めんどくさいことになって今後の方針を決める

 よくわからんけど強い爺さんを倒して戻る。すでにペイジは倒されたらしく、館にはせわしなく兵隊が出入りしていた。


「お嬢様! アジュさん!」


 ヒジリさんが駆け寄って来て、オトノハを検査している。シルフィもイロハも無事だ。こちらに駆け寄ってきた。


「そっちはどうなった?」


「ペイジはヒジリさんが倒したよ。被害者はなし。館はほとんど壊れちゃって、わたしが止めていた部屋の人は救出済み」


「よし、それじゃあ撤収だ」


 あくまで俺達はかかわっていないことにする。ヒジリさん以外に俺達を見たやつはいない。さっさと今日の宿へ退散し、ヒジリさんが事務処理を終えるのを待つ。


「んー……眠れん」


 無駄に敵の動向が気になる。そもそもやっていることが無計画すぎるのだ。眠れずに考えていたらヒジリさんが来た。どうやら兵士とヒジリさんの手柄で終わったらしい。ついでに会議しよう。


「なーんかおかしいよな」


「なにがですか?」


「仮に聖地への使徒とゲオダッカルが関係しているとしても、聖地へ入るっていうのが絶対に納得いかん」


「久々に推理パートじゃな。ゆっくり言いたいことをまとめてみるのじゃ」


 言葉にしてまとめるというのは、案外バカにできないのだ。ゆっくり思いついたことを話そう。


「他の国に置き換えればわかる。フルムーンの王都にまあ、宝石かなんかの鉱山があるとしてだ、それが欲しいから囚人を送り込みつつ自分たちも動きますと」


「普通に侵略行為ね」


「戦争になっちゃわない?」


「なる。しかも資源なら持ち出せるが、国を豊かにする世界樹だぞ。入ったって奪えない。続行はおかしいんだ。普通続けないんだよ」


 やけくそになって特攻かけているわけでもないだろう。計画は続いているはずだ。


「続けないとはどういうことですか?」


「他国に攻められました。狙いは王都です。さてオトノハ」


「オトですか!?」


 さっきからチラチラ見てただろ。問題出してやるぞ。


「お前ならこの情報を聞いて、まずどうする?」


「えーっと、うーんと、とりあえず警備を厳重にする?」


「だろうな。国全体の警戒心が高まる。だが目的地は変わらない。全員が統率の取れた集団じゃない。さらに聖地への侵入方法が確立されていない。こんなん続行するわけがない」


 なのに続けるほどの理由があるのだろうか。全員で特攻かけても無理かもしれないんだぞ。ならば余程勝算があるのか、でなければ恨みか。


「ペイジの日記にも聖地での特権、つまり昇進や今よりいい暮らしへの渇望などが多く、これといって手がかりとなりそうなものはありません」


「世界樹の枝とかって価値あります?」


「香木としての価値はあります。多く出回るものではありませんが」


 空気を綺麗にしたり、水を清潔にしたり、備長炭みたいな使い方はできるらしい。だからって国をあげて取りに来るほどじゃない。買えばいいじゃん。


「あのじじいからはもっと明確な敵意と言うか、怨念のようなものを感じた」


「ペイジも聖地奪還に乗じて特権を得ることしか考えていないようでした。死ぬまで強欲なやつです」


「奪還? 奪還と言ったのか……奪い返す。つまり元々は違うやつのものだった?」


「考え過ぎでは?」


「いや、神がいるならありえないことじゃないはず」


「調べるなら歴史かもしれんのう」


 ネフェニリタルとゲオダッカルの間に、誰も知らない確執があるのかもしれない。それさえわかれば解決のヒントになるはず。


「わかりました。聖地への伝令に伝えます。あとはこれからの行動方針ですが、軍には警備を強化させ、こっそり首謀者を見つける方針です」


「オトも行きたい!」


「無理だろ。死ぬぞ」


 興味本位ではないようだが、あいつはオトノハで殺せるレベルじゃない。というか狙われるんじゃないか?


「無謀なのはわかってます。けど、けどお姉ちゃんが聖地で動けない今、フリーのオトができることをしたいんです! お姉ちゃんなら絶対に動くはずです!!」


 これは姉への憧れや信頼とは違う気がする。もしや結構ケアが必要なタイプじゃないのかこいつ。俺にそんなん無理だぞ。


「オトノハ様を危険に晒すことはできません。ですが一ヶ所にとどまるのもまた危険……これは骨が折れますね」


 ヒジリさんのプレッシャーも相当なものだろう。そのうえ帰ることはできない。逃避行を続けるか、籠城するかになる。


「逆にチャンスかもしれんのじゃ。オトノハちゃんとヒジリさんの権限があれば、溜まった膿の切除ができるじゃろ」


「私達で街を巡って罪人と内通者を倒して回るつもりかしら」


「なるほど! それならお手伝いできるね!」


「待て待て、どんだけこの国にいる気だ。そんなん軍の仕事だろ」


 お姫様三人、超人一人、そしてリリアと俺である。どんなメンバーよ。そもそも旅行中なんだぞ。


「どのみち観光地には行くじゃろ。ついでに敵も倒せばよい」


「おおー! かっこいい! 世直しの旅ってやつですね!」


「簡単に言いますが、どんな敵がいるかもわからないんですよ。あまりにも危険すぎます。というか私だけでは責任が取れません」


「お姫様三人いるからな」


「首が飛ぶだけでは済まないでしょう。それこそ戦争になります」


 ゲオダッカルだけでもうざいのに、大国が参戦したら収拾がつかない。気持ちはわかるよ。マジで無謀なんだよなあ。


「わかった。なら条件をつける」


 条件をまとめると。

 ・戦争に直接関与はなるべくしない。

 ・問題になるからヒジリさん以外の名前はあまり出さない。

 ・冬休みが終わる一週間前には絶対に学園に帰る。

 ・観光費用はネフェニリタルが経費で落とす。


「ちゃっかり自腹切らない契約にしおった」


「当然だ」


「国益に繋がりますから、国も許可するでしょう。私も命をかけてお守りします」


「みんな強いし、オトが無理しなきゃ大丈夫! アジュさんが守ってくれるし!」


「アジュに期待しても無理じゃぞ」


「期待します! 大切なオトノハを必ず守るって言ってくれたし!」


 全員の目がこっちを向く。なんやねん。悪いこと言った覚えはないぞ。


「まーたこやつは……」


「悪いアジュだ。悪いアジュが出たね」


「オトノハさん、ちょっとこちらに。ヒジリさんも」


「お付き合いします。アジュさんだけはそこでお待ちを」


 五人が部屋の隅に集まっている。どうしてそうなる。原因不明だし、俺は暇だからベッドに入る。高級ホテルってベッドふかふかだよね。


「ねむい……」


 持ってきた本でも読もうかと思ったが、もう寝ちまおうかな。明日もどうせ早いんだろうし。


「なぜにこの空気で寝ようとするんじゃおぬしは」


 リリアが戻ってきた。軽く話していたみたいだが、もういいのだろうか。


「おぬしあれじゃろ、自分の保身のことだけ考えて喋ったじゃろ」


「もちろん」


「やはりか。国とフランに怒られるかどうか。自分たちの素性を隠せるかどうかが判断基準じゃとこうなるんじゃのう」


 リリアは納得してくれたようだ。これは突破口が見つかったかな。


「これはどうしたもんかのう。本人に悪気はないし、口頭注意で理解させるのも難しいのじゃ」


「そんな深い話?」


「アホみたいな話じゃな」


 ますますわからん。ほっぺたをむにむにしてくるので、おそらく微妙に機嫌が悪い。女絡みで俺がやらかすとこうなるわけか。


「わしら以外の女の子を口説いてどうするんじゃ。無駄にヒロイン増えるだけじゃぞ」


 横に寝て、俺の頭を撫でながら言い聞かせてくる。なんだこの状態は。


「何言おうが嫌われるか無視されるだけだろ」


「世界には数人くらい、自分に好意を持つ女の子がいる可能性があるわけじゃ。ヒメノみたいなフリーダムな思考の女とか」


「あー……うあー納得」


 ヒメノみたいに、自由の権化が勝手な解釈するかもしれんのね。あんま大切だから守るとか女の子に言わんほうがいいな。


「お説教するふりして添い寝している子がいます!!」


「リリア、それはずるいわよ」


「にゅおお、ばれたのじゃ」


 全員戻ってきたのでベッドから出る。ついでに飲み物でも取ろう。みんなにも配る。なんとなく機嫌取りとかやってみた。


「えー、審議の結果、オトノハ様も年頃の少女だったという結論になりました」


「結論がひどい!?」


 テーブルを囲んで意味不明な会議が始まった。俺の膝の上にはリリアが、両側にシルフィとイロハがいる。


「もう少し言葉を選べるようになりましょう。戦闘中は余裕があったらでいいわ」


「アジュはすぐお姫様の男性観を壊します!!」


「壊せねえよ」


「自覚なしかー、そりゃそっか。オトが悪いんだけどねぃ」


 オトノハが照れ笑いでこちらを見る。マジなら男の趣味悪いぞ。


「あんなかっこいい鎧で抱き抱えられて、かっこいいセリフはずるいじゃろ」


「しかも空の上で敵がいるのね」


「どきどきを勘違いします!」


「わかった。今後気をつける。すまないなオトノハ」


「ううん、オトも勘違いしすぎました。あはは」


 吊り橋効果ってやつか。今後は気をつけよう。いらんトラブルが起きる。

 そしてヒジリさんとオトノハは隣の部屋へと去っていった。そこまではいい。


「シルフィちゃんがめんどくさくなったぞー」


「ついに自己申告しやがった」


 シルフィが俺の背後から抱きついてくる。無駄にじたばたするから、ベッドで本を読むことに集中できん。じゃれつきおって。


「お姫様の恋心をかき乱すなー」


「もう少し強めに匂いをつけておくべきかしら」


 イロハは俺の膝で丸まっている。尻尾が体を撫でてくるが、たまにぺしぺししてくる。さては機嫌が悪いな。


「油断するとすぐこれじゃ。もっと俺もう彼女いるんで、という雰囲気を出すのじゃ」


 リリアは俺の横で寝転んでいる。

 おそらくだが彼女ちゃうやんとかツッコミ入れてはいけない。確実にやばい。

 適当にイロハとか撫でよう。俺の左手が完全に尻尾で拘束された。


「ぐりぐり」


 シルフィが頭を押し付けてくる。脇腹あたりにぐりぐりしてくるので撫でよう。


「その攻撃は禁止。髪の毛ぐしゃっとなるぞ」


「むー、じゃあこうだ!」


 俺の右手を両手で包み込む。意図が分からなくて少し困惑する。


「あったかさを伝えます!」


「説明をくれ」


 シルフィの手は温かくて柔らかい。それを伝えてどうしたいのかがわからない。


「今日は手を繋いで寝ます」


 話してくれないし離してくれない。悪い気はしないので、そのまま寝よう。


「ならもう寝ちまうぞ。明日早いんだろ」


「うむ、全員一緒に寝るのじゃ。寝付くまで撫でたり優しくささやきかけたりするのじゃ。ほれほれ軽く抱き寄せたりするとよい」


 リリアがくっついてくるが、抱き寄せるのは難易度高いぞ。


「オトノハちゃんにはできたんじゃろ」


「あれは戦闘中で死なせるわけにはいかなくてだな……」


「特別感を出すのじゃ。わしら以外はここまでできないぞーという希少価値がないといかんじゃろ。ほれほれ」


 こいつはこいつで根に持ちやがる。納得いってなさが顔に出ているじゃん。


「オトノハちゃんはかわいいし、将来美人さんになる。しかし、まずわしらありきなんじゃよ。そこをわからせていくのじゃ」


「わからせが必要なのね」


「余計な知識を溜め込むんじゃない」


「オトノハちゃんより好きって言って!」


「やめろやめろ要求を増やすな!」


 どさくさで要求を増す技術を手に入れやがった。やめろ恥ずかしいから。


「撫でるのはできるのに!」


「それとは別だ。口にするのは恥ずかしいからやめよう」


「態度で示せるならキスしましょう」


 いかん要求が過激になる。これはあれだな、最初に無理なこと言って次が本命の要求ってやつ。


「好きっていうのを無理の棚にしまっとるじゃろ?」


「やめろ察するな。後ろから抱きしめて寝りゃいいんだろ。はいこれでいくぞ」


「いいよ、まずリリアで実績を作ろうね」


 それは既成事実というやつでは? 一人やったら全員やる流れになるからでは?

 けどやらないと眠れないし機嫌悪いままだろうし。

 しょうがないので実行する。やはりこいつすっぽりおさまっていいな。

 抱きまくらにしやすいし、いい匂いなので安眠が約束される。


「寝ることで羞恥心を消そうとしておるな」


「うるさい寝ろ」


 そして朝になり、みんなで朝食を食べて出発だ。


「この街を出るぞ。次はどの観光地だ?」


「次は歴史資料感のある街へ行きます」


 敵を知るには自国を知る。そんな雰囲気でいってみよう。

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