第156話 雑魚モンスターでもやっぱ怖いわけさ

 かまとかげと呼ばれる魔物と戦うことになった。

 俺とシルフィで二匹相手にする予定。


「慎重にいこう」


「そうそう、まず自分の戦う場所を把握するのじゃ」


 まず道は幅十メートル。右は土の壁。左は一つ下の道へ。高さ四メートルくらいか。


「多少飛んだり跳ねたりできそうだな」


「来るよ!」


 しっぽで立っていたトカゲが屈み、本当にバネのように使ってかっ飛んできた。

 避けようとすると、横薙ぎにトゲつきのしっぽを振ってきた。

 まるでフリスビーだな。


「うおっと!?」


 左は落ちる。右に大きく跳ぶ。俺は攻撃を受けるという戦法向きじゃない。

 初心者講座でやった幻影との訓練を思い出せ。


「そっち任せるぞ!」


「わかった!」


 もう一匹をシルフィに任せ、背後に飛んでいった敵を見る。


「キキ……キイイイィィ……」


 また飛ぶ気だな。確かに素早くてやっかいだ。一本クナイを抜いて準備しよう。


「サンダーシード!」


「キイイ!!」


 飛んできた。ここで敵が着地するであろう位置にクナイを投げながらかわす。


「おまけだ、サンダースマッシャー!」


 剣を右手に持ち、左手で軽く攻撃魔法を撃ってみる。

 多少放電するも、トカゲの勢いはそれほど落ちていない。

 念のため棒立ちで魔法をぶつけるのは控えて正解だったな。


「よーしいい位置だ」


 着地したトカゲはちょっとふらついている。

 攻撃が無効なんじゃない。回転の勢いで突っ切っているだけでダメージはあるんだ。


「キ……キ……」


 また屈んでジャンプの準備。だがその足元にはクナイがある。


「残念だったな」


 クナイから雷球が現れ破裂する。全く予期せぬ事態にモロにくらって怯むトカゲ。


「ギギイイッ!?」


「やるなら今か。サンダーフロウ!」


 剣に電撃を流し、距離を詰める。ここで集中する時にイメージするのはアキレウスとの戦い。

 なぜだろうな……あの時のことを思い出すのが一番集中できる。

 剣の表面でばりばり鳴っていた電撃が収まり、青白い光になって剣を覆う。


「雷光一閃!!」


 手ごたえあり。横一文字に斬り付けて、そのまま振り返らず走り抜ける。

 俺の戦い方は一撃離脱。反撃させないように距離を取るんだ。

 

「よしっ」


 断末魔とともに魔物の姿が消えていく。黒い煙を残し、その煙さえも風に吹かれて消えた。


「おおー! 凄い凄い! アジュ強くなってるよ!」


「うむ、いい感じじゃな」


「真面目に戦っているとかっこよさが増すわね」


「サカガミさんは、お強いのですね」


 えらい褒められる。褒められるということに慣れていないため、返事ができん。

 なんて返せばいいのさこれ。


「あと二匹いたろ?」


「倒しておいたわ」


「ばっちりさ!」


 どうやら倒していたらしい。正直助かる。


「そして挟み撃ちじゃな」


 リリアの声に反応してよく見ると、俺達の前後から二匹、合計四匹現れた。


「次は数で不利な戦闘もやってみるのじゃ」


 リリアが扇子を開いて閉じる。後ろの二匹が三枚におろされて消えた。

 自由度たっかいな曖昧魔法。


「手伝っちゃだめ?」


「だーめじゃ。何事も経験じゃよ」


「頑張って。応援しているわ」


「いいのですか? その、全員で戦えば安全なのでは?」


「安全な場所では強くなれんのじゃ」


 多少危険じゃないと戦闘の勘というものは磨かれない。

 わかっちゃいるけど怖いもんは怖いのさ。


「頑張ったらご褒美をやるのじゃ」


「……それは興味あるな」


「そうね、では私達からのキスを」


「おお! よーしそれでいってみよう!」


「いくないくな!?」


 油断も隙も無いなこいつら。ちょっと気を抜くと貞操の危機に瀕する。


「あの……そういうことはもっとサカガミさんを知ってから……といいますか……恥ずかしながらそういう経験がありませんのでその……」


「アメリナちゃんはしなくてよいのじゃ」


「っていうかなんでする気なの!?」


「だめよ。それはだめ。私達以外がアジュといちゃいちゃしてはいけないの」


「え、あ……ああそうですよね! 忘れてください……うぅ……」


 アメリナの顔が赤い。キス経験なしか。まあ処女であるとなんとなく気付いていた。

 でも全くマジで好みじゃない。そもそもこいつヴァルキリー疑惑あるし。

 俺にここまで好意的な女って、薄ら寒くて不気味だな。キモい。


「ほーれ敵が来るぞい。頑張るのじゃー」


「はいはいやってみますよ」


 トカゲは一匹がジャンプして縦回転。もう一匹がまっすぐ飛んで横回転。

 右に飛ぶ。十分かわせる。


「油断しちゃだめよ」


 横に飛んでいたやつが、縦回転するやつをしっぽで掴んでこっちにぶん投げてきた。

 斜め回転で俺を襲う。そいつをよけるために移動した地点に、投げた方が横回転ですっ飛んできやがった。


「トカゲのくせに知恵使ってんじゃねえよ!」


 避けようにも横は崖だ。ちゃんと着地できるか怪しい。鍵くらい使おうかな。

 四メートルくらい下へとジャンプ。


『ソフト』


 下の地面を柔らかくし、トランポリンのようにして元いた場所へと昇る。

 ソフトキーは俺が指定したものを柔らかくするキーだ。

 うまいことトカゲの十メートルほど前に出た。


「右手にサンダースマッシャー。左手にサンダーシード」


 両手に違う魔法。そしてさらに両手を前に突き出しサンダーフロウ。

 自分でも何をやっているのかわからない。

 けど、なにかが見えかけている。斬る。貫く。破裂される。纏う。放つ。

 様々な魔法の中で、鎧と鍵を使う中で、何かを掴みかけている。


「ただの電撃じゃない……もっと強力で、鋭く速く」


 リリア達は俺のうしろ。巻き込む心配も無くて都合がいい。

 集中しろ。魔力をただひたすら高めて圧縮しろ。後先なんて考えるな。

 暴れ狂う力を限界まで制御して両手に集めた。


「一発でもいい。とりあえず、撃って感覚を掴む!」


 ちゃんとした魔法名は頭に浮かばない。未完成だからだろう。

 なら適当に叫んで撃ってしまおう。今更恥ずかしがることは無い。

 電気じゃない。雷光のように、眩い閃光のように。


「ライトニング……フラアアアアアッシュ!!」


 光がトカゲを……いや、目の前を一色に塗り潰す。

 狙いもつけず、加減もせずに放った無責任な一撃は、どうやら俺にしては威力のあるものだったらしい。


「お……とと……」


 なんだか張り詰めていたものが切れたようで、疲れがどっとくる。

 立っているのがやっとだ。ここまで消耗するのは初めてかもしれない。


「大丈夫!? 立てる!?」


「魔力を使い切ったのね。ほら、私の肩に掴まって」


「今回復してやるのじゃ」


「悪い……あんまり戦いなんてするもんじゃないな」


「それでも戦えるようにするのは大切じゃよ」


 リリアが回復してくれる。普通に疲労も取れるんだけど、やっぱこいつの魔法は特別製なんだな。


「今の凄かったね」


「未完成だけどな。でもちょっとだけ見えた」


「お疲れ様。ここからは私達がやるわ」


「ちょうどもうすぐ結界のある場所ですね。少し休みますか」


 ドーム状にうっすら光る結界が張られている場所が見えた。

 学園にはこういう強力な結界を張ってあるポイントが存在する。


「そうするか」


 そこには休憩所のような場所があった。屋根つきのベンチもある。

 火を起こせる設備もあることから、本格的に休憩所として設計されているのかもしれない。


「ここで簡単魔法料理のお時間じゃ」


 急にリリアがなんかやり始めた。魔法で鍋を出し、火の上に設置。

 水精製の魔法で湯を張り、持って来た白米と塩と干し肉をぶっこむ。


「そして疲れに効く薬草をちょこっとじゃ」


 ぐつぐつ煮えてきた。めっちゃいい匂いするじゃないか。

 肉に味を染み込ませてあるから、旨味が出て雑炊の味が豊かになる。


「薬草の知識もおありなのですね」


「うむ、まあこういうのはそちらの専門じゃろ?」


「そうですね。でも薬草のチョイスは正しいと思います。高い場所では体が冷えますから、温まる薬草で疲れを取るのが大切です」


「詳しいなお前ら」


 考えてみたらリリアは何でも知っている。イロハは忍者だからこういうの詳しくて当然。

 俺とシルフィだけか。この手の知識が無いのは。


「わたしもハーブとかならちょっとわかるよ。お城で習ったし」


 どうやら俺だけらしい。でも図鑑見てひたすら暗記ってだるいんだよなあ。


「ただ暗記は面倒じゃろ。クエストで探索に行きつつメジャーなものを覚えるのじゃ」


「そらいいな」


「アジュはもっとお外に出るべきです」


「まあ今回みたいなのは嫌いじゃないさ。毎日はごめんだけどな」


 雑炊を貰って食べる。小腹がすいたとき用の量だな。

 食べると体に暖かさが戻るようだ。疲れていても食べられる料理なのもありがたい。


「ん、美味いな」


「そうじゃろそうじゃろ」


 なんでもそつなくこなす、というのがリリアのイメージになりつつある。

 こいつは解説役としても役立つし万能だな。


「満腹になると眠くなるぞこれ」


「大量に魔力を使ったものね」


「あれも勇者科の能力なのですか? 勇者科のみなさんは特別なスキルがあると聞き及んでおります」


「いや、俺達は発現していない。他の連中は知らん」


 こいつら以外の女などどうでもいい。名前すら知らんよ。


「そうですか。残念です。特別な力……どんなものかこの目で見たかったのですが」


「残念だったな。飯食って休憩したら行くぞ」


 やや強引に話題を変える。俺達を探ろうとしているかもしれないからだ。


「アジュ大丈夫? 膝枕する?」


「しない。大丈夫だ。少し休めば問題ない」


「その少しで膝枕をすればいいのよ」


「しないってのに……いいから飯を食うぞ」


 雑炊をぺろっと食って、お茶飲んで小休止。アメリナはもしかしてヴァルキリーじゃないのかも。

 目的地まであと少し。まあ油断はしないでいこうと思った。

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