絵画の天使を討伐しよう

 巨大な絵画から出てくる、これまた巨大な天使を倒しましょう。


「モッケイイイイィィィ!!」


 はい声もでかい。うるさい。

 六本もある腕をばんばんさせるな。床が壊れるだろうが。


「迷惑だからやめろアホ」


 光速移動して顔に蹴りを入れてみる。


「おぉ?」


 六本使ってガードしてきた。

 腕は全部ふっ飛ばしたが、近くの天使が集って腕に変わっていく。


「見た目最悪じゃのう」


「うえぇ……気持ち悪いよ」


 メンバーからも大不評である。

 これなら警戒するほどじゃないが、天使が湧くのはうざい。


「出てくる絵に共通点とかないのか?」


「すべて寄贈された絵ですね。センスからしてアネルコの手のものでしょう」


「そりゃめんどい。斬っていいか?」


 出てくる絵だけでも斬ればいいんじゃないかと。

 なんか絵をコアとしているくさいし。


「いいですよ。どうやら自作か贋作のようですから」


「そこケチってんのかよ」


 光速の十倍ほどで動き、美術品に近寄る天使を各個撃破していく。

 やはり一匹一匹は弱いな。


「それも復讐のつもりなんでしょう。自作と贋作に、私と展示品が壊される」


「なるほど。ちょい面白いな」


「そこで同意してはいけないのよ」


 そうと決まれば楽勝だ。いつものように破壊して終わるのみ。


「お前も……オチロオオオォォ!!」


「どこにだよ……お前ら天使の残党頼む」


「任せるのじゃ」


 これでよし。ザコ相手はギルメンに任せて、モッケイとデカ天使を潰す。


「さてモッケイ。とりあえず決着つけるぞ」


「私ですか?」


「お前の敵だからな。協力はしてやる」


「いいでしょう。アネルコ、あなたがそんな姿に身をやつしてまで、私とダチの前に立ち塞がるのなら、私はあなたを殺します」


 モッケイと左右から同時攻撃だ。俺たちを腕三本で防げると思うなよ。


「合わせろ、天才」


「いいでしょう、おともします」


 雷撃と水撃の拳が、両側より天使を殴りつけていく。


「おりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


「ふっ、せえええぇぇぇりゃあ!!」


 暴風雨にも似た魔力が飛び交い渦巻き破裂する。

 リリアが周囲を結界でガードしてくれているので、安心して殴ろう。


「ガアアアァァァ!!」


 逃げようとしているな。

 ここであえて見逃し、完全に絵の中へ入ったのを確認。

 吊り下げられている巨大な絵のワイヤーを切断した。


「さて、恒例行事いってみるか」


 額縁を掴んで、空高くぶん投げる。


「どうする気です?」


「宇宙に行くぞ。ここは壊れるものが多すぎる」


「いってらっしゃーい」


「しっかりやるのじゃぞ」


「こちらは任せていいわ」


 そんなわけで、モッケイと一緒に宇宙へとジャンプ。

 当然のようについてくるが、これは当然のことなので言及するだけ無駄だ。


「いたいた。あれだ」


 絵から出てじたばたもがいている。宇宙に慣れていないな。


「モッケイイイイ!!」


 こちらを見つけると、最速で口から黒と赤の混ざったビームを飛ばしてくる。


「そんなんできたんかい」


「会場でやられなくて助かりましたねえ」


 もちろん殴れば消せる。いまいち強さがわからんね。


「化け物になるほどのメリットなくね?」


「ですねえ。強化アイテムでも買えばいいのに」


 そういう発想ができないから、芸術方面でも応用効かなかったんだろうな。


「オオオオォォォォ!!」


 目と口からビームを撒き散らしながら、ひたすら拳を繰り出してくる。


「キモいわ!」


「いい加減絵から出てきてもらいましょう」


 絵を狙って魔力弾を放つ。

 壊されるのを恐れてか、こちらへ手を伸ばしてくるアネルコ。


「それならそれで」


「構いませんよ」


 光速の五倍で背後へと回り込み、後頭部にダブルキックをお見舞いしてやる。


「ゴアアアァァ!!」


 ずるりと飛び出したデカい天使は、裸足のまま宇宙に放り出された。


「プラズマイレイザーと」


「水墨龍拳で」


「水雷衝波!!」


 雷と水が混ざり合い、お互いを引き立てる。

 合体奥義が絵を焼き、水で洗い流す。

 電気が水中で分散せず、水と共存できるのは、やはり魔法のおかげだろう。


「ウオオオアアアァァァ!!」


 完全消滅した絵は、二度とこいつを招き入れることはない。


「後はこいつだけだな」


「小さくなっていませんか?」


 確かにアネルコは最初より小さい……気がする。

 縮んでいるような。


「モッケイ……何故だ……」


「流暢に喋れるようになったな」


「生態が謎ですねえ」


 絵から出てくる、キモい天使という謎生物である。

 いや生物なんかな。確証がないわ。


「何故だ……どうして届かない? これほど財産をつぎ込み、周到に計画を練ったというのに、努力では天才は超えられんのか」


「努力の方向間違ってんぞ」


「私を潰すことだけ考えて、絵の練習を怠ったからですよ。才能以前の問題です」


「学園は天才が努力を続けている。だから凡人の努力では絶対に届かないのさ」


 凡人が天才を超えるのは、あくまで天才が怠けているケースのみ。

 生まれや才能が、努力ごときに負けるとは思えん。

 やり方を間違えていればなおさらだ。


「オレのやってきたことは……無駄だったとでもいうのか!!」


「芸術に、己を高めることに使っていれば、プロになるくらいは出来たはずです」


「貴様を亡き者に出来ねば意味はない!!」


「そこです。正直不思議なんですよ。私はあなたと特別仲良くも敵対もしていなかったはず。確かに私はトップでしたが、そこまで目の敵にする理由は何なのです?」


 どうやら本当に心当たりが無いらしい。

 モッケイが自分から敵対行動するのも、いまいち想像できないな。

 黙々と好きな絵でも書いていそう。


「それだよ。オレがコネと権威で取り巻きを作る。それを見て媚びてくるやつらがいた。だがお前はどうだ。一人で好きに行動し、ただ絵を書き続けるだけ。なのに賞を取り、注目を集めるのはお前だ! 今の地位を絵を書くだけで手に入れやがった!」


「絵描きなんだから、それで正解なんじゃないのか?」


「まったくですね」


 言っている意味がよくわからん。こいつどうなりたかったんだよ。


「絵描きとして有名になりたかったんじゃないのか?」


「そうだ! 誰もがオレを称え敬う! そのために手下を増やし、好きでもねえ連中に飯をおごってやり、アドバイスもしてやった! そうやって散々かまってやって、金と権力をちらつかせて、ようやく今の地位があるんだよ!」


「地位もクソも、お前宇宙できったねえ天使になってんだぞ」


「地に足がついていませんねえ」


「うまいこと言うなお前」


 相手の思考が理解できないためか、急速に場の空気がゆるむ。

 なんか普通におしゃべりタイムだ。


「ふざけるなああぁぁ!! オレが必死で考えた策と、集めた手下が、お前には全くの無意味だったんだぞ!」


「そらお前が集められる取り巻きなんて、今のお前見りゃ想像つくしなあ……」


「いえいえ、過去の仲間からは、ちゃんと彫刻家や版画で食べている人も出たのですよ」


「ほう、そりゃすごい」


「オレの話をしろ!!」


「お前に興味がない。いいから死んでくれ」


 モンスターっぽさが消えたせいで、茶番感が増してしまっている。

 これはきついですよ……いやあきついですねえ、どうしましょ。


「なめてんじゃねえぞ……オレの人脈なら、やべえもんも手に入るんだよ!」


 最近よく見る、注射器とリボルバー銃の合わさったやつだ。


「お前、それをどこで」


「裏の行商に混ざっていた女がな、家の美術品と交換でくれたのさ。どうせ持っていても無意味だ。全部売り払ってやった」


「絵までも捨てましたか。審美眼くらいは残っていたでしょうに」


「ああ、だからこそこいつと、金が手に入ったよ」


『ルシファー』


 いつもの声だ。そして羽がドス黒く暗い色に染まり、皮膚が紫に変貌していく。


「やっぱりかよ……」


「心当たりが?」


「関わらないほうがいい。神と殺し合いの日々になるぞ」


「それは困りますね。速やかに倒して帰りましょう」


 モッケイと一緒に、光速の十倍で移動する。

 背後に回り込み、二人で右ストレートを繰り出した瞬間には、もう変身は終わっていたらしい。


「無駄だあ!!」


 二本に戻った腕で、俺達の拳を掴む。

 どうやら自我が残るタイプらしいな。


「どうだ! これがオレの新しい力だ!!」


「人のこと言えた義理じゃないが、あんまり知らない女から、変なもの貰わない方がいいぞ」


 本当に言えたことじゃないねえ。まあリリアは知り合いだったからセーフだろ。


「うるさい! モッケイの手下なんぞが説教するな!」


 爆発する黒い魔力から逃れ、魔力波と拳圧で応戦する。


「残念、彼はダチです。あなたが手に入れることのなかったものですよ」


「黙れ! お前を殺して、全てを奪ってやる!!」


 羽を大きく広げ、魔力で満たすことで、黒く光る翼としている。

 そのまま光速を超えて突っ込んできた。


「まずはその羽、切り落とす!」


『ソード』


 見るに耐えんものは消してやろう。

 いつもの剣で、すれ違いざまに一刀両断だ。


「オアアアァァ!?」


「弱いな。こんなもんじゃないはずだが」


 前にルシファー化したやつより弱い。どうなってんだ。


「アネルコは武術できませんよ。魔力は人並みですが」


「素体が弱いのか」


「何故だ……なぜここまでして勝てんのだ!」


「注意力が足りないのでしょう。墨龍にも気づかない。いくら周囲が暗くとも、これはいただけませんねえ」


 墨と水でできた龍が、アネルコの右腕を食らう。

 噛み付いて強引に食いちぎっているように見えるな。


「ギャアアアァァァ!!」


「やるねえ」


「天才ですから」


 この好機を逃さず、徹底的に攻め続ける。

 モッケイが体術も超人であると知った。こいつ万能か。


「まだだ! モッケイだけでも地獄に送る!!」


 アネルコの口に、闇っぽい魔力が集結していく。

 必殺技でも出す気なのだろう。


「終わりにするぞ」


『真! 流・星・脚!』


 久々に必殺技キーである。綺麗さっぱり始末しよう。


「では趣向を凝らしましょう」


 右足に墨と水が集まり、その魔力を高めていく。


「そのまま蹴ってみればわかりますよ」


「ほう、ハードル上げてくるじゃないか」


「フハハハハ!! 死ね! モッケイ!!」


 ちょうどビームを撃ってきたので、回し蹴りで迎撃しよう。

 蹴りの軌道上に墨がぶち撒かれて、豪快に筆を滑らせたようになる。


「おぉ! お前こういう演出もできるのか!」


 これかっこいいな! 特に回し蹴りで広がっていくのがいい。

 なんかゲームとかでもありそうな演出だ。


「天才のマルチな才能が出てしまいましたね」


「その才能に乗っていくぜ!」


『成敗!!』


 一気に右足の力を開放。

 銀河に光と闇の軌跡を描き、アネルコへと必殺キックをぶちこんでやる。


「光と闇が備わり最強に見えますね。これが友情パワー、というと聞こえが良さそうです」


「今回だけそういうことにしておいてやる。いくぜぇ!!」


 俺たちの友情パワーとやらは、見事アネルコを貫いた。


「こんな……こんなやつらに……オレの……ウガアアアアァァァァ!!」


 断末魔を残して大爆発。これで宇宙の平和は守られたのだ。


「さようなら。もう化けて出ないでくださいね」


「おつかれ。さっさと帰って休むぞ」


「いいですね。久しぶりの運動で疲れました」


 さっさと展示会に戻って、こいつを護衛したら任務完了だ。

 わずか数日なのに、えらい密度だったな。

 しばらくゆっくりしようと思った。

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