ミノタウロス討伐戦

 結論からいうと依頼を受けた。今は学園内の森にいる。森自体が入り組んでいて、へたすりゃ迷っちまうタイプの森らしい。初めての場所なんでマップもらっておいた。


「もう一度依頼内容を確認するぜ。謎の牛人間と付き人を見つけ、目的を吐かせるか完全に消滅させること。念のため、戦士科の生徒も動かした。右腕に緑色の腕輪をしている奴らだ。いがみあったりしないでくれよ~頼むっからさ~」


 アクセル先生の説明を黙って聞き続ける俺達四人。腕輪はもうつけている。

 簡易防御魔法が付与される便利グッズだ。

 貸し出されているだけなんで、返却しなきゃいけないのがネック。


「お~し、それじゃあこの森を抜けたら軽い遺跡だ。水分だけは欠かさねえようにな。解散」


 すたすたどっか行っちまうアクセル先生。なんだこの説明。


「えぇ……なんじゃそら……軽い遺跡ってなにさ……遺跡に軽いも重いもねえだろ」


「さ、ミノタウロスがいるとすれば遺跡じゃろ。ちゃっちゃと行くのじゃ」


「頑張っていこうね!」


「水筒は影にたくさん入れてあるわ。水遁の術も使えるから気にしないで進みましょう」


 なんでこいつらは順応しているのだろう。やっぱ異世界ってよくわからん。


「他のギルドとかもいるんだろ? そいつらが全部やってくれればいいのに」


「わしらは万が一の保険じゃ。もちろん他のギルドは女の子もいるのじゃ」


 うーわクソめんどいな。会話とか全部こいつらに任せよう。絶対不快になる。

 つっ立ってるだけもアレなんで歩きながら話す。もうすぐ軽いらしい遺跡だ。


「他の女の子に見惚れていてはダメよ?」


「今更俺に言うセリフか? 他の女とかイラつくだけだろ」


「女の子嫌いなの治らないねー。攻略は遠いかな……信頼度を上げないとね」


「俺が女を100%信じることなんてない。この際だからはっきり言っておくぞ。恋愛の駆け引きとかいう女メインのつまらんものは嫌いだ。例えば飯食うときに何でもいいと言っておきながら、ファミレスで文句言うクソカスは死ねばいいと思っている」


「それこそ今更ね。承知しているわよ」


「基礎の基礎じゃな」


「上から目線で試すようなことしちゃダメってことでしょ? ちゃーんとわかってますって」


 本当に女なのか疑うレベルで理解してくれているなこいつら。異世界って凄い。


「んじゃ女の相手は任せる。揉めるなって先生にも言われたしな」


「そういう時は私の胸でも揉んでいればいいのよ」


「下ネタを禁止します」


「なん……ですって……!?」


 めっちゃ驚かれた。イロハさんは下ネタというかアプローチがアレなのをちょっとだけ改善して欲しい。


「どうしたシルフィ。難しい顔して」


「うぇ!? なんでもない! なんでもないから!」


「胸なら自分のほうが大きいし、いけるんじゃないかと思ったじゃろ?」


「違うよ! いやあの……胸とかどう思ってるのかなーとは……考えたけどさ」


「いつまでもアホやってないで遺跡に行くぞ」


 しばらく歩くと見えてきた遺跡。あれだ、コロッセオとかそういう建築物に近い。

 ローマの神殿みたいな? 遺跡なんで所々崩れちゃいるが、雰囲気としては悪く無い。


「敵はこういう遺跡に出るんだっけか?」


「うむ、じゃから優先的に見まわるのじゃ」


「軽いっていうのは小さめの遺跡ってことじゃない?」


「前に来た気がするわね。大きな円形の、闘技場のような場所が残っていたはずよ」


「またそれっぽいもんがあるなおい」


 絶対そこに出るじゃねえか。うわあ行くの迷うな。行ったら出るだろ。

 四人でかたまってゆっくり探索していく。だって怖いし。


「ミノス王ってやつがミノタウロスの親父? で、召喚している可能性が高いんだっけか?」


「その通りじゃ。七人の若者と七人の娘を生け贄に捧げろと言い出す王じゃな」


「生け贄ねえ……条件とかあるのか?」


「基本若い男と処女がよいとされておる」


「ちっ、どうせなら非処女連れてきゃいいものを……」


 選り好みしてんのか牛人間のくせに生意気な。


「とりあえず見つけ次第消滅させればよい」


 鎧は人外にガン有利だしな。でもなあ、心配ないとは思うが九尾みたいなん出てこられると困る。守りながら戦わないといけないし。

 そんなことを考えながら歩いていたら爆発音と軽い揺れ。


「なに? なにかいる……凄く暗くて……嫌な気配だよ」


「とんでもない瘴気ね。遺跡全域に広がりつつあるわよ」


「つまり牛人間とご対面か。どっちにいるかわかるか?」


「ううむこう瘴気が濃くてはのう」


「あっち。よくわかんないけどあっちにいる気がする」


 シルフィが指差すのはコロッセオの中。おあつらえ向きってやつだな。


「しゃあねえな。行くぜ。離れるなよ」


 小走りで入った闘技場中央では、武器のぶつかり合う音と、でっかい牛人間の叫び。そして砂埃の中に見慣れた影。


「斬っても斬っても出てきやがって。こ~っちの都合も考えてくれんかねえ」


 アクセル先生だ。猛スピードで移動し、目で追えないほど素早い太刀筋が煌く。

 それだけでミノタウロスに無数の傷がつき、足元の白い人型が切り刻まれる。

 使っているのは細身の剣か。魔力でいくらでも伸び縮みし、ムチのようにしなる高速剣。かっこいいじゃないの。


「ねえ、あれ天使じゃない!?」


「間違いないのう。天使は元々神話生物なら使役できてもおかしくはないのじゃ」


「んでもって、効率のいいやりかたが見つかると、みんな真似してあの形にするわけだ」


 攻略サイトができていく過程に似ているな。そういうのはどこの世界でも同じか。


「お~い、なんでしんみりしてんのか、わっかんねえけどもよ~。た~すけてくれねえかい?」


 目を凝らせば、天使と戦い負傷している生徒もいる。

 死人出ると報酬減りそうだな。助けなきゃダメか。


『ショット』


 ショットキーで生徒に群がる天使を打ち抜いていく。

 貫くには相当魔力を込めないとダメだな。


「シルフィ、イロハ。天使の相手頼む。リリアは俺と一緒に生徒を援護」


「うむ、目立たぬようにのう」


 リリアが扇子を振ると、全域に光の雫が降り注ぎ、天使だけをを蹴散らす。


「わたしとイロハにおまかせ!」


「無理は禁物よシルフィ」


 影の軍勢と時間操作に勝てるはずもなく、どんどん減っていく天使さん。

 あっちは問題ないな。


「それじゃ先生、怪我している生徒もしていない生徒も全員逃がしてください」


「んん~? 共闘するんじゃねえのかい?」


「アレはちょーっと危険なんですよ。その辺が学園長が俺達を指名した理由です」


「な~るほどねえ。だがあのデカブツは逃がしてくれると思えんぜ」


 ブモーとか叫んでいるミノタウロス。やっぱ牛なんだな。


「そっちは俺がどうにかしますんで。できれば生徒に力を使うところを見られたくないんです」


『ヒーロー!』


『ミラージュ』


 ミラージュキーで鎧を学園の制服に見せる。

 幻影はこういう使い方できるのがお得だな。


「ほほ~う。グレートな魔力だぜぃ」


「魔力だけじゃないんですよっと!!」


 ミノタウロスの横っ面に回し蹴りをお見舞いしてふっ飛ばす。ピクピクしているが死んではいない。死ぬと復活するらしいので手加減しておいた。


「や~るじゃないの。お~しおめえら! 撤退準備だ!! おれより逃げるのが遅れたやつは腕立て五百回な!! 仲間見捨てたりしたら死ぬまで腕立てだ!!」


 生徒が撤退の準備を始めた。ここで自分はまだやれます! とか言い出すやつがいないのは戦闘慣れしているためか、先生の教育の賜物か。どちらにしろありがたい。


「ちっ、生徒に狙い絞ってるな」


 天使兵はこちらを狙ってこない。仕方ねえから生徒を襲っているやつに拳を打ち付ける。パンチ一発で粉微塵になって死んでくれるのが天使のいいところだな。


「今のうちに逃げてくれ」


「すまない。こいつが怪我を……」


 怪我人はヒーリングで治す。ダメそうなら命ごとリバイブキーで蘇生させればいいが、そこまでじゃないか。足の怪我を癒してやる。もちろん鎧で威力激増。


「これでいけるか?」


「凄い……ありがとう! 助かった!」


「おめえら~こっちに集りな。バラバラに逃げようとすんじゃねえぞ。今日は大サービスだ。おれがしんがりを務めてやる」


 複数の出入り口のうち、一番広くて損傷の少ない場所に陣取り、天使を紙くずのように両断しているアクセル先生。なるほど、強い。生徒達じゃ足元にも及ばないだろう。


「と、いうわけで……こっから先には行かせねえよ!!」


 天使一匹につき一発、頭に魔力を込めた拳圧を飛ばす。

 これで周囲のザコは倒せたはず。このまま撤退を援護しよう。


「さーて、ミノス王とやらは不在かね?」


 出てこないなら、出てくるまでミノタウロスを殴るだけだ。

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