ファッションに興味はありません

 パイモンと服屋にいます。正直めんどくさいです。


「隊長の服も選びましょう」


「いやです」


「即答してもダメですよー。普段着を持っておきましょう」


「制服でよくね?」


「だーめーでーす。リリアさんから普段着を選ぶように言われたのです」


 適当に派手なものを避け、ズボンとか選んでもらうもよくわからない。


「気に入らないですか?」


「そうじゃなくてこう……服の良し悪しがわからん。これはどっちなんだ? いいのか?」


「そこからですか」


 おしゃれというものが根本から理解できん。興味もない。


「じゃあコート買いましょう。寒くなりますから」


「まあそれならいいか。すまんな」


「どういうデザインがいいですか?」


「こだわりはない。そもそも種類を知らん」


 ずらっとかけられている服は、ぶっちゃけ何がどう違うのかすらわからん。


「肩にもこもこあるやつとかどうです?」


「動きが制限されるな。顔に当たって邪魔」


「ではぴちっとしたやつです」


「もうちょい肩が回るやつで、内側に収納スペースがあってだな」


 どうもピンとこないのさ。試着を何回もするのもめんどい。


「めっちゃこだわりありますよね?」


「俺は機能性重視なの。おしゃれ的なこだわりはない。地味な色の方が夜襲とかかけやすそうだけれど」


「夜襲前提もどうなのですか。でも好みがわかってきましたよー」


「そこまでしてくれなくていいぞ。そこまでの義理がパイモンに無いだろ」


 こいつがここまでする意味がわからないのだ。

 流石に気を遣うというか、何故そこまでする。


「隊長のような気難しいタイプのお客様にどう売るかの戦略です。新規顧客を開拓ですよー」


「そういうやつはこういう店に来ないぞ」


「別にそういうお店に卸せばいいのです。それも含めて可能性の模索です」


「なるほど」


 パイモンくんは賢くて偉いなあ。

 それに比べてアジュさんのなんと怠惰なことか。


「では少し余裕があって、内側に武器や小道具が収納できて、膝くらいまであるコートです。内側は袖を通しやすく、温かい素材です。お洗濯も楽々」


「お、いいなこれ。着ていて重さを感じない」


 紺色の長めのコートだ。肩も腰も動きやすい。

 体に吸い付く不快感もないし、素材もいい感じに馴染む。

 それなりの値段だが、十分に手持ちで買える範囲だろう。


「よくやったパイモン。これに決める」


「おおー。ついに隊長に勝ちましたよー」


「何の勝負なんだよ」


「このまま着ていきます?」


「ああ、会計だけ先に済まそう」


「はいなー。ではボクは終わるまで別の場所にいます。隊長たちの邪魔はしませんよー」


 金を払ってそのまま俺だけ試着室の前へと戻る。


「お、ちゃんと買っておるのう」


「かっこよさが上がったね!」


「そらどうも」


 実感ないけどな。

 全員冬服のようだ。スカートが長い。

 どこか上品さを残しつつ、嫌味にならない程度に普通の装い。


「なるほどな」


「どういうコメントなんじゃそれ」


「いいんじゃないか? 普通のちょっと上って感じだろ」


「そうね。上品さと清楚さだけは残してみたわ」


「清楚さは大切じゃ。アジュが処女厨ということを忘れてはならぬ」


「その通りだ」


 ビッチくさい服装はNGです。ちゃんと考えられているようだ。

 すんなり受け入れられて、なおかつ褒めやすい。

 全員ぶっちぎりで美形なので、普通に着飾ればそれだけでいいからな。


「はいじゃあ褒めてみよう」


「褒め終わっただろ」


「終わった……の?」


「まあよい、次行くのじゃ」


 全員また試着室のカーテンを閉める。

 あ、これ長くなるな。


「次はこれだー!」


 なんかアラビアンな服だ。

 白くて丸いターバンみたいな帽子。

 腹の部分だけ布がない、ズボンがちょっと膨らんでるやつ。


「ヤマトで見てから着てみたかったんだ」


「ほー面白い。新鮮だな。意外と似合うじゃないか」


 これはこれで似合っている。

 何を着ても似合うことがひたすら証明されていく。


「次はこれよ」


「和服? よくあったな」


 フウマの和服だ。それも丈の長いやつ。

 普段着じゃないなこれ。


「なんだろうな。完全にファンタジーの住人のくせに似合うじゃないか」


 イロハなんて白いケモミミあるくせに、和服に違和感が一切ない。

 着慣れているとそうなるのだろうか。実に不思議だ。


「面白い。なんか不思議でいいぞ」


「次じゃな。どんどんいくのじゃ」


 着替えに慣れてきたのか、カーテンが開くまでの時間が早くなっている。

 妙に適応力高いなこいつら。


「はい、ドレスだー!」


 ちょっとだけ余所行きの綺麗なドレス。

 シルフィはこういう洋服が一番似合う。


「パーティーから高級レストランまでこれでいけるのじゃ」


「おー綺麗綺麗。そうするとお姫様感出るよな」


「ふへへー、いいでしょー」


「こういうのは所作が身についていてこそ、本領を発揮するからのう」


 だろうな。凡人では似合わない。見た目と仕草でちぐはぐになる。


「で、買うやつは決めたか?」


「アジュはどれがいい?」


「最初のやつ以外はどこで着るんだよ。いいから自分で選べ」


 完全にネタに走っていく流れだ。ここで断ち切って普通のを買わせよう。


「ではファッションショーはおしまいじゃ」


「これ以上は確実に飽きるわね」


「着替えて買って来い」


 そして会計済ませるまで待つ。

 いいタイミングでパイモンが戻ってきた。


「さてさっさと学園に帰るぞ」


「ちょっと無理かもしれないです」


「どうした?」


「もう夕方です。あと列車の関係ですね」


 夜は寒くなりそうだし、あまり出歩きたくない。眠くなる。


「いっそ魔界漫遊でもしてみては?」


「長居するつもりはない。学園あるだろ」


「結構単位取っておるじゃろ」


「あるけれど、休むならちゃんと家でだらだらしたい」


 遊びに行くと疲れちゃって休日の意味が無くなるからね。

 するなら本格的にうだうだしたいのだ。


「今は宿探しだな」


「おうちに来ますか?」


「普通に宿で。魔王の家はでかくて緊張する。熟睡できん。そもそもなぜついてくる?」


「領地でトラブル起こされると困るのです」


 ごく普通の理由だった。いやこれ普通か?


「あのな、勘違いしているやつが多いから言っておく。俺は相手がいわれのない罵倒をしてきて、かつ実害加えようと何かしてこなけりゃ無害なんだよ」


「アジュから無害な人に挑発する場面って、そういえば記憶にないかも」


「試験や試合ではちゃんと手加減して、殺さないようにしているわね」


「追試とか嫌だからな」


「暴言も相手が煽ってこなければ少ないじゃろ」


 こいつらはそこまでちゃんと理解している。

 なぜか他の連中は誤解しているようだが、俺は積極的に他人に関わったりしないんだよ。


「敵対されたから戦っているだけ。その過程で殺す必要が出てくるだけさ」


「隊長がまずいのはそこじゃなくて、敵対したら相手が貴族でも魔王でも平然と殺すでしょう」


「そりゃ敵だからな」


「その躊躇のなさと実行できる強さが怖いのです。結構残酷な方法も使うでしょう」


「それが嫌なら敵対しなけりゃいいの。殺そうとしてきて殺されると思わなかったとか意味わからん」


 なんで敵対しようとしているやつに許してもらえるとか、そんなアホみたいな甘え方するのよ。お前が今から甘えようとしているのは敵だぞと。


「そこを理解しない敵サイドに問題がある」


「微妙に言い返せないのが痛いですねー」


「大人しくしているから、品のいいそれなりの宿を紹介してくれ」


「いいでしょう。ボクのお家に近くて綺麗な宿に行きますよー」


「ようやく見つけましたわ」


 まったく知らない声がした。

 その方向に目をやれば、首から下をごつい鎧で着込んだ女の子。

 パイモンと背の変わらない金髪の娘だ。


「うげ……見つかっちゃいましたか……」


「こんなところで何をなさっておいでですかねえ?」


「いやーその……ご学友が遊びに来たので、ちょっと案内を……」


「魔王業で忙しいというのにですか? 政務をほっぽりだして?」


 パイモンが完全に押されている。どうやら苦手らしいな。

 そして政務から逃げるために俺達を迎えに来たっぽい。


「ちょっとした息抜きですよー」


「まったくもう……ご学友というのは、そちらの方々ですの?」


 こっちをロックオンされました。

 いやあもう無関係ってことで帰りたいですねこれは。

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