第154話 新アイテムと帰還

 ポセに連れられ、フルムーン魔道研究所の中へ。

 広い応接室で待っていると、勢いよく扉を開けて入ってくるポセ。


「クックック。待たせたな! これがこの世に四つしかない最高のアイテムだ!!」


 箱の中には四色のコンパクトみたいなもの。

 ケースの中にあるそれは赤・黒・白・青の四色だ。


「まさか本当にこんな短時間で作るなんてね。神様の秘術は凄いわね」


「お母様!」


 ポセと一緒にレイナさんも来た。この研究所はレイナさんのものらしい。


「一人一個よ。好きな色を聞いたでしょう? それに合わせたわ」


 シルフィが赤。イロハが青。リリアが白で、俺が黒。

 表面に派手じゃないけど綺麗な装飾がされている。


「手のひらに収まるように調整した、お前達用のハイパー装備だ」


「まず開いてみて。内側に大きな魔石があるでしょう。それがコアよ」


 折りたたみ携帯のようにぱかっと開く。

 透明なカバーの下に魔石がある。これはもう宝石かそれ以上の輝きだ。


「特殊カバーがあるから、ちょっとやそっとじゃ割れないから安心して」


「付近にあるのが操作ボタンだ。内側の画面は鏡にもなる。通信のときは相手を映す」


「なくさないように、普段は腕輪に変化させて巻いておけるようにしたわ」


「持ち主の魔力と同期させてあるから、ここにいる四人以外では起動しない。呼べば召喚魔法で戻ってくる」


 分厚い説明書も一緒にもらった。

 つまり通信機なんだけど、魔法ってここまでできるのか。

 明らかに俺のいた世界より便利だぞ。


「おおぉぉ! 凄いよ! でもこれどうやって作ったの?」


「これはノアの記録を使ったの」


「ノアの?」


「ああ、ノアの中にある別世界の技術を五、六個混ぜた。ハンサムゆえの高等技術だ」


「おいおい未知の技術なんぞ盛り込んで大丈夫か?」


「ノアに計算させた。おれも知っている世界の技術だ。混ぜても問題はない」


 根拠はよくわからんがまあ安全ならよし。どうせ理解できん。


「他にもノアに倉庫を作ってそこと繋いだ。無機物であれば数種類倉庫に保管できるから、入れておきたい装備があれば使え。ただし急に取り出せないから、自前で剣くらい持っておくのだぞ」


「ん、助かるよ」


「できる限りの技術をほぼ入れてみたわ。壊れたら報告してね。ミナに教えてくれたらこっちに伝わるわ」


「こんなもんが広まったら技術レベルがおかしくなるな」


「あまり大衆に見せなければいい。どうせ理解もできんよ。複数の世界の超技術を絶妙にブレンドした」


 理解できないのは納得。こんなもんわかるかい。


「腕輪化すれば目立たない。設計図も残っていない。おれと妻とレイナとリリアしか知らぬ」


 お前らの技術力はなんなのさ。あとさらっとリリアが凄い。


「嫁さんがいたのか……」


「ああ、おれに負けず美しいぞ!!」


 神様は美形なイメージがあるな。ゲームとかマンガの印象からだろう。


「召喚獣は?」


「きっちり移動しておる。問題ないのじゃ」


 ほー……別世界ってのは便利だな。この世界が気に入っているので、よそに行く気はないけど。


「魔法が科学を凌駕しておったり、武器に意思が宿ったり、兵器の力を移植した女の子とかが戦っておる世界もある」


「うざったそうだな……兵器として欠陥品じゃねえか」


「そういう要素を嫌うと聞いた。故に美少女要素を徹底して排除しておいた。ハンサムにな」


「兵器と女の子を合わせるとか、萌え要素じゃというのにのう」


「兵器っていうのは100%自分の意思で使える道具で、壊しても次をちゃちゃっと補充できるからいいんだよ」


 これは譲れない。絶対そんな女を仲間にしたくないわ。


「兵器扱いして死んだりすると、生き残った兵器女が命令無視しそうだし。ただの駒として運用できない兵器とかアホ」


「擬人化とか嫌いなタイプか」


「嫌いじゃないさ。見て楽しむなら戦わせる必要が無い。戦いに使うなら意思のない兵器がいい。女の形で意思があると邪魔。それこそスーパーロボットでいいじゃん。ボロボロになってもかっこいいし」


 人間の姿をしている兵器って、ロボット以外じゃ運用できないと思うよ。

 人間だから、ぶっ壊れるまで使って新品に変えるという、最大の長所が消えるし。


「中途半端な存在が嫌いなのね」


「アジュもどっちつかずでふらふらしとるじゃろ」


「俺は全力で横着して、面倒ごとから逃げるだけだ。だらだらするという目標はぶれていない」


「そしてふらふら先延ばしね……いつまでたっても恋人になる決心をしないじゃない」


 通信でイロハさんが責め立ててきます。

 俺に恋人とか想像できないので、無駄な思考はカット。


「え、なんだって? 通信機がうまく使えなくて聞こえなかったぞー」


 イロハの通信機と繋げて声を送ってみる。おお、ちゃんと届くな。


「流石に怒るわよ?」


 ほっぺをむにむにされる。ちょっと強めに引っ張られているので、かなり怒っているな。


「悪かった悪かった」


「いかん、そのうち通信機で遊んでいて聞いていなかったとか言い出すのじゃ」


「アジュにすっとぼけアイテムを渡すとこうなるんだね……」


 多分これ一回しか使えない手段だな。もうやめとこう。

 適当な名前が存在しないため、とりあえず通信機と呼ぶことになった。


「なにからなにまでありがとうございます」


「いいのよ。救国の英雄様なんですもの。お礼を言うのはこちらよ」


「ありがとうお母様」


 それぞれお礼を述べる。


「シルフィのためなら、このくらいは協力してあげるわ。でもねサカガミくん」


「なんです?」


「できればシルフィとサクラどちらかにしてね。お城に残される方がかわいそうでしょう?」


「はっはっは、なんのことやらさっぱりですな」


 そもそもサクラさんて俺のこと好きじゃないだろう。

 うぬぼれて恥をかくのは避けようね。


「では失礼します。ありがとうございました」


 みんなでお礼を言って外に出る。不利な状況ならば逃げるに限るのさ。

 そして行きと同じ列車に乗る。なんだか随分長いこといた気がするが、この街は嫌いじゃない。

 機会があれば、またみんなで来よう。


「みんな見送りに来てくれたね。お母様はアジュと一緒にいることを許してくれたのかな」


「あとはサクラさんがアジュを好きになるのを止めるだけね」


「サクラさんは俺みたいなやつには惚れないっつうのに。レイナさんにしても冗談だろ。本気で二人を取っていくとは思っちゃいないさ」


「そこはシルフィはもう俺のものですとか言って欲しかったなあ……」


「言うわけないだろうが」


「えーでも貰ってくれるんでしょ? 俺のシルフィなんでしょ?」


「何の話だ?」


 まーたよくわからないことを言い始めたな。

 リリアとイロハがこっち見ているのでやめてくれ。

 座っている距離を縮められているじゃないの。


「ええぇ……エリスの時にもらってくれるって言ったのに! 俺のシルフィに触るなーって!」


「いつ言った!?」


「流石に無理じゃろ……それを言わせるにはあと一年はかかるのじゃ。なんせアジュじゃぞ」


「そうよシルフィ。確かにそういうセリフは欲しいわ。むしろ何故言ってくれないのか、いつも待っているけれど。それでも相手はアジュよ」


 ぼろくそ言われてませんか俺。そんな恥ずかしいセリフを言える男には生涯なれません。


「今回は本当に言ったよ! 覚えているもん!」


「いやいやマジで心当たり無いぞ。そもそもエリスと戦っている時は集中していたし、くさいセリフ言う余裕は無い」


「むむむ……そっか……覚えてないかー」


 シルフィはここまで無駄な嘘はつかない。

 そのへんに育ちのよさが出ていて好感持つ。

 ってことは俺はマジでそんなくっさいセリフを言ったと……いかんな。


「これは完全に覚えとらんのう。言ったのは事実じゃな?」


「うん、はっきり聞いた」


「シルフィを助けるのに必死だったのでしょう。いつか思い出すわよ」


「思い出さずにこのまま忘れそうじゃな」


「大丈夫だよね? 全部忘れたってわけじゃないでしょ? キスしたのは覚えているよね!」


 不安そうな顔で詰め寄ってくる。いやそれをここで言ったら確実にもめるだろう。


「ほう、キスと聞こえたのう」


「ええ聞こえたわね」


「あ……しまった」


「いや、大丈夫だ。それは覚えている。っていうか言ったこともなんとなく思い出した」


 確かに言ってしまった。うわあ超恥ずかしいんですけど。


「そう……シルフィもしたのね」


 妙な緊張感がある。この特別列車には俺達四人と、運転席のミナさんしかいない。

 つまり逃げ場が無いわけだ。俺が何とかしないと詰む。


「うん、やっとここまでこぎつけた……シルフィも?」


「私もしたわよ」


「なんですとー!?」


「時期的にはわしが一番最初じゃ」


「えええぇぇぇ!?」


 あれ? 言ってなかったか? もう知っていたような。

 自分がキスしたことで全部忘れたのかね。


「でも……でもわたしは二回したし!!」


「なんじゃとおおぉぉ!?」


「そんな……まさか……」


「ふっふっふ、回数では私が一番だ!」


 胸を張るシルフィと悔しそうな二人。そんな嬉しいか?


「二回したし俺のだって言われたし! もう半分くらい奥さんだし!」


「シルフィが強くなっているわ……」


「ううむ、まさか二回目を許すとは。アジュが二回目のキスを……」


 やめろ強調するな恥ずかしいわ。気持ちの処理が追いつかないぞ。


「いや……うん、あれだな。俺もおかしかったな」


「おかしくないよ! むしろもっとするべき!」


「じゃな。とりあえずわしらも二回すればよいのじゃ」


「なるほど、それでいきましょう」


「いくな! 無理だからな!」


 キス狙いの三人と、なんとか止めようとする俺。

 結局騒がしいまま自宅へと帰った。

 こいつらと一緒にアホな話をしていることが、もう俺の日常になっている。

 こういうのもありだろう。このままずっと過ごしていたら、いつか受け入れたり、自分からする日が来るのだろうか。

 そんな日常なんて……まあ……なんだ……そう悪い日々でもないかもな。

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