ライジングファイバーナックル

 BODが終わった次の日。昨日の今日で外出もどうかと思い、昼からトールさんと魔法の訓練をしていた。部屋はまた強化訓練室だ。城って壊れてもいい場所が少ないよね。だって城だもの。


「うーん……こう、だよな? でもってこうするから……こう?」


 ライジングギアを発動し、右手を大きくして練習中。俺の予想と経験でいけるか微妙だなこれ。


「アジュのやつは何やってんだ?」


「ライジングギアの応用を考えておるようじゃ」


「あの不思議な魔法ですか。サカガミさんは凄いセンスですね」


 なぜかギルメン以外にヴァンとカムイとソフィアがいるが気にしない。

 思い浮かべるのはモデルCの連中だ。やつらは金属とコードを伸ばし、人体を形成していた。そこにヒントがある。


「電撃をコードのように……」


 今までのライジングナックルはいわば塊であり、風船のように膨らませることも、自由に伸ばすこともできた。中身を空洞にしてバルーンにもなれるし、刃にも変えられる。今度はそれをさらに変えるんだ。


「編み込む!!」


 ただ塊として出して硬くするのではない。強化ワイヤーよりも硬くしなやかな雷を編むのだ。それを何十にも束ね、ようやくいつものライジングナックルと同じ大きさになった。


「サンダーネットの頃から糸にすることはできていた。ならいけると思ったが」


 後はメタルっぽく虚無で覆えるようになれば、ひとまず完成だな。硬度と質量と威力の増加。やってみりゃできるもんなんだなあ。


「雷の繊維。ライジング・ファイバーナックル!!」


 トールさんに向けて全力でぶち込む。どうせ傷つかないのでこれでよい。


「むうん!!」


 片手で受け止められるが、暴風と衝撃波で部屋が震え、壁に亀裂が入り続ける。

 壊したいわけじゃないので、トールさんに消してもらった。


「見事だサカガミ殿。よくそこまで研ぎ澄ませたな」


「ここにきて一気に上達しおったのう。やはり実戦はさせるべきじゃな」


「うーむ……威力がわかんねえ……ヴァン、ちょっとくらってくれ」


「できるかあ!! いくらオレでも大怪我するわ!!」


「打撃無効だろお前」


「そんな能力はねえ! ちっと頑丈に鍛えてるだけだ!」


 トールさんは上級神の武闘派である。よって威力がわからん。これを正確に把握する手段がないと困るのだ。実戦で不確かなものはなるべく使いたくない。


「だって威力がよくわかんないだろ。虚無より弱いと思うぞこれ」


「どんな敵想定して……ああそうか、また神が出てきたら面倒だな」


「そういうこと」


 同レベルの学生相手ならまだいいのだ。問題はヴァンのような学園トップ陣に効くかどうかである。


「お二人ともそんなに強い敵を想定していらっしゃるのですか?」


「ぶっちゃけオリジンはかなり弱い方だ」


「ええええぇぇぇ!?」


「壮絶ですわね……」


 壮絶極まりなくて迷惑でございますことよ。いやあきついっす。


「いつもあんな戦いを……僕ももっと実戦経験を積まなきゃ」


「やめとけ」


「ああいうのはおすすめできないわ」


「わたしたちは特殊だから、参考にしない方がいいよ」


 イロハとシルフィも止めに入る。あれはもう意味わからんからね。精神衛生上よろしくないのだ。


「サカガミさん、僕にもその魔法教えて下さい!」


「無理」


「即答!? うぅ……秘伝が教えられないのは理解できますが」


 いやできねえんだよ。これどう解説するんだよ。俺が知りたいわ。


「違う。これ言葉で説明できん」


「そうなんですか?」


「お前は人体を雷と魔力に変換して動くことに理屈がつけられるのか」


「……難しいと思いますけど、サカガミさんならできるのかなって」


「なんで無駄に評価高いんだよ」


 こいつ理解できんほどに俺の評価高い。謎だよ。まあヴァンとルシードにも似たような接し方をしているので、多分一緒に戦った信頼的なやつだろう。俺には理解できんけど。


「面白いな。オレにも教えろアジュ先生」


「できねえっての」


「友人と切磋琢磨することはよいことだ。私は少し用事ができた。また明日、訓練がしたければ声をかけてくれ」


「ありがとうございますトールさん」


 神の用事とか絶対首突っ込まないでおこうね。


「そうやって他人と親睦を深めるがよい」


「がんばってアジュ」


「私たちはそっと見守っているわ」


「参加しろや。俺に解説とかできんぞ」


 ギルメンが見守りモードに入っている。俺に教師とか自殺行為である。向いていない。そもそも何を教えるんだこれ。


「じゃあまず全身から魔力を放出する」


「オレの得意なやつだな」


 ヴァンは魔力がめっちゃ高いからね。強くて派手にぶっ放すと見栄えもよい。


「次に属性魔法どーん」


 サンダースマッシャーもどき。ちゃんとした魔法じゃないけど、雑に撃つならこれでいい。


「僕なら水と風ですね」


 カムイもヴァンも楽勝でできる。そりゃそうだ。もう少し先まで飛ばしていいな。


「次に体に魔力を流す。外じゃなくて内側に」


「内側に?」


「血が流れるイメージでも何でもいい。全身に満たすか、循環させるイメージだ」


「体内にってことだよな?」


「そういうこと」


 これも難しくはない。魔力は精神の力とはいえ、体内から湧き出るものだ。素の状態のまま、認識して意識して流すだけ。


「内部で攻撃魔法を流すんですか?」


「いや普通に魔力を流せ。元々体内にあるもんだろ。左手の指から右手の指まで体内を通過させて、円を描くように回すとわかりやすい」


「血が流れるイメージで……回す……」


「以上。後はアドリブでできるだろ?」


「できねえよ。内側に流すってのがまずわからん」


 そういやヴァンはそういうの苦手とか聞いたな。


「魔力を維持しながら移動させりゃいいだけだ。放出する時ドリルみたいに螺旋状にするとなぜか威力上がるぞ」


「そこわかんねえのか…………オレ向いてねえなこれ」


 ヴァンの強化魔法はデメリットでかいからな。負担を軽くしたいのだろう。

 だが俺も意地悪で言っているわけじゃない。逆にどう説明すればいいか教えてくれ。


「ヴァンは外側に魔力を貼り付ける鎧。俺は内側から強化する。実は性質が結構違うのだ」


「それサカガミさんにしかできないみたいですよ」


「アジュが特別なんだろ」


「違うわバカにしてんのか?」


 こいつらは生まれからして天賦の才能を持ち、世界に選ばれた歴史に残る特別な存在である。オルインの特別な存在だぞ。

 俺が感覚でやっている程度のことだ。天才のこいつらにできない理由なんかなーんにもない。


「マジだって。教わる時にバカにしたりしねえよ」


「ううむ……あれだ。いきなり全身雷にしようとする必要はない。肉や骨とか細胞を魔力で染めるんだ」


「しれっと言ってっけど難易度たっけえからなそれ」


「練り上げ方のレベルがおかしいです」


 今までやったことのない訓練というだけだろう。ヴァンは俺より強いんだし、攻撃の破壊力は学年でもトップクラス。カムイだって戦闘センス抜群だし、何よりザトーさんの息子だ。素質は有り余っているはず。


「属性魔法に斬撃とか回転とか特性をつけるんだよ。それで威力と種類は増していく。アイデア次第だな」


「思いついてもほいほいできるもんじゃねえぜ」


「じゃあまず手のひらに魔力を集めて、内部で回転し続ける球体にする」


「そこがもうきついんだが」


 なかなか進まない。だがカムイは体表に属性魔法を流し、回転させて防御とかできるわけだ。


「着火点を球体の全方位から内側に向けられるか?」


「オレに理解できる範囲で喋ってくれ」


「まずこうやって大きめの球体を作る。そしたら玉の内側の壁から炎を出すんだ。玉の上から。次は下から。慣れたら全方位に」


 実際に雷でやってみせよう。玉を薄く作り、内部がちゃんと見えるようにして、なから電撃が駆け巡っているところをお見せする。


「おー……なんかわかるぜ」


「よくこういうこと思いつきますね」


「リリアからのアドバイスもあるが、暇な時は魔法のことばっか考えているからな」


 未知の技術やファンタジーな代物は好き。面白い。テンション上がるのだ。


「そうしてわしらはほったらかしにされるわけじゃ」


「ソフィアも気をつけてね」


「男の人は面白いことがあると、すぐそっちに行くわよ」


「そうなのですか?」


 女性陣が余計なことを教えている。カムイは俺とは違うから、まあなんとかうまくやるんじゃないかな。


「そこはカムイ次第だろ」


「僕ですか?」


「頑張れ。お前ならできる」


 お前らに恨みとかないから、健やかに育つのじゃよ。俺は遠くから見守っておるぞよ。今日くらいはな。


「おぬしも少しは頑張るのじゃ」


「俺は魔法の訓練で忙しいからいいの」


「こういう感じで断ってくるよ」


「気をつけますわ」


 まあ手口もバレますわな。半年以上は一緒だからしょうがない。


「よし訓練終わり。気晴らしに城で遊んでこい。ソフィアを連れて行け」


「いいんですか?」


「ぶっちゃけ腹減ったし読みたい本がある」


 せっかく城の本が読めるのだ。魔法のヒントとか欲しい。まだ改良できる点はあるだろうからな。


「自由だなお前。んじゃクラリスたちのとこ行ってくるぜ」


「お供いたしますわカムイ様」


「わかった。よろしくソフィア」


 そんな感じで解散となった。


「それじゃあ食事に行きましょう」


「外に出るわけにもいかんから、食堂じゃな」


「今日のごはんはなにかなー」


 まあ当然三人ともついてくる。別の誘わなくてもいる。それでいい。

 トラブル続きだったし、今日くらいは普通の日常を満喫しておこうか。

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