料理勝負を見に行ってみた

 アンジェラ先輩が料理勝負するらしいので、なんとなく途中から見に行った。

 つまり四人とも暇だったのだ。


「会場がドームレベルだ……」


 広いよ。ライブ会場かよこれ。中央にキッチンがある。

 なんか知らんけど高い位置に審査員席がありますわ。

 完全に王族っぽいドレス着ている女がいるけど、あれがなんちゃら

ってやつかね。


「なんかざわついてるね。トラブルかな?」


「アンジェラ先輩がいるわよ」


 先輩と、料理運んできてくれた男の人がいる。

 横には金髪の知らん男もいるな。

 どうやらチーム戦っぽい。


『おーっとここでまさかの裏切りだー!』


 アナウンスっていうか実況がよくわからんことを言う。

 金髪が敵チームへと歩いていく。


「お前どうして!」


「あの店も、店の味も、勝てばすべてが私のもの。そういう約束なんだよ」


 金髪の料理を手伝う男たち。大人だなあれ。生徒じゃない。


「プロ呼ぶのは汚いっしょ!」


「助っ人ありというルールだろ。いまさら文句言うなよ」


「それは学園内の話だ! そいつらは味王妃の料理人だろうが! あくまで生徒メインの勝負だろう!」


 なんか揉めている。いかん事情がさっぱりわからんぞ。


「リリア」


「いや今来たばかりで解説は無理じゃろ」


「リリアが無理ならどうにもならないわね」


 お手上げである。予備知識なしで知らない映画を途中から見る感じだよ。


「まあ店か店長の座でも賭けておるのじゃろ。それで金髪が裏切ったんじゃ」


「おー……リリアがいるとわかりやすい」


「実感したね」


 雰囲気だけで解説するとはやりおるわ。

 雑談に興じていたら、会場がざわついている。


「その料理は!」


「あんたそれ自分の実力じゃないじゃん!!」


 敵に寝返った金髪の料理が出る。

 それはなんだか先輩たちの料理と同じに見えた。


『これはどういうことだ! まったく同じ料理に見えるぞおおお!!』


「同じさ。私がチームとして究極のコースを作った。そこまでは同じ。そこから彼らに一工夫して貰うだけさ」


「プロに手直ししてもらって勝つか。自分に自信がない証拠だな」


「なんとでも言うがいい」


 両方の実食が終わり、青い札が挙げられる。


『三品目、勝者チームブルー! これでブルーは一勝二敗! 勝負がわからなくなってきたあああ!』


 混乱している会場。悔しそうな先輩たち。ちょっと変な空気だな。


『続いて鍋勝負だー! 煮る焼く蒸すは料理の基本にして王道! 鍋とはまさに料理の縮図。どれだけの食材と出会ってきたかという歴史そのものです!』


「鍋はこういった場での勝負として出すには、とてつもなく難しいものじゃ」


「だろうな」


「食卓で食べるなら、それこそ適当に寄せ鍋でもよい。変なものさえ入れなければのう」


「けれど料理勝負するとなると、食材の厳選が難しすぎるわ」


『やはり同じ食材だー! 野菜中心! 山の幸鍋です!』


 野菜を煮込むいい匂いがする。

 どちらも手際がいい。素人目でもわかるほど熟練された腕だ。


「どうすんのさ! このままじゃガチやばいっしょ!」


「焦るな! オレたち二人だけでも負けはしない!」


「そんな綺麗事が通用するかよ。私の勝ちだ。あれをもってこい」


 敵チームにでっかいエビが登場。形や色が伊勢海老っぽいぞ。


『あのエビはヤマトの高級食材です! 繊細にして鮮烈なインパクトを与える扱いの難しい食材だー!!』


「鍋の味を変えるなんて、全とっかえならまだしも、この状況からできるわけねーし!」


「できるんだよ。お前らがギリギリまで高めてくれた。そこにプロの知恵さえ加わればな」


 そしてほぼ同じ鍋が登場。まず敵チームから実食。


「無駄な食材がひとつもないわ。完全な調和とともに、エビを主役として引き立てている。今まで食べた中でも最高の鍋よ。あなたを学園に入れてよかったわ、ゴーラ」


「姉さんには感謝してますよ」


 敵の金髪と味王妃は家族らしいです。

 うーわ八百長の匂いがしますねえ。いけませんよこれは。

 続いて先輩チームの鍋だ。


「確かによくできているわ。けれど全体的においしくまとまっているだけ。さっきのエビを食べた後じゃ、パンチが弱いわね」


 そして青の札が上がる。これはいけない。完全に負けムードだ。


『またもブルーチーム勝利! これで対決は同点だあああぁぁ!』


「あれ家族だろ? 仕組まれてんじゃないか?」


「味王妃は判定だけは正確じゃよ。その鋭敏な味覚は国宝級の舌じゃともっぱらの噂じゃ。純粋にプロの腕が凄いんじゃろ」


「どうも反則すれすれっぽいけれどな」


『ではここで休憩に入ります。選手は控室へどうぞ!』


 先輩が休憩に帰る途中、ふと目が合う。

 軽く手を振られ、道の奥を指さされる。


「来いって言われてんのか?」


「行ってみよう。先輩が心配だよ」


 シルフィの知り合いだからなあ……あんまり無碍にもできんか。

 仕方がないので控室まで行ってみる。


「これ追い返されたら赤っ恥だな」


「先輩、シルフィです。入ってもいいですか?」


「シールフィー! よく来てくれたじゃーん! 入って入って!!」


 なんか妙に明るいな。俺でも空元気だとわかるぞ。


「何があったんですか?」


「裏切られた。ゴーラのやつ、はじめから店のトップになることが目的でオレらに近づいたんだ」


 なんでも店を賭けた勝負で、金髪は店を手に入れるためのスパイだったんだと。

 しかもプロのシェフを呼び、味王妃とかいう色物まで呼び込んだ。


「この勝負だって敵さんがしつこく粘着してくるから、渋々受けたってーのにさ。ガチ最悪」


「降参すりゃオレらを新店舗で使ってやるとさ。もう勝った気でいやがる」


「まいったねえ。ガチピンチっしょ」


「こっちも助っ人連れてくりゃいいんじゃないですか?」


 乱入ありならこっちもプロを呼べばいい。それが料理人としてどうかは知らん。


「無理だ。もうレシピは決まっている。オレたちと完全に息の合ったチームじゃないと勝てない」


「ただでさえあっちは同じ料理をプロに作らせてんだし、正直勝ち目なくてさ。協力してくれる人も出てこないっしょ」


「アジュ、なんとかできない?」


「よくわからん。俺たちは部外者だぞ」


 これはいけませんよ。絶対目立つやん。

 間違いなく目立つ。しかもメリットがない。


「解決策があるのなら聞かせてくれ。こちらは手詰まりだ」


「プロで今すぐ呼べる超強い人に全部やってもらう、とかですかね。それで納得するかは別ですが」


「背に腹は代えられない。できればオレたちで解決したかったが……あの店を潰すわけにはいかん」


「ていうか誰呼ぶの? あっち味王妃の専属料理人チームだよ?」


「あいつらそんな凄いんですか?」


 そもそもそこがピンとこないんだよ。あの集団なんなのさ。


「美食を極め、日々自分のお抱え料理人を連れ歩く料理のプロ。それが味王妃だよ。キャラクターが受けている面もあるけれど、その舌を満足させる料理は少ない。料理人はもっと少ないかな」


「結構黒い噂もあってね。貴族なんだけど、あんまし会いたくないタイプだねい」


 つまり手練の面倒な連中というわけか。これはより一層他人でいたいな。


「なんとかできる?」


「問題はできるかどうかじゃない」


 ぶっちゃけ鎧着ればどんなやつが相手でも勝てる。

 だが俺はどうしようもないほどの壁にぶち当たっていた。

 問題は別にある。これは解決できるかすら怪しい。


「正直どうしようもないというか、これが一番重大で、はっきり言って致命的だ」


「聞かせてくれ」


「…………感情移入できない」


「……は?」


「ぶっちゃけ先輩に初めて会ったのが五日くらい前で、まだよく知らないし。店のことや金髪の裏切ったやつに恨みも憎しみもないし。料理バトルもなんかふわふわしてて、切羽詰まった感じがしなくて、しかもメリットゼロに近いっていうか」


 なんか協力する気が起きないのだ。

 全部が唐突で、それでいて完全な他人事である。

 こんなんでテンション上がるかいな。

 この流れに完璧についていけるやつは、理解力どうこうじゃない天才だぞ。


「なるほど、君の言う通りだ」


「そこ同意すんの!? 説得しねーとやばいっしょ!」


「いや、無関係の人間を巻き込もうとしていることは事実。だからこそ必死に頼んでみよう。どうやら解決の糸口くらいは持っていそうだからね」


「ならば今から短時間で、アジュのモチベーションを上げるのじゃ!」


 なんかよくわからないことになってきた。

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