アホの相手は疲れるものである

 なんかよくわからんアホ二人が、生徒に乗り移っているので拘束したわけだが。


「おい! テメエなにしやがった! 俺様にこんなことしてタダですむと思ってんのか!」


「無礼者が。今なら拘束を解いてわびれば許してやらんでもないぞ」


 凄くうるさい。生徒が着ている赤と青の全身鎧から声がする。


「うっさいアホ」


 とりあえず一回殴ってみよう。


「べぶるあ!?」


「ごばあ!? 貴様なにをする!?」


 新発見だ。一回生徒を殴るとアホ二人は両方痛いらしい。


「ふむ、面白いな」


「できれば生徒は傷つけねえように助けらんねえかい?」


 アクセル先生に止められた。めんどいな……まあ方法がないわけじゃない。


「あーあ痛かったぜ。俺様はお前になーんにもしてねえのに、いきなり殴られてすげえ傷ついたなああー。この体の持ち主だってそうだぜ。かわいそうになあーアキ」


 なんで棒読みなんだよ。もう二、三発殴っとこうかな。


「我らの心の痛みは簡単には消えんなあ。なにもいきなり暴力を振るうことなんてなかろうに。傷ついた心と体は乗り移らせてもらえるまで消えんな。ギルガメシュよ」


『ソード』


「んじゃもっと痛くしてやるよ」


 この剣は切りたいものだけ切れる。生徒を切らずにアホ二人だけ切ることだってできるわけだ。


「ぎいいぃぃぃぃやあああぁぁぁ!?」


「はっはっはっは! いいねえ! クズの悲鳴が心地いいぜ!」


 精神体であるこいつらには地獄以上の苦しみだろう。


「アホじゃな。アジュに良心の呵責など一ミクロンも存在せんというのに……」


「いやだから生徒は傷つけねえで欲しいんだよ」


「ご安心を。俺の剣は切りたいものだけ切れます。生徒の体は無傷ですよ」


 報酬減らされると困るしな。まあリバイブキーでいくらでも治せるけど。


「いだだだだだだだ!! テ、テメエにゃ罪悪感ってものがねえのかよ!!」


「ないな。お前ら俺をゆすろうとしたな? 同情をひいて良心につけこもうとした悪人だよな? 悪人ってのはな、痛めつけてなぶり殺してもいいクズなんだよ。罪悪感なんぞ感じるやつはアホだろうが」


 がんがん切り刻もう。切る箇所で微妙にアホな声が変わるのが楽しくなってきた。


「お前さんら……一応勇者科……だったよな?」


「アジュはああいう人なんです。わたし達も最初はちょっと驚きました。先生もすぐに慣れますよ」


 シルフィよ、それで納得してくれるのはお前らだけだぞ。


「ちなみにあれでも自重しておる方じゃ」


 うるさ過ぎるので一回痛みを消してやる。

 抵抗したら痛みを復活させて倍化しよう。

 剣には痛みのオン・オフや大小を自由に操作し続ける効果がついている。

 痛覚のない神様や概念的ななにかにも、お好みで激痛を与える便利グッズなのさ。


「まずいぞアキ。俺様達なんかヤベエやつにケンカふっかけてねえか?」


「うむ、異常者だ。快楽殺人鬼だな。早めに謝ろうではないか」


「いや、これはお前らが悪いだろ。あとなにもしてねえとか言ってるけど、俺に槍ぶっ刺そうとしたよな?」


 最初に攻撃して来たのも、乗り移ろうとしたのもこいつらだ。同情の余地ゼロだよ。


「……正直すまんかった。だからさっきの痛いやつは勘弁してくれ!!」


「……すまんな。ただより強い男と戦いたかっただけなのだ」


 鎧だから表情とか見えないが、なんかしょんぼりしている空気は伝わってくる。


「思ったよりスムーズに解決しそうだな」


「そうね、早く帰ったら一緒に晩御飯を作りましょう」


「あー当番だったな。そうするか。みんな食いたいものあるか?」


 今日の夕食はイロハと俺が作る予定だった。食材どうしようかな。


「魚は昨日食べたから別のがいいな」


「ハンバーグじゃな。ダメなら脂っこいものはパスじゃ」


「俺もそんなにレパートリーねえんだよなあ」


「そうね、いつも私と作るとフウマ料理か簡単なものになるし……新しいジャンルでも開拓しましょうか?」


 フウマ料理はほぼ和食のこと。微妙に違和感あるけど気にしない。

 こっちの世界の料理は調理法が同じでも、知らない食材を使うので味が変わったりして面白い。


「たまにすげえ変な味になるよな……」


「そこは作って覚えていくしかないわよ。料理は失敗も多いわ」


「おーい、寂しいから事情だけでも聞いてくんねえか? 俺様こんなに無視されたの初めてよ」


「かわいそうなやつらだこと……もうぜ~んぶおれに話してみ? 聞いてやっからさ~」


 晩飯の相談をしていたら、アホが先生に身の上話をしてやがる。


「我らは強い男との戦いを求めて天界より舞い降りた。だが暴れまわっていたら人間界を出禁になったのだ」


「しゃあねえから天界でだらだらしてたら、スクルドとかいう女が来て、精神体になって人間界に飛ぶ術をかけてくれたんだよ」


 で、精神体で才能のある人に憑依し、戦い続けていたと。意味分からんな。


「ってかスクルドどんだけ行動範囲広いんだよ」


「ヴァルキリーの中でも迷惑な存在ね」


「スクルドが才能を発掘してくれりゃあ好きに動いていいって言うもんだからよ……ついでに言うと天界に戻れなくなっちまった。俺様としたことが……」


「うむ、我らは満足いく激闘の末、天に帰るしかないのだ」


 男と男の名勝負で成仏しないとダメらしい。めんどい。


「別に切れば消滅するから大丈夫さ」


「消滅するんじゃなくて帰りたいの! 俺様はもう人間界で暴れたりしねえからさ!」


「そこは誓おう。無闇にそちらに近づくことも決してしない。正直二度と会いたくない」


「心に傷を負ってしまったのじゃな」


 自業自得である。まだ消滅していないだけマシだよ。


「ん~どうすっかな……これ依頼どうなるんです? 俺は原因突き止めろと言われていたもんで」


 今回の依頼人はアクセル先生だ。先生が極秘に学園長へ裏の依頼をした。

 だからアクセル先生に聞くしかない。


「……なんでカードをやた子が持ってきたんだ?」


「あやつは書類や手紙なんかの運び屋なんじゃよ。学園長の事情を知るヒメノ側であることも大きいのじゃ」


 なるほど納得。あいつ飛べるし早いし強いからな。最速で届けてくれるわけだ。


「成仏なあ……おれが戦ってやるって~のはイヤかい?」


「お前は完成しすぎなんだよ。もっとこう荒削りなんだけどすっげえ素質持ってるやつと戦って、完封負けしたいんだ」


 注文がややこしいな。アクセル先生はだめなんだと。


「私達ではいけないのね?」


「我らと戦うのは男でなくてはならん。そこに名勝負の要素が詰め込まれているからな。できれば二対二を希望する」


 もう切っちゃっていいんじゃないかな。


「しょ~がねえなあ……怪我してねえやつを警備の生徒から探してくるから選べ。わ~りいんだけどもよ、サカガミ」


「戦うんですね?」


「まあ戦うことになったら、死なない程度にやってくれ。報酬と単位は増やす。この時点で本来の依頼は達成したこととするからさ」


 こっちに損がないなら問題ない。いざとなれば鎧でなんとかなる。


「わかりました。ってわけで俺は残る。お前らどうする?」


「アジュのかっこいいとこ見たい!」


「一緒にご飯を作るのよ。私だけ帰っても意味がないでしょう」


「ま、成長っぷりでも見ていくのじゃ」


 全員残るらしい。予想はしていたけども、俺が戦うと決まったわけじゃないんだぞ。


「あーあのさ、話し込んでるとこ悪いんだけどもよう……」


「我らを解放してはくれぬか? ずっと動けぬままだ」


 とりあえず影筆の術は解除してやった。後は戦う相手次第ってとこだな。

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