新魔法と変な敵

 初心者講習でやってきた闘技場で、偶然新魔法を思いついた。

 だもんでアクセル先生協力のもと試してみることに。


「いきます……ここまで準備してもらって弱かったら泣くわ」


 剣の腹に指を当て、目を閉じ、ひたすら集中して魔法を思い浮かべる。

 頭に思い浮かぶ言葉をそのまま受け入れて、叫びながら剣に送り付けた。


「サンダーフロウ!!」


 激しい雷光が剣に満ちて迸る。触れてみてもそれは俺が出したもの。痛みはない。


「おお~こ~いつは派手じゃねえか。成功か?」


「多分……触っても普通に魔力が俺の体に戻るだけなんですが……これどうなっているんでしょ?」


「実感ねえのか。ん~じゃこれ斬ってみな」


 軽く円を描くように放り投げられた木の板を、言われるがままに斬ってみる。

 剣が板に触れた瞬間、バチっと電撃が走り、板を焼きながら切り裂いた。


「うおっ!? おお? おお……ちょいびびったぞ」


「成功だな。おめっとさん。自分のものにするまでは、人に向けて使うなよ?」


「はい、ありがとうございます。これどうやって使えば?」


 自分のことだけど、ここは戦闘系の先生がいるんだから聞いておこう。

 経験からなんか面白い使い方を知っているかも。


「そいつはお前さんの工夫次第……つっても難しいやな。リーチ伸ばしたり、もっとびっちり覆うようにできるか? 布一枚着せるようにだ」


「バチバチいわせるんじゃなくて、魔法でコーティングする時みたいな?」


「せ~いかい。切れ味増したり、手加減して痺れるだけにしたり。魔法も電撃も応用きくんだぜ」


「なるほど、やってみます」


「おう、依頼の件も頼むぜ」


 前に戦っているところを見せたからか、そんなに心配されていないっぽい。

 俺のことはちょっと強い異能がある生徒だと思っているのだろう。


「できる範囲で死なないようにやってみます」


 ミノタウロスの時はミラージュキーで顔をぼんやりさせていたので、先生以外は俺のことを知らないはず。加減して戦っていたから、そこまで強いとは先生も考えていないだろう。


「おう、き~つけろよ。お~しお前ら! 次は槍になるから、同じこと繰り返せ! リーチの長さと得物の使い方だけは意識しろよ」


 先生は手を振りながら他な生徒を見に行った。


「やってみるか」


 今度の幻影は二メートル近い槍を持っている。ゆっくり近づいてみよう。

 槍は剣より長い。つまり動きが大きくなって見やすい……と思っていたら突いてきやがった。


「うおぉぉ!?」


 急いで後ろに下がる。ちょっと大きい声出ちゃっただろうが。


「突きとかありかい……いや槍なんだからむしろ主体にするべき?」


 突きの後、接近すると柄の部分を横に振ってきたりもする。

 明らかに剣の時より難度が上がっているな。


「サンダーフロウ!」


 剣先から電撃を伸ばし、剣そのもののリーチをあげる。

 集中して長細く、剣と同じ形に……よっしゃいける。これで届くだろ。


「よっとと……はっ!」


 槍とほぼ同じ長さだ。敵が打って来たら避けて、剣で突く。

 できる限り懐には飛び込まない。大振りな攻撃が来たら少し踏み込んで切る。


「よしよし、慣れてきた。いけるな」


 電撃を消し、なんとか剣でもぐりこむタイミングを見つけようとする。

 こいつの攻撃はシンプルだ。何度もやれば自然と見切れる。


「……ここかっ!」


 見事命中。急速離脱。よしよし、慣れてきた慣れてきた。

 なんだか体がよく動く。柔軟とか筋トレとか地味にやらされてたからかな。


「完全に俺へのセクハラ目的だと思ってたけど……効果出たなあ……」


 これはいよいよ拒めないぞ。今ですら気を抜くと柔軟で抱きつかれるのに。俺の貞操どうなんのさ。

 アホな考えを振り払い、幻影が消えるまでやる。一休みしようかと周囲を見れば、俺とは違う幻影が出ているやつがいる。


「まさか個別に設定されてんのか?」


 よく見るとそいつの前だけに別の幻影がいる。陽炎のように揺らめいていて、なんか喋っている。会話できる幻影とかすげえなおい。

 そして幻影が男に覆いかぶさり、傍目からは同化した様に見える。


「…………いやいや、あれ依頼のやつじゃねえの?」


 男の体からよくないオーラが出ている。黒かったり赤かったり絶対に体によくないだろう。健康を損なうおそれがあるやつだ。


「ふうぅぅぅ……こいつもなかなか素質があるぜ!!」


 すでに生徒の大半が、先生や護衛の生徒によって逃がされている。


「オラオラオラ! 誰か挑戦者はいねえのか!!」


 取り囲む戦士科の生徒達を相手取り、槍でどんどん吹っ飛ばしている。強いな。


「ほう、お前もなかなかの素質だ。喜べ、今回の体はお前だ」


 背後からした声に振り返ると、幻影が俺に乗り移ろうとしていた。


「アホか」


 あらかじめ発動待機させていたガードキーによって、白い半透明なドームが形成され、幻影を阻む。


「ぶべっ!? なんだ貴様! 選んでやると言っているだろう!」


 声からして男だ。しかも偉そう。観察しようと思ったらうだうだ言い始めた。


「なにを黙っている? この私が話しかけてやっているんだぞ。言葉が通じないのか? なんだその態度は。これだから下等種族は……」


「うっさい死ね」


『ヒーロー』


 とりあえず顔っぽい部分を、アッパー気味にぶん殴る。

 なんか馬鹿にされていたっぽいので殴っておこう。


「べびゃああう!?」


 そういや殺しちゃまずいのか。事情を聞くのが先だな。


『ミラージュ』


 ミラージュキーで鎧を制服に見せかけてっと。

 上から落ちてきた幻影が立ち上がる前に顔っぽい部分を踏みつける。


「お前ら何が目的だ? 言え。でなきゃここで死ね」


 踏みつける力を強める。鎧の知識でわかった。こいつ人間じゃない。

 意思のある精神体というか、そういう存在だ。まあ鎧着てるから踏めるけどな。


「があああだだだだだ!? 貴様なんで踏める!? 下等生物ごときが触れるな! 汚らわしい!!」


「触れてないさ。踏んでるんだよ。事情を話せ。今話さなかったからさらに踏む」


 生身の人間なら頭蓋骨にヒビが入る程度の力で踏みつける。


「ぎゃああああぁぁぁぁ!? こんな……ふざけるなよ貴様!!」


「面倒だな……もう一匹いるんだし、こいつは殺してもいいか」


 猛烈な殺気が後ろから飛んできているのを感じ、適当にかわして突き出された槍を掴む。


「オイオイ随分と無様な格好じゃねえか? ええ? そんなんで戦えんのか? そいつを選んだんだろ?」


 オーラに包まれた生徒だった。俺じゃなく足元の敵に話しかけている。

 こいつら知り合いか。さて、どっちを残すか。


「見てわからんのかたわけ! さっさと助けんか!!」


「踏まれてるくせにえらっそーに……おいお前、もうちょいこいつ痛めつけていいぜ」


 仲間のお墨付きが出たのでがっつり踏んでみる。

 死なないぎりぎりを狙ってみよう。


「うががががっぎぎぎぎぎげえええええ!? 待て待て待て! 一回足をおろせ!」


「お前の頭が潰れれば地面におりるよ」


「けしかけたのはこっちだけどよ……えげつねえなお前……」


 いかん、幻影どもに引かれている。なぜこんな連中に付き合わなけりゃならんのか。


「お前らなんでこんなことをした? 目的を言え」


「いでよ我が配下! この無礼者を駆逐せよ!!」


 足元のアホが右手を光らせると、地面から全身鎧の集団が現れる。

 試しに一体拳圧を飛ばして破壊する。中身なし。


「魔力で作った鎧を動かしている?」


「左様。最早貴様に逃げ場はない! とう!!」


 鎧の一つに乗り移った偉そうなアホがびしっとポーズを決める。

 それに合わせてか鎧の形状が変わっていく。無骨な鉄の固まりから、シャープでそれなりにかっこいいデザインへと変わる。


「常世のカリスマ的存在、アキレウスがここに降臨した! さあ跪け!」


「ちょっと待てや! 俺様との勝負はどうすんだよ?」


「ふん、どの道この無礼者には貴様だけでは勝てまい。手伝ってやるぞ!」


 鎧が分解し、荒っぽい口調の男に装着されていく。左半分が青で、右半分が赤だ。

 なんかかっこ悪いなあの鎧。


「頼んでねえんだよ! ちっ、おいそこのぱっとしねえやつ!」


「俺のことか?」


「お前以外に誰がいんだよ! いいか、このかっちょいい鎧を身に纏う、最強的存在の俺様こそ……ギルガメシュ様だ!!」


「だからどうした。もうお前達は囲まれているぞ」


 既にアクセル先生とリリア達が到着した。他の生徒はからっぽの鎧退治に専念している。むしろ人が少ない方がやりやすいので助かるな。


「まーたわけのわからん連中じゃな」


「アジュ大丈夫? 怪我とかしてない?」


「その鎧の男が元凶ね?」


「そんなわけで、ちょ~いと事情を聞かせてもらうぜい」


 さてどう出るかね。誰を狙っても簡単には突破できないぜ。


「ふむ、極上の素質を持っているな。だが邪魔だ。我らは女と戦う気は無い。下がれ」


「そういうこった。俺様が戦いてえのは強い男だけよ!!」


 鎧から男二人の声がする。乗り移られた人が喋っているわけじゃないな。

 そこそこ面白いじゃないか。動くたびにポーズとるのがうざいけど。


「ってわけだ小僧! テメエに男と男の名勝負を申し込む!!」


「断る」


「だあああぁぁ!?」


 コントみたいにずっこけるアキレウスだかギルガメシュだか。こいつらアホだ。はっきりわかった。


「ああもうなんだよ乗れよ! もういい逃げるぞアキ!」


「アキレウス様と呼ばんかアホが!!」


「イロハ頼む」


「影筆!」


 影筆の術で『アジュ・サカガミの許可なしでは動けない』と書き込んでもらった。

 これでアホ二人から話が聞ける。


「うおおぉぉ!? 動けねえ!? なにしやがった!!」


 無駄にうるさい連中だ。適当に締め上げて事情を聞くしかないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る