成金魔王とカジノ城

 カジノと城が一緒という、前代未聞の意味わからん場所に到着。

 外敵とかどう防ぐのさこれ。

 そんなお城の玉座の間まで入ってきました。

 護衛なんで外で待つと言ったのにですよ。


「お久しぶりです。魔王ナベリウス」


 ヒゲまみれで太ったおっさんだ。いかにも高そうな服を着た成金っぽい。

 肩にカラスが止まっています。それはファッションなのかペットなのか。

 おっさんの横にきっついピンクの服着た女と、俺達より年下っぽい優男がいる。


「ようこそ魔王パイモン。ナスターシャ殿」


「お久しぶりです。そちらもお元気そうで……」


 なんか挨拶始まったので、俺達は後ろで立っている。

 呼ばれていないただの護衛だからね。口を挟んでも得はない。

 横にいるのはどうやら奥さんと息子らしい。


「ではどうしても店を出していただけないと」


「ここではっきりお断りさせていただきます」


 なんかどうしても店を出してくれ。一等地があるとか言っている。

 興味ないのでこの後の予定でも考えるか。


「残念ですな。まあ気が変わるまで遊んでいってください」


「せっかくですが、この後も行くところがありますので」


「おや、新しい通行証はお持ちですかな?」


「はい?」


「通行証が変わりましてな。新しいものをお買い上げいただきませんと、ここからは出せませんなあ」


 下卑た笑みというやつだろう。実物見るの初めてかも。

 そんないやらしい笑い方をするおっさん。これは面倒ごとの匂いですよ。


「魔王といえど例外はありませんぞ」


 肩のカラスがカーカー鳴いている。うるさい。何だよそれ。

 何をアピールしたいんだお前ら。


「通行証はいくらですの?」


「今の相場ですと一人十億ですな。お二人で二十億」


「はい?」


 ありえんだろ。奥さんと息子さんがにやにや笑っていらっしゃいますよ。

 最悪だなここ。早く帰りたい。


「それは暴利というものですよー」


「別に意地悪ではありませんぞ。物価とは状況に応じて上がるのです。それが商売なんですよ」


「しかし急に十億とは……」


「この街にお店を出してくれるのならば、特別割引も効きますよ。初回だけ無料になるかもしれませんね。良い関係でいたいですからなあ。クヒョヒョヒョ」


 始めっからこれが狙いか。

 回りくどいというか……これ魔王に戦争ふっかけてんのと変わらんだろ。

 考え無しかこいつ。


「店と何の関係があるというのです!」


「そうでなければ。ナスターシャ殿。息子があなたを気に入ったようです。私も身内に十億払わせるほど非常ではありません。いかがでしょう。よいお付き合いをしてみては」


「そういうことさ。ぜひ親交を深めたい。素敵なお嬢さん」


 ナスターシャの手を取り微笑む優男。

 貴族っぽい振る舞いだが、笑顔に品がない。

 当然手は払われる。


「離してくださいまし、女性の手をいきなり触るなんて無礼ですわ!」


「ナスターシャは関係ありません。あくまでボクとの取引のはずです」


「魔王ご兄妹は特別なお客様。とはいえ無理に出ていこうとすれば捕らえるしかありませんな」


 言っている意味が本当にわからん。

 理屈より感覚と金でごり押しするタイプなのかな。

 だとしても妙だな。単純な損得も計算できていない気がする。


「通行証が十億では、この街から出られない者が出るはず。行商人も出入りできず、物資の搬入もできなくなるのでは?」


「どうでしょうねえ。都市部と僻地では違うでしょうし。とりあえずお二人は十億ですな。私がしっかり周知させましょう」


「二十億払わせようというのですね」


「現金でお願いしたいですぞ。持っていますかな?」


「城に使いの者を出せば」


「お兄様!!」


 おいおい払う気か。他人の商談に首突っ込む気はないが、そりゃいくらなんでも無駄金ってもんだろう。


「それまでどうされるおつもりで?」


「宿でもとればいい話です」


「逃げられる恐れがありますな。関所も魔王の権力で通ろうとするかもしれませんなあ」


「魔王相手にあまりにも無礼ではありませんか!」


 こいつどうしてここまで強気なんだろう。

 まあ何をされようが、どうとでもなる。

 移動中にミラージュとヒーローキーを使って偽装してあるのだ。

 何事にも保険は必要だね。


「魔王であろうが関係ありません。この町ではお金が全てです。この国では金で買えないものはない。人の命など、金の前では軽く儚いものですなあ。クヒョヒョヒョヒョヒョ」


 そこは同意しよう。


「待ってあげてもいいですが、そうですなあ、城に滞在いただけると嬉しいですぞ。遊んでいってくださいな。二十億以上使ってくれて結構」


 めっちゃ煽るじゃないこのおっさん。馬鹿なのか保険でもあるのかどっちよ。


「ところで、魔王の護衛というのに興味が湧いて入室を許可しましたが」


 うーわこっち見やがった。いいから終われよ。こっちは関わるつもりなんかないんだよ。


「彼らはただの護衛です。この件とは関係ありません」


「ならどうしようが勝手ですな? 囲め」


 兵士がわらわら入ってくる。二十人くらいか。

 えぇ……いやいやアホなのかな。おっさんの思考が読めん。

 カラスを撫でている場合かお前は。


「どういうおつもりですの!」


「そこの三人、とてもお美しい。こちらのコレクションに入れようかと。関係のない護衛なら、いくらでも金で融通がきくでしょう」


「パパ、あの赤い子がいい。欲しいな」


 そうきますか…………ううむわからん。

 真性のアホって思考が読めないな。


「そうはさせませんよ」


「何故庇うのです? どうやら年齢も近い御様子。もしかして、お友達ですかな?」


「眼の前の非道な行いを見過ごすわけには参りませんわ!」


「その三人を貸してもらいましょう。そうすれば返済は待ってあげてもいい。男兵士は足りているので必要ない。消えろ」


「せっかくですがお断りします」


 はっきり断っておこうね。もう帰りたいんだよ。

 足元にボウガンの矢が飛んでくる。当てるつもりはないらしいが、威嚇の意味がないな。

 こんなもん素の俺でも見切れるぞ。


「誰がお前に発言を許した。立場を考えろ。お前には何の権利もない」


「えー……」


 口調がどんどん傲慢になっていますね。これがおっさんの素かな。


「護衛を巻き込んだ責任が僕にあります。彼らを開放してあげてください。ボクが二十億払えばいいのでしょう」


「足りないよ魔王パイモン。そのお嬢さんはパパに買って貰う予定なんだ。欲しいなら……三人で十億くらいの価値はあるんじゃあないかな?」


「いいでしょう。お支払いします」


 流石にそこまででかい恩を作るわけにはいかない。

 そろそろ動かないといけないな。


「お優しいことで。ですが急いでください。五十億で買いたいというお客様がくるかもしれません。通行証が売り切れてしまうかも」


「それは三十憶用意したら、五十億に値上がりするってことですかー?」


「いえいえ、もしもの話ですよ」


「値上がりするかどうかその女たち次第だ。利息として少し味見でもしようか。捕まえろ。働きが良ければ兵にも見せてやるかもしれんぞ」


 兵が構えるのを見て、全員武器に手をかける。

 面倒だな。いっそ殺しちまうのも手か。

 どうも金で適当に雇った傭兵っぽい。俺でも勝てそうなやつばっかり。


「おや、王の御前で剣を抜くというのかね? 罪人として牢屋に入れられたくなければ、おとなしくその子たちを渡しなさい」


「こんなお嬢さんが三人も手に入るなんて、今日はいい日だねパパ」


「それはあまりにも横暴です。私だけでも抗いますわ!」


「できるものならどうぞ。我々を傷つければ、その分治療費もいただきましょうかね」


 兵がこちらに武器を向け、じりじりと戦闘態勢へ入っていく。

 もういいや。

 こいつらに手を出すやつは魔王だろうが神だろうが殺す。


「おいおっさん」


「お、おっさん? 無礼な!!」


「どうあっても死にたいんだな?」


「王に対しその口の利き方はなんだ? この無礼者の首をはねよ!」


「やってみろ豚が」


 いいや殺しちまおう。その下品な家族ごと消してやるよ。


「そこまでです!!」


 パイモンが今まで感じたことのないほどの魔力を放つ。

 膨大な魔力が室中を満たし、兵も動きを止めた。


「一度だけお聞きします。ボクが三十億届けるまで待つか、ボクと戦争をするか、どちらかを選んでください。でなければもうボクでも制御できなくなります」


 ゴスロリ着ていても魔王。凄まじい魔力に兵が後ずさる。


「面白いですな。制御できないとどうなるのです?」


「かなり凄惨な破滅が待っています。それを止められるほど、ボクは強くない。止めればボクも殺されるかもしれません」


「……お兄様?」


 ナスターシャが少し震えている。

 実の兄妹ですら怯むほどの殺気だからな。

 パイモンが本気で戦っているところを見たことがないのだろうか。


「お願いします。この国に住む人々まで消えて欲しくないんです。本当に全てがどうしようもなくなるほど酷い結末になってしまう。あなたの大切な人も、大切なものも、容赦なく汚されるでしょう」


「そうか。それが答えか魔王パイモン。私を脅し、代金を踏み倒そうと」


「そういう次元の話ではありません」


「はったりに乗るとでも? 見た目通り幼稚な感性をお持ちのようですなあ」


 無礼すぎてナスターシャが切れそうだし、パイモンに借り作るのも嫌だしな。

 仕方がない。俺が動こう。


「三十億払えばいいんだろ?」


「何だと?」


「この街から出ずに三十億キャッシュで払えば文句はないはずだ。すぐ戻るよ。六人全員で行動させてくれりゃいい。戦争もしなくていいし、金も手に入るぜ。損得の計算くらいできるだろ?」


「ほほう、大きく出たな小僧。魔王に舐めた口のきき方をして、金も用意するとほざくか」


「必ず三十億で買いたくなるさ。期待しててくれ。この国は金が全てだろ? 金で解決したくないのかい?」


「愉快愉快。どうするのか知りませんが、お待ちしていますよ。クヒョヒョヒョヒョヒョ!!」


 意外とあっさり乗ってくれたねえ。

 俺にどうすることもできないと思っているのかな。

 そしてそのまま退出。下品な成金廊下を歩く。


「すみません隊長。こんなことに巻き込んでしまって」


「申し訳ございません。お兄様のご学友の方に、なんて無礼を……本当に……本当に……」


 ナスターシャが泣きそうできつい。

 別に悲観するような状況じゃないけれどな。


「問題ないさ」


「どうするんですかー? 一応ボクの使いの者が来ていますから、半日以内に百億くらい運べますよー」


「フウマがこの街にもいるわ。呼べばご先祖様も来るはず。お金の用意はできるわよ」


「おいおい、ここはカジノなんだぜ」


 あの下衆な豚は俺が潰す。手段なんざいくらでもあるが、ここはカジノを使おう。


「まさか隊長」


「ひっひっひ、マジでやってやるよ。あいつ悪人気取りで脇が甘いからなあ」


 とりあえず自分の運を七百兆までブチ上げる。


「見てな、三十分で百億稼いでやるよ」


 あのおっさん、世界で一番惨めで汚ない死に方をさせてやる。

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