他人のデートについていくみたいです

 今日もダイナノイエの城の中。昼飯食ったら客室で本を読む。

 こういう穏やかな時間は貴重だな。なぜ貴重なんですかね?


「こういう時間が減っている。少しゆっくり進行でいこう」


「そうね。まさか大会までアクシデントがあるとは思わなかったわ」


 イロハがお茶を運んできてくれる。リリアとシルフィはソフィアとどっか行った。なので静かに読書タイムだ。


「マジで機関はいなくなれ。神がちゃんと潰してくれと」


 本当に迷惑だ。これ以上仕掛けてくるなら、根絶やしにする作戦を神と考えるしかない。


「もっと穏やかに過ごせるといいわね」


「そう願う」


「その本は何?」


 しれっと横に座りながら覗き込んでくる。読書の邪魔にならないようにしているあたり、俺への理解度が高い。


「魔法の応用?」


「なぜ疑問なの」


 ひとくちで説明するのが難しいのだ。読みながらだし。


「偉人とかの魔法の使い方や伝承なんかを探っていた。ダイナノイエ城の蔵書は凄いねえ。ある程度似たような事例が見れる」


「それ一般には貸し出していないでしょう?」


「例外的に見せてくれた。城から持ち出しは禁止。トールさんも自分以外から学ぶと偏りが消えていいってさ」


 あの人っていうか神は武闘派だが論理的思考もできるらしく、解説はわかりやすいし知識欲もあるっぽい。長く生きている上級神の中でも博識らしいよ。助かるわ。


「古い本ね。複製のようだけれど、それでもかなり年月が経っているわ」


「流石は忍者だな。わかるのか」


「多少はね。こういう知識も役に立つかしら?」


「あって損はないさ」


 知識も力も所詮は道具だ。どう使おうが本人の応用力次第。イロハなら間違えることもあるまい。


「久しぶりに二人なのだから、ここは私を撫でるべきよ」


「読書中だっつってんだろ」


「そうならこうして横にいるわ」


 軽く肩にもたれかかる姿勢だ。まあ邪魔にはならないけれども。


「魔法がお気に入りね」


「ああ、やればやるほど面白い」


「目標ややりたいことがあるのはいいことよ」


「そのために多少ないがしろになるのは仕方がないな」


「だからこうしてくっついているのよ」


 魔法の研究は趣味でもあるが、生き延びるための手段でもある。

 素の俺は弱いので、生存率を上げる手段は確保せねばならない。


「アジュいるー?」


 シルフィの声がする。これで二人の時間はおしまいだな。


「どうした?」


「ソフィアが相談があるらしいのじゃ」


 リリアも一緒らしい。あいつらがいて解決しない問題ってなんだよ。


「……仕方がないわね」


「入ってくれ」


 無下にもできん。世話になったし、別に俺と敵対しているわけでもない。


「お邪魔致します……あら、本当にお邪魔でしたか?」


「問題ない。相談って俺にか?」


「はい」


 伝説の超ご令嬢であらせられるソフィア様が何の御用だろうか。俺みたいな庶民に解決できるなら、本人がどうにでもできそうだが。


「実はカムイ様のことで……」


「怪我は治ったはずだろ?」


「はい。今日は元気になったのでお出かけに行く予定なのですが、どうすれば喜んでいただけるかわからなくて、お知恵を拝借しようかと」


「致命的人選ミスだな」


 絶対俺を参考にするのはやめた方がいいぞ。まず間違いなく失敗する。


「アジュは特殊だよーって言ったんだけどね」


「近くにあまり同年代の男がおらんのじゃ」


「学園の生徒だろ?」


「はい。ですがいつも女性とばかり一緒ですし、ダイナノイエにいる知り合いでは、サカガミ様かルシード様しか……」


 その二択は厳しいな。まずルシードはギルメンとどっか行った。


「超消去法で俺か」


「いえいえ、カムイ様からとても頼りになるとお墨付きをいただきました。自然体でお姫様をゲットした凄い人だと」


「あいつそろそろ強めに殴るぞ」


 おそらくだが本人に悪気ゼロなのが質悪い。広めないように言っておこう。


「皆様とても仲がよろしいように見えますわ」


「そうね。仲がいいのは認めるわ」


「それはその通りじゃな」


 外堀を埋めてきやがった。すぐそうやって周囲を固めようとしますやん。


「下品じゃない場所で、カムイの趣味と合っていれば問題ないだろ」


「今日はミュージカルを見に行って、予約していたレストランで夕食を食べて帰ってくる予定ですが」


「それでいいだろ。それ以外に何があるんだよ」


「はしたないですが、いつもお話して終わるので進展がないのです。人目があるからと手を繋ぐこともできず……」


 婚約者とはいえ、身分が高くてまだ若い二人の事だ。そりゃべたべたするのは難しいだろう。というかだな。


「カムイが同じこと言っていたぞ」


「本当ですか!?」


 驚きの中に嬉しそうな表情が混ざっている。カムイが余程好きなのだろう。


「ああ、どうしたらソフィアともっと仲良くなれるか聞かれてな。新手の罵倒かと思ったぞ」


「また拗らせたわけじゃな」


 いや俺が恋愛に詳しいと思われるのは意味がわからんのよ。そこはもう罵倒かジョークの二択だろ。


「やはり恋愛マスターなのですね」


「違うぞ。マジで違うから広めないように」


「失礼致しました。それでお二人に相談していたら、デートをサポートしていただけないかという話になりまして」


「俺たちでか?」


「はい。費用はこちらで出しますし、ダイナノイエの思い出を作ってはいかがでしょう? お願いできませんか?」


「楽しそうじゃろ。観光せずに帰るのももったいないのじゃ。お言葉に甘えておくべきじゃぞ」


 言われて少し考える。読書も一段落していたし、学園に帰る前に一回くらい観光しておくか。こいつらにも羽根を伸ばす機会は必要だろう。


「ダイナノイエは私の生まれ故郷です。このまま良い印象の無いまま、お友達が帰ってしまうのは、少し寂しいですわ」


「……わかった。そっちの護衛に話をつけておいてくれ。でなきゃ俺たちが不審者扱いされる」


「もちろんですわ。誠にありがとう存じます!」


 嬉しそうにしているが、その表情をカムイに向けりゃいいだけ……でもないな。それでもあいつは紳士的だろうし、意外と難しいミッションかもしれぬ。


「待ち合わせはお城の前で、一時間後ですわ」


「早いな。服はそのままなのか」


「はい。リリア様に清楚で派手過ぎないものを選んでいただきました」


 確かに上品な装いだ。無駄に凝ったドレスではなく、普段着で少し高くておしとやかなイメージだな。


「清楚さは大切なアピールポイントじゃ。無駄に肌が出ても、周囲から浮くじゃろ」


「その通りだ。お嬢様という利点を活かすべきだぞ」


「良家のお嬢様らしい振る舞いでいいのよ。そこに優しさを混ぜていきましょう」


「なるほど……ためになりますわ!」


 服装に関してはお姫様とリリアに任せればいい。

 そこ以外で俺が……何を話せばいいのやら。


「いつものデートとあまり変わりがありませんわね」


「いつものクオリティが高いんだろ。相手も王子だからな。一般人とは違うわけだ」


「上流階級同士なら、これで釣り合いが取れているのじゃよ」


 当然ながら一般人のデートとは違うのだろう。普通のデートを知らんけど。


「無理にランクを上げ下げする必要がないと考えるべきね」


「お似合いだねー。焦らなければもっと仲良くなれると思うよ」


 婚約しているのだから、無理する必要はないとちゃんと言っておいた。

 そこを勘違いすると先走ってしまうからな。冷静にいこう。


「俺たちはそーっとついて行った方がいいんだな?」


「そうじゃな。二人の邪魔をするべきではないじゃろ」


「一応通信機を渡しておく。使い方はリリアに聞いてくれ」


 俺たち四人の通信機に繋がる子機を渡す。もちろん一時的にだけど。

 これで連絡が楽になるはずだ。


「そろそろ時間ですわ」


「よし、じゃあ作戦開始だ」


 たまにはこんな日があってもいいだろう。

 ついでに観光して、最後くらい楽しまないとな。

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