カクヨムコン応募作です よろしくお願いします

 護衛の依頼も終わって数日。のんびりと昼まで二度寝かまそうと思っていた朝のこと。


「アジュ、起きてる?」


「きゅー」


 部屋にシルフィとクーが来た。まだ眠いんだぞ。朝九時じゃねえか。


「……眠い」


「ずっと寝てると健康に悪いよ」


「きゅっ」


 ベッドに上がってきた。横を向くと、ちょうどクーが近づいてくるところだった。


「きゅっきゅー」


「クー、今眠い。シルフィに遊んでもらえ」


 残念そうな顔をしてから、無言で俺を見つめてくる。

 じりじり距離を詰めながら。


「近い近い。顔が近い」


 近づいて、じーっと俺を見ている。鼻と鼻がくっつきそうなレベルだ。


「無言で圧をかけるなお前は」


 軽く撫でてやる。しょうがないなこいつは。


「きゅー」


 気持ちよさそうに撫でられている。よし、仲間に引き込もう。


「よし、このまま今日は昼寝の時間です。いいなクー」


「きゅきゅ」


 軽く首を横に振り、両手でバツの字を作られた。


「だめかー」


「クーちゃんは遊んでほしいのです」


「きゅっ」


「お前もだろう」


「その通り! シルフィちゃんタイムはじまるよー! 今回は特別ゲストに、クーちゃんをお呼びしています」


「きゅきゅっ!」


 いかん寝かせてくれない。朝から元気だなこいつら。


「アジュさんは眠いんだよ。寒いから布団から出たくない」


「こういう時に無理やり起こすと拗ねるから、慎重にいきましょう」


「きゅー」


 そしてテーブルに何か置かれているのを発見。

 なんか面倒なことをしそうだぞ。


「まずここにお水があります。これをアジュに飲ませて、体に栄養を与えましょう」


「きゅ!」


 シルフィが水差しからコップに水を入れ、クーがそれを両手で掴んで運んでくる。

 クーは飛べるからな。ふよふよ浮きながら来た。


「そのままお水をあげてみよう!」


「これ人間と動物逆だろ」


 受け取って飲み干す。冷たい水は意識を覚醒させる。


「動物に水と餌をやる流れだろこれ」


「ツッコミができるくらい元気になったら、遊んでもらいましょう」


「きゅっ」


「基準おかしいよな?」


 仕方ないので起きる。冷暖房完備だから、部屋は別に寒すぎるほどではない。

 でも布団から出るのがしんどいのだ。

 なのでベッドに座り込む。


「ああ……眠気がどっか行く……」


「あーそーぶーのー」


「きゅーきゅー」


 ベッドでじたばたし始めた。ホコリが立たないよう、動きは小さいし緩やかだが、完全に寝させない気だな。


「ええい邪魔くっさい」


 両手でクーを抱えあげる。面倒だから膝に座らせよう。


「お前ちょっと大きくなったか?」


「きゅー?」


 なんとなくだが、成長している気がする。

 一回りくらい大きくなっているような。


「育ち盛りなんだね」


「きゅ!」


「よしよし、そのまま健康に育つがいい」


「はいじゃあそのままゲームするよ」


 カードや将棋盤が出てきた。そういやシルフィもできるんだっけ。


「きゅー?」


 駒が半透明で色付きだからか、興味深そうに見ている。


「食べ物じゃないからな」


「きゅ」


 匂いを嗅いでいる。自然界には無いからな。珍しいんだろう。

 同じ材質である、サイコロに目をつけたようだ。


「きゅ?」


「それはな、点が一から六まであるだろ? それを……」


 実際に転がしてやる。出た目は五。真剣な顔で見ておるのう。


「こういう感じだ」


「きゅっ」


 クーに渡してやる。両手で掴んでころころ転がした。


「お、六だな」


「クーちゃんの勝ちー!」


「きゅー!」


「強いぞクー」


 またサイコロを掴んで、シルフィに渡している。


「おぉ、わたしの番かな?」


「きゅっ」


 やれということだろう。ここはしばらく遊びに付き合ってやる。


「それーころころー」


 そしてまたもや六。強運だな。


「やはり選ばれた存在だなお前ら」


 こういうところで如実に現れるのだ。

 王族で神の血を引いているという、なんか凄い存在だからね。


「よしいけクー。もう一回、六出してやれ」


「きゅ!」


 そうやってしばらく三人で遊ぶ。少し疲れたが、クーが楽しそうだったからよし。

 そろそろ昼だな。クーが帰る時間だ。領地へ逆召喚しよう。


「じゃ、親元に帰すぞ。準備はいいな?」


「きゅっ!」


「また遊ぼうねクーちゃん」


「きゅー!」


 元気に手を振り帰っていった。便利だなこれ。


「久々に遊んだ気がするな」


「そうだねー。クエストばっかり、ぎゅうぎゅうに詰めなくてもいいかもね」


「適度にやらないとな」


「適度に遊んで適度に動く。基本じゃな」


 リリアが現れた。今日は客が多いな。


「昼食を作る時間じゃ。選手交代じゃな」


「おっといけない。それじゃあアジュ、寝ちゃダメだからね」


 昼食当番らしい。ささっと部屋を出ていった。そのあたり素直で良い子だな。


「さて、次はわしと将棋でもやるのじゃ」


「そうだな。ついでに今後の保険と、未来について話してやろう」


 いい機会だ。ちょっと協力者の意見も聞いてみよう。


「前から決めておるじゃろ。わしら四人で楽しく暮らす」


「それを邪魔する連中が出た場合の話さ」


 これは例のヴァルキリーや邪神の話ではない。

 あれは偶然こちらと敵対しただけの、一般人とは別枠だ。


「今はいい。超人や神に届くとは思われていない。知り合いは、なぜかは知らんが好意的……かどうかも知らんが無害だろ」


「じゃな。良縁に恵まれておる」


 ぱぱっと盤面を整えて、勝負開始。

 勝てると思っちゃいないが、気晴らしにはいい。


「でもあいつらは超例外だ。人間の大半は、凡人と悪人で出来ている」


「わずかな善人だけでは、いずれ歪みが出ると」


「そうだ。俺たちの力が強大だとすれば、それを恐れるアホが出る。ほっときゃ家で将棋やっているだけなのにな」


 ほっといてくれればいいんだよ。そうすりゃ俺たちは無害だ。

 わざわざ他人に関わるなんて、時間の無駄でしかない。


「迫害とかどうせするだろ。所詮人間ってのはその程度の生き物だ」


「ありがちじゃのう」


「そうなれば、俺は必ずそいつらを殺す。みじめったらしい屈辱的な方法で、女子供も例外なく見せしめに殺す。そのために準備がいる」


「鎧では足りぬか」


「足りないな。俺とギルメン三人。それと領地の精霊や動物を守らないといけない」


 ここの保険が最優先だ。俺単騎ならどうにでもなるさ。

 気ままに旅しつつ、追手を殺して遊ぶとか、飽きたら人類皆殺しでいい。

 なんなら世界を壊しても構わない。


「最速で皆殺しにすれば可能じゃろ。神でも超人でも殺せる」


「それじゃあ敵が後悔と屈辱と罪を知ることがない。犠牲がなければ、同じことを繰り返すだけさ」


 相手が悪人であり、手を出してきたから迎撃した。

 その構図は変えない。これは大切なことで、加害者以外を傷つけるつもりはない。


「俺は必ずやり返す。続ければ王や軍、神がでしゃばってくるかもしれない。それでなくとも、超人は厄介だ」


「その時には、わしらも上級神を殺せねばならぬ、と」


「だろうな。だが最終手段だし、こちらから喧嘩を売る気はない。多少のことは耐える。加害者を減らし、被害者を出ないようにする」


「人類皆殺しは避けると」


「あくまで敵対した連中だけだ。関係ない奴らは好きに生きて、好きに死ねばいい」


 他人は他人。そいつにはそいつの人生がある。

 法に触れたり迷惑かけなきゃ、それは他人の人生でしかない。

 俺が干渉する権利も価値も義務もないのだ。


「憎しみの連鎖を断ち切るとか、アホ丸出しの説教があるだろ。あれには別の解決法がある」


「憎んでくる相手がゼロになるまで殺し続けること」


 俺の歩兵がどんどん取られていく。そうそうこんな感じだ。


「それができれば最高だが、まあ無理だろう。だから別の案もある」


「ほうほう、和解でもする気かのう」


「ありえんのをわかっていて聞くな。ヒントはノアにあった」


「なるほど、世界を作るのじゃな」


 こいつは少ないヒントだけでわかってくれる。非常に助かるよ。


「そうだ。最後の最後の手段だが、敵対したやつは全員殺し、俺たち四人だけが住む理想郷を作って移住する。領地ごとな」


「殺しはするんじゃな」


「やられっぱなしは胸糞悪い。必ず殺す。そこは変更しない。報いを受けさせる」


「オルインは超人も神も魔王もおる。そこまで心配せんでもよい」


「だろうな。俺の考えすぎさ。だが保険がないと納得と安心ができない」


 ちょうど王と飛車が、どっちか取られそうだ。

 こういう選択をしなくていいように、保険が必要だったんですね。


「葛ノ葉の里ではいかんのじゃな?」


「最終的にはあれでもいい。その場合は領地を誰に移譲するかになる。フルムーンかフウマあたりを考えている」


「まあ悪い選択ではないじゃろ。警備も頼んでおることじゃしな」


 リリアと話していると、考えがまとまってくる。

 おそらく、そうなるように話し方を変えたり、それとなく俺の意識が整理されやすいように立ち回っているのだろう。


「よし、俺の負け」


「しれっと言いおって」


「いいんだよ。考えはまとまりそうだ」


「ならばよい」


「まずは高等部を卒業する。大学部に行くかは後回しだ。とりあえず今の環境を崩さない」


 今が理想的だ。この状態を維持することが望み。

 急に強くなろうと努力し始めるものじゃない。

 あくまで普通の俺たちでいること。


「無理は禁物だ」


「ちょっとは強くなろうとせねばならんのう」


「するさ。超人には勝てないだろうがね」


「魔法の才能と雷属性は、おぬし本人のものじゃ。たとえ鎧がなくとも、二年に進級する頃には、インフィニティヴォイドとマックスアナーキー以外は、使える可能性が高いのじゃ」


「マジで?」


「頑張れば、じゃな」


 これは正直予想していなかった。あれを俺の自力でできるとは到底思えない。


「じゃから少しは頑張ってみるのじゃよ」


「へいへい、じゃあ頑張って起きて昼飯食うか」


「うむ、そろそろ行くのじゃ」


 こうしてまた普通の一日が始まる。

 俺の望んだ普通の中で、普段と変わらずいて欲しい連中とともに。

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