クッキングマスクになってみよう
ほぼ縁のない初対面に近い先輩を助けるモチベーションを上げましょう。
いやあしんどいですよこれは。どうしますかね。
「まず整理していこう。どうあがいても君と我々は初対面に近い。感情移入も助ける義理もない」
「ついでに敵の金髪にもです。あいつが悪いやつでも、俺たちは一切干渉されていない。完全な他人を始末するのはちょっと面倒なことになるので」
これである。だって俺たちの敵じゃないし。
悪人は正義気取りが勝手に倒せ。俺には関係ない。
ヒーローキーを使っていても、ヒーロー自体が好かんのだ。
同類になるような人助けなどしたくはない。
「始末って、殺すわけじゃないんだぜい」
「殺して終われるのが一番楽なんですけどね」
「それがいかんといつも言うとるじゃろ」
「結構物騒なタイプ? アジュくん好戦的に見えないけど」
「ごく普通のインドア派です。話がそれましたが、明確に敵ができるのに、あんまメリット感じないんですよ」
これがギルメンに責任ないのに危害を加えてくるとかなら別。
他人の喧嘩に首突っ込むほど無意味な行為はないぜ。
「あたしがいやらしいことをしてやるぜい!」
「それ以外で」
「えー……あたしの体には、それだけの魅力もないってか?」
「ないです」
「えっ」
純粋に興味がない。先輩にも、女にも、そういう行為にもない。
「あと下ネタ嫌いです」
「まあそうなるよね」
「基本ね」
「じゃろうな」
ギルメンが止めたり慌てたりもしない。
どうせこうなることを知っているのだ。
「うちで一ヶ月昼飯を奢ろう」
「それは……ちょっと考えますね」
「魅力的じゃな」
あそこの飯は本当にうまい。しかも金がかからない。
これは結構破格かも。
「そういえば、お店がなくなるって話していませんでした?」
「トップが変わる……まあ今までのように自由にはできないだろうね」
「あいつ味王妃の店に変えるつもりなんじゃね? あたしらは下っ端にするか、でなきゃクビだろうねい」
「味変わるのかよ……ああいう店って独自の味だからいいんだろ」
じゃなきゃチェーン店の味になっちまう。
あの店の味が好きで通っているやつ切り捨ててやっていけるのかね。
「今までの評判とレシピがあれば可能だとでも思っておるのじゃろ」
「料理ってそういうもんじゃないんだけどねい」
「よし、二ヶ月だ。混雑していたら時間をずらしてもらうかもしれんが、二ヶ月昼飯をただで食わす!!」
「今からじゃあクエストにもできないから、報酬は単位にはできないわ。お金で動くこともないでしょう。こういう条件が落とし所よ」
イロハから建設的な意見が出る。確かにそうだ。
受けておこうか。ちらっとギルメン見ても、協力することに異論はないな。
「わかりました。一応呼びに行ってみますが、全力で期待はしないでください」
「やってくれるか!」
「あくまで助っ人を呼ぶだけですし、呼べなくても……」
「わかっている。その時は二人でやるさ。料理はどうする?」
「そのままでいいです。材料も一切変えないでください。あと出てもいい格好とか教えてください」
そんなわけでちょっとリリアと控室を出る。
適当な場所見つけて鎧着て、あとはいつものミラージュキーですわ。
「妙なこと引き受けちまったな」
「たまには善行でも積むとよいじゃろ」
積もうにも人のいない場所が見つからんなあ。
「待て」
「ん?」
知らん連中に声をかけられた。全員黒いスーツっぽい服だ。
ぽいだけだな。戦闘用だろう。
俺よくそういうのわかったな。
「成長してんのかもなあ」
「しておるのじゃ」
おるらしいのじゃ。やったね見抜けたよ。だからどうした。
むしろ俺の思考を察するリリアが凄いわ。
「どちら様?」
「バーナードとアンジェラの助っ人だな?」
そういやバーナードだったっけあの人。名前すっぽ抜けていたわ。
自己紹介された記憶がどっかいった。
「ただの知り合いです。正直知り合って間もないレベルなんで」
「うむ、わしらは無関係じゃな」
「ならじっとしていろ」
「んじゃ観戦に戻るんで」
行こうとしたら道を阻まれましたよ。めんどいわあ。
「一緒に来てもらおう」
「そりゃまたなぜに?」
「助っ人など呼ばせん」
五人くらいか。さっさと殺してもいいが、こいつらの身元でも吐かせようかな。
「味王妃様のペットかい? 命令に忠実だね」
「しばらくあっちの部屋でじっとしていてもらおう」
「断る」
「手荒な真似はしたくない」
「ならしなきゃいいじゃん。おつかれ」
五人とも武器を出してきたよ。いやだねえ野蛮で。
「痛い目を見てもらうことになるぞ」
「こんな風にかい?」
先頭のアホに細工してある。軽く魔力を込めて目玉を引っ張ってやる。
「ぐっ!? ぬああああぁ!?」
両手で飛び出そうな目玉を抑えて呻く男。成功かな。
「おっ、どうした? なんか病気かな?」
すっとぼけてみる。いやあわざとらしいね。
「また小細工を覚えたのう」
「まだ魔法ってほど形になっていなくてな。試してみようかと」
軽く薄く敵の体に魔力を貼り付け、電磁波に変えて対象を引っ張る。
一見しただけじゃ、俺が何かしているようには見えないし、遠くのものを引き寄せるには便利だ。
「電磁波ってのは目に見えないからな。工夫すればこんなもんよ」
「ええい人が来る前に気絶させろ! 無理矢理にでも連れて行く!」
「それは無理な相談じゃな」
こいつらと会った瞬間に、リリアが後ろの四人に魔力を送り終えている。
「こういう場で血の匂いもあれじゃろ。内臓だけ壊して、瞬時に血を凍らせて蓋をするんじゃよ」
敵の目、鼻、口、耳に氷の蓋ができ、内部から赤く染まる。
俺に魔法の応用を教えてくれているのだろう。
リリアだからできる芸当だが、覚えておくか。
「なるほど。参考になったよ」
これだけやって死んでいない。回復魔法かけりゃいいし、やり方覚えておこう。
「お、お前ら何者……」
「死にたくなきゃ答えてくれ。あの部屋には何がある? お前らは誰の手下だい?」
「ゴーラ様の勝利を阻むものを排除することが我々の役目だ。部屋は終わるまで我々が監視するために取った」
「ご苦労。お望み通り入ってやろう。これご褒美ね」
肩に手を置き、三百万ボルトくらい流してみる。
「ぎゃああぁぁぁ!!」
しっかり黒焦げ。魔力のコントロールも上達しているようだ。
「よしすっきり。もういいや。フウマ」
「ここに」
フウマの多分上忍さん登場。
「全員生きている。取り調べは任せる。問題ないようなら、そっちの好きなやり方で消していい。行け」
「はっ!」
上忍さんとザコ敵五人は綺麗に消えた。
こういう命令するのはどうも慣れない。
でもお館様っぽくやってくださいと懇願されているのだ。
「では空き部屋に入りまして」
『ヒーロー!』
『ミラージュ』
板前さんみたいな服装になり、髪の毛を金髪に。
白い仮面を出して完成。鎧は幻影内部で手だけ消しておく。
「名付けてクッキングマスター仮面」
「ネーミングが安直過ぎるじゃろ」
「んじゃクッキングマスクで」
ちょっと乗り気になり始めていたら、シルフィたちから通信が入る。
『アジュ、休憩時間終わっちゃうよ』
「わかった。先輩たちをスタンバイさせろ。あと一応毒とかもられていないか注意しろ。敵が来た」
『わかったわ。そちらも気をつけてね』
さてちょっとやる気が出てきたぜ。
あの店はお気に入りだし、安心して通うには敵が邪魔らしい。
こういうことをする連中は、徹底的に潰しておこう。プラン変更だ。
『さあ残るはあと三品! 絶体絶命のレッドチームに勝算はあるのか!』
既に会場には先輩たちが立っている。
「とうっ!」
そこへ観客席から颯爽と登場する謎の男。というか俺。
「彼に言われて助けに来た。よろしく頼むぞ」
多少口調は変えています。変えましょうね。正体ばれるじゃないの。
『おおっとここで謎の男が乱入だー!』
「私の名はクッキングマスク!! 義によって助太刀いたす!」
「よくわかんねーけど、料理できるんだよねい?」
「任せておきたまえ」
『仮面の男はレッドチームの助っ人だああぁぁ!!』
会場もいい感じに湧いている。もともと助っ人を導入したのは敵だ。
拒むこともなくチーム入りは確定した。
「無駄なことを。そいつがプロだろうが、こっちは歴戦のプロ集団だ。どう勝つってんだ?」
「普通にやるだけさ。レシピは変えない」
「……なんだと?」
「私は彼らの料理を絶対に変えない。そっちはさらに一工夫加えていい。全員で知恵を絞るがいい。全力でな」
『レシピは変えない宣言だー! これは無謀とも取れるが、はたしてどういうつもりなのかー!!』
さらにヒートアップする会場。それじゃあ始めるか。
「ちょっとちょっといいの? なんか秘策の料理とか無いわけ?」
「必要ない。私とともに、ただきっちり作ってくれればいい」
「正気か? まったく同じ料理でひと手間かけるということは、覆せないほど絶対的な差が出るということだぞ」
「構わんよ。どうする? プロのみなさん」
意外にも肯定したのは味王妃とやら。
「いいでしょう。君の料理を見せてみなさい」
『よろしいのですか?』
「その自信がどこから来るのか興味が湧いた。私を楽しませろ」
「おおせのままに。それじゃあ料理開始だ」
鎧の知識と経験を全活用。最速で調理に入る。
「手順はすべて頭に入っている。料理しながら私のスピードについて来い」
「やってやろうじゃん!」
「君こそ遅れるなよ、クッキングマスク」
加減を見極め、食材に気を配り、まずは切っていく。
『おおっと! クッキングマスク速い! なんという速さだ!!』
「次の食材を切っておいてくれ。私は鍋を見る」
「うっわもう終わってるし!? はっええー」
「その必要はない。ソースはこれだろう?」
差し出された鍋の味を見る。完璧だ。俺の手順を予測して動いたか。
「やるなバーナード君。君を侮っていたよ。そのままソースを頼む」
言いながらも手を休めない。肉の焼き加減を見ながら調味料を。
「これとこれっしょ。あとは?」
アンジェラ先輩が俺の横に使う調味料を置いている。
学園の生徒はやはりプロに近い。嬉しい誤算だ。
「では次は……」
『即席とは思えないチームワークだ! これは料理にも期待できるぞ!』
この場合、ゴーラだけを潰しても無意味だ。
権力的には姉の味王妃だろう。あいつを潰す算段はできた。
とっとと決めてやろう。
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