第174話 集まる悪意

 新魔界でバティンもといトウコツと最終ラウンドが始まる。


「さあ、さっさと終わらせようぜ」


「ガアアァァ!!」


 まずは鬱陶しい尻尾から切り刻んでやる。

 どんな化物だろうが、この剣ならば切れる。そして痛みを与えることも容易だ。


「グギャアアアァァァ!?」


「痛いだろう? その傷口は一生治らない。ま、お前の一生は後五分以内ってところだけどな」


 突然トウコツから生えた二本目の尻尾が刃となり、最初の尻尾を切り落とした。


「フウウゥゥゥ……アアアアアァァ……」


「なるほど、面倒なことしやがる」


 こいつは悪意の塊みたいなもんだ。死ななければ復元も自由。

 つまり、痛む傷口ごと体を切り落として、新しく作ればいいってわけか。


「グオオオオォォォ!!」


「速い! だあありゃああああぁぁ!!」


 光速に達したか。バカでかい図体のくせに、俺と拳の乱打をしやがる。

 一発一発の攻撃で大地が揺れ、避けた爪の一撃で地面に大きな傷がつく。


「威力も高い……消しちまうのが一番だな」


『シャイニングブラスター!』


 予定変更。跡形もなく消し飛ばすことにする。切り傷より効果的だろう。

 まずは膝蹴りを顔にめり込ませて弱らせる。


「オラオラオラアアァァ!!」


 一秒に五千万。それがこいつの攻撃できる速度の限界らしい。

 それさえ上回れば速さ比べで押し通せる。

 腹の下に入り込み、必殺の一撃を食らわせた。


『ゴウ! トゥ! ヘエェェル!』


 頭と尻尾を残して光の渦に消えるトウコツ。本来ここまでやれば、死なずとも魔力は落ちるが。


「グゲゲゲゲゲゲ!!」


 頭と尻尾が混ざり、さっきまでと同じ化物に戻った。

 かなり小さくなったが、それでも七十メートルはあるな。


「そうかいそうかい。徹底的にぶっ壊さないとだめか」


 しかも体が吹っ飛んだってのに、パワーとスピードが上がっている。

 魔力が下がっていることから、怒り狂って馬鹿力が出ているんだろう。


「ガギャギャギャギャギャ!!」


 叫び声のバリエーションが無駄に豊富だな。

 体中からバティンの顔が現れ、同時に黒い渦を吐き出してきた。


「キモイな!?」


『リフレクション』


 とりあえず反射。自滅でもしてくれたら助かる。


「ゴアアアアァァァ!!」


 はい無傷です。ふざけやがって。だが今のでわかった。

 こいつは恨みとか痛みでパワーアップしている。

 即消滅させないと、その痛みで強くなるんだ。


「悪意の塊ってのは粘着質だな」


 それでも弱点発覚。シャイニングブラスターでやつの魔力が減った。

 光に弱いわけだ。なら使う鍵は一つ。


『リリア!』


 リリアキーでクリスタルな輝く鎧に変身。

 こいつは光を吸収・放出する。しかも無限に。

 これそのものが光の力であると言っても過言ではない。


「これならどうだ!」


 足に光を集中させて蹴り飛ばす。思った通りだ。吹っ飛んだ箇所の修復が遅い。


「ウガアアアァァァァ!」


「決まりだな」


 力任せに何度も殴り、雲の上まで運んでいく。

 トウコツの攻撃は全部が鎧の光に当たって消えた。

 最早俺にこいつの攻撃は届かない。この状況での決め技は一つ。


『ファイナルシャイニングセイバー!!』


 剣に全ての光が凝縮される。

 それは、この世界のあらゆる光を集めたとしても到達できない究極の輝き。


「完全に終わらせてやるよ。お前みたいな化物にはもったいない技でな」


 これはリリアの鎧じゃなければ使えない。

 なぜならこの技も、この鎧も、幼いころの俺とリリアが考えた、二人だけの必殺技だからだ。


「一撃で、全身を消滅させる!」


 トウコツの全身よりも、剣から迸る魔力の光を大きくする。

 これでも怯えた表情を見せない。こいつは化物だ。

 それも死ぬまで戦い続けるだけの、醜く壊れた存在。消してやるのが一番だろう。


「消えてなくなれえええぇぇぇ!!」


 振り下ろす刃は、悪意全てを飲み込み消していく。


「ギャギイイイィィィィィ!!」


 図体並みにでかい叫び声を上げながら完全に消滅した。

 これで終わったな。長かった……正直俺が戦わなきゃいけない相手が出るなんて予想外だよ。


「アジュ! 無事か!」


 マコがこちらに走ってくるのが見えた。


「ああ、終わったよ」


「そうか……よかった……」


「なんだ? そんなに心配だったか?」


「当たり前だろう!!」


 笑い飛ばされると思ったら、かなりの勢いで言われた。

 ちょっと泣いていないかマコ。


「あんな化物と一人で戦って……ほとんど速すぎて見えなかったし……私がどれだけ心配したか……」


「あーわかったわかった。なんか俺が悪かった」


「なんでなんとなくなのよ! 今なんか雰囲気で適当に謝ったでしょう!」


「すまんな。他人に心配されることに慣れていない。よくわからんのよこれが」


「本当に……アジュはもう……」


「泣くなよ。魔王様が泣いてちゃかっこつかないぞ」


「泣いてない!」


 完全に口調が素に戻っているな。それだけ心配だったってことか。

 俺としては死ぬ可能性ゼロの戦いだったけれど、なんか心配かけたみたいだ。

 無理矢理にでも話題変えちまおう。


「しかしやっと帰れるな」


「本当に助かったよ。魔界にあんな化物がいたらどれだけ被害が出るか。あ、そうだ! 地獄は! 堕天使はどうなったんだ!?」


「あいつが全部吸い込んだよ。世界まるごととは豪快なやつだ」


「ええ、ですからもう堕天使を監視する必要はありませんよ」


 誰かが俺達から離れた場所に立っている。

 スーツにシルクハットの人影。深く被っているため顔が見えない。

 声もどちらともつかない。なんだこいつは。


「まだ生き残りがいたか」


「お待ち下さい。戦う意志はございません」


「貴方は……メフィストフェレス様!?」


「はい。お久しぶりですね、マコ殿。立派になられまして」


「敵じゃないのか?」


「サタン様の右腕だ」


 そういやそんな話を聞いたな。怪しさ大爆裂だぞこの人。


「お初にお目にかかります。メフィストフェレスでございます」


「アジュ・サカガミです」


「この度は魔界をお救いいただき、サタン様からも感謝の意を伝えるようにと……」


 なんか難しい話が始まりそう。帰りたいんですが。


「地獄の監視とルシファーの捜索により、多忙のサタン様に変わり、魔界を代表してお礼申し上げます」


「いえいえ、成り行きでやっただけです。できれば俺がやったことは秘密にしてください」


「それは無理があるだろう……」


「いやいや口裏合わせればいけるだろ?」


「お前自分のやったことの大きさがわかってないだろ!?」


「平気だって。俺だとわかんないように魔力はちょこっと変えたし」


 そもそも俺は鎧がなければ雑魚だからな。魔力も鎧依存のやつだし。

 素の俺ならまずバレない。いやちょっとテンション上がってやりすぎたけど。


「魔王クラスは絶対に気付いているぞ。あんな膨大で魔界全土を塗り潰した魔力だ。数秒のこととはいえ、確実に知れ渡った」


「つまり魔王クラスが黙っていてくれればいいんだろ? 一瞬で塗り潰して即、作業終えたからな。上級魔族の一部じゃなきゃ、何も起きなかったと認識するさ」


「魔界が突然何倍にもなったんだぞ!?」


「うーわー無計画に動くもんじゃないな……どうしよ」


 あんまり周囲に強いとバレるのはめんどい。メフィストさんにもバレてんなこれ。


「お話中すみません。魔星玉ですが」


「ああ、持ってますよ。ここに」


 とりあえず召喚版スロットから取り出す。これも返さないとな。


「よかった。それは魔界にとって必要なもの。重ね重ねありがとうございます」


「さっきも言いましたが、成り行きでなんとなくこうなっただけですよ」


「魔界全土の危機をなんとなくで解決するとは……」


「とりあえず戻りませんか? 魔星玉もむこうに持っていって、魔王達にどうするか委ねます」


「それが一番でしょう」


 そして、今来た道を戻る作業が始まるんだけど。


「では、こちらの動く床へどうぞ」


「あ、こんなんあるんですね」


 そんな感じで立っているだけで魔法で動く床を作ってくれた。

 椅子も用意してくれたので、くつろぎながら城へと帰った結果、俺達を待っていたのは。



「お、やーっと帰ってきおったか。随分ゆっくりじゃったのう」


 完全に宴会が始まった会場であった。

 なんなら俺達がいた時より豪勢にやっている。


「なにやってんだ? 天使は?」


「あんなもんわしらの敵ではないのじゃ」


「戻ってきたかサカガミくん」


「たいちょー! ご無事ですかー!」


 アモンさんにパイモンもいる。壊れた会場は完璧に修復されていた。


「おつかれさん! どうだい? 一緒に飲むかい?」


 バエルさんが酒かっくらっている。酒樽が似合うなこの魔王さんは。


「いやもう疲れたんで帰って寝たいです。あ、食い物だけ持ち帰ろうかな」


「夕食はうちでとるかい?」


「わざわざ作ってもらうのもあれなんで、ここにあるの包んでもらえれば」


「長持ちするものを取っておいたわ」


「ナーイスイロハ。よっしゃ帰ろうぜ」


 イロハはこういうときに気が利く。もう本当に眠い。

 鎧を解除したせいか、帰り道でもう寝そうです。


「ちょちょちょちょ、待ってマスター。まだ魔星玉とか色々あるじゃない?」


「メフィストさん。あとはお願いします」


「はい、ではまた明日、アモン殿のお屋敷でお会いしましょう」


 途中でメフィストさんに事情をある程度話しておいた。

 魔界を救った恩があるので、今日は疲れたから帰って寝て、明日でお願いします。

 それくらいの軽いわがままなら通るわけさ。


「せっかくマスターのためにお酒とか女の子を用意しようって話していたのに」


「どっちも嫌いなんでパスで」


「アジュにはご飯かお休みをあげるのが一番ですよ」


 その通りだ。よくわかっているなシルフィ。


「じゃあお先に失礼します」


「ああ、今日は本当にありがとう」


「いえいえ」


 もうさらっと流して帰ろう。外に出て、ギルメン三人とマコを入れた五人で帰る。

 アモンさんのお屋敷まで送迎してもらって、到着したら速攻で自室に戻って寝た。

 明日になったら全部俺の都合のいいようになれ。めんどいから。

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