食べられないカニを狩ろう

 黒くて二足歩行するカニ軍団を倒そう。


「はっ!」


 目の前に迫る一匹を縦に斬りつける。

 意外と抵抗なく斬れるもんだな。

 途中で止まったカトラスを引っこ抜き、抜けた勢いそのままに攻撃開始。


「サンダースラッシュ!」


 雷の斬撃は、敵の上半身と下半身を綺麗に切断して消えていった。


「かなり楽だな。連発できる」


 軽い攻撃魔法はもう撃ちまくっても抵抗がない。

 実際には魔力消費があるのだろうが、本当に微々たるものだ。


「これ川に電撃流しちゃいけないんだったよな?」


「うむ、遠巻きに迎撃するぞ」


 川はかなり広い。おそらく深い場所もあるだろうし、敵陣に入りたくもない。

 それでいて電気流すわけにもいかないときた。

 川に軽く入って戦っているやつもいるからね。


「上流から浄化されるまで、時間を稼げばいいだけよ」


 それがクエストの本題だ。

 上流の強敵を高ランクが処理し、そのまま浄化を開始する。

 それまで無駄に湧く弱いカニを低ランクが倒す。

 大量の敵と戦うというのは、結構訓練になるそうな。


「一緒に接近戦をしてみましょう」


 イロハの手には『決して折れない刀』と影筆で書いた刀がある。

 便利だなそれ。俺はソードキー禁止しています。


「最初の頃と同じよ。剣は切っ先を前に。あとは敵の動きを見て判断すればいいわ」


 言いながらすらりとカニを切り刻んでいくイロハ。

 あれは真似できる動きじゃないぞ。

 とりあえずハサミを避け、手首あたりを狙って両断。


「関節部分は弱いっぽいな」


「赤黒い個体は強度が上がっているから気をつけるのだ」


 キアスが超能力でカニ同士を派手にぶつけて砕いている。

 いいなそれ。なんかのきっかけで使えるようにならんかな。


「よそ見していると怪我をするぞ」


「わかっているさ」


 とは言ったものの、やはり群れている敵はうざい。

 ハサミを剣で受けるはめになる。


「おぉ……とっと。わりかしいけるな」


 ちょいと衝撃が来たが、打ち合えないレベルじゃあない。

 弾き返してむき出しになった胴体に剣を突き立てる。


「アジュのパワーが上がっているのよ」


「俺でも成長しているのねえ……感慨深いわぁ」


 しばらくイロハのサポートありで接近戦をしてみる。

 火を吐く個体はキアスが潰してくれているから安心だ。


「こいつら本当に群れているわけじゃないな」


「ほう、気づいたか」


「仲間意識があるわけじゃない。生物がいる場所へ集まってくるんだ」


 それが自動的にというか、必然というべきか、群れて襲ってくる状況になっている。


「うおっと、なんかこいつだけ速いぞ!」


 倍くらいのスピードで来やがった。

 カトラスの魔力スロットを二個使い、雷撃付与して斬りつける。

 やはりすぱっと切れた。速いだけで硬くはないのな。


「カーニーが混ざっているわね」


「カーニーってなんだよ」


「かなり凶暴性の増したカニよ」


「つまりカニなんだな」


 区別がつかないだろそれ。よく見るとなんか色違いが結構いる。


「カニーニもいるから気をつけるのよ」


「パニーニみたいに言われましても」


「パニーニって何?」


「そっちは知らんのかい」


 異世界さんは何があるかわからん。

 個人が知らない可能性もある。つまりめんどい。


「カニに似ているから通称カニーニよ」


「全部似てるだろ! しかも通称って!」


「いかん、あそこにチャーリーまでいるぞ」


「もう人の名前だよな!?」


 茶色いカニがいる。茶色いからチャーリー?


「チャーは納得してやる。リーはどっから来た?」


「チャーリーっていう名前は無理がないか、の略よ」


「チャーリーありきだろそれ!? 色関係ねえ!!」


 まずチャーリーという名前があっての無理だろ。

 絶対語源じゃないわそれ。


「カニチャーリーもいるわね」


「カニじゃねえチャーリーってなんだよ! カニチャーハンみたいに言うなや!」


「推察するに、カニっぽいチャーリーのことだろう」


「それ人間だな!?」


 カニっぽいやつが人間かどうかはノーコメントです。


「正直に言え。どっから悪ノリ始めた?」


「カニーニからね」


「ほぼ最初から!?」


「たまにははしゃぐのも悪くはない。親交とはそうして深めることもある」


「俺への負担とか考えろや……まだ敵いるのに疲れたぞ」


 めっちゃ無駄に体力使わされた。

 なのにまだ敵が多い。めんどいぞ今回。


「ええい鬱陶しいわ。ライジングスパーク!」


 雷化の練習でもするか。

 右腕を数本伸ばし、拳がぶつかった場所で炸裂させる。

 よしよし順調だ。


「ニードル!」


 蹴りを伸ばし、先端を槍のようにして突き刺す。

 もっと応用していこう。


「サイズ!」


 そのまま敵を貫いて片面を刃にしたら、鎌状に変換。

 柔らかいカニという矛盾した連中を切り刻む。


「囲まれているぞ」


「知っているさ。もう移動済みだ」


 雷速移動もちゃんとできる。

 俺のいた場所には雷球を設置じておいた。


「ニードルスパーク!」


 球から無数のトゲを生やし、一気に爆発させる。

 こういう小細工が好き。


「ライジング……ダブルナックル!」


 両手をしっかりと組み、そのまま巨大化させて放つ。

 ロケットパンチとかそういうイメージだ。

 もちろんぶつかると電撃が爆発する。


「よーし、かなりカニも減ったな」


 人体への再変換も完了。これはもう慣れてきた。


「うむ、順調に強くなっているな。マスターが強いと誇らしいぞ」


「アジュはそうやって真面目にしていればかっこいいのよ」


「どうだかね」


 イロハもキアスも俺よか強いと思う。というか確定でイロハの方が強いだろうに。

 褒められた経験が少なすぎて、どう受け止めていいかよくわからん


「おお~、わーけわかんねえ成長の仕方してやがるな~」


 なんか聞き覚えのある声だ。

 グラサンかけた金髪の男で、全身白い服と帽子。


「アクセル先生?」


「おう、忘れられてねえかちい~っと心配だったぜい」


 戦士科のアクセル先生だ。

 前は黒で同じデザインの服だったし、気に入ってんのかな。

 どうやら監督として見回っているらしい。


「お~もしれえことになってんなあ~。それできるやつほっとんど見たこと無いぜ」


「そうなんですか?」


 長い戦士人生と教師人生でも数えるほどらしい。

 使うたびに驚かれているが、学園教師が言うってことは相当なんだろう。


「保証してやる。かなり珍しいもんで、それを使えるやつはセンスがある。弱点を知り、使いこなせば強くなる。魔法科に行ってるかい?」


「ええ、よく行っています」


 魔法科でこれの講座などはやっていない。

 だが基礎や知識の蓄積は可能だ。

 それにより精度も増したと思う。


「可能性はどんどん試せ。ちゃんと仲間もいるみてえだしなあ。一緒にがんばりゃあいいのさ」


「やってみます」


「私たちがしっかりサポートします」


「任せるぜい。んじゃ他見回ってくるわ。そろそろ浄化も終わるから、気をつけてなあ。追い込みで大量に出るぜ」


 そして先生は去っていった。

 入れ替わりにカニさんが大量です。


「出過ぎだよ。どこにいたんだこいつら」


「浄化されるからな。川から出ようとするのだ」


「影の兵隊頼むわ。キリがない」


「そうね。少し減らしましょう」


 影で作られた兵隊さんに倒してもらう。

 これでサクサク進むわけだが、数は減っても全滅はしていないな。


「妙ね。ここまで大量には出ないし、もう浄化が終わって高ランクがこちらに合流していいはずよ」


「何かあったのかもしれぬ」


 そこで上流方向より大爆発。

 はい面倒なことが起きた気配ですよ。


「がんばれ高ランク。俺たちはカニを狩るわ」


「いいのか?」


「出しゃばるべきじゃない。ちゃんと高ランクがいるし、そんな場所で目立ったらいけない」


「そうね。アクセル先生もいるわ。本当に危険ならこちらに来るはずよ」


 頼むから面倒なことになりませんように。

 もう祈るしかなかった。

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