VSミノス・ミノタウロス
広大な闘技場に現れる天使をとりあえず狩り続ける。
「ウラウラウラウラアァァ!!」
目に付いたやつから潰していくが、減っているのかどうか実感がない。
ミノタウロスも起き上がってきたし、そろそろ本格的に潰すか。
「……消えた?」
ちょっと目を放した隙にあの巨体が消えた。背後に、それも俺じゃない生徒の近くに移動している。八メートルくらいあるくせにマッハで動いてんなこいつ。
「狙いは俺じゃなくて生徒か」
牛野郎の全身と同じくらいの斧が生徒たちに振り下ろされる。
斧を砕けば破片が生徒に当たるだろう。
弾き飛ばせば、どこに飛んでいくか分からない。となれば方法は一つ。
「こいつが真剣白刃取りというやつ……かね? やっぱ守りながら戦うの向いてねえわ」
片手でつまんで止める。地面が窪むことからパワーも相当なものだとわかった。
生徒に相手させるもんじゃないな。
「悪いが邪魔だ。ちょっと雲の上まで行って来い!!」
片手で十万の拳をぶち込んで怯ませ、偉そうに主張している二本のツノを掴む。
これって素材になったりすんのかね? まあいい、とりあえず力任せに上空へ投げ飛ばして腹に渾身の蹴りを入れる。これでしばらくは落ちてこないだろう。
「すっ、すげえ……なんだあいつ……誰だ?」
「とりあえず先生のとこに行ってくれ。死なれると報酬が減りそうなんだ」
「いやあんた……報酬って……」
「こちとら金に余裕があるわけじゃないんだよ。庇いながら戦うのも結構しんどい」
生徒を逃がしていると、上から天使が降ってくる。手刀の真空波で三枚におろしながら他の気配を探っていく。逃げ遅れたやつをなんとかしないといけない。
「アジュ、そっちだいじょぶ?」
「シルフィ? まあなんとかな。そっちは?」
「イロハとリリアは入り口で結界張りつつみんなを逃がしてる。そのせいか天使がそっちに集ってるよ」
そっちに視線をやれば、先生や生徒と一緒に天使と戦う二人。生徒もまったく戦えないわけではないので、遠距離からの援護と強化魔法でなんとか応戦しているみたいだ。
「おいあれ……入り口から出てねえか?」
天使が明らかに撤退に使う道から沸いている。
そのせいか生徒がどんどん入り口に貯まる。
「まとまったはいいけど、逃げ出せないんじゃない?」
「おいおいまずいな。そもそもこいつらどうやってここに……」
話していると俺達から離れた場所にミノタウロスが落ちてきた。
まだ立ち上がろうとしている。頑丈にできてんなあ。
「しょうがねえ……あいつ殺してみるか。どっから出てきてんのか分かれば策も出せるだろ」
「よーし手伝うよ!!」
「大丈夫か? 危なくなったら逃げろよ?」
「わたしだってアジュの仲間なんだから大丈夫! ちゃんと引き際も弁えてるよ」
「そうか、なら……」
『贄を』
声が聞こえた。地獄の底から響くような憎悪と怨嗟の込められた暗い声。
「なんだ? どっから聞こえる?」
闘技場は広い。はじっこの人間が指と同じレベルに見える。なのに確かに声が聞こえた。戦闘の喧騒を無視するように、どこかから響く。
『我が名はミノス。我らのために贄を捧げよ』
ミノタウロスの背後、観客席のところに誰かいる。
どこかの民族衣装だろうか……露出の多い服と、体に巻きついた宝飾品が光を反射してギラついている。
『足りぬ。我らには贄が足りぬ』
金髪に褐色の肌をした成人男性。あいつが喋っているのか?
『なにをしている? 贄が逃げる。吸え。働け』
「なにかしようとしている? とりあえず殴って黙らせるぞ」
闘技場全体が揺れる。そしてあちこちが光った瞬間に、魔力を吸い込み始めた。
「なっ、これはヴァルキリーの!?」
「ゲルやミストが使ってたやつだよ!?」
俺もシルフィも覚えがある。魔力を吸い取る装置だ。
「まずいぞ、生徒が動けなくなる」
「どうするの? どこに装置があるかわかんないよ!」
どんどん魔力が吸われている。いやまあ鎧着ている俺の魔力は無限なんで問題ないんだけど。シルフィがやばい。
「あっちこっちに吸われているみたいだよ」
「ああ、こりゃ装置は一個じゃないな……ん? 流れて行ってるのは感じ取れるな」
「だね。闘技場内に溜め込んでるんじゃないかなこれ」
「ふむ……ならぶっ壊せるな」
『バースト』
バーストキーで流れ出ている俺の魔力を爆弾に変える。あとはだらだらしながら待っていればいい。溜め込んでいるという感覚がある場所まで流れたら爆破すればミッションコンプリート。
「シルフィ、魔力は大丈夫か?」
「対策練ってみました! 魔力が流れるという時間を止める!」
びしっと親指立てているシルフィの全身に、薄い膜のように止まった時間がくっついている。なるほど、これなら流れていかない。装置が魔力を吸い取るという時間がやってこないんだ。
「考えたな。っていうかマジで反則だろその力」
「それが通じないアジュはどうなるのさ」
「二人とも、聞こえる?」
足元の影から声がする。イロハだ。俺達まで影を伸ばして、糸電話みたいに声を送っている。
「聞こえるぞ」
「よかった。生徒は私とリリアと先生でなんとかするわ。魔力もリリアの結界でなんとかしているから」
「俺達であいつらを始末すりゃいいんだろ?」
「ええ、心配いらないと思うけれど、無理はしないで」
「任せて! イロハもがんばってね!!」
さて、無理しない程度にボコるか。目指すはあの金髪優男だ。
『贄の分際で我らを拒むか。我が息子よ、立ちはだかるものを薙ぎ払え』
絶叫とともに巨体を揺らし、高速で斬りかかってくるミノタウロス。マッハ三てとこかね。
二人して飛び上がり、斬撃をかわす。
「いくぜシルフィ」
「準備オッケー!」
空中を走りながら何度もミノタウロスを切っていくシルフィ。狙いがシルフィにいった時を見計らい、攻撃される前にローキックで足を崩したり、斧を持っている手を殴って吹っ飛ばしたりと援護に回ってみる。たまにはこういうのも面白い。
「折れたあ!?」
シルフィの剣が折れた。そんなに高い剣じゃないしな。
『ソード』
ソードキーで黄金剣を二本作り出して渡す。同時に自分の剣も出しておこう。
「使えシルフィ!」
「ありがと!!」
見るも無残に崩れ去る巨体。血飛沫をあげて倒れ伏すその姿からは、戦闘に使う体力などないことが明白だ。
『贄よ。捧げよ。捧げよ。息子のために』
地面から染み出した魔力がミノタウロスに吸い込まれていく。
何人もの魔力がごっちゃになったそれは、俺達から吸い取ったものだろう。
「ブオオオオオオォォォ!!」
復活の雄たけびを上げる牛人間さん。ちょっと魔力が上がってねえかな。
ついでに身長も二メートルくらい上がってる気がする。
「やっかいだな。あっちの金ぴかから始末するぞ」
「ほいきた! いくよ!!」
『我に抗う愚か者よ。贄となれ』
「それしか言えんのかお前は」
ミノスが身につけている赤い宝石からサソリのしっぽのようななにかが飛び出す。
赤く、透明度の高いそれは宝石のようだ。
とっさに切り落とすと、小さな宝石の欠片に変わって消えた……どす黒い魔力を滲ませながら。
「どうもまともな武器じゃないようだな」
『我が子ミノタウロスよ。仇なすものを屠れ』
背後からミノタウロスが迫る。小回りきくのなこいつ。
「んじゃ趣向を変えましてっと。召喚! でかい俺!」
ミラージュキーの効果はまだ続いている。ミノタウロスと同じ大きさの俺を作り出してみた。幻影に質量を持たせることもできるので、ちょっと遊んでやるか。
「よーしパンチだ! 俺!!」
でかい俺の肩に乗って指示とかしてみる。ミノさんも斧で応戦しているが、質量を拳と肩にしか付けていないため空振りしている。知能が牛並みということか。哀れだな。
「いいぞ! そのまま連続パンチだ!!」
これメッチャ楽だわ。肩に座って一休み。
「なんか凄いねー。がんばれーおっきいアジュー」
「おう、便利だろー」
何度でかい俺が殴っても所詮は幻影。決定打にはならないので飽きる。
やはり鎧か剣で倒すのがベストか。必殺技キーで一思いにやってやろう。
「んじゃ休憩終わりで遊びも終わり」
『ホオォゥ! リイィィ! スラアアァッシュ!!』
「ウラアアァァ!!」
光の軌跡はミノタウロスを綺麗さっぱりこの世から消した。
不死身の神だろうが問題なく消滅させるのが剣のいいところだな。
『贄よ。息子の糧となれ』
「無駄無駄。二度と生き返らないさ」
ミノスがどれだけ呼びかけようとも、ミノタウロスが蘇ることはなかった。
『おおおぉぉぉ……ミノタウロスよ……せめて、魔力だけは我が身に……』
「はいどーん」
闘技場に爆破の嵐。遊んでいても魔力の流れは探っていた。全てにアタリがついたので爆破しておこう。爆破した装置から吸い取られた魔力が溢れて散っていく。
ちょいもったいない気もするけどまあいいか。
「さ、後はお前だけだ。なんでこんなことをしたか、正直に話せば楽に殺してやる」
『許さぬ……許しはせぬ……絶対に!!』
ミノスが付けている宝石からわさわさと沸いてくるサソリの尻尾。
先端に完全に完璧に毒があるに決まっているトゲついてますよ。
『簡単には殺さぬ。冥府にて……我が子に詫びよ……』
戦闘が長引いてるからな。そろそろ決着つけますか。
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