第158話 アーマードールと管理機関

 アメリナを面白おかしく殺してやろう。


「その力……測定不能? 一番危険なのはあなたですか」


「いいやお前だよ。その狂った思考。そしてなにより、俺になぶり殺しにされるという危険が待ってるからなあ!」


「調子に乗るのもここまでです。ファイア!」


 アメリナが両手を突き出し、無数のガトリングガンが回る。

 正確には少し回って弾を撃ち出さずに止まる。


「なぜ……故障?」


「いいや違うな。撃たれる前に俺がぶっ壊したんだ。優れた技術でも見えなかったか?」


 銃は引き金を引いて、弾が打ち出されて、当たる。そんな猶予があれば壊すのは余裕だ。


「ドール、レディ!」


 アメリナと同じ装備で、真っ白いマネキンのようなものが現れる。

 全部で三体。魔力は感じない。


「今度は人形遊びか」


「アーマードールです。装備は私と同じ。手足をもがれようとも戦闘を続ける優秀な子達です」


「つまりお前はこいつの下位互換だな。人形が手伝ってくれたら俺に勝てるとでも?」


「この子の相手はお仲間にしていただきましょう」


「お前はどこまでバカなんだ。許可するとでも……」


「まあここは任せるのじゃ」


 本日二回目のリリアさんストップ。珍しくやる気出してやがる。


「機関とはいずれ戦う場面が出てくる。ならば、この機会に経験しておくのも悪くはないじゃろ」


「わたし達も強くなってるんだよ! だいじょ-ぶ!」


「人形程度に負けないわよ」


 やらせてみるのも悪くはないか。あの人形は雑魚だ。機械兵器に慣れるには手ごろか。


「隙を晒しましたね!」


 右腕からビーム撃ってくる。あれは重火器なんだな。


『リフレクション』


「うっさいアホ。ちょっと黙ってろ」


 そのまま反射してやる。


「装甲展開!」


 ちっちゃい板のような武器が集って円形のバリアを展開。

 完全にSFと魔法が混ざっているな。

 ついでに光速移動で顔ぶん殴って吹っ飛ばしておく。


「まさか反射してくるべばああぁぁ!?」


「どこに行こうというのかな?」


 背後に回って頭を掴み、拳の連打を浴びせて天高く投げ飛ばす。


「べべべべべべごがばああぁぁ!?」


 ぶちぶち髪の抜ける音を立てながら、雲を突き抜けていった。


「うーわ手に髪の毛がびっしり……最悪だよ」


 慌てて払って手を水で洗う。あーあもう気持ち悪いな。


「髪は女の子の命なんじゃぞ」


「知っているさ。だから引きちぎった」


「まあそういう人よねアジュは」


「アホが飛んで行った今がチャンスだ。頑張れ」


「いくわよ……フェンリル!」


 イロハを影が包む。そして目が深い水色に輝いた。


「これは……カゲハ? フェンリル戦の時の」


「ええ、完全継承した私なら……その身全てを影にできる。いくわよ!」


 人形の持つマシンガンが火を噴く。銃弾はイロハに当たり、あまりにもあっけなくすり抜けていく。


「無駄よ。今の私は影そのもの。攻撃することはできない。たとえ頭を破裂させても、影が新たな顔を作る。この世界から影が消えない限り、死にはしないわ」


 人形の左腕からチェーンソーが大音量を響かせ現れる。


「騒がしいわね。大人しくして頂戴」


 腕そのものを影の刃に変えて、ひたすらに切り続けている。

 今のイロハに決まった形はない。あるときは分裂し、あるときは地面の影が針となる。


「もういいわ。強さは見極めた。影筆!」


『自分の頭を切り裂く』


 人形の背中に回りこんで文字を書く。

 文字通りに頭から縦に真っ二つとなり爆発四散。


「こんなものかしら」


 こっちをちらちら見てくるので褒めておこう。


「おー凄い凄い。かっこいいなその形態。パワーアップとか変身はロマンだ」


「ふふふ……よくやったときは撫でるのよ。優しく撫でなさい」


 イロハさんがめっちゃしっぽ振っている。


「はいはい、戦闘中だから今は……そういや敵が来ないな」


「わたしが止めておいたよ」


 襲ってこないと思ったら……敵の時間だけ止めていたのか。


「やってくれましたね。まさかドールを倒せる人間がいたとは」


 今更空の上よりアメリナが帰還。ちょっと強く殴りすぎたな。ぼろぼろだ。


「シルフィ、あれも止めろ」


「はいはーい」


 ぴたっと止まる。何か言いかけているのか変な顔だ。


「二番手シルフィ・フルムーンいきます!」


 人形の一体が動き出す。背中から鋼鉄の羽が現れると、上空に飛び出し両手がドリルになる。


「おぉ……なかなかロマンのあるデザインだな」


「負けないよ! 変身!」


『クロノス!』


「ほほう、これはまた随分パワーアップしたのう」


「綺麗よシルフィ」


 シルフィが赤い鎧を纏う。その姿に姫騎士という単語が浮かぶ。

 俺は黙ってシルフィの戦いを観戦することにした。


「そこだ!」


 瞬時に人形へと肉薄し、飛び蹴りで地面まで落とすシルフィ。

 地面さんと衝突する前に強烈なボディブローをくらわせ、鉄の体をくの字に曲げる。

 そのまま右腕を前に出し、一度目を閉じてから勢いよく開く。


「クロノス・トゥルーエンゲージ!」


 ドリルの回転が止まったかと思えば、木に変わっていく。


「あなたはもとから木製だったんだよ……お人形さん。はっ!!」


 完全に木製となり活動を停止した人形に、真紅の拳を叩き込んで粉々にした。

 これにてシルフィの完全勝利である。


「よーし身体能力も上がっているね! 凄いでしょー!」


「おう、使いこなせるようになったんだな」


 これなら十分に神ともやりあえるだろう。

 修練を積めば光速戦闘にも対応できるはず。


「さて、では最後はわしじゃな」


「おもしろ魔法でも見せてくれるのか?」


「いやいや、ここはちょいと本気を見せてやるのじゃ。ほいっと」


 世界に結界を張ったみたいだ。しかも相当強固なやつ。


「なんで結界?」


「うっかり力を出しすぎると世界を破壊しかねんのじゃ。ゆえに調整できずに魔法のみだったわけじゃ」


 なんとなく理解していた。鎧の力は、こいつに隠された魔力まで読み取れる。

 やろうと思えば正確に探れたが、その必要も無いほど膨大だった。


「ほいっと。どうじゃ久しいじゃろこの姿」


 金色の魔力でできた尻尾が二本。髪の色もちょっと金に近くなってキツネ耳っぽいものが生える。


「リリア……その姿は私と被るわ」


「まずそこなのか……」


「むむ……まあ九尾を連想させるのう……ではこれでどうじゃ!」


 背中から半透明で虹色の翼が何枚も出る。変身する時に白い羽が舞うのが綺麗でポイント高い。


「これがラーと卑弥呼と九尾のミックス……妖精天使リリアちゃんじゃ!」


「妖精なのか天使なのかはっきりしろ」


「天使ってあの気持ち悪い白いやつでしょ?」


「ええいどうしろというのじゃ!」


「普通でいいんじゃね? シルフィ、人形の時間動かしていいぞ」


 長くなるのでネーミング会議は中断。


「それでは魔力解放!」


 そして世界は震え出す。結界内の世界がリリアの魔力で満ちていく。

 結界で遮断されているから、外に被害はないのが救いだな。


「ほー……なかなか強いな」


 シルフィとイロハよりも上だ。リリアは曖昧魔法でほぼ全てまかなえる。

 そして単純に強い。パワーもスピードも魔力も、ただひたすら桁違いに高いんだ。


「純粋に強いだけ。シンプルでよいじゃろ? おぬしにはぜーんぜん届かんがのう」


「そんだけ戦えりゃ十分だろ」


「凄いわね。世界とリリアの魔力の区別がつかないわ」


「全部塗り潰されちゃってるね」


 さっきから人形も動かない。正確には強すぎる魔力によって、三百六十度から押し潰されそうになっている。だからどの方向にも動けない。その部品の一つ一つまでも。


「妖気を使っていないな」


「ばれたか。なんのことはない、単純に使えないんじゃよ。まだ調整がうまくいっておらぬ。混ざるには時間がかかるのじゃ」


「ま、そんときゃ実験に付き合ってやるよ」


「助かるのじゃ。では終わりじゃ」


 人形を魔力で圧縮。豆粒サイズにすると、上空で爆発して鉄くずになる。


「さ、アメリナを始末して帰るのじゃ」


 全員力を解除して素の状態に戻る。


「んじゃ俺も実験しますかな」


 もう一度両手に違う魔法を。鎧の知識と経験からより深く濃く魔力を練る。


「なるほど、こりゃ素の俺じゃきついわ」


 やろうとしていることは理解した。けど、これは鎧を着てやんないと無理。

 もうちょっと魔力そのものが上がればかわるだろう。

 ならばその時まで、この技は完成させないでおく。初めては鎧を着ないで撃ちたい。


「ってわけで悪いな。普通に死ね。はっ!!」


 適当に魔力波を撃ってアメリナを消し炭にする。

 時間が止まって変顔をしたまま、完全にこの世から消えるとは哀れなやつ。


「よし、そんじゃあ花だけ取って帰るか」


 時間の流れも戻り、完全に決着だ。


「はあぁ……これは学園長に報告せねば終わらんぞ……説明に時間がかかるのじゃ」


「……そこはリリアさんのお力で、まあ説得してくれ」


「みんなで行けば大丈夫……かなあ?」


「諦めましょう。行くなら早い方がいいわ」


 そして学園長に報告するため、長い道を転移魔法で帰った。

 さてどうやって説明したもんかね。

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