恐怖 ゴールデンカニ!
下流のカニを狩り終わり、他の連中が休憩を取り始めている。
そしてまた爆発音。完全に上流だな。
「みんな動かないのな」
「高ランクの戦いに混ざれないもの。邪魔になるだけよ」
「またカニが湧くかもしれぬ。待機も仕事ということだろう」
「そりゃいいや。しばらく休むぞ。川から離れてな」
離れた位置で素早く水分補給と携帯食で小腹を満たしている連中がいる。
ああいう感じで補給すんのね。
「キャンプってよりはサバイバルだな」
「インドア派には縁がないだろう。満喫しておくのだ」
適当な岩に座って休憩開始。
スロットから水とおにぎりを出す。
中に作りすぎた佃煮を入れてある。
作ったら腐らないうちにちゃんと食べきるのだ。
「興味があるなら、今度キャンプ場に行きましょう」
「遠くないか?」
「学園内にあるわよ」
「えぇ……」
学園内にキャンプ場があり、しっかり管理されているんだとか。
有料らしいけど、値段的には普通らしい。
「上級者コースもあるけれど、普通のキャンプでいいわね」
「行く前提なの?」
「思い出を作るのだ。同志よ」
「ううむ……素人にできるもんかね? 山とかなめない方がいいぞ」
これは俺がインドア派だからってだけじゃない。
もう冬が近いのだ。キャンプがうまくできなきゃ凍え死ぬぞ。
山を甘くみてはいけない。
「私はプロよ。ちゃんとサバイバルの訓練も受けているわ」
「あー……忍者だもんな」
フウマは自然も豊富だし、そら訓練も受けておりますわなあ。
「初心者向けの場所がちゃんとあるわ。四人で一日だけならいいでしょう?」
「…………金かかる?」
「本格的な道具を揃えたらかかるけれど、テントじゃなくてロッジにして、調理場のあるもので、外で作って外で食べるのよ。それくらいならいいでしょう?」
「まあ……悪くはないのか?」
本当に軽いプランらしい。キャンプ実習みたいな感じかな。
「その程度の金はあるよな?」
「ヤマトの報酬がかなり入っているわ。それ以外だって国からとクエストで増えているもの。なんとでもなるわ」
「だからってあんまり無駄使いはするなよ。下品に無計画に買うとすぐ金は減るからな」
たとえ金持ちになっても、無駄なお金は使わない。
節約を覚えましょう。豪華にする必要はありません。
俺は今が一番楽です。
「まあ、じゃあ前向きに検討する。少しくらいは」
「そうしておいて。四人で思い出を増やしましょうね」
「うむ、良い傾向だ」
非常に不安だが、あまりにも放置しておくと何をされるかわからん。
適度に遊んでやろう。
「あとで計画を立てましょうね」
イロハの尻尾がゆらゆら揺れている。
機嫌がいいのだろう。完全に行く空気ですよ。
「失礼、ジョークジョーカーのサカガミさんですね?」
なんか鎧着た人が来た。知らない人だな。
フルフェイスで顔も見えない。
「アクセルより伝言。至急こちらの指定したルートより救援乞う。案内は私が務めます」
「うーわ……やっぱりなんかあったな」
頼むよ高ランクさん。俺を目立たせないでくれ。
そして余計な運動をさせるな。
「人払いの結界は張ってあります。外からは見られない。少々数が多く、逃げ出す敵を隔離したので討伐願う。報酬は上乗せ、だそうです」
「どうする?」
「行ってみましょう。これもまた戦闘訓練を積むためよ」
「仕方ないか。キアスは戻っていてくれ」
「うむ、気をつけろ」
キアスは俺の領地へ帰す。念の為だ。
召喚したら帰還させる。両方できて便利だな。
「ではこちらへ」
「イロハ、ちょっと頼む」
軽く指示を出して一緒に走る。
鎧の人めっちゃ速い。こんなもん追いつけるか。
森の中を全力疾走はやめろ。
「ちょっと速いですって」
「…………既に結界内です。何か呼ばれるだけの力があるのでしょう?」
「影頼む」
「了解」
イロハに影で覆ってもらい、いつものように鍵発動。
『ミラージュ』
『ヒーロー!』
これで制服のままだ。問題なし。
「じゃあ行きましょうか。今のは気にせずに」
案内してくれる人に並ぶ。音速超えているくらいか。
会話しながらでも問題ないな。
イロハも並走できる。
「わかりました」
何も聞かないあたり素敵ですよ。
詮索しない人はいいですねえ。これで敵じゃなけりゃいいな。
「着きました」
確かに敵がいた。
金色に光るマネキンに、カニのハサミがついている。
「もうカニ要素少ないじゃん」
『ガード』
ガードキーにより、こっそり鎧の人の情報や魔力の念だけを外に漏らさないようにする。
「見たことがない種類ね」
イロハですら知らんらしい。
はい胡散臭い。とっても嫌なスメルがしますね。
「ゴールデンカニだな」
「気をつけてください」
綺麗なクラウチングスタートの体勢になるカニ。
なんか超速いっすねカニ。音速超えてやがる。
「直進できるカニはカニじゃないな」
裏拳ぶつけて破裂させた。ちょっと芸がないな。
「陸上選手みたいに走ってんじゃねえよ」
「囲まれているわ」
「だな。鎧の人、死なないように」
「やってみます」
マッハで動き続けるカニと森のなかでバトル。
いやあ意味わからんね。
もうちょいギャグ要素薄目でお願いしますよ異世界さん。
「スピードが上がっていくな」
「そうね。でも倒せないほどじゃないわ」
イロハも一撃でカニを倒せる。パワーもスピードも上だ。
カニの金色がさらに強くなるが、まあそれだけ。
森で金色は目立つわ。
「迷彩効果すらないってアホか」
手刀の真空波でまとめて切り裂いていく。
強度も上がっているくさいが、それでも弱い。
「ハサミさえ気をつければいける。しかし減らんね」
「どう考えてもおかしいわ」
「高ランクも先生もいるのに、この程度の敵が逃げるのはおかしいよな」
ちょっとわざとらしい会話をしてみる。
ついでに通信機のスイッチが入っているか確認。
よしよし通っているな。
「もうすぐ全滅させて浄化が終わらないとおかしいわ。そうでなければ他の先生や神々が調べに来るはずよ」
カニの勢いがちょっと弱まった。
ううむ、やはりそういうことか。
「減ってきたな」
「カニが集まりだしたわね」
融合してさらに輝く金色のカニ。
なんか後光がさしているんじゃないかと見紛う光だ。
「カニから出ているのはおかしいけどな」
「さっさと倒しましょう。きっとボスよ」
「はいはい。よっこらしょっと」
イロハに向けて蹴り飛ばす。
それをイロハが俺へ蹴り返す。
美しいパス回しだ。ボールが金ピカのカニであることを考えなければな。
「はいこれで終わり」
ダブルキックにより魔力を込め、爆散させて終了。
かなりあっけないな。神話生物以外に鎧を使うとこんなもんか。
「お見事です」
鎧の人が褒めてくれる。
ちびちびとカニを倒していたが、怪しいやつだ。
正体晒してもらいましょう。
「どうも。で、あんた誰よ?」
「アクセルの使いのものです」
『おかしいねえ~。おれっちはそんなもん頼んだ覚えがい~っこも無いんだけどねえ~』
イロハの通信機から先生の声がする。
影に俺の通信機を入れ、アクセル先生のところまで伸ばしてもらった。
あとはこっちの話を聞かせるだけ。
「そんなもん存在してないってさ」
「ありゃりゃ、失敗失敗デス」
女の声だ。さっきまで男っぽかったのに。
『こっちはぜ~んぶ片付いたぜい。怪しいねえ。おれっちも行こうかい?』
「いえ、そのまま生徒たちを安全な場所へお願いします」
『りょ~うかい。き~つけてなあ』
「ってわけだ。ヴァルキリーか? いいやつもいるらしいが、返答によっちゃ死んでもらう」
「ちょこっとだけお力を拝見したかったのデスが……ごめんなさいデスー」
なんかノリが軽いな。よくわからんやつ。
「なんでわかったのデスか? 気になるデス!」
「俺が初対面で正体わからないやつを疑わないはずがない」
「うーむ調査不足デスねえ。反省デス」
「いいからお前なんなんだよ。敵なのか?」
こいつから悪意とか殺意を感じない。
目的もわからないし、殺すのは敵かどうかはっきりしてからだ。
「ちょっとお知り合いになりたかっただけデス。敵でもヴァルキリーでもないデスよー」
「せめて正体を言え。兜を外せ」
「それは次のお楽しみデス! これ以上はアマテラスさんに怒られるからバイバイデスー!!」
またヒメノか。
あいつは会わなくても厄介だな。
いや今回は抑止力になっている?
あいつの知り合いは本当に変なやつしかいないな。
「逃がすと思うのか?」
光速の二百倍で背後に周り、首を掴んで締め上げる。
魔力の流れは遮断しておいた。
俺たちの戦闘データは渡さない。
「オオゥ、凄いパワーデス! しょうがないからデータは破棄するデス。お持ち帰りできなくて残念デス。では自爆!!」
「なぬ?」
ガラスが割れるような音がして、正体不明の人物は砕け散って消えた。
鎧ごと粉々だ。
「アジュ、怪我は無い?」
「痛くもなんともない……何だったんだこいつ」
とりあえず先生に連絡を取る。
浄化は無事終わったらしい。
『依頼は終了だ。変なのに絡まれちまったようだが、本当に困ったら相談しろよ? これでも教師なんだぜ~い』
「すみません。その時はお願いします」
「あいよ~っと。み~つけた。怪我ねえな?」
既に話しながら俺たちの場所を特定していたらしい。
視線の先に先生がいる。
「ええ、二人とも無事です」
「そうかい。んじゃ一緒に帰るぜ。また来たらおれっちも戦ってやるよ」
「何から何まですみません。助かります」
通信機を返してもらい、ささっと帰路につく。
クエストカウンターまで行き、報酬を貰って家に帰るまで、本当に何もなかった。
「どうなってんだか……」
「ヒメノに聞いてみましょうか?」
「とりあえずそれが早いんだろうけれど……おーい帰ったぞー」
まずはギルメンに報告だ。
家の扉を開けると、リリアがリビングから出迎えてくれる。
「お、帰ってきたのう。どうじゃった?」
「ああ、なんかちょっとおかしくてな」
「お、帰ってきたのじゃ。面白いことでもあったかの?」
なんか二階への階段からリリアが降りてくる。
「リリアが……二人?」
姿形は完全にリリアだな。
まあそれだけだ。なんのつもりか知らないが、疲れて帰ってきたというのに、くだらんことをしおって。
「ちょっと遊ぶか」
こんなもんわかるに決まってるだろうが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます