所長の目的とプランター

 地下工場にプリズムナイトがばら撒かれ、プランターとかいうデカブツがいる。狂った研究員やら実験動物も豊富に取り揃えてございます。さあどうする。


「とりあえずプランターを先に潰すか」


 ボスに目を向けると、もう天井突き破って上へと消えていた。


「はああぁぁ!?」


「あっちゃー……どうする?」


「敵を殲滅しつつ上に向かう。超人を外に出すのは危険だ」


 狂っている超人から潰していく。なるほどプランターに養分を分けてもらい、パワーもスピードも上がっている。知能は少し上がったのかな。言葉を発しているようだ。


「死ねえ! 死んで食われろおおぉ!!」


「こいつら本当に超人なのか? 微妙じゃね?」


 光速も突破していないし、国どころか街が消せるか怪しいぞ。

 こいつら五百人いても、フルムーン騎士団長なら一撃で全員殺せるな。


「確かにそれほどでもありませんなあ。超人の中でも弱いか、武術の達人ではあるが、人の限界を超えられなかったものが偽って混ざったか」


「弱いのはいいことよ。さっさと倒しましょう」


 まあギルメンの敵ではない。兵士の皆さまをかばいつつ、迫ってきたやつから潰していけばいい。


「学生のお嬢さん方が、苦戦もせずに倒せるレベルではないはずですが」


「そこは秘密です。そういうタイプの依頼ですから」


「これは失礼を」


 そして廊下の敵を倒しつつ、広い場所に行くのだが。


「いや敵多いな!?」


 どこにこの量がいたんだよ。人間もそうじゃないやつも多すぎる。大半がザコなのが救いだな。

 なんか植物まみれの犬とかいるし。やめろかわいそうだろ。せめて苦しまずに一撃であの世に送ってやる。


「クヒヒヒヒヒ! お前もこっちに来い!!」


「断る」


 音速の七十倍は出ている男を殴り、内側から出てきた木の枝の群れを避けて魔法で消し飛ばす。


「改良型か?」


「ただ狂わせる麻薬ではないということでしょうなあ」


「面倒じゃな。ランダムで超人混ざるのが心臓に悪いのじゃよ」


 遠距離魔法は最悪避けられるからな。やったと思ったら、かわして突っ込んできたりしてうざい。


「このまま上に出るまで殴り合い殺し合いは厳しいわね」


「こういう暴力オンリーは嫌いなんだが……」


「お嫌いなのですか? 結構ノリノリだったような気がしますが」


「俺は敵が危害を加えてくるから殺しているだけです。絶対復讐に来るから、その場で魂とか尊厳を踏みにじって確実に始末するだけで、戦わずに生活できるに越したことはないんですよ」


 俺を快楽殺人者みたいに言うのはやめようね。もともと戦闘も嫌いだぞ。ただできることが破壊と殺戮だから、そっち関係に依頼が偏るだけで……もっとできること増やそう。マジで。


「うわあぁ!?」


 兵士さんに群がる連中に魔力弾を当ててひるませ、バラバラに切り刻んで雷光で焼き切る。


「すまない! 助かった!」


「できる限り固まって行動して! 湧いてくるやつは俺達がやる!」


 兵士さんも弱くはない。学生よりは強いだろう。だが圧倒的な物量と、たまに混じる改造人間が邪魔だ。


「もっと広い場所に行こう!」


「ご案内いたします。道が崩れなければですが」


 来た道くらいは覚えているが、敵も多いしあちこち壊し気味なため、マップを把握しているジョナサンさんが頼りだ。


「アジュ、天井に張り付いてる!」


 天井に木の手足が六本生えている、人と蜘蛛の中間みたいな白衣の敵がいる。


「デザインがキモい!!」


 がさがさぴょんぴょん動くな。白目向いているし、切ると緑色の液体が出るのマジで嫌い。魔法で消そう。触りたくないです。


「いっぱい来るよ!」


「いっぱい来んなや!!」


 全員天井や壁を移動してくる。四つん這いというか蜘蛛みたいに動く。きしょい……精神攻撃のつもりか。


「まとめて焼却処分じゃ」


 もう焼いてしまおう。殺菌消毒の最大手ですよ炎は。そんなこんなで駆け上がる。


「よし、かなり上がってきたな」


「何かいるわ」


 通路の先は真っ白い壁しかない広大な部屋だった。奥の通路前に八人ほどのプランターもどきがいた。2メートルくらいの身長で、下で見たボスよりも植物や鉱物の部分が少なく、人間の見た目に近い。まあそれでも化け物だけど。


「安定性を重視した量産型のようですな」


「気をつけて。何か今までとは別の気配がするわ」


 右端の一匹が俺の横に迫り、剣のように固められた腕で刺突を繰り出す。咄嗟に体を捻り、回転を利用して裏拳を叩き込んでやる。敵は大きく体をそらしながらも、胸から植物のツルを伸ばしてきた。


「一撃で死なない?」


 切り払いながら距離を取ると、背後に別の気配を感じる。瞬間的に回し蹴りを放つが、そいつは今までの敵とは比較にならないスピードで離れていく。


「光速突破勢か!」


 四人同時に俺へと群がり、秒間数千の攻撃をコンビネーションを駆使して打ってくる。ある程度の連携が可能な知能は残っているらしい。


「アジュ!」


「こっちは気にするな!」


 見ればギルメンに一匹づつ。ジョナサンさんと兵士を一匹が襲っている。ギルメン以外も実力は拮抗しているようで、心配は無いだろう。


「耐久力を上げておるのう。しかも痛覚ないじゃろこれ。細胞を植物で賄う人形みたいなもんじゃな」


 リリアの攻撃魔法の嵐すら、ズタボロになりながらも一直線に走ってくる。キモい。白目むいてますやんか。


「きしょいからやめるのじゃ」


 リリアはフィジカルで圧倒できるため、殴れば勝てる。花粉を風魔法で流し、炎の蹴りで爆裂させる。腕力でザコ超人を潰せるのはやべーわ。つまり俺を押し倒そうとすれば確実に実行できるわけだ。力で勝てないからね。


「余計なこと考えとるじゃろ。さっさと倒すのじゃ」


「はいはい」


 見抜かれた。敵の攻撃にも慣れ、前後左右からの付かず離れずの戦法も見切った。


「キヒヒヒ……速い、速いよ……」


「でも勝てないんだなあ! ヒヒヒヒヒヒヒ!!」


「調子に乗りすぎだな」


 わざと大振りの回し蹴りで一回転する。四人全員がバックステップでかわしてくれた。それでいい。つまりこの一瞬が勝負だ。光速の二百倍で肉薄し、今まで温存していたパワーで右ストレートをぶっこむ。


「まず一匹!」


 敵Aの腰から下だけを残して完全に消滅させた。これで四方の壁は切り崩せたぜ。敵のいなくなった方向に走る……と見せかけて、大きく上に飛ぶ。


「飛ぶ時間さえあれば、上から狙えるのさ」


 さてこういうケースでは、ジャンプしたやつは空中で動けないから、狙い撃ちにされるのがセオリーだ。


「まあ関係ないわけだが」


 拳圧の連打で動きを止め、空間を蹴って軌道修正。超光速ですれ違いざまに二匹の首をはねる。


「ラスト!」


 最後の一匹のパンチにパンチを合わせて腕を破壊し、逃げる暇もなく追い打ちで塵に変えた。


「まったく……急に強いやつ出しやがって」


 こっちは終わり。他に目をやると、シルフィとイロハがタッグ戦を仕掛けていた。


「ふっふーん。遅いよ!」


 攻撃の時間を早めている。敵の中途半端な力では、どうあがいても見えない斬撃に対処できていない。


「ぐえっ!? ガキがああぁぁ!!」


「そっちばかり見ていると危ないわよ」


 シルフィが撹乱しながら斬り、イロハの忍術と影で敵の足を引っ張る。すると敵同士がぶつかり、自分の武器すら振り回せなくなる。


「おいこら邪魔なんだよお!!」


「あぁ!? てめえが邪魔してんだろうが!!」


 とうとう喧嘩を始めてしまう敵。知能が低下しているのか、連携の訓練不足か。まあどっちもだろう。隙だらけだよ。


「決めるよ!」


「任せなさい」


 魔力を込めた一閃によって、二人同時に完封勝利を収めた。あいつらは俺と知り合う前からの親友同士だ。阿吽の呼吸ってやつが染み付いている。


「いえーい!」


「楽勝ね」


 軽くハイタッチして喜びを分かち合っている。あの連携は見事だ。俺が指揮をするより迅速かもな。


「そっちも終わったか」


「うむ、まあなんとかなるもんじゃよ」


 残りもジョナサンさんとリリアによって討伐された。だが敵はここまで強いやつを作れるということだ。正直こんなもんが完成すればやばいな。


「おや、あれは……」


 ジョナサンさんの視線の先には、地面から出た根っこが死体を干からびさせているシーンがあった。


「なるほど、焼却しないと死体から栄養を得るのですなあ。合理的で厄介だ」


「余すところなく使おうという精神が見えるな」


 やばいぞ。敵が賢い。少なくともガチでやばい兵器を作ろうとしている。こんなの長時間相手していられるかよ。


「少し休憩入れるか? 流石に疲れているでしょう?」


「そうですな。水でも……ここの飲食物は薬まみれかもしれませんな」


「ああもう……」


 進むしかないのか……自分の持ってきた水を飲んで五分休憩。ささっと今いる位置を確認して、全員に異常がないようだから先へ進む。工場の上がどうなっているかわからんからな。


「待っていたよ」


 そこそこ進んだ先の部屋。高い位置にあるガラス窓から、所長の声が部屋に響く。


「何で生きているんだかね……」


「ここまでほぼ無傷とは優秀だ。どうだろう、協力できないだろうか。君達なら適合できるはずだ。プランターのようにね」


 天井突き破ってプランターが登場した。お前それ以外の移動方法ないのか。


「まだ進化途中だが、現時点での最高傑作だ」


「こんなものを作ってどうしたい? 国でも崩すのか? 工場の規模からして、金が欲しいわけでもあるまい」


「強い器を作るのだ。世界に選ばれてもいいように」


「急にふわふわしたこと言うなよ」


 急に意味わからんこと言われると対応できないんだよ。なんで言ってやったみたいな顔だ。しばくぞ。


「超人すらも薬漬けにして、そこまで強化してどうするというのだ。最強の超人が欲しいのか?」


「最強の超人では不十分だ。超人は最強ではないよ。最強とは世界が選び、世界を使えるものだ」


「もうちょいわかりやすく喋るのじゃ。つまりわしらを勧誘する理由は何じゃ? なぜこのブロックで悪事を働く? 他の国でやったほうがばれないじゃろ」


「勇者科の力が見たい。勇者として世界に選ばれ、世界がひざまずく力が欲しい。そんな夢物語が、確かにあるのだ。目に見えずともな」


 まさか主人公補正を認識している? いや意味不明な力で超人を超えられる、という程度の薄い認識か。だとしても面倒だぞ。知られる前に潰さないと、悪用された時のリスクがえぐい。


「超人と勇者科は似て非なるものだ。勇者科卒業生にスペシャリストが多いため、真実を隠してしまう。どう計算しても勝てないはずの超人に食い下がり、死にもしない。勇者科卒業生の一部にそういう傾向が見られたことが始まりだ」


 リリアを見ると、俺にしかわからないくらいに頷き、肯定の視線を送ってくる。やはり所長は世界の法則に近づいちまったらしい。


「どういう理屈かわからないが立ち上がり、なぜかパワーアップして、いつの間にやら勝利してしまう。あまりにも理解できなかった。だからこそ突き止めたかった。そして特別な個体がいることに気がついたのさ。天才でも秀才でもなく、世界が選んだ存在がいる」


 もう完全に確信した言い方だ。ただ事実を述べているように、平然と語っている。


「ならば世界について学ぶべきだ。そして神が実在することまで突き止めた。しかも複数だ。神のいたずらかと思ったが、どうもそれも違うらしい。ならば研究の余地があるということだな。たとえ薬の力を借りようとも」


「つまり、超人を超えた勇者科を、薬の力で生み出す?」


「似たようなものだ。プランターは移植と蓄積に長けている。超人ですら手に入らない未知の力。それを抽出する手段を模索中に生み出された、それなりの自信作だよ。では存分に戦ってもらいたい」


 まずは所長を逃さないうちに切ろう。こいつの知識は危険だ。


『ソード』


 分身が何体いても構わない。事象と因果を紐付けして、全員まとめて切るだけだ。

 光速を遥かに超え、絶対に感知できない速度でガラスを破って、所長の背後を取った。こいつに戦闘能力がないことは、俺を目で追えていないことからもわかる。


「逃がすつもりはない。ここで死んでくれ」


 抵抗もされずに切れた。だがおかしい。紐付け切りが成立しない。所長がどこに逃げようと、魂や魔力のつながりから次元を通してでも切れるはず。だが目の前の所長すらもなんの繋がりもない。誰とも繋がっていない。


「所長はいない。故に縁もない」


 それだけ言い残して所長は死に、プランターから膨大な魔力を感じた。こりゃまだ終わらんな。

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