モッケイ編終了

 宇宙で天使を倒し、モッケイとともに帰還した。

 会場の敵はすっかり片付いており、美術品の被害も少なかったようだ。


「結局でかい事件になったな」


 今はもう夜。事情聴取とモッケイの護衛をしていたら、いつの間にやら時間は過ぎていた。

 俺はというと、会場の客室でぐったりしている。単純に疲れたのさ。


「死者も出ず、貴重な芸術品も失われずに済みました。いいことだらけですよ」


「かもな。あとはさっさと家に帰って寝るだけだ」


「うむ、今回ばかりは休息が必要じゃ」


「この件が終われば、少しゆっくりしましょうか」


「じゃあアジュとどこかに……行くのは疲れちゃうから、おうちで何かしよう!」


 部屋でだらだらしながら、今後の予定を話すギルメン。それを眺める俺とモッケイ。平和だ。このままずっと平和でいてくれたらいいんだけどねえ。


「残党も片付いたことですし、改めてお礼を言わせてください。みなさんのおかげで助かりました」


「いいさ、これも依頼だ」


「そこは友達のためと言っておくのじゃ」


「その方が綺麗に終わるでしょう?」


「そんなもんかね?」


 そんなもんらしい。無事終わってほっとしているのは事実だ。

 素直に従っとこう。たまにはそれもいいさ。


「また魔法のことか、芸術に興味があればお会いしょう。偶然出会えると思いますので」


「出会い方が変則的だな」


 だがそれも面白くていいかもしれない。気まぐれでいいのだ。

 扉がノックされ、SPさんが入ってきた。


「報告します! 負傷者の手当と会場の修復が完了いたしました! しかし……」


「言ってください」


「モッケイ様の新作は、敵の集中攻撃を受け、わずかですが傷が……」


「いいんじゃないですか別に」


「なっ、そんな!? あれはモッケイ様の……」


「そのつもりで書いたんだろ? あの絵」


 SPさんはうろたえているが、ここまでのモッケイの行動から、なんとなく予測はついていた。


「おや、やはりダチにはバレましたか。そうです、あれは単なる囮です。絵を値段でしか評価されないのが嫌なのも、本当ですけども」


「思い切ったことをするのう」


「大した手間じゃありませんからね」


「敵は新作を狙って動くと思いまして。ついでに、雑に書いた絵がどう評価され、いくらで売れるか影で楽しもうかと」


 あいつ駄作を億単位の金積んで買ってやがる、みたいな楽しみ方らしい。

 なんだそれ楽しそうじゃねえか。


「なるほど、アジュの友人じゃな」


「発想が似ているわね」


「らしいですよ」


「ノーコメントで」


「では本当の私の絵を展示しましょう。はいこれです」


 また新作が複数出てきた。これは俺も見たことがない。

 学園の風景だろう。そこには景色と生徒たちが描かれている。


「暇だったんで書きました。これはそれなりに自信作ですよ」


「おいこれ……」


 俺たち四人がモッケイと部屋にいるところだ。っていうかこの部屋だ。

 水墨画だが、見る人が見れば、知人なら答えにたどり着くかもしれない。


「モデルにしちゃいました。こっちもアジュですよ」


 モッケイと俺が一緒に戦っているところだろうか。長巻で俺だとわかる。


「よかったのう」


「いやいや……俺がいるのはおかしくないか?」


「SPさんのもありますよ」


 リグさんとその仲間が戦っているやつもある。

 筆が早いな。こんな書けるもんなのかプロって。


「我々の絵も……?」


「無許可なんで、少しぼんやりさせましたが」


「いえいえ! 光栄です!!」


 SPさんたちは大喜びである。顔が売れると得をする商売なのかも。


「まあいいか」


「そうそう、大丈夫だって」


「では二日目の展示はこれでいきましょう」


「……待て待て、俺たちは初日と謎の敵への対処目的だったろ。いつまで護衛なんだ?」


「ご安心を。私はもう作品を出したので、二日目からは出席予定もありませんよ。しばらくのんびりして、また特別教師ですかね」


 あとは雇われたSPと、普通の護衛の仕事らしい。

 晩飯までには帰れそうだな。


「では晩御飯はホテルでいいですか?」


「……ついてくる気か?」


「ちょうどお腹もすく時間ですし、奢りますよ」


 そう来たか。ちょい悩むが、まずいもんは出ないだろう。

 ギルメンも行く方向だし、ごねる理由もないか。


「まだ護衛期間中じゃからのう」


「行くしかないね!」


「人と飯食うのは好きじゃないが……これも仕事か」


「なるほど。そう誘導するのですか」


 興味深そうにこちらを見ている。そうでございますよ。そう誘導されてやるのだ。


「ダチでもまだ扱いには慣れておらんようじゃな」


「慣れるとは違いますよ。私の思考と似ているもので、応用を利かせているのです。みなさんには及びません」


 似ているとは思えんが……モッケイはよくわからんが天才だし。

 それと似ていると言われても、反応に困るものだな。


「そうね。彼は扱いがデリケートだから」


「アジュマスターへの道は遠いのじゃ」


「ならんでいい。さっさと食いに行くぞ」


 みんなでホテルの食堂へ。

 そこはなんだか、展示会と警備の関係者で賑わっていた。


「うーわ入りたくねえ」


「そーっといきましょう」


 大騒ぎしているわけではないが、モッケイを入れるとめんどくさそう。


「わたしとイロハで取ってくるから」


「俺たちで席を確保だな」


「運が悪かったのう。今日は客も多くてバイキング形式じゃな」


 これが高級ホテルのレストラン形式なら別だが、それは俺が適応できない。

 つまり家で飯食うのが最適解だ。

 今からでは遅いので、さっさと人の少ない場所へ移動。席を確保した。


「取ってきたよー」


「ナイスだ。よし、食うぞ」


 当然だがクオリティが高い。見た目ですぐわかる。

 こういう形式の料理ってのは、種類が豊富で小分けにされているもんだ。

 そこから的確に、肉と魚と麺と米を持ってくるシルフィ。


「はいはい、お肉ばかり食べないの」


 イロハをその補佐をする。

 シルフィが取っている料理に合わせて、野菜や飲み物を選ぶのだ。


「長年の親友じゃからできる技じゃな」


「なるほど、理想的な見本ですね。とても勉強になります」


「これが友情というやつか」


 俺には無理だねえ。ああいうのやりたいと思えない。

 どうせこいつら以外にやったところで、俺だけ働かされて損になるだけだ。


「と言いつつやらんやろ、おぬしら」


「そらそうだ」


「ですねえ」


 だってめんどい。いいんだよ、今は肉を食う時間なの。

 それ以外のことは忘れる。


「いいお肉ですねえ」


「うむ、香辛料が効いておる」


「こっちの塩焼きもいいぞ」


 ごく普通に肉を食う。米が玄米なのは健康に気を遣ったのだろうか。

 焼き魚も種類が豊富だ。


「ドリアあるのじゃ」


「マジか。ちっちゃいやつあるな」


「少し取ってきたよ。はいどーぞ」


「ナイスだ。今日のシルフィは勘が冴えているな」


 小さい器に盛られたドリアとラザニアがある。

 いいね。こういうクリーム系のやつ好き。


「これは素晴らしい」


「食いすぎだろ。俺のドリアなくなったぞ」


「芸術は大量にカロリーを消費するのです。魚の塩焼きをどんどん食べているくせに、いいじゃないですか」


「はいはい、アジュがドリアで、モッケイさんがお魚ね」


 残っている分を配ってくれる。うむ、コクと旨味が深い。


「子供みたいじゃな二人とも」


「うるさくしたり、会場を汚さなければいいんだよ」


「そうですよ。あくまで食事を自然体で楽しむのです。ところで焼売か餃子ありません? 餃子は茹でたやつがいいんですが」


「ちょっと見かけなかったわ」


 流石に何でもあるわけではないらしい。カニクリームコロッケもなかったらしいよ。あったらおかしいけどな。


「醤油あったよー」


「凄いな。醤油がまず浸透していないだろ」


「醤油とからしですね。それで肉まんも焼売もいけます」


「からしは邪道だろう。辛さは味を消す」


「多少つけるのがいいんですよ。あんなもの大量にはつけません」


 言いながら食は進む。それぞれ好きなもんを好きに食う。

 同じメニューになる家での食事とは違って、これはこれであり。


「私のことは気にせず、もっと恋人らしい食事をなさってください。ダチとして邪魔はしませんので」


「いやいや、これが俺たちの普通だから」


「うむ、この距離感じゃな」


「人前であまりべたべたするのも品がないわ」


「一応は護衛中だし、アジュが嫌がるからねー」


 そういうことは分別を持って、自宅でやりましょう。

 人前でやるのは、育ちが悪そうで嫌いです。


「食事中に来られると、ぶっちゃけ邪魔だからな」


「左右にシルフィとイロハを、正面にわしがいることで、完璧にフォローしつつ慣れさせるのじゃ」


「この陣形にはそんな意味が……」


「これを自然に受け入れるかどうかが、好感度の基準になるわ」


「そこは正妻の余裕の見せ所ですわね」


 ヒメノがいる。やた子も横にいる。突然なんだよお前ら。

 今回完全に無関係だろ。


「どうやって湧いてきた」


「例のルシファーのことで、リリアさんから報告があったっす」


「今行けば関係者として、アジュ様と食事ができると思いましたの」


「悪知恵が働きやがったな」


「とりあえず詳しく聞くっすよー」


 そして飯食いながらの報告で、この任務は終わりを告げた。

 妙な知り合いも増えたが、嫌な気はしない。

 まあこういう日常も、たまにはいいのかもな。

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