ようやく成仏しやがった

 夕焼けの闘技場で、アキレウスとの光速戦闘は続く。


「分身の術!」


 イロハキーはイロハとの絆のキーだ。忍術も影も使える。

 黒い服も赤いマフラーも全てが武器だ。


『バースト』


 分身に殴りかからせるもすり抜けてくる。

 最短ルートにいる分身だけ倒して俺に近づくつもりだろう。

 だがそんなものはお見通し。分身はバーストキーで爆弾に変えてある。


「はいどーん」


「なんだと!?」


 どっかんどっかん爆発させていこう。煙に紛れて背後からマフラーを突き出す。


「無駄だ!」


 伸縮自在のマフラーもかわされた。爆破もほぼ無駄になっている。

 アキの鎧が硬いこともあるが、そもそも速すぎるんだ。爆破を見てから安全地帯まで移動できる。


「はいはいもうちょいスピード落としてくれ。狙えねえだろ」


「このような小細工で我を倒すことなど不可能だ」


「そう言われると絶対に小細工をしたくなるね。卑屈魂に火がつくじゃないか」


 ヴァンとギルガメシュが殴り合いをしている現場へ直行。

 お互いぎりぎりのところで回避しながらも、決定打を入れられずにいるみたいだ。


「ヴァン。そろそろ決着つけたい。手数を増やしてみんかね?」


「なんだ? 助っ人でも呼ぼうってか?」


「まさか。こうするんだよ」


『インクレース』


 このキーは増加させるキー。こいつでヴァンの腕の数を四つに増やす。


「これで文字通り手数が増えたろ」


「テメエずりいぞ!! 俺様の腕も増やしやがれ!!」


「ハッハッハ! 無茶してくれるぜ!」


「安心しろ。五分たてば元に戻る」


 増やし続ける意味がないしな。ヴァンの神力がえらい高いせいで無駄に魔力を使う。

 増やすだけという、やってることはシンプルなのに高度な技術を要求されるキーだ。


「オラオラどうする! 苦しくなってきたんじゃねえか?」


「ハッ、腕が倍になったからどうだってんだよ! 俺様が十倍早く動けばいいだけだろうが!」


「ハッハア!! いいねいいねえ! 嫌いじゃないぜ、そういうガッツのあるやつは!!」


 あっちの戦闘狂二人は仲良くやっててもらおう。俺には合わんな。


「我を忘れていまいか? サカガミよ」


 アキがちょっとしょんぼりしながら攻撃してくる。


『ショット』


「んなこたございませんわよ」


 ショットガンモードにして一回で八千発くらい撃ってみる。

 鎧の時は魔力を気にしなくていいから気楽でいいやな。


「まだ奥の手があるか。ならば我も見せてやろう」


 アキの右手に現れたのは……盾か。やたらと装飾のついた豪華な盾だ。

 アキの右腕にくっついている。半径一メートルもない中サイズのはずなんだけど。


「それ美術館とかに飾る用のやつじゃないのか? 傷ついても責任とらんぞ」


「笑止! 使われぬ武具になんの価値がある! 我を守るためについた傷こそが最大の装飾よ!」


 なんか美学があるらしい。まあ本人がいいならいいか。連射だ連射。


「無駄よ無駄! 我が盾にはそのような矮小な攻撃など通用しない!」


 なんか妙だな。あの盾、見た目よりもでかい? 攻撃が吸収された気がする。


「サンダースマッシャー!」


 やはり吸収された。盾そのものから魔力とは別の何かを感じる。


「それどうなってる? 攻撃どっかに飛ばしてるよな?」


「教えてやろう。この盾の中には極小サイズの世界がある。我の作り出した世界は攻撃を飲み込み、盾の世界で循環させてパワーアップさせる。世界も、盾も、攻撃もな」


 とんでもねえもん出てきやがった。遠距離攻撃が吸収されるってことは接近戦しかないのか。


「つまりこういうことだ。サンダスマッシャー返し!!」


「うおぉ!?」


 盾から俺の撃ち出した魔法が飛んできた。なんとかよけたけど、こりゃめんどい。


「あんぎゃああぁぁぁ!?」


 あ、ギルに当たってる。なんて運のないやつ。いや、芸人的にはおいしいのかも。


「アキ! テメエどっちの味方だ!」


「事故だ。許せ」


「絶対狙ってやっただろ! 大体テメエは……うおっ!? ヤベエ!」


 ギルとアキの体が薄ぼんやりし始めた。戦う前みたいだ。


「なんだ今度は透明にでもなるのか?」


「実体化している時間が長すぎたのだ。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうということだな」


 どうやら実体化していられる制限時間があったらしい。


「弱点多いなお前ら」


「うっせ。本体は不死身なんだからいいんだよ」


「どうだ? お互いに最大の一撃をもって決着をつけるというのは?」


「オレはそれでいいぜ。派手にいこうじゃねえか」


 ちゃっちゃと終わるならそれでいいか。

 いやいや終わって成仏されたら報酬どうなるんだ。


「ちょっと待て。最後の一撃って武器もらえる約束はどうなるんだよ?」


「む、約束を違えるのも不本意だ。十分に楽しませてもらったからな。よかろう。この盾はくれてやるぞ!」


 こっちに向かって盾ぶん投げてくるアキ。フリスビーっぽいなと思いながらキャッチ。

 うーわこれすげえ神力だ。使いこなせればかなりのもんだぞ。


「アキがやって俺様がやんねえのも気にくわねえな。ほれ! こいつを持ってけ!!」


 ギルがどこかに手を突っ込んで引っ張り出してきたのは、アホみたいにでかい黄金の剣。


「ほら、もってけコンチクショー!」


 ヴァンの足元に突き刺さった剣は見事に金ぴかだ。ついでに鞘っぽいのも飛んできた。


「えーあれだよ……名前なんつったかな? イガイガとシュルシュル?」


「イガリマとシュルシャガナだアホギル。なぜ自分の武器の名前を忘れる」


「うっせえちょっと忘れてただけだろうが! 覚えにくいんだよ!」


 口げんかを始めるアホ二人。つまり忘れてたんじゃねえか。


「イガリアとってのはどういう意味だ? 名前が二つあるのか?」


「鍔の部分に獅子と鷲の彫刻あんだろ? 両端に。そいつを中央に寄せると二つに分かれるんだよ」


 確かに彫刻がある。妙な細工がしてあるもんだな。


「そいつは俺様が作らせた超伝説最強の剣だぜ。超硬いし、なんといっても不死身だからな。刃が粉々になっても徐々に再生するんだぜ! 横の鞘に入れると小刀レベルまで小さくしておける便利機能つきだ!」


 なんか通販番組みたいになってきたな。


「ほー……そらなんともご立派な業物で。ヴァン、そっちはやるよ。俺は盾がいい。前の剣ぶっ壊れたんだろ?」


「さっきの戦いで今の剣も折れたぜ。いいのか?」


 やはりこのレベルの戦いは、生半可な装備じゃ無駄になる。


「んじゃちょうどいいじゃないか。俺は自前の剣があるからよ」


『ソード』


 金ピカででっかい剣とか使いたくない。

 今の剣が装飾も綺麗で軽いし、伝説の剣っぽいから好き。


「悪いな。助かるぜ」


 こうして報酬の分配は終わる。あとはこいつらを倒すだけだ。


「うっしゃあ! 俺様のとっておきを見せてやるよ!」


 ギルの右手に全ての力が集り、赤く燃え上がる。


「それがとっておきか? もっとすげえ武器とか使っていいんだぜ」


「本当に出てきたら困るからやめろヴァン」


「武器なんて意味がねえんだよ。今までどんな武器だろうが俺様の拳で砕いてきた。俺様こそが最強の武器だ!!」


 まずいな……アレかなりの力だ。今の俺なら傷がつくことはない。

 だが学園がヤバイ。アレはもう威力でいえばアホだ。アホとしかいえん。


「おい、それ撃ち合ったら学園がぶっ壊れる! 上に行くぞ! 最低でも雲の上までだ!」


「オーケイ。んじゃ、金の剣とはしばらくお別れだ」


「別に使ってもいいんだぜ? 俺様がやると決めたんだからよ」


「勝ったらだろ? なら勝つまではオレのもんじゃねえ。こっちも拳でいくのみよ!」


 熱血してるな。まあ心配することもないだろう。

 鎧をいつものヒーローキーに変えて、剣を構える。


「俺は……できれば剣使いたいかな」


「では我が雷撃を剣としよう」


 アキの右腕に凝縮された雷の魔力が、まるで一本の剣であるかのように美しく輝く。

 まるでヒーローやロボットが使うビームの剣みたいだな。


「なるほど、そうやって腕に魔力を張り付かせるのもいいな」


「これならば、我が腕が折れぬ限り敵を切り裂くことができる。同じ雷使いのようだからな、指導してやろう」


「そうかい。そんじゃあ遠慮なく真似させてもらおうか。サンダーフロウ!!」


 剣に薄く、極限まで薄く練り込んだ魔力を流す。

 薄く、だが莫大な魔力を張り付かせる。


「こんなもんかな」


「上出来だ。では遥かな高みへゆくぞ! とうっ!」


「俺様が一番だ!」


「あらよっと!!」


 全員が飛んだのを確認して俺もジャンプ。


「ふっ!」


 雲を突き抜け、豆粒みたいに小さくなった星を見下ろす宇宙で、最大の一撃を放つ準備に入る。

 全員しっかり立って呼吸できているけれどまあ……魔力とかあるしツッコミは野暮だろう。

 ここの四人超人しかいないし。


「いっくぜええええ!! 最強の俺様の拳! ハイパーギルガメシュナックル!!」


 赤く渦巻く全てを砕き、消すためにあるような全身全霊の拳と。


「オレの魂よ……高まれ! 眼前の敵を穿ち! 貫くまでに! ソウルブレイカー!!」


 ヴァンの両腕から迸る生命力の渦がまともにぶつかり、光と衝撃の波が宇宙を照らす。


「我らも始めるとするか」


 その波の横を平然と、ゆっくり歩いてくるアキレウス。

 力に逆らわず、一体化するように溶け込んでいる。


「雷光よ、我を美しく照らせ! 願わくば散りゆく敵すらも! 雷光一閃!!」


 迷いのない、どこまでも澄んだ雷よりも速い刃が迫る。

 衝撃の波をむしろ追い風として速度と威力を増していた。


「最後だから言ってやる、結構楽しかったぜ! ライトニングスラッシュ!!」


 即座に踏み込み、お互いの懐深くで雷光が輝く。

 その一瞬、光よりも速い一瞬で勝負はついた。


「雷光一閃か、気に入った。名前貰っていいか?」


「ああ、存分に使うがよい。その名は褒美としてくれてやろう。アジュ・サカガミ」


「ありがとな。楽しかったぜ、アキレウス」


 アキレウスの体が光の粒となって足元から消えていく。

 宇宙で見るそれは、まるで星々の仲間となって散るようで、なんだかとても綺麗だ。


「我は満足だ。暇をもてあましたら天界に来い。歓迎するぞ」


「そんときは戦うんじゃなくてメシでも食わせてくれ」


「よかろう。楽しみにしておれ」


 アキレウスはずっと笑っている。これなら成仏できるだろう。

 剣で切ったが、痛みと消滅の効果はオフにした。

 天界に帰って自由に暮らすといい。楽しかったし、いいもん貰った礼だ。


「あーあ……負けちまったか……最強の俺様が。まあいい、実体のある俺様はこの百倍つええぞ。今度はそっちで決着つけるからな。ヴァン」


「いいぜ、そっちも打ち砕いてやるよ。楽しみにしてな、ギルガメシュ」


 集中していてわからなかったが、どうやらあっちも決着が付いたらしい。

 アキレウスと同じく体が消え始めている。


「また戦おうな。アジュ、ヴァン」


「お前らみたいなんと何度も戦えるか」


「ならばともに戦おうではないか」


「おっ、いいねえ。次は四人で暴れるか!」


 四人に俺を入れるんじゃないよまったく。

 そんな話をしながら、俺達は二人が消えるまで笑っていた。


「さ、帰ろうぜ。オレ達の帰りを待ってるやつらがいる」


「そうだな。さっさと帰ってやるとするか」


 こうして、お騒がせ野郎ギルガメシュとアキレウスは去った。

 報酬もきっちりいただいて、新魔法も使えるようになったし充実した一日だったな。

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