第175話 魔界からの帰還
バトルとかあった翌日の昼。食堂に行くとなにやら見知った魔王達がいた。
「お、起きてきたか」
「マコに起こされたよ」
アモンさんのお屋敷は広い。十人や二十人で狭くなったりはしない。
「隊長はお寝坊さんですねー」
「違う。あらかじめこの時間まで寝ると心に決めている。寝坊じゃない。計画だ」
「こればっかりはアジュの体質の問題だからね」
「なんとか改善しましょう。色々と不便でしょうから」
「健康に良いものを食べさせるのじゃ」
俺の健康談義になっているので止める。
見たことのない人もいるな。なんだこの会。
「では、サカガミくんも来たことだし、まずは魔界を救い、魔星玉の奪還を果たしてくれたこと、魔王としてとても嬉しいよ。ありがとう」
「いえ、俺だけの力じゃないですよ」
とりあえず、こういう場ではこう言っておくもんだろう。
拍手に対し、どうしていいかわからないので、料理に手を付ける。
なんか野菜多めだ。マジで体質改善するつもりか。
「謝礼は色々ありますよー期待していてくださいなー」
「そらいいな」
「では、新魔界に新たにできた領地の問題だが」
あ、真面目な話が始まりそう。そういう話は俺達がいなくても良いんじゃないのかな。
「サカガミくんの領地を決めよう」
「…………は?」
「魔界が増えただろう? 各魔王の領地が広がった場所は、その地の魔王が管理するとして」
「アモンの領地がぐんぐん広がっちまってな。ちょいと多すぎるんだ。だから分割して渡しちまおうってこった」
「領地なんてもらいましても……内政とかできませんし」
そしてめんどいし。政治なんてアホくさくてやってられるか。
俺はだらだら生きるんだよ。他人の暮らしなんて知ったことか。
「ならば俺のように楽園にすればいいい」
見たこともない魔王がそう言った。銀髪オッドアイで俺より少し身長高めで、体が大きめ。
潜在魔力が尋常じゃない。この中でも俺やリリア達を除けば一番かも。
「マーラだ。どうも同類の匂いがしたものでな」
「同類?」
「自分の気に入ったもの以外はどうでもいい。ただ気に入ったものに囲まれて、自堕落に生きていきたい。邪魔するものは消せばいい」
「まあそうですね」
なるほど。俺と発想が似ている。領地に住む他人を守るのがクソ面倒なんだよな。
そいつらは勝手に住んでいるだけで、大切な人じゃないし。
他の領主との付き合いとかめんどい。相手が友好的でもやだ。
攻めてくれた方が皆殺しで解決できるから楽な可能性まである。
「マーラは領地は狭いし、自分の女以外を絶対に住ませない。だが領内は自給自足ができて遊べる場所も多い。きれいな湖とか海とか山とかな」
「なるほど、丸々別荘っていうか避暑地なのか」
「ああ、それならば問題もあるまい。わずらわしい政務も、鬱陶しい領民もいない。俺だけのくつろぎスペースとした」
「いいですね。それならいけそうです」
そういう場所が一個くらいあっていいな。ナイス提案だマーラさん。
「本来の魔王の業務からすればイレギュラーなんだけどね。サカガミくんは魔王ではないし、土地は私の領地に隣接しているから、ついでに管理しておくよ」
「助かります。では俺の領地はそこでお願いします。リリア達は?」
「わしらはおぬしと一緒でよい」
「三人分をアジュの領地に足すことにしたんだよ!」
「私達はアジュが一緒でなければ意味が無いのよ」
結局、四人分の領地を一つにまとめ、俺を領主とした。
でもってそこに三人書き加える形をとる。
こうして魔界に俺達四人の住処ができることとなったのさ。
「これで隊長とお隣さんですね」
「ん? どういうことだ?」
「ボクとアスモさんの領地と繋がっているのですよー」
「そりゃ便利だな。攻められる心配もなさそうだ」
「流石にまだ死にたくないものねえ」
「よし、受け取ってもらえてよかったよ。それと、今回の事件で堕天使と天使。そして裏切った魔族は全滅した。ひとまず安心だ」
俺達が帰ってからも捜索と駆除は進んでいたらしい。お疲れ様です。
「それでもちょっとゴタゴタしそうでね。観光はまたの機会になりそうなんだ」
「それじゃあまた今度、魔界が落ち着いてから来ます」
魔界の混乱は俺にはどうしようもない。そんなわけで昼飯を食って、自宅へ帰ることになった。
魔界へ来た日。あの日と同じ巨大な門の前に立っている。
魔王のみんなが見送りに来てくれた。
「世話になったな。また来い。歓迎してやる」
「自分の楽園を大切にな」
「何かあったら召喚してくださいねマスター」
「少ししたらボクも人間界に行きますから。またお会いしましょう」
「娘を守ってくれてありがとう。いつでも遊びに来てくれ」
「ありがとうアジュ。私はしばらくこちらに残る。本当にありがとう。いくら感謝しても足りないよ」
大勢に見送られ、感謝されるということに慣れていない。
どうもむず痒いので対処に困る。
「ああ、頑張れよ。また来ます」
「また四人で来るのじゃ」
「お世話になりました」
「またどこかでお会いしましょう!」
軽く手を振り、光り輝く門を抜け、人間界へ帰ってきた。
「はあ……二、三日なのにえらく長いこといた気がするな」
「まーた戦いに巻き込まれたからのう。疲れたんじゃろ」
「そうね、でも収穫はあったわ」
「報酬がいっぱいもらえたからね!」
これで贅沢さえしなければ、食費には困らないだろう。レアアイテムももらった。
ここで疑問が出てくる。
「でもよかったのか? 俺とは別に領地もらえていたんだぞ?」
結局のところ、俺が領主になってしまったわけで。
それ以外にも特別報酬はあったから、いいっちゃいいんだけどさ。
気になると聞きたくなる。こいつら関係のことオンリーだけど。
「私達は国や里があるわ。これ以上増やしても管理が大変なのよ」
「それに、将来のことも考えないとね」
「将来?」
「お嬢さんをください! とお願いする時に、ふらふらしておる男と、魔界に大きな領地がある男とでは、両親の態度も変わるじゃろ」
「…………初めっからそれが狙いか」
妙な方法で外堀埋めてきやがって。段々とやり方が賢くなってやがる。
「最悪領地に引きこもれば暮らしていけるようにしましょう」
「どうせアジュは横着するからね。生活基盤は作っておかないと」
いざという時に逃げ込める場所があるのは素晴らしい。
俺は勇者にも政治にも興味がない。力はあるし、別に楽しいことがまだまだある。
なら余計なものに囚われず、私情で自由に生きる。それが俺の人生における幸せだ。
「ならさっさと第一の拠点に帰るぞ。久しぶりの我が家だ」
「うむ、帰って掃除でもするかの」
「ミナがいるから大丈夫じゃない?」
「午後どうしましょうか」
「別に夕飯までだらだらすればいいさ。だめなら魔法の訓練でもするか?」
ここでなんとなく開発中の必殺技を思い出した。あれはまだできない。
俺に足りないものが多いから。なので魔力を上げることに集中していたりする。
「お、必殺技だね。使えそう?」
「まだ研究段階だな。魔力量が足りないんだ。そっからさらに改善の余地あり」
「ならば魔力を上げる訓練でもするのじゃ」
「触られても舐められても魔力を途切れさせない訓練はどうかしら?」
「舐める必要が無いだろ!? 普通にやろう普通に」
これは夕飯まで訓練かな。別に強くなることそのものは嫌いじゃないし。
腹をすかせるにはちょうどいい。適当に庭ででも訓練しようと、俺達は家路につくのであった。
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