雑にギャンブルで金を稼ぐ

 あのおっさんを殺すための準備をしましょう。

 まずカジノへ行き、財布から出す上限額を決めます。

 今回は三万でいい。そこまでお金ないし。


「じゃあルーレットでいいか」


 顔の上半分を隠す白い仮面をつけておく。

 そういう客もいるのでセーフ。なんか後ろめたい客もいるんじゃないかな。


「あの、本当に大丈夫ですの? こういう場所は胴元が勝つように仕向けられているのではなくて?」


「問題ないのじゃ」


 当然イカサマもされるだろう。だが問題ない。

 イカサマごときでどうにかなるほど、鎧の運は弱くないのだ。

 三万一点賭け。まず六万になる。次に五倍に賭けて六万を三十万に。

 ディーラーがちょっと姿勢を正したな。イカサマ準備かね。


「な、意外と勝てるもんだろう?」


 更に続行。今度は十倍に行く。

 欲をかいた俺からむしり取るため、何かしてくるだろうが無駄だ。

 マス目を隔てている壁が老朽化して壊れる。


「えっ」


 ディーラーさんもびっくりである。いやあ強運だね。

 次は二十倍に。そしてボールが欠けて軌道が変わる。


「そんな!?」


 さらに全額二十倍へ。

 今度はルーレット盤面に虫が止まって、ボールの軌道が変わってしまう。


「馬鹿な!?」


 ディーラーさんが焦り始めています。ちょっとかわいそう。

 そんなことをしていたら今六千万くらい。


「飽きたわ。一番倍率高いのどれよ?」


「全額一点賭けのみ許可された五十倍がありますよー」


「んじゃそれで」


「お客様、カジノにはルーレットだけではなく、カードなどもございますが」


「ルーレットがいい。早くやってくれ」


 同卓の人々がざわつき始めた。

 中には俺と一緒のマスに賭け、祈るように天を仰ぐ人も出始める。

 そして順当に三十億ゲット。


「うおおおおぉぉぉ!! よっしゃ取り返した!! あんたに賭けてよかったぜ!!」


「これはオレの奢りだ! こっちに美味いもんもあるよ! 次どこ賭けるの? ちょっとくらい教えてくださいなハンサムなお兄さん」


 隣のおっちゃんたちが俺に飲み物を奢ってくれる。

 さらにギャラリーが増えたな。本来目立ちたくはないが、今回は特例だ。


「そ……そんな……確かに私は……」


「私はなんだい?」


「い、いやなんでもございません。ははは……おめでとうございます……」


 これディーラーさんクビになるなあ。

 まあ雇い主は物理的にクビが飛ぶのですが。


「そんな……サカガミ様はどんな強運なんですの?」


「隊長は反則技の化身ですからねー」


「ギャンブルの感想はどうじゃ?」


「やっぱギャンブル嫌い」


 こんなもん鎧無かったら死ぬまでやらんわ。

 勝つか負けるかわからんものに金ぶっこむとかアホかと。

 欲しいもん買った方がよくね。


「これからどうするの? これで終わりではないのでしょう?」


「当然。あのおっさん一家を惨殺する方法がある」


「魔王を倒すおつもりですの? それはいくらなんでも……」


「隊長はそれができる人ですよー」


「ダメだよアジュ、お客さんは悪くないんだからね」


「わかっているさ。無駄な被害は出さない」


 国ごと消すと後腐れない気がしたが、事後処理がめんどい。

 罪のない人間は殺す必要がないからね。

 あくまで潰すのはおっさんとその家族のみ。


「ギャラリー増えてきたのう。そろそろ頃合いじゃろ?」


「だな。ディーラーさん、ちょっといいかい?」


「お、お帰りですか?」


「もっといい知らせさ」


 カジノに被害が出すぎないように、それでいて撒き餌になるくらいの額が必要だな。

 そんなわけで下準備ですよ。というかリリア普通に計画に気づいているよね。


「次はニ十倍の所に賭けるよ」


「かしこまりました」


 そしてまた勝ち。

 今のはディーラーさんへの試験だったが、いい腕をしているらしい。

 ギャラリーがどよめいている。こんだけ騒げば出てくるだろ。


「とりあえずちょっと金に変えてきてくれ」


 そこで魔王兼支配人のおっさんが飛んでくる。


「どうした? まだ一時間経っていないぞ?」


「随分と好き放題やってくれたな」


「何か問題でも?」


 おっさんの後ろに兵士がいるな。

 ギャラリーが少し離れていった。


「どんなイカサマを使った?」


「おいおい決めつけるなよ。証拠でもあるのか?」


「運だけでそれだけ稼いだと?」


「そういうこと。今日の俺は余程運がいいんだねえ。何やっても勝てるんじゃないかな? ルーレット以外もやってみるかね」


 さてどういう反応をするかな。

 うまいこと乗ってくれますかね。


「ほほう、ならばひとつ私とカード勝負といきませんか?」


 めっちゃゲスな笑い方するねおっさん。

 勝ちを確信しているのでしょう。アホだな。


「いいね。じゃあ五百億賭ける。勝った方が相手の五百億ゲットでどうだい?」


「いいでしょう」


 さてギャラリーさんが湧き始めましたよ。

 今のうちに残り百億を色々してもらおうかな。


「おい、私と小僧にカードを配れ。早くしろ」


 ディーラーさんが五枚カードを配る。

 まあこういうのってイカサマされるよね。

 カードのイカサマは多種多様だろうし。


「終わったな小僧。これが金の力だよ!!」


 おっさんのは確か二番目に強いやつ。


「はい俺の勝ち」


 俺のは一番強いやつでした。


「な・ん・で・だ!! 貴様ちゃんとやっているのか!!」


 ディーラーさんにキレ倒しているおっさん。

 いやあマジで警戒心とか無いのねこいつ。


「いい腕だねディーラーさん。雇ってよかったよ」


「恐れ入ります」


「なにい!? どういうことだ!!」


「俺が一憶で雇い直した」


「そんな馬鹿な!?」


 さっき一億で交渉しておいたのさ。

 どうせたいした給料も払わずこき使っているのだろう。

 あっさり了承してくれたよ。

 ちなみに俺を騙しても、鎧の強運で勝てるので問題なし。


「十億で二十倍で」


「かしこまりました」


 そしてまたルーレットが回る。

 この光景も後数回でおさらばだ。感慨深いものが……ないね、うん。


「やめろ! こんなもの中止だ中止!!」


 止めに入るおっさんに、兵士から剣が向けられる。


「な、何をしている!!」


「おっと止める奴は全額払ってもらうぜ。責任払いだ」


「ふざけるな!! お前ら誰に剣を向けている!!」


「そいつらは俺が日給一千万で雇い直した」


 百億を現金化し、おっさんがこの卓に夢中になっている隙に雇った。

 これはギルメンとパイモンが動いてくれている。


「これで三千億か。このカジノどんだけ金ある?」


「まだ五千億はあるかと」


「じゃあそれもらっちゃおう。次ここね」


「かしこまりました」


 ジュースを飲みながら優雅にルーレットタイム。

 おお、なんか有閑階級だな今の俺。


「こんな堂々としたイカサマが認められるか!!」


「んん? イカサマなんてあったかい兵士さん?」


「いいえ、私は見ておりませんな」


「私もです」


 残念兵士はこっち側だよ。

 おっさんは卓に近寄らせない。


「お前らあぁぁぁ!!」


「そうだそうだー!」


「言いがかりはやめろー!!」


「みっともないぞー!」


 ギャラリーの皆様からブーイングの嵐である。

 当然全員買収済み。客全員に百万ばらまいた。


「この国は金が全てだろう。なら金のあるやつが正しいのさ」


「誰でもいい! あの男を止めろ!!」


 だーれも反応しやしない。

 文無しになりかけているおっさんなんて何の価値もないのさ。

 そして全額ぶっこ抜いた。


「はいおひらきだよ。全員帰った帰った。これお車代ね。こっちの世界で通じるか知らんけど」


 客全員にさらに百万プレゼントして帰らせる。

 兵士さんがしっかり客をお見送りですよ。


「待ってくれ! 頼む!! その金は私のものだ!! 返してくれ!!」


 聞く耳持たずに帰り続ける客。

 がっくりと項垂れて地面に膝をつくおっさん。

 勝ったな。この茶番は終わり。メインイベントだ。


「うぅ……誰も、誰も私の話を聞いてくれん……私は金に目が眩み、一番大切なお客様の信用を失っていたということか……?」


「違う」


 この期に及んで何くだらんことを言っているのかね。


「商売で信頼だの信用だのクソカス以下だよ。貧乏人はそうしなきゃいけないってだけだ」


「ならば、ならばなぜやつらは私の言うことを聞かん!!」


「聞く聞かないは関係ない。あんたは人間を金以下に扱い、そこで満足した。反乱が起きた場合に備えて、最悪自分だけでも助かるルールを決めていなかった」


「それは……」


「俺にだってそうだ。少なくともこのカジノで稼ぐのは禁止とか、いくらでも予防線は張れた」


「はっ!? 確かに!」


 万が一を想定した動きができていない。

 だからあっさり俺なんぞに負けるのさ。


「金に目が眩み、最も大切な自分への保険を忘れた。それが敗因だ」


「自分への保険……」


「お前は甘いんだよ。金は人間の命よりずっと重い。けれど自分の命はさらに重いんだ」


「なんですのあのど畜生の理論は」


「ナスターシャちゃんは気にしてはいかんのじゃ」


「ぐぬぬ……だがまだ終わりではない! 客も兵もいなくなったのがお前の敗因よ!」


 おっさんの趣味の悪いネックレスや腕輪が光り始める。


「金に物を言わせて買い漁ったマジックアイテムだ」


「もちろんパパだけじゃない。私も持っているよ」


 成金お坊ちゃん登場。探す手間が省けてちょうどいい。


「貴様が死ねば、勝ち金もお嬢さんも手に入る」


 まだ諦めていないのね。その方が殺す時に面白くていいけどさ。


「サカガミ様、加勢いたします!」


「いらん」


「え、いえいえ。元はと言えば私とお兄様の不手際です。黙って見ているなんてできませんわ!」


「邪魔しちゃダメですよナスターシャ」


「魔王が相手なのですよ! マジックアイテムが発動し終わるまでに、少しでもダメージを与えないと!」


 パイモンがナスターシャを止めてくれる。

 いい子だ。シルフィとイロハを万が一のためナスターシャの護衛にしておく。


「任せるぞ」


「はーい」


「こちらは心配しなくていいわ」


 理解があって助かります。


「待たせたな貧民」


 坊っちゃんの方は金ぴかの豪華な服に変わっていた。


「さあ、お嬢さんの前で恥をかきながら死んでいけ!!」


「はいはい」


 突っ込んでくるのでぶん殴る。

 力を調節し、死なないように。

 ただし顔の皮膚がずるりと剥がれるように殴っていく。


「おやおや優男が台無しだねえ」


「ああぁぁ!? 痛い! 痛いよパパアァ!!」


 顔を抑え、流れ出す血に怯える坊っちゃん。

 その泣き叫ぶ姿が心地よい。

 さらに腹パンかまして跪かせ、地面が砕けるほど頭を踏みつける。


「ぎゃえぇ!?」


「安心しろ。親子揃って同じ目にあわせてやるよ。リリア、ステージ準備な」


「ほいほい」


「よくも息子を!」


 もう金色なのか光ってんのかわからんおっさん。

 皮膚が金色だ。なんだよメッキでもしたのか。


「これで私の身体能力は百倍! 魔王の恐ろしさを味わえ!!」


 お楽しみはここからだ。

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