新キャラと護衛の依頼

 朝だ。朝飯という、俺にとっては数日に一回食うかどうかのもので実感する。

 なんか高級なもんと他人がいる食事は俺に合わんな。


「あら、サカガミ様は朝は少食なんですの?」


「朝が弱くてな」


 テーブルの向かい側にいる、金髪ツインドリルヘアーの女の子はナスターシャ。

 どうやらパイモンの妹で四天王らしい。


「まだ頭がぼーっとしてやがる」


「昨日のこと覚えてる?」


「服買ったとこまでは」


 昨日服屋で遭遇し、ご学友は城に招待すべきとか押し切られて泊まった。

 一夜明けて飯食いながら話しているが、なんか展開が急すぎて、一日がもう朧気である。


「簡単に言えば、ナスターシャちゃんのおかげで宿代と食費が浮いたのじゃ」


 なるほどわかりやすい。解説してもらうならリリアだな。


「せっかくの機会ですが、お兄様はこれから別魔王の領地へ行かなければなりませんの」


「じゃあ隊長も行きましょう。護衛として」


「じゃあの意味がわからん。魔王の護衛なんて務まるわけ無いだろ。俺は弱いの」


 無茶な要求しおるわこやつ。

 というかここパイモンの自宅で領地だよな。


「本職の兵士さんがこの城にもいるだろ。お前の部隊とかあるはずだ」


「もちろんいますよー。でも魔王用の特別列車に全員乗せていけるわけではありません。領地の警備もおろそかにできませんよー」


「事情がありそうね」


 どうも交通機関が古くなり、大規模な改装が行われているらしい。

 数日足止めくらうので、魔王用の専用路線じゃないといけないとか。


「アスモさんの領地通らせてもらうべきだったか?」


「それはそれで不安だよね」


「あの人は危険よ」


 交通機関の関係じゃどうしようもない。

 そうやって整備されているから、快適に過ごせるのだ。


「なので一緒に領地を抜けたら早いですよ」


「ううむ、悩みどころじゃな」


「学園あるからなあ。単位とか足りなくなると困るし、寄り道は少ない方がいいが」


「なら正式にクエストとして護衛してください。隊長なら問題ないでしょう」


 どうせ学園には戻るのだ。ならついでにクエストこなしてもいいんだけれど。


「お兄様から友人の中に魔王よりやべーやつがいると聞いておりますが、サカガミ様のことでしたのね」


「パイモン?」


「あはは……お友達の話はたまにしますから」


「パイモンくんは後で頭ねじ切っておもちゃにするとして」


「隊長ーそれはないですよー」


「流石に冗談だ。受けるならギルメン全員で行く」


 あまり危険なようなら断りたいが、魔界を巡るのも面白い。

 実はそれなりに楽しんでいたりするのだ。


「皆様同じ学園ギルドなのですね」


「うむ、こやつと一緒にいられるのはわしらくらいじゃ」


「四月からずっと一緒にいます!」


「なるほど。サカガミ様と皆様はそういう仲なのですね?」


 最悪の質問してくれたなこいつ。

 三人がこっちを見ています。絶対に目を合わせないようにしましょう。

 さてどう切り抜ける? 数秒で出せる答えはこれだ。


「そういうことに興味のある年頃なのかもしれないけれど、あまりそういうことを詮索するのはマナー違反だよ。よくないことだ」


 神回避だろこれ。俺凄くね? 俺めっちゃ凄いよな?

 めっちゃ不満顔ですよ三人が。

 絶対に目を合わせないようにしましょう。


「失礼いたしました。少しはしゃぎすぎましたわ。私としたことが、はしたない」


 いや改めて称賛されるべき危機回避能力ですよ。

 アジュさん神回避じゃないっすか的なことを識者が解説してくれてもいいレベルだよこれ。


「よし、なら飯食ったら行こう」


 一刻も早くこの場を去るのだ。そして時間が解決するまで待とう。

 食事終了。ささっと準備して、二両しかない列車に乗り込む。


「ちゃんと全員普段着ですねー」


「指定通りにな」


 なんでも学園の制服は雰囲気に合わないらしく、普段着にしてくれと言われた。


「ちゃんと普段着着ましょうね隊長」


「よろしければ見繕いますわよ」


「いやいい。ゴスロリとごつい鎧に言われると、なんとも言えんな」


 こいつらの普段着がこれらしい。なんでしょうねこの腑に落ちない感じは。


「ナスターシャさんのその鎧は、さっきまでと違うものですよね?」


「余所行きにしましたの」


 さっきまでが赤と黒。今は青と白の鎧だ。

 少し装飾が増えている気もする。


「ナスターシャは鎧が好きなのですよー。ボクがおしゃれな服を、ナスターシャはかっこいい鎧を好んでデザインします」


「俺の鎧は見せないほうがいいな?」


 小声でそっと聞いておく。


「ですです。間違いなく食いつきます。面倒事になりますよー」


 気をつけよう。あの鎧は美術的な価値からしてめっちゃ高い。


「では後部車両を四人でお使いくださいまし。こちらのことは気にせずごゆっくり」


 壊滅的に余計なことしまくるなこの子。

 善意なんだろうけれどめんどい。


「出発ですよー」


「そういや行き先はどんなところだ?」


「お金の街です。そこを治めているのは、ものすごーくお金にがめつい方なのです」


「お兄様の支店を出して欲しいと、前から言われておりまして」


「断っていたら呼ばれたと」


「直々のご指名ですからねー。とりあえず行って断ります」


 他人の商売に深入りすることもないか。

 俺よりよっぽど詳しいだろう。

 気にせず後ろで景色でも見ようか。


「なんだかずっと移動してんな」


「これはこれで旅行みたいで楽しいよ」


 四人で座って景色を眺める。

 魔界の風景も嫌いじゃない。自然は美しいものだ。


「うむ、誰かさんがへたれなれば、もっと楽しいはずじゃな」


「そこは仕方がない。というかこう初対面の人間にあんまり言うのもなあ……なんか違うんだよ。言いふらすようなことじゃないだろ。なんか下品だ」


「それとぼんやりさせてごまかすのは違うのよ」


「だろうな」


 なんとなーくわかる。だがそこは俺である。仕方ないね。


「他人と仲良くするというのが、少しわかりかけている段階じゃな」


「そこをなんとかすれば、攻略も近いわね」


「難しい話はやめい。景色見とけばいいんだよ」


 いつものようにリリアが俺の膝に座り、二人が横にいる。

 これで満足してくれりゃあいいんだけどなあ。

 しばらく眺めていると、自然より人工物が多くなってきた。


「さっき領地の境目を通ったわ」


「なんか妙に派手だな」


 パイモンの街はおしゃれであっても自然があった。

 なんというか、この領地は色使いが派手で建物が多い。


「そういえばそういう場所じゃったな」


「解説よろしく」


「簡単に言えばカジノ街なんじゃよ。領主の城そのものが巨大なカジノだったはずじゃ」


「俺は賭け事が好きじゃなくてな」


「わたしも」


「私もよ。あまりいいイメージはないわ」


 全員そんな感じである。俺以外は基本上流階級の方々だからね。


「わしもあまり好かぬ。今回ばかりは宿で寝ていてもよいかもしれんのう」


「そろそろ到着ですよー」


「おう、なんか趣味悪い街だな」


「そうですねー。ボクもナスターシャも好きじゃないです。ボクのお店はこういう場所には合わないのですよー」


 だろうなあ。どう考えても成金と貴族の差が出るだろう。


「ですからしっかりとお断りしていただきます」


「がんばれパイモン」


「がんばっちゃいますよー」


 そして列車が止まり、送迎の馬車っぽい魔導のなんか変なやつが来た。

 別に適当なんじゃない。金色にデコレーションされていて、なんかもうよくわかんない。品のない派手さだということはわかる。


「どうぞ」


 兵士かな。鎧着た人が迎えてくれる。鎧は黄色だ。金じゃない。

 変なとこせこくないかな。


「慣れませんねー」


「俺達はノーコメントだ」


「じゃな」


 そしてお城へ。城でいいんだよな?

 派手で趣味の悪い看板と、なんか色とりどりの明かりが灯る城。


「本当に城がカジノなんかい」


 まーたどテンプレな……こういうのが好きなやつはどういう神経してやがるんだか。


「どなたでも自由にご遊戯できますわよ。私は遠慮いたしますが」


「俺達は護衛だ。遊ぶ気はないよ」


「さっと終わらせて帰ろうね」


「着きました。足元にお気をつけください」


 気が重いし足取りも重い。けどなんとか中へ入る。

 ああもう完全にラスベガスのイメージだわ。

 ケバい女はうろうろしているし、豪勢な内装に負けじと豪勢な服を着た連中がいる。


「普段着でよかったのう」


「制服は浮くわね」


「昨日から急展開すぎてついていけんぞ」


 いかにもなでかい扉の前まで歩く。

 赤絨毯と壁の絵画はお約束なんだろうか。

 なんかあんまりいい絵には見えないけれどな。


「偽物かこれ?」


 小声でリリアに訪ねてみる。


「うむ、贋作じゃ。よくわかったのう」


 大正解。俺にお芸術を見極める力があるとは驚きだねえ。

 まあ絵がしょぼすぎるから、誰でもわかるクイズってだけだが。


「勘だ。あと単純に絵に品がない」


「いくつか本物がシルフィの家にあるわね」


「あー……そういえばお城で見た」


 小声で話し続けると、なんともあれな事実発覚。

 本物と偽物の差が出ていますな。いろんな意味で。


「失礼しますー」


 パイモンとナスターシャを先頭に、部屋の中へと入っていく。

 できれば穏便に済ませてくれよ頼むから。

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