なんで朝は起きないといけないのだろう

 眠い。なぜなら朝だからだ。

 ヤマト王宮のベッドは実に快適で、完全に熟睡できた。

 早く寝すぎて朝起きてしまったのだろう。


「ん……ねむ……」


 まだ眠い。せっかく温かいのだから寝てしまおう。

 もうクエスト終わったし。

 あいつらには、疲れたから絶対にベッドに入るなと言っておいた。


「心地よい朝だぞアジュよ! 食堂へ来い!」


 ヒカルきちゃったー。ちくしょうそっちの可能性考慮してなかった。


「起きているか? 入るぞ!」


「眠いからやだ」


「失礼する」


「すんな帰れ」


 目を閉じて布団にくるまる。

 まだ眠いから動きたくない。


「本当に帰れ」


「みんなの朝食が終わったぞ!」


「昼まで起きないって言ったよな?」


「うむ。だがもう九時だぞ」


「最低十時まで寝る」


 みんな起きるのが早いんだよ。

 いいじゃないかもうちょい寝かせてくれ。


「だから起きんと言ったじゃろ」


 リリア登場。なんとか背中を押してもらい、上半身だけ起こす。

 うわあ眠気が消えていく。起きたくない。


「だが父上も兄さんも揃って話せるのは今だけだぞ」


「なんか話すことあったか?」


「話さずにどうするつもりだったのだ」


「クエスト終わったんだし、夕方くらいに帰ろうかと」


 だってすることないじゃないの。

 これ以上俺にどうしろというのだ。


「助けてもらった礼と、シリウス兄さんが今までどうしていたのかを聞けるぞ」


 他人の家庭に首突っ込むの嫌い。

 確実にめんどいことになる。


「とりあえず来てくれ。そのまま食堂前まで運ぶ」


「どうやって?」


「こうやってだ!」


 ベッドが少し浮き、ごろごろ音を立てて移動していく。


「どうせ起きないと思ってな。車輪を出し入れできるようにしておいた」


「つくまでにわしが起こすのじゃ。ほれジュースじゃ」


 なんかほどよく冷たいジュースを出されたので飲む。

 微炭酸でミックスジュースっぽいが、味が複雑で鮮明で、果物そのものの旨味が凝縮された味だ。


「ん……うまい」


「じゃろ。ちょっとはしゃっきりするのじゃ」


 リリアが髪を整えてくれる間にも、城の廊下をごろごろ走るベッド。


「いやこれ目立つだろ」


「問題ない。全員なぜか壁を向いている。誰も見ていない」


「いらん気配りをさせるな」


 メイドも執事も全員壁を見つめて動かない。

 何だよこの状況は。ちょっと怖いぞ。


「服は魔法で着替えさせたのじゃ。ほれちゃんと起きる!」


「まだ眠いのに……」


 食堂の扉が開き、そのままベッドが部屋の壁に隣接される。


「アホほど目立ってんだけど」


「気にするな」


 気にするわボケ。みんなこっち見てんだろうが。


「ようやく起きてきたのね」


「おはよー。もう朝ごはん終わったよ。アジュも来たらよかったのに」


「最初から食うつもりがないと言っておいただろう」


「うむ、用意しておらんのじゃ」


 用意されると食い物が無駄になる。

 それは納得いかないので、最初から不要だと言ってあるのだ。


「おはようサカガミ殿」


「昨日は迷惑をかけた」


 王様とシリウスがいる。

 お前普通にいていいのかよ。

 まあそこから挨拶とか色々が始まった。


「わしらが聞いておいた。スクルドのボスは不明。アフロディーテはアテナ軍からの借り物。ヤマトの愛によりパワーアップするという特性を利用し、自軍を強化することを目的としていたらしいのじゃ」


「ふーん」


 やっぱり情報なしか。

 さっさと全滅させてくれ上級神の皆様よ。


「あの銃っぽい注射器どうした?」


 スクルドは二人。アフロに注射器一個使って、もう一個未使用の銃が別のスクルドから出てきた。

 だもんでこっそり回収して預けておいたのだ。


「ヒメノ一派が朝早く回収に来たのじゃ」


「んじゃ任せておこう。あとは何だ?」


「オレがヤマトにおいてどういう扱いになるかだな」


「我々が許しても、国民はそう簡単ではないだろう」


 王家への信頼もちょっと薄れたかもしれない。

 それを回復し、真相を突き止める必要があるわけだ。


「こればかりは時間をかけてやっていくしかあるまい」


「まだ五年前の真相すら明らかではない。まずは徹底的に再調査し、同時に兄さんの疑惑と、国民への不信感を取り除いていく」


「慎重にやるさ。焦っても人の心は動かぬ」


 風当たりが強くなるだろう。

 それでも諦める気はないようだし、この人達えらいプラス思考だからね。

 まあなんとかなっていくんじゃないかな。


「五年前の調査も学園とともに始める予定だ。あまり王家が深入りするなとも言われたがね」


「敵がかなり強いようですからね」


「強い弱いで言えば、そちらも相当なものだろう。オレを救出しながらあの化物を倒せるのだ」


「ゲンジが今回の件を任せたのも頷ける。圧倒的な強さだった」


「あの程度ならどうとでもなります」


 コタロウさんでも多分殺せる。

 オルイン人類最高峰の一角はもう下手な下級神を凌駕するのだ。


「正直恐ろしいよ。あまりにも殺意や敵意がなさすぎる。それでいて神を屠る実力。オレはよく生きていたものだ」


「まあ若干あれなやつじゃからのう」


「改善はしているわよ」


「ちょっと優しくなっているはずです。敵に慈悲がないだけで」


「あれでか…………」


 敵に対していちいち何か感想とか必要なんかね。

 殺すとスカッとするやつもいれば、さっさと倒して帰りたい日もある。

 こんなもん状況によるだろう。


「俺のことはどうでもいいです。家庭の事情には踏み込めません。クエストはこれで終わりですよね?」


「そうそう、報酬と水道工事だね。こちらで手配した」


 そういう条件でクエスト受けたな。

 これで水回りの問題は解決か。


「愛に溢れた最高品質をお届けしよう。王家の危機を救ったのだからね」


「他国が完全に引くレベルの技術で全力を出そう」


「お願いします。ただあんまり自然と野生動物を壊したりしないようにできればと」


「うむ。だが水飲み場は必要だろう」


「そうですね。人が死なないくらいの間隔で水場だけでもあればいいですね」


 大規模工事をすると、それだけで動物が怯える。

 意外な所に水源があったりもする。森林も必要。

 なのでそーっと人が住みやすい場所に水道を引き、水が飲めなくて死ぬ場所を減らす感じでいくらしい。


「あとで地図と工事計画を見たりはしますが、俺は専門家ではないので」


「うむ、わしも見ておくのじゃ」


「その道のプロを集めてある。工事中の護衛は魔王三名の軍と衝突しないよう、話を通す。それが終わり次第になるよ」


「お願いします」


 よーしこれで終わりだな。

 ちゃんと視察に行く時間を作ろう。


「今回は本当に助かったよ。こちらに死者が出なかった。ジュナイザーもシャハリーザも無事だ。すぐよくなる」


「今回だけを見れば大勝利じゃな」


「後はヤマトがどうしていくかだ。アジュには迷惑をかけないようにするさ」


「そうしてくれ。ややこしい政治とかさっぱりだ。協力できん」


 俺そういうの壊滅的に向いていないのよ。

 まず他人のために動くのが好きじゃない。

 王様って面倒な仕事なのかもな。


「アジュは救国の英雄殿だ、もう何日か泊まっていっても構わんぞ」


「夜までには帰る予定だよ。祭りは楽しんだ。あとは家でだらだらする」


「そうか、ならすぐに帰りの手配をしよう」


 ぶっちゃけ長時間いてはいけない。

 俺たちは結構異質な存在なのである。

 王子を助けた謎の兵士だって、最後の力を振り絞ったジュナイザーさんであるとごり押しした。

 さっさと退散するに限る。


「お土産を用意してある。両国の姫君をあまりもてなすこともできず、王に申し訳が立ちませんから」


「ありがとうございます」


「また会談の席でお会いしましょう」


「ではそれまでにヤマトを立て直しておきます。お会いするのを楽しみにしているとお伝え下さい」


「はい、必ず伝えます」


 一応親交のある国らしい。

 フルムーンはでかいからね。王族同士の挨拶は任せる。


「アジュのために昼食は列車で食べられるものにした。用意を済ませてあるから、あとはそちらの都合次第だ」


「ナイスだ。ならちょっと王都見て帰ろうぜ。それでちょうど昼飯の時間だろ」


「また異変があれば力を貸してくれるか?」


「やめとけ。なるべく俺たちに関わるべきじゃないさ」


「わしらはどうしても詰みに入った時の最終手段じゃよ」


 本当の本当に死ぬしか無い、滅ぶしか無い場合のジョーカーなのだ。

 他人に深く関わろうとも思わないし、目立たず四人で生きていく。

 いやまあベッドに座っている今が一番目立ってる気がするけどな。


「せっかく友になれたのだ。少々寂しい気もするが……」


「いいんだよ。お互いの利害が偶然一致したら、その時だけなんとなく一緒で」


「実際、わしら以外が増えすぎるとトラブルの元じゃ」


 俺はインドア派のぼっち極振りですからね。

 他人がいるとストレスになる。

 今がベストなのさ。


「俺たちは四人で楽しく生きていく。そっちはそっちで楽しく生きろ」


「そうだな。家族の問題くらいこちらで解決せねば。そして深まる家族愛!」


「父上も兄さんもいる! ヤマトの愛は不滅だ!」


「愛か……オレにもわかる日が来るのだろうか」


「まあ頑張れ。俺よりは理解すんのが早いだろ」


 そして大きめのバスケットをいくつかもらう。

 中からいい匂いがする。

 開けてみたらきっちりケバブ入れてある所とか、芸が細かくて好きよ。

 最後まで気配りのできる王子様だわ。


「また道が交わる日がくれば、ヤマトを案内しよう! さらばだ!」


「おう、またな」


「皆、英雄に敬礼!!」


 王様までもが敬礼で送り出してくれる。

 それは嬉しいというか、なんだか複雑な気分だ。


「うん、全員ベッド乗ってるもんな」


 四人で出口までベッドで移動ですよ。

 絶妙にコントくさくてバカにされている気もしますよこれは。


「さらばだ! 我が友よ!!」


 でも本気で感謝していることも伝わるから、どうしていいのかわからん。


「そういうお国柄ってことかね」


「たまにはよいじゃろ」


「面白いしいい国だと思うよー」


「食事も美味しかったわ。また来年も来れたらいいわね」


「悪くないな」


 そんときは反乱とか起きないといいなあ。

 そうしたら四人で来るのも楽しいかもしれない。

 なんとなーくそんな気がした。

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