クッキングバトル終結
クッキングマスクとして料理バトルに参加。
仔牛のクリーム煮込みを完成させる。
ブランケットドヴォーというフランス料理と似ているな。
「こんな……こんなことはありえない!」
一口目で目を見開きスプーンを落としている味王妃。
「さあ判定を下してもらおうか」
しばしためらい、それでも赤の札を上げる。
『まさかまさかのレッドチームだあああぁぁ!!』
「よっしゃ! マジで勝てるとかガチやばいっしょ!」
「そんなはずがない! こちらは全く同じレシピでプロが一工夫したものだ! それを先に食べているんだぞ!!」
「それを上回るほど、こちらの料理がうまいだけだ。君の分も、そして実況やVIP席の皆様の分も作った。どうぞご賞味あれ」
ついでに作っておいたものを配る。
アンジェラ先輩とバーナード先輩の分もある。
「おっ……おおおおぉぉぉぉ!! これは!! 確かにレッドチームの方が洗練されている!」
「味に深みがあって、旨味もコクも段違いですわ!」
「こりゃうまい!! ああこりゃうまいいいぃぃ!!」
みなさま大絶賛でございます。みるみる皿が空っぽになっていく。
「そんな量を作る時間などあるはずが……」
「あるさ。それほど難しいことではないのだ」
クッキングマスクの口調が安定しないという不具合発生。
ちゃんとキャラは決めてから話そうね。
「いやあ助手っておいてなんだけどさ。なんでこんなうめーのかガチわかんねー。はっはっは!!」
「チームワークさ。敵は初めから裏切るつもりだった。だが私は違う。二人の足りない点を先回りしてフォローし、明確に実力差が出る部分をそれとなく私に回す。それだけでいい」
「それを見抜いて支持を出したと……恐ろしい……あなたが味方でよかった」
「どこの誰だか知らねえが、やるじゃねえかクッキングマスク!! うちの料理長やってみねえかい!!」
「いやいやぜひうちに来て欲しい。金はいくらでも払うぞ」
「私は流浪の料理人。まだ見ぬ料理を求めてさすらうのみだ」
そうです、今作った設定でございます。
止めないと勧誘合戦になりそうだしな。
『それでは六回戦、米料理開始いいぃぃぃ!!』
「米料理か」
レシピはあの日食べたオムライスだ。個人的にもう一回食いたい。
やはりあの店は残そう。
「同じメニューで勝てないのなら、こちらはプロのスペシャリテを作ればいいだけだ!」
「どうかな? メニューの奇抜さにばかり気が行くと、足元を救われるぞ少年」
こちらは気にせずオムライス。ステーキは無し。
ただし玉子をよりふんわり、ソースをより深みのある味へ。
「作業スピードが上がっているな。流石は学園の生徒だ」
「冗談じゃない。ついていくだけでやっとだよ」
「あたしらが混乱しないギリギリで使いこなしてるっしょ。やーばいね」
「そろそろ完成だ。特製オムライス一丁上がりさ!」
あの日より格段に美味しくなったオムライスが完成。
器も少しだけ豪華で気品のある感じ。
いやあいい感じですな。俺が食いたいわ。
「こちらもできたぞ! 高級食材を惜しみなく使った、究極のリゾットだ!」
トマトベースのリゾットだな。
あれはあれでうまそう。なんとか食えないかね。
リゾット凄い好き。俺たちの分も作ってくれりゃいいのに。
『あれは味王妃様の御眼鏡に適う美食家だけが食べることを許されるという、伝説のリゾットだあああああ!!』
めっちゃ高級な器に乗っている輝くリゾット。
まずはそっちから食べるようだ。
「流石は味王妃様直属の料理人。なんと豪放で繊細な味付けだ」
「素晴らしい。これだけの食材を一切の無駄なく、ぶつかりあうこともなく主張させるとは」
「ふふっ、また腕を上げましたね」
好感触っぽいが、ちょっとリアクション薄め。
っていうかVIP連中が審査員席にいるんですが、どういうことですかねえ。
「ではこちらもどうぞ」
審査員に行き渡り、全員がオムライスにスプーンを入れる。
「おおおおっ!?」
中から湯気とともに極上の香りが広がっていく。
その香りに引き寄せられれば、あとは皿が空になるまで食い続けることになる。
「ああ……手が、手が止まらねえ!!」
「決して高級な味ではない。だがもっともっと食べたくなる!」
「完璧だ。米料理の完成品だ!! 歴史に残るぞ!!」
「おかわりは! おかわりはないのかね!!」
大絶賛である。
俺が食ったことがあるというのが大きかった。
ならば鎧の力でのクオリティアップは容易だ。
『…………はっ!? 審査員大絶賛だああああぁぁぁ!!』
実況が完全に仕事放棄して完食していた。
これは決まったな。
「料理とは奥深い……自分の料理をここまで押し上げられるとは」
「作り方は同じ。けど火加減や食材の切り方ひとつでここまで変わる。いやーガチやべー人来ちゃったねこりゃ」
『さあどちらの札が上がるのか!』
札まで人数分あるじゃねえか。どっからいつ用意したんだよそれ。
「これは、決まりですな」
全員が赤の札をあげようとするが、味王妃から待ったがかかる。
「お待ちを。まだ結論には早いのではなくて?」
『おぉ? これはどうしたことでしょう?』
「確かにレッドチームは美味でした。それでもメインに持って来るには少々野暮ったいとは思いませんこと?」
「いやしかし……それは料理のうまさとは別の……」
「これはワタシが、味王妃が審査員を務める勝負。そこに皆様が加わったのですから、それに相応しい料理を出すのが当然ではなくて?」
なんか雲行きが怪しくなってきたな。
楽しそうにしていた審査員たちが困惑している。
「これはどちらが優れているか、純粋に味で決めるものでは……」
「まるで不純であるような言い方はおよしになって。それともワタシの舌が信じられないと?」
「いや、そういうわけでは……」
「ワタシとともにこれからも彼らの料理を味わい、美食を極め、食を制覇していきたいのならば、大局から料理を見るのですよ」
完全な沈黙。そして全員が目を伏せながら青の札を上げる。
『これは……ブルーチームの勝利、ですね』
実況も困惑している。そして観客席からブーイングの嵐。
「汚いぞ! それでも食に関わるものか!」
「そんな勝ち方して、負け認めてるようなもんじゃん!!」
「こんなの認められるかー!!」
「悪いが今の判定、物言いだ! 明らかにブルーチームを勝たせるためのものだ!!」
「静まりなさい」
味王妃が平然と喋りだす。無駄にハート強いな。
「もう決まったことです。審査員全員が青の札を上げた。それが勝負の結果です」
「そうかい……そういうことをするか。いいぜ、ほどほどに負かして終わらせようと思ったが、マジでやってやるよ」
鎧を着て、本気の本気で料理を作ってはいけない。
その理由を教えてやる。
「味王妃様よ、その判定認めてやる代わりに、次の料理を私に決めさせてくれ。自由課題だ」
「最終料理はデザートだったはずですが?」
「誰がどう見たって今の判定はイカサマだ。ならこっちの意見も飲んでくれよ。どうせ次も青の札だろ? 認めるから私の料理を先に食べてもらう。それでどうだ?」
「無礼な。そのような口の効き方が許されると思って?」
味王妃はとりあえずいいや。
先輩二人に向き合う。
「最初に謝っておく。まさかあそこまでゲスとは思わなかった」
「謝んなくていいよ。あんなのサイテーじゃん」
「むしろお礼を言うのはこちらの方だ。二人だけではどの道負けていたよ」
「勝利を届けられないかもしれない。だが私に料理を作らせてくれるのなら、責任持って味王妃を潰す。そのために次の料理、私だけで作りたい。二人は材料を用意してくれ。目利きは任せる」
あいつだけは潰す。正攻法でな。二度と料理が食えなくなってもらう。
「潰すってどうやってさ?」
「完全に勝つ。完膚なきまでに、徹底した敗北を与えてやる。だから頼む」
「……わかった。せめて一矢報いてくれ」
「納得いかねーけど、あたしらじゃ勝てない。だからお願い。もう店はいい。あいつらに本物の料理ってもんを見せてやって」
「わかった」
『厳正なる審査の結果、クッキングマスクの提案が可決されました!』
沸き立つ会場。余裕の表情を崩さない味王妃。
「さてクッキングマスクよ、提案を飲んであげたのよ。最後の料理はなにかしら? よほど自身があるのよね?」
「味王妃よ。お前を料理で餓死させる」
「ほう。でかい口をきくものよ」
「最後の晩餐だ。味は保証するぜ。その前に……」
味王妃様の直属シェフとやらにレシピを渡してやる。
「はいこれ。レシピ全員分な」
「なんだこれは?」
「作り方だよ。材料から火加減まで書いてある。大切にしろよ?」
「どういうつもりだ」
「お前らはこれからそれしか作れない。泣こうが喚こうが、料理人をやめるまでな。絶対になくすなよ」
これでいい。徹底的にやってやるよ。
「開始の合図を頼む」
『なにがなにやらわかりませんが、調理開始いいいいいいぃぃぃ!!』
作るのはごくごくシンプルなチャーハンだ。
肉と玉子とネギだけ。
ただそれだけで、どこの家庭でもできるもの。
だが絶対に俺にしか作れないものだ。
『華麗な鍋捌きだクッキングマスク!! これはまた米料理か!!』
「二度連続で米料理とは……狂ったな。デザートは既に完成間近。後だろうが先だろうが、我々の勝ちだ。店はいただくぞ」
「黙ってな。お前の分も作ってやるからよ」
鍋を二つ用意し、味王妃と敵のシェフ、そしてゴーラにだけ別の鍋で作る。
他の審査員には勝負に勝てるレベルのものを結構マジで作った。
あいつらには本気の本気だ。一切手を抜かない。
本日初の全力料理である。
「完成だ」
味王妃と専属料理人チームとゴーラにまず皿を出す。
次に審査員へ。
「食ってみな。そっちの料理人どもの分もある。全員で食うんだ」
「ごく普通の米料理に見えるが?」
「そう、ただのチャーハンだ」
いぶかしげな顔でチャーハンを口に運ぶ。
食ったな。それがお前の食える最後の料理だよ。
そして全員の動きが止まった。
「こ……れは……」
数分後にようやく口を開いたかと思えば、猛スピードでかっこんでいく。
「うまい……うまい……うまい……うますぎる!!」
「あまりのうまさに声すら出せなかった……」
「言葉にできない……これは本当に料理なの?」
全員が大粒の涙を流しながら食い続けている。
もちろん毒など入れていない。正真正銘の極上料理だ。
『わ、わたくし……言葉が出てきません。幸せです。ただひたすら幸せです!! なんという美味! 実況一筋二十年の私が、言葉にできませえええぇぇん!!』
「これが食の頂点、食の境地か」
「料理ってすげー、ガチやべーっしょ……」
先輩も泣きながら完食である。
当然だが味王妃もだ。
「それじゃ、せいぜい長生きしてみるんだな」
これで終わり。完璧だ。
審査員からの拍手喝采である。
「ブラボー!!」
「最高の料理をありがとうー!!」
軽く一礼してチームに戻る。
次になにやらフルーツのタルトが運ばれているが、問題はない。
『次はまた豪華絢爛なタルトだ!』
豪華な皿に盛られたそれは、審査員の口に入るも
さて王妃様。本当にその舌が天性のものか、試される時だ。
「まあ、うまいっちゃうまいな」
「ええ、たいしたものですよ」
審査員はほどほどに食っているが。
「うっ!?」
味王妃は口を抑えて小さく呻いた。
そうかい。本当にその舌は最上級のものだったんだな。
ありがとう。これで餓死確定だ。
「姉上、どうされました?」
ゴーラの心配をよそに、水を多めに飲んでいる。
俺にはわかる。水で強引に飲み込んだな。
『さあ判定に参りましょう!』
そして味王妃は青の札を。
審査員は赤の札を上げた。
「これはどういうことかしら!!」
正直ちょっと意外だった。
なってくれりゃいいなーとは思ったが、どうやら誇りが残っていたようだな。
「味王妃様よ、悪いがおれらはあんたと縁を切る」
「なんですって!?」
「クッキングマスクよ。私たちは目が覚めました。富や権力に怯え、舌と心に嘘をつきました。どうか許してください」
「おれは生まれてこの方、このチャーハンよりうまいものを食ったことがねえ。ありがとう。そしてすまなかった」
審査員全員が頭を下げる。
それを見て会場から拍手が巻き起こる。
「別に恨みはしていない。味王妃に逆らえない気持ちもわかる。問題ないさ」
この人たちは被害者だからな。
被害者まで潰すのは筋違いだ。
「我々はこの料理に、そして彼に嘘をつきたくない。この勝負レッドチームの勝ちだ!!」
今日一番の大歓声が会場を支配した。
「やったー! やったよ!! ガチすげー!!」
「ありがとう! 本当に感謝してもしきれない!!」
こうして料理バトルは無事に幕を閉じた。
さて味王妃が困るのは数日後かな。楽しみにしていよう。
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