第157話 アメリナの正体
休憩入れて探索開始。しばらく歩くと頂上が見えてきた。
そこはドーム球場を越える広さがある湖のような場所だった。
水の中から木が出ているし、水面に花が浮かんでいる。
「なんだここは……」
「綺麗なところね」
「ここは地下から水が湧き出ているのじゃ。ここで生きる植物は傷や病気に効くものが多く、研究も盛んじゃ。長く人が訪れない期間を設けて、進化を見守る場合もある」
「あまり風が吹いていないね」
「落ちないように、外周に軽い壁と魔法を張ってあるからじゃろ」
日差しを遮らない程度に壁が存在する。三メートルちょいかな。
「広いな……お目当てのものはどこにある?」
「泉の中央付近です。そこに薬の材料となるピンクの花があります。根も必要なので収穫作業は私がします」
「ん、任せる」
専門的なことは専門家に。基本である。道のりは平坦だ。
人が五人並んで通れる、よくわからん半透明な素材の橋がかかっている。
そこそこ入り組んでおり、分岐もある。アメリナのナビがあるので問題なし。
「景観を崩さんように、特殊素材で作られておる」
「こういう技術はどこで培っとるんかね……相変わらずわからん学園だ」
しばらく歩くと、巨大な水でできた竜が水面から顔を覗かせる。
「いきなり出てきやがって。敵か!」
「いや、ここを守護する精霊じゃ。人に害をなすものではない」
精霊は東洋の龍みたいな姿だ。体が水だからか、どこか芸術的な気がする。
「あれの口の中に魔力と水が溜まっているのは……気のせいなのか?」
竜の口が光っている。なんか水を圧縮していらっしゃるよ。
「撃ってくるわ!」
水流が最後尾のアメリナ目掛けて一直線。
「ほいっと」
リリアの結界で弾き飛ばす。飛沫がこっちに来るのがうざい。
「おい、こいつ攻撃してもいいのか?」
「おぬしの剣で切らなければ、時間がたてば復活できる。しばらく黙っていてもらうのじゃ」
「サンダースマッシャ……ありゃ?」
小さい電撃しか出ない。なんか全力出したせいで魔力がおかしい。
「よし、任せたぞシルフィ、イロハ」
ちゃっちゃとリリアの近くに移動。鎧は出さない。
「魔力の大幅な底上げが訪れておるのじゃな」
「なんだそりゃ」
「ま、のんびりするとよい。どうやらたいした力で撃っておらんぞこの水」
「そんじゃ、うしろのやつは任せるぜ」
背後からも水龍が現れる。こいつら一匹じゃないのか。
「火遁!」
久々に見たイロハの忍術が、水の龍をふっ飛ばし蒸発させる。
「危ないアメリナ!」
攻撃がこっちに来る。正確にはアメリナにだな。
シルフィ達の攻撃を受けながらもアメリナ目掛けて攻撃を……ん?
「目的地の花って取っちゃいけないものじゃないのか?」
「いいえ、少量ですが取ることは許されております」
「学園の生徒であれば、材料を乱獲する以外で襲われることなどないはずじゃ」
「今回は山ほど必要ってこと?」
「三つほどあれば足りるのですが」
もともと水だからか、倒しても倒してもきりがない。
執拗にアメリナだけを狙ってくるから、まだなんとかなっちゃいるが……アメリナだけ?
「イロハ、忍術を活かして花を一つ、持ってきてみてくれないか? それでイロハを狙うなら花が原因だ」
「わかったわ」
そしてイロハさんが超人的素早さで駆ける。
忍術を活かして、と言ったのはシルフィに時間操作をさせないため。
「リリア、こいつらが襲ってくる条件を、思いついた順でいいから片っ端から言え」
「わたしは?」
「もうしばらく戦闘。ただし頭は潰さなくていい。さっきから前後に二匹しか出てこない」
「わかった。水の勢いも強くないし、防いでいればいいかな」
「それで頼む」
こいつらはなにか狙いがあるはずだ。イロハを追って行くこともなかった。
つまりアメリナになにかがあるんだ。
「さっきも言ったが植物の乱獲。この環境の破壊や汚染。学園の者以外が入ってきたときの番兵も兼ねておる」
「学園のものかどうかはどう見分ける?」
「制服は特殊な加工技術で作られておる装備じゃ。それの力か……先生は特殊腕章か水龍と顔見知りじゃな。魔力を覚えることくらいはできる知能があるのじゃ」
学園の生徒を見分けている、か。意外と賢いじゃあないの。
さっきからアメリナがだんまりだ。
「敵と認識する条件は何だ?」
「魔物が入って……来ることはないのじゃが……まあ来た場合。もしくは異常な魔力を精霊が感じたか……この世界ではないどこかの人間か……」
「なんか、注意してくれている? ような気がするよ?」
シルフィがそんな事を言い出した。そういや相手の善意と悪意とかに敏感だったな。
「はい、花を持ってきたわ」
イロハさん登場。ちゃんと根っこから取ってきたのか……芸が細かいな。
そして龍がアメリナしか見ていない。
「おやおやイロハさん。よくぞご無事で。どうだった?」
「なによその口調は……特に襲われることもなかったわ」
「そうか、龍ももう攻撃してこないしな」
「では、せーので行くとするかの」
「なにか作戦があるのですか?」
期待なのか困惑なのかわからない目を向けてくるアメリナ。まあいい。強引だがこれでいこう。
「はいせーの!!」
アメリナをその場に置き去りにして、四人で大きく前にジャンプ。
「なっ!?」
水龍が一気に五匹現れ、全員アメリナに一斉攻撃した。
完全に手加減された力ではない。大怪我をさせてでも、この場から退場させる勢いだ。
「くっ……レディ!」
アメリナがなにかを叫ぶと、鋼鉄の装備が両手足に装着された。
頭にも額あてのようなものがついいている。胴体は最低限しか隠されていない。
いやそこ隠せよ。胴体って弱点だらけだろ。
「ファイア!!」
両腕に装備された筒から魔力混じりの弾丸が飛び出す。
水流を吹き飛ばし、龍の頭を砕いていった。明らかに学園の装備じゃない。
駆動音もするし、機械に近い魔法技術だ。
「驚きましたよ……まさかこんな手段に出るなんて」
「驚いたのはこっちもさ。随分と洒落た装備だな」
アメリナの目が敵意に満ちている。女は俺をそういう目か侮蔑の目で見るもんだ。
「私が死んだらどうするつもりだったのです?」
「回復魔法でどうにでもするさ」
実際には蘇生くらいできるしな。あえて回復と言っておこう。手の内は見せないでいく。
「そんな行き当たりばったりな作戦で……女性を危険に晒したというのですか?」
「アジュはそういう人よ」
「見抜けなかったおぬしがアホなのじゃ」
「あはは……どっちが悪人なのかわかんないねこれ……」
別に善と悪なんて興味がない。女にはもっと興味がない。
ちなみにシルフィに影を伸ばして指示を出していた。
なのでなにもなければ、直前で時間を止めて回避させる予定だった。
「ま、任務なら女でも守るけどな」
「ではなぜ私を攻撃させたのです?」
「守れるという保証があった。そのうえでちょっとした実験をしてみただけさ。やっぱヴァルキリーなのか?」
この学園の人間じゃないんだろう。だからアメリナだけが狙われた。
以前のように潜入してきたヴァルキリーの線が濃い。
「ヴァルキリー? 何の話です?」
「ここにきてすっとぼける意味なんかないだろ。ヴァルキリーでも善人はいるらしいし……とりあえず学園に来た目的を言え」
ここが面倒だ。フリストのようにヒメノの命令で動いている可能性がある。
さっさと殺して終われない。
「そやつはヴァルキリーではないのじゃ」
「……リリア?」
意外にもリリアからストップが入る。その目がいつになく鋭い。
「おぬし……機関の人間じゃな。どうやってこの世界に来た?」
「ご存知でしたか……」
「きかん? リリアの知っている人なの?」
「世界統制管理機関。様々な世界に勝手なルールで介入しては、技術や能力を封印して奪っていく世界の寄生虫。文明を食い荒らす害虫のような連中じゃ」
リリアがここまで悪意と敵意を持って罵るのは初めて見るかもしれない。
「私達は全世界に平和をもたらすため、危険な能力を管理・封印するだけです」
「その世界の力は世界固有のものであり歴史。別世界で作ったルールを勝手に適用して、進化を妨げるだけの害虫の分際で言いおるわ。この世界には進入禁止のはずじゃ」
「ええ、上がそう決めました。ですが時代とは移り変わるもの。汚名も受け入れましょう」
「目的は勇者科の力の検査と封印かの?」
「答える義務はありません。能力が発現していないなら用事は終わりです」
勇者の能力調査……ヴァルキリーもやっていたな。
勇者の能力ってのはそんなに危険なのか?
「他の護衛対象も機関の仲間か」
「なんだ他のやつも探して潰さなきゃいけないのか?」
「……単独潜入です。偶然サンプルにあなたがたが選ばれただけです。他の人間に罪はありませんよ」
運のいいやつ。俺達以上の使い手は、勇者科一年にはいないだろう。
「つまりお前を殴れば終わりか?」
「終わりじゃ。機関がこの世界に来ることは禁止。なのに来た時点で、現地人の能力を封印するか、犯罪者扱いで処罰するつもりじゃろ」
「処罰……? こちらになんの罪があるというの?」
「こやつらにとって、得体の知れない危険な力は封印せねばならぬもの。拒否すれば罪人として能力を封印されるのじゃ」
「えぇ……クズじゃねえか」
しかもリリアによると、こいつらのいる世界が勝手に決めた基準らしい。
それを別世界に持ち込んで、犯罪者から能力の収集を自主的に行うんだと。
「いやもうほんとバカじゃねえの」
「ただの迷惑な人だね」
「私が悪いとでも? 大きすぎる力は文明を破壊してしまいます。この世界より遥かに進んだ文明を持つ私達が管理することで、安心した暮らしが保証されるのですよ」
「じゃあお前の世界には犯罪もなければ、全員が安心した暮らしを保証されているのか? 危険な力は一切使っていないのか?」
「危険を限りなくゼロに近づけることはできます。今この瞬間にも危険な能力者は存在しているのです。それを止めることは平和を守ること。賞賛の言葉を送られる事はあっても、責められるいわれがどこにありましょう?」
なるほど、こいつ狂っている。俺が感じたおかしさはこれだ。
宗教みたいな頭のおかしさ。完全に正しさに酔っている。
「未知の力は悪用されれば混乱を招く……そしてリリアさん、あなた……危険です。ホールド!」
アメリナの機械のパーツが飛び出し、リリアを囲んで黄色いリングを作る。
「リリア!?」
「動かないでください。抵抗は無意味です。その魔術、この世界の魔法とも技術とも微妙に異なる。機関について一生徒が知っているというのも不自然です。素直にこちらの質問に答え、必要ならば放棄してもらいます」
「リリアを傷つけないで!」
俺とシルフィがアメリナに剣を向ける。
「いいんですか? 私を傷つければ敵とみなします。取調べ中の妨害行為は認めません。ホールド」
俺達にも鉄と光の輪が飛ぶ。
『ショット』
俺とシルフィで打ち砕く。リリアも解放した。
「無事か?」
「すまぬ。こちらはなんともないのじゃ」
「皆様の力、異能ですね。隠していたのですか。罪の隠蔽……なんと非道な」
「いきなり人を縛り上げておいて非道とは……笑わせてくれるのう」
アメリナの背中にいくつものガトリングガンが転送されてくる。
転送時に魔力を感じた。やっかいな技術だな。
「そちらとの技術力には天と地ほどの差があります。武装を解除し、降伏してください。これは警告です」
「リリア、あいつは殴っても問題ないな?」
「うむ。学園が達人を作る理由は大小様々じゃ。しかし、機関から世界を守ることは、ベストスリーに入る重要事項。思いっきりやるのじゃ」
ここで意外な目的発覚。確かにあんなのがこの世界にいたら迷惑だ。
「俺からも警告してやる。全てを忘れ、俺たちに出会わなかったことにして消えろ。今ならまだお前の命だけは保証する」
「それは脅迫ですか? 機関に逆らうと? 私が帰らなければ、機関を敵に回しますよ?」
「所詮過激派じゃろ? 機関全てがおぬしの仲間ではあるまい? ブラフは無効じゃ」
「残念です。私に人を殺めさせるなど……恥を知りなさい外道」
よし、殺そう。こいつほど殴ればすっきりする女もいないだろ。
「穢れた力など封印してしまえばいいというのに」
「穢れだと? こいつらがどうやって力を受け継いだかも知らんだろう」
「薄汚れた入手経路の自慢ですか? 知りたくもない。受け継がせる者もまた醜い悪そのもの。その身も心も唾棄すべき存在です」
「そうかい……なら見せてやるよ。誰の手にも負えない……封印なんかできねえ絶対的な力ってやつをなあ!!」
『ヒーロー!』
…………こいつは楽には殺さねえ。
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