クエスト受けたり領地に行ったり

喫茶店と戦闘クエ

 ヤマトから学園に帰って数日。

 昼の魔法科も終わり、清潔で落ち着く喫茶店で一人だらけていた。

 木造の店内はそこそこ広く、二階もある。


「ふあぁ……」


 小さな植物と、やたら座り心地のいい椅子がいい感じ。

 最近は簡単なクエを終わらせて、ここでうだうだするのが好き。


「んー……」


 いかん寝そう。室内が温かい。

 今は客も少なく、カウンターの俺と、テーブルの客数名だけだ。

 今日は音楽がかかっていないので、さらに静かで寝そう。


「ねむ……」


 ジュースが冷たくて少し目が覚める。

 こいつは容器が正方形に近く、持つ所がくぼんでいるタイプ。

 中央に入っているガラス板をつまみ、上にずらすと左右のジュースが混ざる。

 板は器より長いので、指が入る心配なし。


「クッキーお願いします」


 適当に何か食おう。

 寝るわけにもいかないし。


「クッキーに目が覚めるハーブでもお入れしましょうか?」


「お願いします」


 気が利く提案をしてくれた店長は、まだ三十かそこらに見える。

 お兄さんとおじさんの中間みたいな人。

 あまり話しかけられるのが好きじゃない俺にとって、余計なことを聞いてこない店長は好き。


「ジュースおかわりいります?」


「今はいいです」


 働いている女が声をかけてくる。

 バイトかクエストかは知らない。名前も知らん。

 この人は確実に同年代だし、店長の知り合いかな。


「いつも眠そうですが、クエスト大変なんですか?」


「そこそこ」


 この人との会話はよくわからん。

 ていうか日常会話苦手。どうするのが正しいんだろうか。


「そろそろ恋人さんが迎えに来るんじゃありません?」


「今日はみんな予定がある」


 三人を恋人だと思っているようだ。

 訂正も面倒なので放置。あいつらの機嫌がちょっとよくなるし。


「そうですか。あんまり長話も勘違いされそうですね」


「あいつらはそういう勘違いをしない。俺と一緒にいるくらいだからな」


 この女、どうやら好きな男がいるようだ。

 もちろん俺じゃない。まあ安全圏だと判断しているのだろう。


「仲の良さを感じますね。おっと、いらっしゃいませー」


 客が来たようだ。

 これで会話が終わるぜ。正直どう話せばいいかわからんから助かる。


「やっぱりここにいたわね」


「イロハ?」


 おかしい。今日はフウマの予定があるはず。


「予定より大分早く終わったわ。ついでに迎えに来たのよ」


「そうか」


 自然と俺の横に座る。クッキー来てジュース飲んだら帰ろう。

 迎えに来るってことは移動が必要なんだろうし。


「なんかあったか?」


「いいえ、ただ来たかっただけよ。彼と同じものをお願いします」


「はーい、かしこまりましたー」


 どうも違ったらしい。しばらく楽できるな。


「はいどうぞ」


「ありがとう。それで、この後の予定は?」


「なんもない」


「最近料理しているか魔法科にいるじゃない」


「そういえば、この前食材買って店でぐったりしてましたね」


「よく覚えているな」


 俺なんてこの人の顔と名前すら曖昧になるのに。


「客商売ですからね。自然と。苦戦しているようですが、何を作っているんです?」


「天丼のタレ」


「てんどん?」


「まあご飯だよ。喫茶店で出していいメニューじゃない」


 急にあのチープさが作れないかと思って実験している。

 料理は人並みにできるので、なんか変化球を作りたくなるのだ。

 こうなごの佃煮も結構試行錯誤して頑張ったりした。

 こっちに来てから、料理すんのが楽しいかも。


「あとは味噌煮込みうどんとかな」


「妙なものを作り始めるのよ。それでも味は悪くないわ」


「たまーに食いたくなるんだよ」


 まだタレ完成していないし、なんとかしたいのだ。

 ゆっくり味を変えてはいるんだがねえ。


「天ぷらがあったのが救いだな」


「フウマ料理なら私ができるわ」


「あれはフウマっていうか……ううむ……」


 天ぷらは存在した。作り方も同じ。

 でもタレは違う。あのチェーン店丸出しの味はフウマには無かった。


「お待たせしました。ハーブクッキーです」


 店長がクッキー皿持って来た。

 焼いているいい匂いがずっとしていたよ。

 待っているだけで腹が減るね。


「どうも。うん、美味い」


「ありがとうございます」


 しばしクッキー食べながらイロハと話す。

 店長も店員もこういう時は会話に入ってこない。

 気を遣っているのだろう。客も増えてきたし。


「この後はまた料理かしら」


「いや、ちょっとクエ探しでもしようかと」


「最近は弱い敵を狩るクエストを受けているわね」


「ああ、Dになると敵のランク上がるだろ。初心者用の敵が対象からちょこっと外れる」


 これが地味に困るのだ。

 俺自身が弱いままなのに、一番のザコはFやEのターゲット。

 自主練でもするしかなくなる。

 それが嫌だからザコ倒すクエなのさ。


「まさかザコを下のランクに譲る日が来るとはねえ」


「学園の依頼はランクが厳密に決められているから、奪うこともできないわね」


 仕方がないのでしょぼいクエを探しては受けている。

 俺は護衛には向かないので、純粋な討伐がいい。


「たまにはちゃんと戦闘でもしてみましょうか」


「ん?」


「一緒に戦闘クエを受けましょう。どれだけ強くなっているかわかるはずよ」


 そうきたか。今日はもう授業もない。

 暇といえば暇だが。


「Cに上がる気がなくても、接近戦の苦手意識は消さないとだめよ」


「ランクが上がりすぎるのも困りもんだな」


「報酬は少なめでいいから、単位になるものを選びましょう」


 ヤマトから大量に報酬を貰っている。

 おかげで生活には苦労しないだろう。

 ちゃんと節約するべき部分はしているし、そこは余裕がある。


「行く……しかないだろうなあ……」


「そうね。お散歩しながら戦闘もしましょう」


「どっか行きたいだけか」


 単純にこいつも暇なんだなこれ。

 仕方がない。適当なクエ探して受けよう。


「んじゃ出るぞ」


 クッキーは食い終わり、ジュースも無くなった。

 客も増えてきたし、さっさと出よう。


「ええ、行きましょう」


「またどうぞー」




 そんなわけでクエスト受けて大きめの川へ。

 見通しのいい開けた場所だ。

 少し遠くに他の生徒も複数いるな。範囲が広いからだろうか。


「今回の魔物は瘴気の塊で、魔石を落とすタイプの殺戮マシーンと化したカニ。これを狩り続けろと」


「この季節は多めに出るクエストね」


「気負うことはない。我々に倒せないものではないぞ」


 キアスも一緒である。

 召喚獣は成長するし、マスターと連携して動けるよう訓練も必要だ。


「カニとはいえ甲羅は柔らかいわ。そもそも姿を真似たものだから」


 川に瘴気が溜まっているポイントがある。黒くて嫌な気配だ。

 案の定二足歩行のブラックカニがいた。


「完全に二足歩行だな」


 両腕がハサミ。太い二本の足。

 カブトガニみたいな上半身で、甲羅の中に目玉が二つ見える。

 大きさは1メートルちょいから百六十センチくらいまで様々。


「特撮の怪人かお前は」


「とくさつ?」


「気にするな。あいつら速いのか?」


「それなりにな」


 一応カトラスを構える。

 あまり接近戦はしたくないが、他にも人がいる以上、あまり大魔法ぶっぱはしたくない。


「少ないやつから狩るぞ」


「うむ、まずは少数を撃破だ」


「今回は援護に回るわね」


 敵のデータは貰った。

 確かハサミが痛い。足がそこそこ速い。

 泳げる。たまに火を噴く個体がいる。


「どういう生き物なんだよ」


「生き物ではないから可能なのよ」


 そういやそうだったね。

 適当に攻撃魔法を撃ってみる。

 遠くに飛ばないように、斜め下に向けようか。


「サンダースマッシャー!」


 足を吹っ飛ばせた。どうやら本当に弱いな。


「たまに硬いやつが混じっているから気をつけろ」


「わかった」


 たまには地味な戦闘もいいだろう。

 少しカニと戯れてみようか。

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