第159話 説明とお風呂への誘い
花を三個持って帰って、学園長室へ。リリアがアメリナについて説明した。
「そうか、いやあよくやってくれた。死体はちゃんと消したかい? 装備もだ」
「ええ、装備ごと消しました。まあ遠くに仕掛けとかあったらわかりませんが」
「そうか、まあそれは君達に言うのは酷だな。巻き込まれたんだから。とにかくよくやってくれた」
リーディア学園長べた褒めである。機関嫌われてんなあ。
「あとはアメリナの部屋を専門家と戦闘系の教師で調べておく。機関は一部の人間しか知らないことだ。なるべく口外しないようにね?」
「そもそも機関ってなんなんですか?」
「まあ簡単に言ってしまえばお邪魔虫だ。学園でも知っている人間は多くない」
機密事項なのだろう。まーったく知らなかったし。
「全世界に出張するクズ集団じゃ。自分たちの勝手なルールを正義と言い切る迷惑な連中じゃよ」
「過去に何度かこの世界にもやってきている。そのたびに達人と神様が屠るのさ」
「それでもしつこく介入をやめないから、半壊に追い込んだのが百年以上前じゃ」
どうやら相当昔の話らしいな。本当に迷惑行為でしかないことを百年以上も続けているのか。
「んじゃなんでまだいる?」
「残党が別世界から集ったのじゃ。しかしやつらに戦う意思はなく、二度とこちらの世界に干渉しない。邪魔をしない。という条件でお互いに不干渉となり、そこから復興したのじゃ」
個人で見た場合、達人は機関の連中より上だそうな。
そこに勇者とか神様が参戦すると一方的に蹂躙できるんだと。
「しかし、一般人であいつらより強いものは少ないのさ。やつらは特殊な技術で魔法と科学を両立させて高めた世界。個の力は弱くても、装備が強く数が多いわけだよ」
アメリナは雑魚だった。機関の戦闘員の強さは質ではなく量らしい。
一定以上の装備と強さをもった敵が、魔法と機械の合わせ技で攻めてくる。
アーマードールもいる。それでも高等部二年くらいなら勝てるやつがかなり増えるはず。
「強さがよくわからないね」
「そうね、それほど強いとは感じなかったわ」
「まずこの世界の人間が強すぎるのじゃ。学園は達人を育成する場。超人や天才がひしめきあって競い合うための学園じゃからのう」
「強さが極端なんだな」
「おぬしが一番極端じゃろ」
俺は素人か全世界最強かという中間の無さだからな。素じゃ人形にも勝てないし。
「面倒な連中だな。今後戦うことになるってことか?」
「まだなんとも言えないね。所詮過激派の一部が先走っているのだろう」
機関にはもう二度とこちらの世界にかかわりたくない派と、それでも正義は執行されるべき派がいるらしい。
「正義じゃないだろどう考えても」
「アホじゃな」
「嫌な人達だね……」
「気味が悪いわ」
全員不評である。あんなひたすらにうざいアホがいるとは予想していなかった。
「迷惑極まりないよ。今後こちらに攻めてくるようなら正規軍と達人が全力で潰す。学園の警戒レベルも上げよう。君達は今までどおりに生活して欲しい。これは今回の報酬だ。任務もクリアとする」
「いいんですか? 護衛対象殺しちゃいましたけど」
「こんなものは想定外さ。そもそも依頼人が裏切っているのだからね。悪いのは機関であって、その始末は君達がやる仕事じゃあない」
「わかりました。いただきます」
最悪無報酬も考えていたのでありがたい。よしよし、さっさと帰ろう。
「これから予定はあるのかい?」
「いいえ、もう疲れたので帰ろうかと」
「そうかい。なんだったらまた四人でお風呂にでも入っていくかい?」
面倒なこと言い出したよ学園長。やっぱり前回のは狙ってやったんだな。
「入ります!」
俺が止める前に三人の声がした。やばい。これはめんどい。回避しよう。
「いや、誰か入ってきたら困りますし。自宅に風呂がありますので」
ここの超豪華な風呂には負けるけれど、自宅の風呂もかなり広い。
十人以上が入っても問題ないし、清潔なんで気に入っている。
「ここは厚意に甘えるのじゃ」
「そうね、学園長の心遣いを無駄にしてはいけないわ」
「公認だよ。学園長公認だよ」
「誰かに出てくるところを見られるとまずい。変な噂になってもまずい」
「サカガミくんにも一理ある。そこでどうだろうか。このダークネスファントム特製、リラクゼーション効果もりもりの入浴剤を差し上げよう。これを自宅で試してみるというのは」
小瓶に入ったピンクの玉が一つ……ピンク? 入浴剤に使う色かね。
なんて用意がいいんだ。さては狙っていたな。
っていうかダークネスはまだ名乗っているのか。
「ぜひ試して欲しい。危険なものは入っていないよ。生徒で実験するなど学園のトップとして絶対に納得いかないからね」
「ふむふむ、よいものじゃな。して、どういう効果があるのじゃ?」
「冷え性や神経痛・疲労回復から精神的な疲れも癒す。魔力も回復できるしお肌も綺麗になって怪我にも効く」
「ほうほう、いいことだらけじゃな」
なんでリリアはこんなに乗り気なんだろう。こいつ効果を知っているのか。
二人は親友だというし、行動を把握していてもおかしくはないけど。
「肩こりなんかにも効くし、香りも強くない。ほんのり心が落ち着くものさ」
「ほっほう、これは凄いのう! しかしなんでこんなに量が少ないのじゃ?」
二人のよくわからんやりとりを黙って見つめる俺達。
だってよくわかんないし。狙いが見えてこないんだよ。
「私の開発した特殊製法だからね。最近アロマやハーブにはまっているんだが……偶然できた産物で、再現しようにも材料を切らしているのさ。それにしても、なんだかアロマとハーブってできる女っぽくてかっこいいと思わないかい?」
あ、この人はだめな人だ。多分ずーっとこういう人のままなんだろうな。
「ふんふん、では自宅で使うとして何回分じゃ?」
「ずばり……一回だけしか使えない!」
「なっなんじゃと!? それはつまり……」
「そう! 全員一緒に入るしかないのさ!」
「なんだってー!?」
俺と学園長以外の声が重なった。おおう……そうきたか。
「これでイマイチ進展しない、気になる人とグっと距離が詰められるのじゃ!」
「一回分しかないのだから、四人で入る以外に方法なんかありはしないわ!」
「せっかくの厚意を無駄になんかできないもんね!」
「その通りさ! ハーレムに乗り気じゃないへたれ男でも、きっと心を開いてくれるはずさあ!」
四人がオーバーリアクション過ぎて怖い。
あとこっちを見る目が獲物を狩るハンターのようで凄く怖いです。
「そういや学園長はハーレム推奨派でしたね」
「まあサカガミくん限定だけれどね。やはり達人同士の子供というものは強いのさ。それこそ機関や外敵になんて負けない強い子になる」
なるほど、俺の待遇がいいのはそれもあるのかもしれない。
「子供はちょっと……大学部まで出ないと作ろうとも思いません」
ぶっちゃけガキ育てるとか面倒だからしたくない。絶対に嫌。
少なくとも成人するまでは遊びたいじゃないか。
「そのための避妊魔法じゃあないか!」
「さては指輪の説明したこと忘れとるじゃろ」
「完全に忘れた。避妊したってホイホイやっていいことじゃないだろ」
貞操観念というものは大切だ。これを簡単に失うことは浅慮というしか無い。
そんなことはしたくないのさ。単純にへたれだし。
「アジュは手を出さな過ぎです!」
「二ヶ月同棲してキス一回だけとはどういうことじゃ!」
「いまだにこちらから誘わなければ部屋に来てくれないじゃない!」
「それが普通なんだよ!」
キスは流れでできただけ。二度と起こせない奇跡だ。俺の人生にあんなことは存在していないはず。
「もう少しご褒美があってもいいのではないでしょうか!」
「触れ合いを、もう少し触れ合いを増やしましょう」
「一回一緒にお風呂くらいよいではないか」
「交流を深めることは大切さ。みんなサカガミくんを慕ってくれているんだ。無下にしちゃあいけないよ」
これはいけませんね。味方がいないぞ。
「これまで戦い続きじゃろ。休めるうちに、みんなでのんびりしたいのじゃ」
「安心して。アジュが嫌がることはしないよ」
「そうよ、四人で仲良くお風呂に入るだけよ」
説得に負けて、一緒に風呂に入ることになってしまった。
俺は無事、明日まで生き残ることができるのだろうか。
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