ししなきゃって思うんだけど、お城でやれることはみんなお姉ちゃんや超人がやっちゃうんだ。だから簡単なお手伝いしかできない。学園に入学しても、明確な進路とかさっぱりで、とりあえず魔法科にいる始末でございます」
根が真面目すぎる。あと五年は先でいいだろそんなもん。
「自分だけ外にいるような気がしているのね」
「ですです。お姫様はそういうものよって言われるんですけど、言ってるお姉ちゃんがお仕事してるし!」
「中等部のガキが気にすることじゃないだろ」
「だってお城だとずっとそんな感じなんですよ! 気になりますって! 何ができて、何をしたいのか……ずっと役に立てないままのお姫様だし、妹だし、お姉ちゃん疲れちゃうよね……」
「だからお姉さんの役に立とうと世直し旅を?」
「まあ、はい、巻き込んでしまってごめんなさい」
なんて言えばいいのかわからん。こいつみたいな考えを一度も浮かべたことがない。だから共感もできなければ解決策もわからない。
「まあ仕方ないだろ。なら適当に正義の味方やっとけ。国が綺麗になれば、姉の仕事も減るだろ」
「そうですよね! 一応は第二王女なんで、ばしばし使ってください!」
「権力は乱用してはいけないわよ?」
「もちろんです! 慎重に、臨機応変に頑張ります!」
「正義のためって言っておけ。正義は便利だぞ。殺人だってできる。正義もヒーローもラーメン屋でついてくる半ライスみたいなもんだ。無料で使えるなら使っとけ」
「一気に庶民くさくなりましたね」
「そうね、もう少し……ストップ。静かに。足音も小さく」
雑談ムードから場が引き締まる。イロハがなにか見つけたようだ。
「静かについてきて」
言われた通りにすると、三人組が部屋に入っていく。イロハは扉の前で中の話を聞くみたいだ。
「ここに予備の制服がある。いつもより多く置いておけばいい」
「あと二時間だ。突入前に仕掛け終えるぞ」
「残りの場所は?」
「館長室と地下倉庫とトイレくらいだ。必要あるまい」
「わかった。急ぐぞ」
中の連中が出てくるようだ。俺達は少し扉から離れる。
「ん? なんだガキども」
「いえいえ、お気になさらず」
「……話を聞いていたのか?」
「いいえ。なーんにも」
使えるかも。本当に知らないが、いかにも聞いちゃいまして焦っていますーみたいな雰囲気出せば襲ってこないかな。
「俺達はふらふらしてただけなんで、なーんにも知りませんよ。あははは」
「ええ、何も聞いていないし、あなた達の邪魔はしないわ。それでいいかしら?」
「ちょっ、それじゃ誤解されちゃうじゃん!」
「どうする?」
「心配なら消しゃいいんだよ。所詮ガキだ」
はいナイフで襲ってきてくれました。簡単でいいねえ。
目の前の男が迫る前に、足元に電撃床を設置してある。
「うばばばば!?」
「えいやー!」
オトノハは拳に力を纏わせて殴り飛ばしていた。妙な魔力だな。魔力というか生命力の集合体のような力だ。っていうか戦えるのか。
「こちらは制圧したわ」
イロハによって残りは昏倒させられていた。
「作戦成功。これが正当防衛だ。覚えておくんだぞ」
「なるほど、勝手に攻撃してきたから相手が悪いんですね!」
「アジュは教育に悪いわね」
「さて、全部話せ。ここで何をしていた? 俺達に攻撃してきた理由は?」
何も言わない。まあそうだろうなあ。だが問題はないのだ。
「聞こえていないようだな。耳掃除をしてやる」
男の右耳にクナイを刺してぐりぐりする。
「うがあぁぁ!!」
「もう片方は聞こえるだろ? 次は鼻を抉るぞ」
こうして情報をゲットするのだった。
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