トラブルはまとめてこないようにしてください

 観光しつつカムイとソフィアのデートを見守ることになった。

 我ながら意味のわからんことをしているな。


「では我々と一緒にここで隠れましょう」


「ご迷惑おかけします」


 元々少し引いた場所で護衛が待機している。そこにそれとなく混ざればいいだけだ。無論俺たちの服装もSPに合わせている。

 SPは半分がソフィアの、もう半分がカムイのガード。軍人の変装である。


「本来皆様こそ最優先で護衛すべきなのですが」


「そこは気にせずいきましょう」


 王族混ざっているからね。うむ、迷惑な申し出だな。後でなんかお詫びでもするか。


「劇場に入ったな」


 なんともまあ豪華な建物だな。やはり庶民とは違う。貴族には貴族の遊び場があるのだと実感した。


「アジュも行きたい?」


「いや、住む世界というものがある」


「けど私たちも入るのよ」


「見失わないうちに行くのじゃ」


 SPさん数人と一緒に入場。うーわ中がまた豪華な作りだこと。この金はどっから出ているんだか。


「あいつらVIP席だよな?」


「二階の特別席だね」


「気づかれないよう、慎重に動くのよ」


「お前らの身バレが一番面倒なんだぞ」


 シルフィとイロハには帽子を装着した。これでお姫様だとバレないでくれるとありがたい。従業員なら顔なんて知らないだろうが、支配人レベルから気づかれる可能性が上がるのだ。


「発見。ソフィア、聞こえていたら右上くらいの席を見て。一瞬だけだよ?」


 通信機は片耳にはめて、喋るには右手首の腕輪に喋る。ハイテクすぎるので、今回の仕事が終わったら破壊する予定だ。


「こっち見たのじゃ」


 幸いなことにソフィアの右側にはカムイが座っている。カムイを見るふりをして、こちらを一瞬だけ見た。


「よし、じゃあそのまま芝居を見ていろ。感想とか言い合うことに備えてな」


 そして客席も埋まり始め、十分少々で舞台は始まるのであった。


「まあ……貴族が見るもんだなあ……」


 開始三十分。恋愛どうのこうのがテーマらしい。合わない。役者のレベルは高いのだが、いかんせん心情に重きを置きすぎている。アクションシーンとかもない。


「アジュには合わないかもね」


「フルムーンのやつは気に入っておったのう」


「あれは面白かったぞ」


 普通に会話しているが、俺たちはSPとは別の位置だ。特別ボックス席のような場所にいる。周囲に俺たちしかいないので、相当でかい声を出さない限り誰にも聞こえない。こういう席がいくつもあるあたり、金持ち用の劇場なんだろう。


「いったん通信を切る」


 そして作戦会議が始まる。


「さて、問題はいつやるかだな」


「ムードのあるシーンで、そっと手を重ねるくらいにしておくべきだと思うよ」


「あまり派手なことはせず、それでいて意識してもらうにはいいと思うわ」


「うむ、握るのではなく置く感じじゃな」


 まずギルメンに効果的な行動を聞く。それを男目線で考える。無論カムイがどうするかを考慮する必要があるが、前提としてあいつら両思いのはず。なら軽く進展させるだけでいいだろう。


「こういう風にやるのじゃ」


 俺の手にそっと手を重ねてくるリリア。なるほど。これなら邪魔にもならないな。


「邪魔になるかどうかで判断しとるじゃろ」


「そりゃそうだろ」


「違うわ。女の子とこうしてときめくかが重要なのよ」


「俺に言われても困るが……まあカムイならいけるだろ」


 こっちの世界の男ってこういうの嬉しいらしい。まず嬉しいかどうかって判断基準どこなんだろ? 希少価値とか何か明確な指針がないからなあ。


「また面倒な拗らせ方をしている気がするわ」


「俺には漫画や小説の話しかわからんが、この舞台の内容を見るに妥当な案だろ」


「これは攻略が進んだのかな?」


「難しいところじゃな。まあソフィアに連絡じゃ」


 そしていい雰囲気の時に実行され、頬を赤らめながらもそのまま舞台を見ている二人……を見ている俺たち。


「俺は何を見ているのだろうか」


「うまくいっているのだから、これで正解よ」


「ソフィア、舞台が終わったら、そこから手をつないで出るんだ」


「自然にできる自信がなければ、もう手を差し出してカムイに任せればよい。なんとかなるじゃろ」


 あいつの紳士力に期待しよう。今のところ順調なんだから、このまま無事に芝居が終わればいいわけで。


「何かおかしいわ」


 イロハがそんなことを言い出す。別に二人は普通だが。


「そっちじゃないわ。舞台に近い場所……ライトのある場所よ」


「なんか……怖い感じがするね」


 でかいライトを動かしている場所がある。舞台なんだからそういう演出はあって当然だが。


「左側を見て。五人いるでしょう。右側は一人だけよ。さっきまで三人いたのに」


「消えたのはいつだ?」


「暗くなった時ね」


『トーク』


 しょうがないので鍵発動。SPさんにも聞いてみよう。


「SPさん、そちらにだけ聞こえるように話しています。舞台の右上、ライトとかある場所ですが、少し動きがおかしいです。あれは演出なんですか?」


 即そっちを見てくれる。優秀だな。カムイのSPってことは、精鋭部隊の可能性が高い。


「右手を口に当てて喋ってください。こっちに聞こえます」


『何かあったのか?』


「忍者が言うには殺気が強すぎるとのことです。人数が減っているとか」


『数人向かわせる』


 目立たず最速で移動している。凄えさり気なく、他の客の邪魔にもなっていない。ああいう技術は欲しいかも。


「杞憂であって欲しいところじゃな」


「この国呪われてんのか?」


「トラブルの頻度がひどい」


 一応俺も行くことにする。シルフィとイロハはここで待機。お姫様連れていくわけにはいかん。


「さて裏手に回るのは無理だよな」


「部外者全開じゃからのう」


 舞台裏に行くことはできない。だって一般人だもの。SPは軍人だから事情を話せば通れるよ。警察の権限的なそういうやつだね。


「とりあえずあの場所に限りなく近づこう」


 早足で移動中に、役者の楽屋前に来た。ちょうど誰かが出てくるところで、その男と目が合った。どうせ役者さんだろう。軽く会釈しておく。なんで普段着かは知らない。


「どうも……」


 そう言ってお辞儀してくる男。こちらもお辞儀。でかいリュックだなこの人。

 だが急に背後を振り返ったかと思えば、足早に俺たちの横を抜けていく。


「なんだあれ?」


「あっちはロビーじゃな」


 関係者ならなんで外に走っていくのだろう。少し怪しい。


「魔力の探知機を付けておいたのじゃ」


「ナイス。それじゃあSPさんと合流して……」


 楽屋に入るような真似はしない。ちょうど何人か帰ってきているし、揉めないうちに去ろう。


「君たち、ここで何をしているのかな?」


「ちょっと人波にあてられまして、ロビーで休憩しようかと」


 嘘爆発である。まあ王家のSPですとか信じてくれないからね。


「そうかい。ロビーでゆっくりするといいよ。今なら人もいないだろうし」


「ちょっと! お金が無くなってる! 宝石もよ!!」


 部屋から女が飛び出してきた。かなり慌てている。


「何だって!?」


「ごっそりやられたわ!」


「まさかそんな……」


「一応言っておきますが俺たちは違います。ごっそりやられたんでしょ? ガキ二人じゃ無理ですよ」


「そうだよね。ごめん。怪しいやつを見なかったかい?」


 リリアと目を合わせ、軽くうなずく。


「さっき茶色の髪の男が部屋から出てきましたよ。でかいリュック持って、あっちに走っていきましたが」


「茶色……? うちで茶色は役者だけだよ?」


「全員舞台に出ておるのじゃな?」


「最後に挨拶と全員集合しての礼があるから、いなくなることはないはず」


「きっとそいつよ! 追って!!」


 別件に巻き込まれたんですがそれは……もう最悪だよ。


「仕方がない……リリア」


「うむ、魔力で探知できるのじゃ」


「本当かい! ありがたい! 追うぞ!」


「案内お願いねお嬢ちゃん!!」


 リリアなら単独で捕獲くらいできる。SPにも連絡して、事件と場所は教えた。


「そっちは任せたのじゃ」


「あいよ」


 さて俺も急ごう。トークキーはまだ使いっぱなしだ。


『こちら現場。照明係は何者かに昏倒させられていた。我々が来たことで消えたらしい』


「了解。俺はしばらく探索します」


『わかった。数名そちらに向かわせた。合流して舞台裏に入って欲しい』


「了解」


 さっさと行動開始だ。合流地点には既に二人のSPさんがいる。

 早速舞台裏へと潜入し、創作を始めようという時に、突然近くの壁が崩れだす。


「おいおい危ないな。古い劇場なのか」


「おやあ? 金庫じゃねえじゃねえか」


 変な装備付けた集団が出た。劇の衣装じゃないようだ。


「こいつら! 最近出没する金庫破りだ!!」


「えぇ……」


 SPさんは知っていた。今金庫破りに来なくてもいいじゃない。


「てめえら戻れ! ルートBだ!!」


「ルートBあんの!?」


 時間稼ぎのつもりか、俺とSPに武器を向けてくる。


「イロハ」


「忍法影縛り!」


 イロハは呼べば来てくれる。ささっと影で縛ってくれた。


「ちくしょう離しやがれ! こんなもんでおれらのえげえっぺい!?」


 うるさいので殴って黙らせた。殺しちゃいない。


「すぐに皇国軍が来ます。警備の者はまだか!」


「それが……舞台袖で何かあったようで……」


「私たちが見ておくわ。大丈夫よ。この場から動いたりしないわ」


「任せる!」


 SPさんと二人で舞台袖へダッシュ。

 そこではロングソードを振り回す、目の焦点が合っていない男がいた。


「どうしてよ! せっかくの舞台だっていうのに! どうしてこんなことするの!!」


「君がいけないんだよ……君がオレを捨てるから!!」


 近くの役者にでも聞こう。もう意味わからん。


「説明してくれ」


「あいつはうちの元団員なんです。女優と付き合っていたんだが別れて……それを根に持ってのことみたいです」


「この劇場呪いのスポットなの?」


 お祓いしてもらえこんな場所。そう思いながら打開策を考えるのであった。

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