また変な敵が増える
巨大な血のスライムとなったペイジを倒そう。
館の庭は広い。ここなら暴れても被害は出ないはず。
「ネフェニリタルを脅かす存在は、私が斬る!」
「血を、血をよこせええ!!」
「オトノハは俺達といろ。邪魔になるなよ」
「うん……しょうがないよね」
なんかへこんでいる。心情は理解できないが、守らないとめんどくさそうだ。
「はあぁぁ!!」
「どれだけ痛みを伴おうとも、私は死なんぞおお! くらえ!」
血を弾丸や大砲のように飛ばしている。それらはすべて切り落とされるが、血がすぐに補充されるため
「暇だな」
「やることないのう」
「晩飯どうする?」
「川が近いから魚じゃな」
飯の予定でも相談しよう。魚ばかりだと飽きるが、名産品ってなんだろうな。
「ヒジリが戦ってる途中ですけど……」
「きっと勝つさ」
「オトちゃんはわたしと一緒に応援しようね」
「ヒジリがんばれー!!」
「浄化剣! 双波!!」
神聖にも程があるビームが飛んでいる。血にぶつかると抉り取っていくので、血飛沫が飛び散らない。
「ヒジリの剣は、悪い存在やいけない心を持つ人に大ダメージです!」
「俺の天敵だな」
「戦うならシルフィかしら」
「がんばる」
「みんな味方ですよね?」
オトノハが不安そうな顔になってきたので、少し話題を変えよう。
「あー……聖地ってのは世界樹を使って国を管理するんだよな?」
「んう? 違いますよ?」
「違うの?」
「世界樹はただそこにあるだけで、ネフェニリタルを守ってくれているんです。世界樹があって、ネフェニリタルがあります」
「コントロールしているわけではないと?」
「できないですよ」
イメージが変わった。なんとなくエネルギー源であり、会議でどう使うか決めているものだと思っていたぞ。
「無駄な足掻きはやめろ! お前に逃げ場などない!」
「どうかなああ! いくらお前が速くても、場所がわからなければ無駄だよなああ!!」
血の波が館の庭からあふれそうだ。きもい。そしてくさい。
「やばい逃げるぞ」
「時間の壁を作ったよ。けど地面に染み込んでるし、もしかしたら……」
血は透明な壁でもあるかのように溜まっていく。あとは頑張ってくれ。
「そうね、すでに別個体が街へ逃げたかもしれないわね」
「ヒジリは動けないし、オトが追わなきゃ! みんなの力で見つけましょう!」
「落ち着け。確定したわけじゃない」
「でも被害が出ちゃったら遅いんです! お姉ちゃんなら行くはずです!!」
行きそう。あいつ生真面目なところがあるからなあ。
「だから、だからオトもそれくらいできなきゃ……お願いします!」
「アジュ、リリア、行ってきて。変な反応がある。ここはわたしとイロハに任せて!」
「ヒジリさんだけでもとせるわ。安心して」
「はあ……しょうがないな、行くぞ」
確かにここで逃すわけにはいかない。シルフィが言うには嫌な魔力が遠ざかっていて、イロハいわくペイジの血が少し遠ざかっているとのこと。
『チェイス』
ペイジにチェイスキーで魔力の追跡装置を埋め込むと、別の場所からも反応がある。マジで鍵便利だな。別次元でも分体を追跡できる。
「オトノハちゃんはわしらから離れるでないぞ。危ないからのう」
「はい! お願いします!」
急いで現場へ向かう。反応が離れていくのは、街の外へ向かっているのだろう。近づきすぎないようにじりじりと尾行する。
「あれか。特に魔力は感じないが」
全身ローブで隠れている。反応はあっても強敵という雰囲気じゃない。一応鎧は着ているが、あれは運び屋なのかもしれない。
「どうします?」
「今のわしらは一般人じゃ。普通に観光客として歩いていればよい」
服はミラージュキーで適当に作った。違和感はないはずだ。
「どう捕まえる? 村人が職質かけるわけにもいかんだろ」
「アジトが見つかればよいじゃろ」
「あっ、外に行くみたいです」
門を出て、近くの林へと入っていく。怪しい。露骨に怪しい。
「誘われておるのう」
「お誘いに乗るとしよう。早期解決には敵の捕獲が必要だ」
ほいほいついて行くと、足元に黒い魔法陣が展開された。
「甘いのう」
リリアが即座に解除。そしてオトノハを狙ってフード男の手が伸びてくる。
「それも通らねえよ」
敵の手首を掴む。光速を超えていたな。
「超人か」
「なら手加減は無用じゃな」
リリアの閃光魔法が敵のローブを切り裂いていく。中身は肌の色が紫と灰色の中間みたいなハゲたじいさんだ。
「見かけぬ超人、ネフェニリタルも層が厚くなったものよ」
しわがれた声だが、どこか不安にさせる声質だ。意図的にやっているっぽい。
「気の毒だが消えてもらうぞ、お若いの」
顔も変えているため、俺を記憶されることはないだろう。とはいえ逃すとうざいので、ここできっちり潰してやる。
「無理して腰やっても知らんぞ」
光速の五倍くらいの手刀が来る。黒い魔力で刃のように研ぎ澄ませているな。払いのけて蹴りを入れる。腹部のはずだが、人体の柔らかさがない。
「悪くない蹴りだ」
「お前人間じゃないな」
「知る必要はないだろう」
速い。さっきの十倍は速くなっている。最初からじゃない、さっきの攻撃からさらにもう二十倍はパワーまで上がっている。
「ずいぶん遅い成長期だな」
「成長期とはこう!」
3メートルくらいに巨大化しやがった。こいつなんでもありか。
「長生きはしてみるものだぞ」
スピードがさらに上がっている。なるべく衝撃を消すように打ち合っているが、街から引き離さないと被害が出るな。
「やるな。だが任務は遂行される」
圧倒的な速度でオトノハへと肉薄していく。その手が届く前に、バケモノじじいの顔に蹴りを入れる。
「ぬぐおおぉ!?」
吹っ飛ばすが、即座に帰ってきてパンチが飛んできた。タフだなおい。パンチの衝撃を空へと逃し、ボディブローで反撃する。
「ぬっ、ぐぐ、貴様ただの超人ではないな!」
「知る必要はない」
「そのエルフだけでも血をいただく! 強き血筋のためなら、人間の命などいくらでもくれてやるわ!」
街に向けて巨大なエネルギー弾が振り下ろされる。こいつ見境なしか。
「やれやれじゃな」
「させるか!」
リリアと同時に魔力波を撃ってかき消す。これじゃ被害が出過ぎるな。仕方ない。
「一緒に来い」
オトノハを抱き抱えて、じいさんに蹴りを入れる。
「えっ、うひゃあ!?」
「ぶばあ!?」
「こいつが欲しけりゃついてきな。まあ無理にでも来てもらうが」
顔面に膝蹴りを叩き込み、さらに回転して蹴り上げる。
「人間ごときが調子に乗るな!」
「こっちだ!」
上空から魔力弾をぶち当てて挑発する。こっちの魔力は無限だ。自由に空を飛び回り、相手に攻撃を回避していく。
「うわわわわ!? ちょっと大丈夫なんですか!?」
「問題ない。あの程度ならどうとでもなる」
オトノハは魔力でコーティングしてあるから、抵抗はないはずだ。酔って吐かれても困るし、ケアはしようね。
「傲慢な人間よ、そんなに罰が欲しければくれてやる!!」
今までより遥かにパワーが増したな。こいつもう隠すつもりがないようだが、神の一種だろう。やっぱ神と殺し合いじゃねえか。
「ちゃありゃああぁぁぁ!!」
「ヌウウウン!!」
弾の撃ち合いをしながらじりじりと上空へと上がっていく。このレベルになると当然だが魔力だけで飛べる。雲で街が見えなくなったし、そろそろ決着をつけよう。
「高い高い!? 落ちる!?」
「落ちたら死ぬタイプか」
「タイプとかじゃないと思います!」
必死にしがみついてくる。これなら振り落とすこともないな。左腕で抱き締めつつ追撃の手は緩めない。
「なぜこいつを狙う? エルフなら誰でもいいんじゃないのか?」
魔力の斬撃をかわし、追尾してくるビームの群れを撃ち落とし、的確に打撃を入れて弱らせていく。普通にダメージ入るタイプで助かる。
「私にはわかるのさ、聖地に近いエルフが」
変なセンサーつけやがって。つけ回されても迷惑だ。確実に殺すしかない。
「貴様こそエルフではなかろう。ネフェニリタルのものでもないな? なぜそのエルフを庇う。外国の超人である貴様にどんな義理がある?」
「ただ死なれたくないだけだ。敵がそのへんの魔物かお前かなんて俺には関係ない。どんな相手だろうと俺が守ると決めた」
だってフランに何言われるかわかったもんじゃない。怪我させたら絶対文句言われるじゃん。
「そんなに小娘が大切か? さぞ高貴な身分なのだろうなあ」
こいつがオトノハだと知られるのは避けたい。そうなると返答が難しくなるな。なんとかごまかそう。
「身分なんて関係ない。こいつがこいつである限り、平民だろうとエルフじゃなかろうと、大切なことに変わりはない。だから俺が必ず守る。俺の意思で、そうしたいからするだけだ」
よし、多分ごまかせたな。
「くだらん思いで死を選ぶか。その道が苦痛に満ちた修羅の道でも後悔するなよ」
「深刻に考えすぎなんだよ。お前らぶっ殺すくらい、旅行の片手間にできる。そこまで考えなきゃいけない事態じゃないのさ」
「ならばこの危機をどうする?」
闇の闘気が爆発的に高まっていく。こいつは邪神なのだろうか。神格は多少感じるが、なんとも言えない微妙さがある。
『ソード』
「危機と言うには弱いな」
すれ違い様に右腕を切り落とす。余計な機能は感じない。ただシンプルに強くなる性質の敵らしいな。
「ぐううぅぅ! この街ごと消えろ!」
最後の魔力波が迫る。だがそんなものは剣で斬り殺せばいいだけ。
「バカな!!」
敵の腹に剣を突き刺し、そのまま魔力を込めて斬り上げた。
「消えな」
ビームで跡形もなく消し、地上に降りてオトノハを降ろす。
「よくわからん敵だったな……怪我はないか?」
「はい……大丈夫です。ありがとうございました」
なんか落ち込んでいる……わけじゃないな。怯えているとも違う。こっちをちらちら見ているけれど、どういう感情なのか全くわからん。
激戦で気持ちの処理ができていないのだろう。無理に話しかけずに、リリアの元へと帰った。
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