調査だお花だ戦闘だ
「ふんふふ~ん。探索~捜索~それがわたしさ~」
わけわからん鼻歌でご機嫌さが伺えるシルフィと一緒に、魔法関係の施設を見て回る。ちゃんと人がいないのを知って小声で歌っているあたりがかわいい。
「切り裂け~貫け~だだっだ~」
アニソンみたいになってるな。何を切り裂く気なんだろう。
「るるる~……らら……ええーっとるるらら……」
らららとるるるが多くなってきたな。歌詞が思いつかないんだろう。そろそろ話題ふってやるか。
「こっちは研究所か」
「そだよー。魔導器の開発とかしてるとこだね」
魔導器ってのは魔導力という、俺の世界にはないエネルギーで動くものだったはず。
学園にしか無い試作型巨大モニターとかもそれで作られている。冷蔵庫っぽいものやガスコンロに近いものもある。
「生活がどんどん便利になるから頑張って欲しいな」
「あんまり楽を覚えるとアジュは部屋から出なくなるでしょ。贅沢は敵です!」
「お姫様のセリフじゃないぞー」
「いいんですー。見張ってないとアジュはすぐだらーっとするからね」
見張ってればだらけないと思ったら大間違いだぞ。
「そろそろ敵が見つかるといいんだけどな……」
「見つけてもすぐ攻撃しちゃダメだよ。どうせ生きていればいいとか考えてるでしょ」
「まあな。足撃ちぬいてからでいいかなーと」
「アジュは女の子に厳しいよね」
「お前ら以外の女とかどうせ胸糞悪いからな。死んでもいいかーくらいだよ」
「だからわたしがついてきたんでしょうが」
ストッパーが必要ということだな。まあ話し合いで終わるなら、手っ取り早くていいか。
「しかし怪しい奴がもう一回出てこねえと……うーわ多分見つけた」
「え、どこどこ? どの娘?」
「こっちの道に超ヒマワリが咲いてる……」
「道から外れてぶわーっと咲いてるね」
あきらかに道から外れて咲き乱れている。きっと前回の怪しい奴がいるんだろう。
「バラの時はたどって行ったら怪しい奴がいた」
「よーしアジュアジュ探検隊しゅっぱーつ!」
「部隊名どうにかしろ」
「あっじゅーあじゅーたんけーんー」
「俺の名前を歌詞に入れるのはやめろ!?」
しばらくアホなやり取りをしながら歩いて行くと、開けた場所で綺麗に円を描いて咲き誇る花々。
「おおーこれだけあると壮観だな」
「綺麗だね。こんなにいっぱいヒマワリの咲いている場所があったんだ」
花の咲いている範囲はかなり広い。花のアーチが中央まで続いている。
なんとなくヒマワリに監視されている気がして居心地が悪い。
「あら? お客様かしら?」
中央で優雅にお茶飲んでいたのは、クリーム色の髪が外側にハネている短髪の女。
「悪い。邪魔したか?」
「そうね、せっかくのティータイムが台無しよ」
なんとなく聞き覚えのある声だ。多分こいつで間違いない。
だがどこか別人のような気がする。
「台無しついでに聞きたいことがある。最近学園で魔法陣使ってなにかやってるやつがいる。悪いことじゃないなら目的を知りたい」
「それをなんで私に聞くの?」
「聞き込みっていうのかな。何か知ってたらわたし達に教えて欲しいな」
こういうときにシルフィの笑顔と容姿は抜群の効果を発揮する。
これで白状すればよし。
「知らないわ。私はここでティータイムを満喫していただけよ。そもそも何なのアンタ達」
「ああ、すまん。ザジ・サカシタだ」
この女に見えないように左目でウインク二回、右手の人差し指でほっぺたをポリポリかきながら、シルフィに提案する。
「わたしはミルシイ・フォルン」
決めておいた偽名を名乗る。とりあえず元の名前と離れすぎないほうがいいだろうと、無い知恵絞って考えた。
「ゲンドルよ。別によろしくしなくていいわ」
「んじゃゲンドル。悪いんだがこのプレートに触ってくれ」
「なによこれ?」
「ウソ発見器さ。これに触れて嘘をつくと赤く光る。じゃあ質問タイムいってみようか」
こんなもん当然ウソだ。スイッチで光るようにしてあるだけ。
さて揺さぶりは有効かね。
「アンタ達が本当に何も知らないのなら、この件から手を引きなさい」
「どういうこと? わたし達は原因を突き止めないといけないの」
「それで危険な目にあうとしても?」
「どう危険なのか説明すりゃいいだろ。そうすりゃかかわらないで終わるかもしれないぜ」
「調べているものがいる、ということが問題なのよ。忠告はしたわよ」
俺達に背を向け歩き出すゲンドル。当然止める。
「挟むぞ」
「ほいきた」
すぐにシルフィが消え、ゲンドルの前へと移動する。
時間さえ止めてしまえば問題ない。
「っ!? そう……邪魔をしようってわけね」
「だから事情を話せっつってんじゃねえかよ。次は両足ぶった切るぞ」
「わたし達はどうして魔法陣を作っているのか知りたいの。まだちょっとしたイタズラ扱いだけど。もうじき本格的に捜査されちゃうよ」
「イタズラ? まだその程度の認識なのね……でもいいわ。やっかいそうだし。出番よ! フレック!」
突然斬り込んできた誰かがシルフィの剣で止められる。
一応来る前に発動待機させておいたガードキーは使わずに済みそうだ。
「おお、今のを止めるとかアンタすごいじゃん。マジやばくね?」
背中に斧やら槍やら大剣やら背負っている女。
天然パーマというやつだろうか。微妙にもじゃもじゃした金髪で長身だ。
俺よりでかいな。
「なるほど二人いたのか」
あらかじめ用意していたショットキーの銃を、ゲンドルに向けて連射する。
「甘いわよ。ふん、発想が貧困なのよアンタ」
魔法陣を出して防がれた。あれ盾にもできるのか。何かを召喚するために使う魔法陣は、それ自体に攻撃や防御能力なんて無いはず。
俺が知らないだけかもしれんけど、警戒はするか。
「その貧困な発想に負けたらカスだな。せいぜい生き延びてみせろや」
『ヒーロー!』
面倒だ、二匹いるなら一匹捕まえればいいだろうし。ちょっと本気だそう。
「超ハデじゃん。なにそれ鬼やべえ! その鎧アタシによこせよ」
「断る。結構気に入っててね。よそ見してていいのか? さっきから押されっぱなしだろ」
フレックとかいうやつも強いんだろう。
近距離では短剣を、距離を離して槍をと武器を変えながら素早く立ちまわる。
しかし自分を加速させ、時間をすっ飛ばして、さらに相手を遅くできるシルフィはもう反則級なのでどうしようもない。
「ああーもう超ウゼーし! いつ攻撃してんだよ! 見えねーのずりーし!!」
中距離からノーモーションで斬撃が来るためうまく避けることも出来ない。
持っている武器を一つ、また一つと弾き飛ばされているフレック。
「お願い。話を聞きたいだけなの。もういいでしょ?」
「うっせー下に見てんじゃねーし! まだまだこれからっしょ!」
ほっといても負けないだろう。こっちはこっちで戦うか。
「こっちも本気だすからな。いつまでも優位に立てると思うなよ?」
「貧乏人に負ける私じゃないわ」
俺を挟むように赤い魔法陣が現れる。面白いな。どうなるのか見てみよう。
「死になさい!!」
一気に吹き出す炎は俺の全身を飲み込んでいく。
「おーこういう使い方もあるのか。でも召喚魔法陣だよなこれ?」
鎧の知識は便利ねえマジで。もちろん熱くもなんともないし無傷だ。
「炎対策でもしてあったの? ならこれでどう?」
魔法陣の色が黄色に変わる。出てきたのは電撃。これもやっぱりなんか違う。
電撃出っぱなしの魔法陣に近づいて腕を突っ込んでみる。
なにかの感触あり。引っ張りだしてみると。
「なんだこれ? カブト虫?」
電気でバチバチいってる一メートルくらいのカブト虫。
どうやらこいつが電撃を出していたらしい。頭を潰しておく。
「なるほど、基本は召喚魔法なんだな。中々いい発想だ。これならちょろっと召喚すりゃ勝手に虫が攻撃を続けてくれる」
「アンタなんなの? まともじゃないわ」
「俺からすればお前たちもまともじゃないさ」
指弾で足を狙い撃つ。攻撃の気配を感じてか、魔法陣を展開させるが関係ない。そんなもんぶっ壊して着弾させる。
「あうっ!?」
「なにやってんだゲンドル! そんなショボイやつに負けんじゃねーし!」
「うっさいわね! こいつおかしいのよ!」
「おかしくねーし! そんなイマイチな童貞臭いやつさっさと殺せよ!」
「おいふざけんなよお前。初対面でお前みたいなビッチくさいクソカスに言われたくねえんだよ」
「うっせー女の会話に入ってくんな! そんなんだからモテないんだろクソ童貞が! まだ負けてねーからな!」
いいだろう、お望み通りまだまだ遊んでやるよクソが。
血反吐ぶちまけて命乞いするまでな。
「あー……わたしは初めてでも気にしないからね」
シルフィのフォローも今はどうでもいい。
口喧嘩はじめたアホ二人でどう遊ぶかだけ考える。
「さっさとこっち来いよ。アタシが逃げらんねーし!」
「うるさいのよ! 大体アンタだって負けそうじゃない!」
『バースト』
「まあまあ、ご指名みたいだし送ってやるよ」
フレックにむけてゲンドルを蹴り飛ばす。
悲鳴を上げるヒマもなくぶっ飛んでいく。
「ちょっ!? 今こっちくんじゃねーしぶおあ!?」
受け止めきれずに転がる二人。
それでも体勢を直して武器を構えるあたり、ちょっとフレックを見直す。
なぶり殺すのは変わらないけど。
「ふざけんなよ。まだ負けてーねから!」
「んじゃ追い打ちいっとくか」
ゲンドルを横に放置したのが運の尽きだ。
バーストキーを発動させゲンドルの服が爆発を起こす。
「うああぁぁ!? なんだよ!?」
一応死なないように加減はした。足を撃ちぬいた時に血が出てなかったから、ヴァルキリーじゃなくとも人外は確定だ。これくらいじゃ死なないだろう。片方生きてりゃいいし。
「どうだ苦しいか? ちっとは反省しろよ。クソビッチが。そして性病で死ね」
「クソみてえな趣味してんねアンタ……マジ嫌いだわ」
「おう、俺もお前は死ねばいいと思ってるよ」
「うう……こうなったら……あんたら道連れにしてやるわ……」
「わたし達は話が聞きたかっただけなんだって……」
まだ会話できる可能性を捨てないシルフィ。良い子だなあこいつらと違って。
「フレック。一応お礼は言ってあげるわ。今までありがとう……はあっ!!」
微妙に燃え始めていたヒマワリが一斉に光り出し爆発を起こす。だが遅い。
『ガード』
こんなもんガードキーでどうとでもなる。シルフィはすでに自分の周囲の時間を止めて、爆風が届かないようにしている。ある程度ならオートで発動する時間停止のバリアーだ。
「この程度で逃すとでも……」
「オオオォォアアアアア!!」
獣のような雄叫びを上げながら俺に抱きついてくるフレック。
爆発のエネルギーと熱を吸収して全身がオレンジに発光している。
目から口から光が溢れ出ていてキモ怖い。
「大丈夫!? 凄い光ってるよ!!」
「問題ないから下がってな。といってもここで爆発させるわけにもいかんか」
『エリアル』
「ちょっとひとっ飛びしてくる」
上空まで来たものの、こいつをどう処分するかな。
爆発の被害は出ないとして……頭を潰せばなんとかなるかね。
「アアアアアアアアア!!」
「ああもううっさい!! 叫ぶな!!」
叫びながらの大爆発は、それでも俺にも鎧にも傷をつけること無く終わる。
「まったく……ちょっと本気すぎやしないかね……味方犠牲にしやがるとは」
とりあえずシルフィの所に戻る。
ゲンドルの容姿はわかったし、いったん報告に戻ることにした。
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