対決アキレウス・ギルガメシュ

 夕方になるちょっと前くらいの闘技場。

 アキレウスとギルガメシュの対戦相手を決めるため、警備に来ていた生徒を含めて審査が開始されたわけだが。


「ああもうダメだダメだ! どいつもこいつも使えねえ!!」


 才能のあるやつに憑依したり、戦ってみたりしてもお気に召す人物は見つからないらしい。

 抜け殻みたいな赤と青の鎧が、対戦相手を求めて動き回っている。そこだけ聞くとホラーだな。


「なんだまだ選んでいるのか? 我はもう見つけたぞ」


 アキレウスが見つけてきたのはヴァン。筋肉量が増したボサボサの短髪赤毛で、やったら長い日本刀に近い武器を背負っている。


「なーんか久しぶりだなヴァン。前に持ってたでっかい剣どうした?」


「あーあれか。壊れた。全力で敵に斬り込んでたらガタがきてな」


 ヒマなんで闘技場の観客席で雑談なんぞしているわけだ。


「あんなでかいもんがどう壊れるんだよ?」


「おもっくそ振ってたら壊れたぜ」


 こいつもどういう戦い方してるんだかな。身長百八十はあるヴァンよりでかい剣だったぞ。


「あーもうみっかんねえ! しゃーねえか……おいサカマキ!」


「サカガミだアホ。なんだよ見つかったのか?」


「お前でいいから来い! もう探すのめんどくっせえ!!」


 飽きたらしい。できれば戦いたくねえなあ。


「なんじゃやっと始まるのか……待たせ過ぎじゃな……ふあぁ……」


 俺の膝に座っていたリリアがあくびしながら横に移る。


「えーもう始まるの? 次わたし膝枕だったのに……」


 横にいるシルフィがふてくされている。リリア・シルフィ・イロハの順に膝に座ったりする予定を勝手にたてられた。俺に承諾もなしに。


「私は一緒にご飯を作る予定だからまあいいわ」


 飲み物を買ってきたイロハが勝ち誇っている。しっぽがぱたぱたしているので嬉しいのだろう。


「むうぅ……わたしもなんかしたい……」


「横にいたんだから十分だろ」


「アジュくんも大変ね」


 ヴァンと一緒に警備に来ていたソニアが同情してくれる。前と同じ長いウェーブかかった金髪ツインテールだ。

 俺達に、というかリリア達に気を遣ったのか、ヴァンもソニアもちょっとだけ距離を取ってくれている。


「まるでそっちは大変じゃないみたいだな」


「これが恋人同士の余裕ってものよ。アジュくんもさっさと腹くくっちゃいなさい」


「そうだそうだー!」


「そういうことはもっと大きな声で言っていきましょう」


「うむ、ソニアがいいこと言ったのじゃ!」


 いかん面倒なことになる。話題を強引に変えよう。こうなったらアキレウスと話してみるか。

 闘技場の舞台でヒマそうにしているし乗るだろ。


「おーい、アキレウス……でいいんだよな?」


「アキレウス様だ! まったく……で、なんだ?」


 聞いてくれるんかい。意外と面倒見いいのか?


「そっちは強いやつと戦えて、天界に帰れるからいい事尽くめだけどさ。こっちにはなんか褒美とかないのかー?」


「我らと戦えることが最大の褒美ではないか」


「えーみみっちいな。そっちの願いを聞いてやるんだ。褒美も出さないとか器がちっちゃいぞ。ここは威厳を出すポイントだろ」


「ふむ、威厳か……よかろう! では我らに勝つことができれば、愛用の装備をやろう! 神々と張り合える業物だ!」


 思いのほか上物が出てきたな。よーしよーし作戦成功。


「アジュと一緒に戦うオレにも権利アリだよな? アキレウス様よ!! かっこいいとこ見せてくれよ!」


「よいぞ! 存分に堪能するがよい! 我のかっこよさを!!」


 ヴァンが乗ってきた。ここは山分けが妥当だ。報酬で揉めないのは大切だよ。


「んじゃ山分けでいいか? モノを見てどっちに合うかも決めるけど」


「オレはそれでいいぜ」


 ヴァンがソニアを見る。家計はソニアが握っているのだろう。


「いいわよ。貴重品なら貰っときなさい。元々アジュくんの依頼なんだから、みっともなく揉めるんじゃないわよ?」


「当然。ってわけでよろしくな」


「おう、期待してるぜ」


 客席から飛び降りて舞台に上がる俺達。相手はもう仁王立ちで待っている。


「それではサカマキ。さきほどの鎧の使用を許す」


「いや……ぼろっかすやられたのを忘れたのか?」


「問題ねえよ。今回は全パワーを使って本気の本気で実体化してやっからな! いくぜ最高の俺様へ!!」


「その通り! 中身のない鎧とはおさらばだ! 究極神化!」


 赤と青の光が、雲を突き抜けて柱のように伸びていく。

 光が消える頃には、よりシャープでかっこいい鎧と、人間の顔があった。


「現れたぜ……最強の俺様が!!」


 赤い鎧と短く切った銀髪に整った顔立ち。意外にも美少年といった顔のギルガメシュ。


「酔いしれるがいい……究極の我に!!」


 ギルガメシュより装甲の薄い、肌に吸い付いているかのような青く輝く鎧のアキレウス。

 こっちは二十代前半くらいの美青年だ。


「さあ、とっととパワーアップしやがれ!」


 やるしかない。まず両方イケメンというのが許せん。絶対にだ。


『ヒーロー!』


「お望み通りの超パワーアップだ。後悔すんなよ」


「んじゃ俺様からいくぜ。アキは赤毛の指導でもしてやりな」


 アホ二人から尋常じゃない力を感じる。

 九尾やヘルほどじゃあないが……ヴァルキリーを軽く凌駕しているほどだ。


「アジュはガチでオレは指導か……ルール違反かもしれねえが二対一でいくぜ」


 ヴァンが持っていた剣を地面に突き立て、魔法陣を展開する。


「ヴァン・マイウェイの名と契約の元に、真名の解放を許す。来い! イシス!!」


 魔法陣から現れたのはソニアだ。ヴァンに抱きつくと、二人の体が輝き一人になる。


「ほう……面白いではないか。楽しませてくれるわ」


 真っ赤な髪が後ろで二本に纏められている。顔がちょいと中性的イケメンになっているな。

 黒いロングコートとマントが一体化したようなものの内側に真紅の服だ。


「ヴァンとソニアでヴァニアってな。これならガチでやれんだろ?」


 ソニアが魔法使いだからその衣装なのかね。まあ変身も驚いたけれどさ。


「合体ってキスしなくてもできるんだな」


 そこに一番驚いたよ。じゃあ前はなんでしたんだろう。


『……キス? 人前でそんなことするわけないじゃない。はしたない』


 少しエコーかかった声がする。ヴァンの体から聞こえているな。


「クラリスはしてたぞ」


『ヴァン……どういうこと?』


「オレからしたわけじゃねえよ。なんだ? ソニアもして欲しかったのか?」


『ばっ!? 違うわよ! 慎みというか人目を気にしなさいって言っているの!!』


「おーいいつまで待たせんだよ! 俺様のかっこいい鎧に言うことはねえのか!!」


 いかんいかん。ギル達を待たせたままだ。


「おー悪くないぜ。もっと悪趣味なもんが出てくると思ってたわ」


「そうか! かっこいいか!! もっと言っていいぜ!」


 ご機嫌だな。うちの連中よりよっぽど機嫌とるのが楽だよ。


「それでは改めて……アキレウス、華麗に参る!!」


「ギルガメシュ、いいとこ見せるぜ!!」


「ヴァニス、限界なんざぶっ飛ばすぜ!」


「アジュ・サカガミ、神魔を滅する刃となる!!」


 なんかかっこよかったので乗ってみた。そして赤青コンビの姿が消える。


「そこかっ!!」


 背後から繰り出された赤い拳を避ける。拳圧で地面が抉れ、空気が震える。


「ほおう、やるじゃねえか。もっと俺様を楽しませな!」


「んじゃ打ち合いといこうか。拳がぶっ壊れても恨むなよ!!」


 お互いの拳を打ち付けあう。最初は数千の、お互いが壊れないことがわかると数万に。

 そこから一秒に数億の拳が爆音と衝撃を巻き起こす。


「マジに強いな。ギルガメシュ」


「へっへっへ……だろ? テメエもやるなサカガミ」


 最強の俺様とか言っているのはホラじゃないようだ。

 人間でこのレベルに到達するのは、先生でもきついものがあるだろう。


「今すっげえ楽しいぜ!! もっとできるんだろサカガミ!!」


「報酬のためだ、お望みとあらばどこまでも!」


 ギルの回し蹴りを紙一重で交わし、瞬時に距離を詰めて手刀を突き出す。

 左腕でガードされるが問題ない。全力では打たずに距離を取る。

 初心者講習で学んだ戦法だ。


「鎧ありだったら、がん攻めした方がいいかもな」


 この辺は要調整だ。今後の課題だな。だがこの戦法も嫌いじゃない。


「我の速さに目が追いついているな。やるではないか」


 ヴァンとアキに目をやると、あまりの速さに二人の姿が無数の残像として残っている。


「ちょこまか動き回るのは性に合わねえんだ。魔法剣いくぜ!!」


 長い長い片刃の剣に膨大な魔力を込めている。

 やがて真っ赤な光をたずさえた魔法剣が完成した。

 ヴァンが一振りするとムチのようにしなって地面を抉る。


「オラオラオラオラ! 当たると痛いぜ!!」


 周囲に赤い閃光が乱れ飛ぶ。完全ランダムに飛ぶ様はなんというか。


「縄跳びだなこれ」


「邪魔くっせえなあアキ! こっちに飛んでんだろうが!」


 ぴょんぴょんしながら縄跳びを思い出す。二重とびとかそこそこ得意だったな。


「ヴァンに言え愚か者が!」


「ああもう……アジュ! 交代だ! オレは力押しが好きなんだよ!!」


「オーケイ、ちょこまか卑怯に卑劣にが俺のモットーだ。選手交代!!」


『イロハ!』


 イロハキーで黒い忍装束へとチェンジ。光速でアキレウスに迫る。


「さーて速さ比べといこうか」


「我と速さを競うか。笑止!!」


 こいつ普通に光速移動について来やがった。やっぱ普通じゃねえな。


「うっしゃあ! こっちは殴り合いと洒落込もうか!」


「いいぜいいぜやってやるぜ! 俺様の強さにビビんじゃねえぞ!!」


 どっかんどっかん音が響き渡り、闘技場そのものがぐらぐら揺れている。

 危険なのであらかじめ闘技場からは全員退避してもらった。

 アクセル先生とリリア達は、闘技場全体に結界を張りながら観客席にいるけど、そっちに攻撃しなければ問題はない。


「受けよ。神速の一撃!」


「んなもん誰が受けるかっての」


 とりあえず目の前のアキに集中しますかね。

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