素材集めとダブル王子

 のどかで穏やかな昼下がり。今日はイロハと鍛冶屋に来ていた。


「じゃあこんな感じでお願いします」


「かしこまりました」


 ある程度草案は出来ている。フウマは専門家なので、俺に合わせて細部を変えるくらいは楽勝なのだよ。


「フウマの技術ってのは凄いんだな」


 ホノリが同席している。刀剣の作り方や、その素材までは公開していないからセーフ。あくまでデザインと、どんな機能をつけるかだ。


「リリアから素材候補のリストを預かってきた」


「多いね。こんなにあるのか」


 聞いたこともない素材と、その効果が書いてある。

 これにフウマの鍛冶技術を混ぜるのだ。混ぜるってかメインはそっちだな。


「かなりいい素材が混じっているね。許可のいるものや、取ってくるのが面倒なものまであるよ」


「また戦闘か」


 カトラスでも遺跡に行ったな。あれより難易度上がりそう。


「学園内で採掘の許可を貰えばいいものが多い。これはアジュへの試練も兼ねているんじゃない?」


「あいつが考えそうなことだな」


 おそらくは素の俺でクリアできる課題が多く、ストレス発散に鎧が使えるやつも混ざっている。俺もあいつの思考が読めてきたぜ。


「あとは貴重で高いものを店で買うか……いっそ依頼にしてみたらどう?」


「んん? 似ているクエスト探すのか?」


「違う違う。アジュが取ってこいーってクエスト出すの。でなきゃ護衛してーって」


「極力知らないやつと関わりたくない」


 俺が他人に依頼説明したり、同行するのか……うむ、きついな!


「それは直せ。シルフィたちが直してくれてるでしょ」


「多少な。けどギルドメンバー連れて行けばできそうだ」


「そこだな。アジュの仲間は強すぎる」


 世界の上位には届かないだろうが、学生レベルならトップクラスだろう。

 そこはもう素直に運が良かった。本当にな。


「だが無償で連れて行くのも気に食わん」


「仲間なんだからいいでしょう」


「だからこそ報酬があるべきだろ。無報酬で使う気にはならん」


 知人で実力があるのなら、それは対価を用意すべし。

 ただで使うと借りを作りそうで嫌だしな。


「メンバーとホノリがいりゃいけるだろ?」


「私確定なのか? リリアがいれば見分けつくだろ?」


「わざわざ危険な場所にかせることもないか」


 制作に関わっているとはいえ、戦いに巻き込むこともない。

 四人で行ってくるべきかもな。


「というわけで必要なもんを取ってきます」


「フウマが同行いたしましょうか?」


「いや、あんまりお館様命令は使いたくないので。フウマの人には頼まないでおきます」


「かしこまりました。ご武運をお祈りしております」


 そんなわけで、通信機にて四人で予定を調整する。


「というわけで行ってくることになった」


『わしは確定として』


『わたしは最近遊んでもらっちゃったし、ここ数日は騎士科があるから……イロハは?』


『私はフウマと忍者科ね。家での触れ合いに切り替えるから、リリアに任せるわ』


 いきなりあてが外れたな。これはきついですよ。きつすぎませんかね。


「ううむ、二人はなあ……」


「四人か五人をおすすめするよ」


「知り合いに頼んだらどうだい?」


「俺は知り合いが少ないんだよ。最悪鎧でいくぞ」


 鎧に幻影乗っけていく、いつものパターンだ。

 安全安心だが、乱用は避けたい。


「ほーのちゃーん。お仕事終わったー?」


 いいタイミングでももっちが来た。

 妖刀外道丸を直すため、色々聞き回っているらしい。


「ももっちどうかな? 私ともアジュとも知り合いだし」


「ん~? なんの話かにゃー?」


「武器の材料集めに行くってだけだ」


 ももっちは騒がしいように見えて、かなりまともだ。

 訓練されているのか、引き際もいいし、深く事情を聞いてこない。

 人材としては優秀だな。


「おおう、利害の一致だね。私も材料は必要だし、行ってもいいよ」


「あくまで自分で直すんだな」


「実はバレちゃってさ。前にも打ち直したことがあるから、今度はお前に任せる。課題としてやってみろって。ボスになるなら、その程度のピンチは乗り切って見せんかーって」


「スパルタだねえ」


 忍者の家系に生まれなくてよかった。無理無理そんなの。


「てなわけで! 遺跡発掘部隊、再結成だよ!」


 再結成されましたとさ。

 んなわけで俺・リリア・ホノリ・ももっちで、鍾乳洞満載の場所に来ています。

 広い。広すぎる。天井のつららっぽいやつが、ドーム球場の天井より高い場所にある。


「学園の広さ頭おかしい」


「改めてそう思うよ」


「楽しくてよいじゃろ?」


「どんどんいってみよー!」


 天井に空いた穴から、何本もの光の柱が伸びている。

 陽の光があたり、絶妙に壁に混ざった鉱石が輝くからか、なかなか綺麗なもんだ。


「この奥だっけ?」


「うむ、この先に遺跡がある。そこの奥じゃな」


 もうちょい先は長いらしい。

 ちなみに今回も許可証をもらい、入り口で係員に見せた。なんかヘルメットを無料で貸し出していたぞ。


「妙だね。ここまで進めばガーディアンがいるはず」


「またかよ。同じ技術系統なのか?」


「似たようなものじゃよ。そのへんの土とかから、ゴーレムを作ったりするタイプじゃな」


「戦闘の跡があるね。先にお客さんがいるみたいだよー」


「慎重に行くぞ」


 学園内で敵と鉢合わせってのもおかしな話だが、警戒だけはしておこう。

 古びた遺跡の奥へと進み、何やら男の話し声が聞こえてきた。


「なるほど、書物でしか知らんかったが、こういうものか」


「うむ、我も初見だ」


 男二人組らしい。そっと物陰から様子をうかがってみる。

 どうもここまでの敵を倒すだけの実力はあるらしいからな。


「これぞ愛の遺跡! そして奇跡!」


「ヒカル?」


 ゲンジ・ヒカルだ。なにやってんだよこいつは。


「む、誰かと思えば。マイフレンドアジュではないか」


「お前はいつぞやの……」


「シリウス……だよな? お前なんで学園に?」


 凶兆の王子とか呼ばれた、ヒカルの兄だ。

 名前シリウスで合っているはず。


「妙なところで会うものじゃな」


「知り合いかい?」


「なんか二人とも似てる……親戚の人?」


 ホノリとももっちは知らないらしい。

 こいつ今どこまで知名度あるんだろうか。


「ゲンジの兄、シリウスだ」


「ヤマトの王子に兄?」


 怪訝な顔のホノリさん。兄がいるなら、なんでヒカルが王位を継いだのかという疑問が出てくる。当然だな。


「我も最近知った」


「その節は世話になった。改めて礼を言おう。サカガミ殿、ルーン殿」


「礼はヤマトで散々聞いた。もう言うな。こっちじゃ俺は、ごく普通の一般人だ」


「そうだったな」


 なんにせよ元気そうだし、余計なトラブル持ち込まなきゃ好きにしてくれていい。


「あじゅにゃんは王族と知り合う運命なの?」


「ねえよそんな運命。そもそもなんでここにいる?」


「編入の手続きでな。ついでにヒカルのクエストを手伝っていた」


「違法採掘などが行われていないか、危険な場所がないか調査している。カップルが訪れて被害にあってはいけないのでな。これもラブガーディアンとしての務めだ」


 相変わらず行動原理が独特だ。考えても無駄だし、悪事を働くタイプでもないだろうから放置でいい。


「俺たちは材料ゲットに来ただけだ」


 当初の目的を忘れてはいけない。まずは奥で鉱石を確保だ。


「そうか、これも何かの縁。協力しよう。目的はほぼ同じだ」


「よーしいってみよー!」


「強い仲間はおってもよいじゃろ」


「ならば歩きながら話そうではないか」


 そしてシリウスの話題に。存在はおおっぴらにしているが、あくまでヤマトでのニュース。学園で話題になるほどじゃないらしい。


「師匠と数年暮らし、街と山での生活には慣れたが、どうも普通の学園生活というものは勝手が違うようでな。オレも悩んでいる」


 こいつも暮らしが特殊だったな。性格はまともっぽいし、それくらいならいいか。


「アジュは少々特殊でな。庶民だが王族に媚びることもない。だが金持ちには余計なものまで寄ってくる」


「ある程度は理解しているが……」


「例えばそうだな。アジュ、授業料と友好の印にこれをやろう」


 そう言って、光る何かを渡された。


「金の延べ棒だ」


「お前なんちゅうもん渡してんだ!」


「お気に召さなかったかな? 金持ちといえばこれであろう?」


「金持ちの表現がストレート過ぎるんだよ! キャラ付けが安易すぎるだろうが!!」


「このように『え、マジでもらっていいのこれ?』的な反応もせず、貴族相手であってもちゃんとツッコんでくれるのだ」


「延べ棒真っ赤になるまで殴るぞお前」


 俺に面倒なことさせるんじゃないよ。これは無駄に疲れる方向だな。


「なるほど。勉強になる」


「なってねえよ」


「オレも今度から延べ棒の携帯を怠らんようにせねば」


「んなもん持ち歩くな!」


 日常生活で延べ棒使う機会とかねえだろ。

 むしろどうして持っているのだろうか。


「延べ棒が不要だという理由を述べよ。愛をもって」


「必要な場面がねえんだよ」


「なるほど。述べると延べ棒がかかっているのだなゲンジよ」


「そこは解説してやるな。あとお前ら逃げんな。俺に押し付けやがって」


 そっと距離を取り、女三人が先へ行こうとしている。

 逃さんぞ。こんな面倒な状況に俺だけ残ってたまるか。


「サカガミよ」


「なんだ?」


「なぜ延べ棒は金なのだろうか」


「知るかボケ!!」


 もうすぐ一番奥だ。さっさと取って、急いで帰ろう。

 俺の精神力がもたないからね。

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