学園生活に慣れてきた

第155話 勇者科からの護衛任務

 フルムーン王国から帰ってきた二日後。

 昼に勇者科の授業があるので、久々に勇者科全員集合である。


「今度はなんだろうね?」


「試験はまだだよな?」


「うむ、もっと先じゃな」


「なにか課題でもあるのかしら?」


 誰も知らされていないっぽい。出られるやつは全員来いとの指示だけが、結構前に出ていた。


「さてどうなるやら」


 俺達四人は固まって座っている。遠くにヴァンがいるな。ももっちとホノリもいた。

 名前を思い出すまでに時間かかったぞ。

 そんなことを考えていたらシャルロット先生が入ってきた。


「はいお久しぶり。私のこと忘れてないわね? じゃ、さっそくだけど本題よ」


 無駄に前置きが無いので助かる。

 見たことのない生徒達が何人か入ってきた。


「はい、今回はこの子達の護衛をしてもらいます」


 護衛か。正直苦手だ。誰かを守るというのは戦うより労力がいる。


「この子達は薬学と錬金を学んでいるの。学園の危険地帯の一つに、試験に必要な材料があるんだけど、どうせなら取りに行かせて現場を知ってもらって、完成品をお届けするところまで、みんなの授業にもしちゃおうって寸法さ」


 なんでもそこにしか生息しない植物や鉱物があるらしく、栽培場となっているらしい。


「ってことで、最大六人。勇者は一組に最低三人は入れるとします。それで一人を護衛してもらうわよ」


 こいつは都合がいい。余計なやつを入れることも、誰かが余ることもないな。


「一応安全な場所もあるけれど、油断すると大怪我しちゃうからね。ちゃんと装備は確認しておくこと。それじゃあ担当の子と親睦でも深めなさい。解散!」


 というわけで俺達四人の担当する子が来た。


「アメリナ・ミイムと申します。多少ですが魔法も使えますので、ある程度はお役に立てるかと。よろしくお願いします」


 茶色の髪と赤い目をした、髪の長いようなそうでもない女。

 なんだろう。笑顔だし明るい方なんだけど、やたら薄ら寒いイメージがある。

 この感覚がなんなのかわかるまで警戒しておこう。


「よろしくおねがいするのじゃ」


 適当に自己紹介を済ませてちゃちゃっと出発を明日の昼にした。


「朝からではないのですね」


「朝は張り切っているやつらもいるだろうし、寝ぼけて準備が疎かになる。昼くらいにしっかり用意して、夕方には帰るのが一番だ」


 完全に昼まで寝ていたいからさ。

 はい、ギルドメンバー三人の視線が痛いです。これはばれていますね間違いない。


「なるほど、やはり戦闘系の、しかも勇者科だけあって慣れていらっしゃる。感服いたしました」


 俺に向けられる笑顔もやはりおかしい。初対面の女が俺に笑顔というのもおかしいけど。

 それよりもなんだか値踏みされている? いや命を預けるんだから値踏みは当然だ。


「では、失礼致します。明日、不謹慎かもしれませんが、楽しみにしていますね」


「ああ、明日な」


「また明日ね!」


 最後まで笑顔で去っていった。アメリナだっけ。あいつやっぱおかしいぞ。


「なーんかアジュに好意的じゃない? 珍しいパターンだね」


「うむ、しかし初対面じゃろ」


「そのことについて話がある。家に戻るぞ」


「どこかお店で話すのでは、いけないの?」


「なるべく人に聞かれたくない」


「わかった。じゃあ早く帰ろう」


 そして帰ってみんなで会議。リビングで。

 俺の部屋にいるとベッドに入ってくるのでちゃんと話ができないからだ。


「で、なんじゃアメリナについてか?」


「ああ、あいつなんかおかしくないか?」


「そうね、同年代の女性でアジュにあそこまで好意的なんて変よ」


 遠慮というものがなくなってきてんな。まあ俺から言い出したし、自覚もあるので腹もたたない。


「ハーレム入りはちょっと早くない?」


「入れたくない。かなりマジで」


「おお? 本気で嫌がっておるのう」


 お前ら以外と同居したくない。ここは居心地がいいからな。


「なんかな、笑顔が狂っているというか」


「凄くまともな人だったよ?」


「笑顔も明るくて話しやすいのじゃ」


「ああ、なのになんというか……ナチュラルに狂っているから見分けがつかないというか、ぶっちゃけヴァルキリーじゃねえかな」


 まだスクルドってやつが残っている。それにヴァルキリーはもっといるだろう。


「あぁ……お決まりのパターンだね」


「本当にどこにでも湧くのが嫌よねえヴァルキリー」


「これからの季節、さらに増えると鬱陶しいのう」


「今のうちに駆除しておきたいけど……忘れた頃に湧き出すからうざいんだよな」


 みんなうんざりである。マジで一斉駆除業者とかいないかしら。


「冤罪の場合も考慮して、俺だけとりあえず疑っておく。鎧も使いたくない」


「なら影筆とフェンリルは使わないでおくわ」


「時間操作は控えるね」


「わしは魔法があるので、神の力はいつも封印しておるから問題無しじゃ」


 明らかに人智を超越した能力は禁止でいこうと決めた。


「なんにもないならそれでいいんだけどな」


「うむ、それが一番じゃ」


 そして次の日の昼には準備完了。

 初心者用の剣。痺れクナイと丸薬の入ったポシェット。通信機は腕輪にしておいた。

 あとは水とちょっとした食べ物だけだ。


「こんにちは皆さん。いい天気でなによりです」


 晴れたので暖かい。あとは塔の中が快適ならいいなあ。


「ああ、晴れてくれて助かったな」


「では出発じゃ」


 本日のダンジョンは海岸。見晴らしのいい場所で、潮風が届く。

 海側は崖になっているのであまり近づかないでおこう。

 学園にはこういった自然を残したまま、生徒の修行や自然栽培に使われている場所がある。


「うーわ広いな」


 かなり広い。もう山か谷だろこれ。でもって横が海。砂浜が無い。

 道は広いけれど、ちょっと怖いぞ。


「泳げる場所でも季節でもないのう」


「そうね、ここは特殊な草花がある場所よ。たまに魔物が出るから、普通は立ち寄らないわ」


「栽培するのに魔物とか邪魔だろ。皆殺しでいいんじゃないのか?」


「自然発生してしまうタイプの魔物なんじゃよ。絶滅させるには海岸を消し飛ばすしかないのじゃ」


「ならば最低限の結界と浄化で、湧いた魔物を成敗しつつ、環境保護も行おうというのが、学園の趣旨なのですよ」


 なんかそういうものらしい。違和感あるわ。

 ちょっとリリアに小声で聞いてみる。


「達人を作るために戦闘の機会を増やしてるだけだろ?」


「それもあるのじゃ。その過程で多少不便でも仕方が無いのじゃな」


 まあ超人がわんさかいる場所ならそれもありなんだろう。


「夕方までには帰りたいね。目的の場所はどこなの?」


「頂上に群生地があります。そこに行く過程で敵が出ますので」


「私達がなんとかするのね。わかったわ」


「ま、先に行った連中が倒してくれているだろう」


 それが狙いだ。昼までには勇者科の連中が魔物くらい倒してくれているはず。


「まーた横着しおって」


「そりゃ俺だからな」


 しばらく整備された土の道を歩く。ちょっとだけ体力がついたので、きつくはない。

 道も広いし戦うには困らない地形だな。


「そろそろ瘴気が強くなって参ります。ご注意を」


「ここに来たことがあるのか?」


「ええ、付き添いの方が一緒でしたが」


「あ、出てきたよ!」


 草むらからしっぽの長い緑色のトカゲみたいなやつが数匹出てきた。

 長くてトゲのついたしっぽで立っている。四本足をだらりと下げた変な生き物。

 俺よりちょっと小さいくらいだ。


「かまとかげですね」


 かまとかげと呼ばれた魔物は、こっちをじっと見ている。

 攻撃の隙を窺っているようにも見えるな。


「緑色は一番弱いやつじゃな。赤と青は強いから注意じゃ」


 手足の爪が鋭く伸びている。かまいたちみたいなもんかね。


「本体は大きくて五十センチ。そこからしっぽが一メートルちょい。しっぽをバネにして跳躍する。硬そうなウロコに見えるが脆い。素早さに気をつけていれば雑魚じゃ。さ、頑張るのじゃ」


「俺がやるんかい」


 今更だけど怖い。鎧縛りプレイとか本当にできるか不安だな。


「ほれ、防御魔法かけてやったから頑張るのじゃ」


「私が一匹担当するわ」


「わたしと一緒に二匹頑張ろう!」


「アメリナの護衛はわしに任せるのじゃ」


 正直俺を護衛して欲しいくらいなんですが……だめだろうな。


「やってみますかね」


 今の俺がどの程度動けるのか確かめてやる。

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