VS巨大プランター
プランターという、人間に植物と鉱物埋め込んで作ったキメラみたいな敵を倒そう。もう所長がなぜ死んでも余裕なのかとか後回しだ。
「ジョナサンさんと兵士さん達は、後方で誰か来ないか見張っていてください」
「援護しなくても?」
「大丈夫です。ここからは……」
そこで敵から数千の木の枝と、青黒く光る尖った鉱物の弾丸が飛んできた。
一瞬ですべて叩き落とし、接近して蹴り上げ、上空でアッパーかましてさらに打ち上げる。そこから追いついて踵落としで下へ送り、先回りして回し蹴りで横の壁に叩きつけた。ここまでの所要時間が三秒くらい。
「こういうレベルの戦いになります」
「なるほど。全軍後退!」
おとなしく即座に下がってくれる。いい判断力だ。流石は隊長。見習いたい。
「お前らは他の敵が来たらそっちを手伝え」
「わかった!」
「プランターの生態が不明なままよ。気を抜かないでね」
「了解」
さっきの攻撃で爆散せず起き上がってきた時点で警戒対象だよ。
「なんとか言ったらどうだ。喋る機能がないのか?」
「アア……ァ……」
うめき声じゃないな。苦しんではいない。声を出そうとしている?
「さっさと仕留めるか」
光速の三百倍くらいで移動して、ロー・ミドル・ハイキックをほぼ同時に出す。全弾命中するが、それでも砕けない。足がぐらついた程度である。
「頑丈だな……うおっと」
俺の真似だろうか。ほぼ同じモーションでキックを三発放ってくる。こちらは避けるのくらい容易い。避けつつ全く同じ速度と場所にキックを出すと、同じように蹴りが来た。ぶつかり合い、衝撃が周囲に響く。
「どんな成長スピードだお前」
こっちにダメージはない。だがプランターにもたいしたダメージはないだろう。まともに打ち合うのも面倒だ。ボディと頭に魔力を込めた拳をねじ込んで爆裂させた。でっかい風穴が空いて、これで退治完了と思ったが、植物で筋繊維が作られていく。
「頭と胸が弱点じゃないのか」
「ウゥ……ウウゥゥ……」
プランターの足元に木の根が張り巡らされる。やがて周囲の死体に枝が刺さり、やつの魔力が上がり始める。
「養分を取り込んでおる」
「ヨウ……ブン……タベル」
初めてプランターが喋った。かすれたような、くぐもっているような、うまく喋ることができていない声だ。
「言葉を覚え始めたようね」
「元は人間じゃないのか?」
人間ベースなら、そいつの言語能力や知識が反映されないのだろうか。謎の多い生命体だな。いや生命なのかわからん。
「学習能力が高いようですな」
「なら早めに潰す!」
物理的に素早く動きまして、雷光を帯びた手刀で細切れにしてやる。少し大きめのサイコロステーキにしてやったから、これで復活されたらもうキレるわ。
「ちゃんと燃やしたし、これ勝ちでいいだろ?」
「まっこと見事なお手並みでした」
「とりあえず早いとこ帰りましょう。もうあと三階くらい登れば外でしょう」
ここは天井が高いから、感覚で図るしかない。だがそれほど的外れでもないだろう。薄気味悪いし、さっさと出ようぜ。
「オオオォォォ…………タベル……タベル……」
嫌な声が聞こえた。そして天井も壁もぶち抜いて、大量の木の根や枝が溢れ出す。
「マジで?」
何かが上から覗いている。全員がそちらに目をやると、大木が集まり人の顔のように蠢いていた。木が蛇のようにうねりながら集まって顔を作る。
さっきまでが一本の木と枝だとしたら、こっちは樹齢の長い大木の集合体だ。
「うえぇ……きもちわるい」
スケールがでかすぎて、脳がどう処理したもんか悩んでいる。
「こういうのってさ、ジャンル的にはエロい形の大根とかと同じだよな」
「なしてこのタイミングで茶化したんじゃ」
「いやなんかもう、自分の精神状態がわからなくなってきた」
パーツは頭・肩・胸・両腕くらいだな。全パーツがさっきの十倍くらいあるけど誤差だよ誤差。
「クワセロ」
巨大な右腕を、横に薙ぐように振ってくる。こっちの部屋は腕が占拠してしまうくらいのスペースであり、ぶん殴って止めるしかない。
「全画面攻撃はやめろ!!」
俺だけを狙うならまだいい。嫌だけど対処できる。こいつらを巻き込まないでくれ。あとジョナサンさんの部隊に死者とか出したくない。
「モットクワセロ」
光速の腕が迫り、拳のぶつけ合いが始まる。砕いても砕いてもラッシュが終わる気配がないのは、木を補充しているからだろう。だがストックがどこから来ているのか不明だ。
「あいつ、魔力がおかしい……おおっと」
巨大な木の腕がこちらを掴もうとしてくる。バックステップで避けながら、魔法による追撃に入ろうとした瞬間だった。
「キヒヒヒヒヒ!!」
プランターの手のひらに穴が空き、超人もどきが殴りかかってきた。
「邪魔だ!」
ハイキックかまして左ストレートで即返却。別の木の腕が開いて回収していった。直後に足元から大木が数本生えてきたかと思えば、中から狂人が飛び出してくる。
「うっざ!? めっちゃうざい!?」
一撃で消さないと回収役が飛んでくる。木の腕や胸あたりは穴が空いても別の木が役割を果たす。体内が運搬経路であり、アスレチックみたいになっていやがる。いやくっそうざいな。よくこんな邪魔くさい仕掛け考えつくもんだ。参考にしたい。
「アジュ、こっちにも来た!!」
「でかいやつは俺が消す! そっち頼んだ!!」
仲間に被害が出る前に消したい。けど弱点どこよ。適当にビームを連射してみるが、焼いても焼いても次が出てくる。鎧の力で概念ごと殺しきればいいのだろうが、それだと弱点が把握できないまま終わる。効率良く倒す方法は知っておきたい。
「とりあえず上に行こうか」
胴体あたりを横一文字に切り裂き、蹴り上げて数階分吹っ飛ばす。穴を開けるんじゃなくて、衝撃で押し出すような力加減だ。
「さーてここは……温室?」
広い部屋全体に温かい空気が漂っている。照明も色が違うし、特殊な栽培状況を作っているのかも。
「植物ってのはこういう場所で作るもんか。畑みたいだな」
「変わらんさ。大きく強く育って欲しいね」
ゆっくりと歩いてくる所長がいた。お前どんだけいるんだよ。
「わざわざ出てくる意味はなんだよ? 隠れて逃げればいいだろ」
「君達の力に興味がある。学生の身でありながら、超人もどきを寄せ付けない。どんなトレーニングと血筋か。サンプルが欲しい」
巨大プランターの両腕が伸びる。こいつの動きもそろそろ光速に達しそうだ。雑に弾き返して所長を問い詰めよう。
「残念だったな。俺はトレーニングもしちゃいないし、特別な血筋でもない」
「素晴らしい。凡人が達人の領域へと至る。その原因と効率に興味がある。是非とも実験サンプルになってくれ」
「お断りだバカ野郎」
指先に魔力を貯め、いつでも所長の頭を撃ち抜けるようにしておく。
「無駄だよ。前の所長から聞いていないのか? 所長はいない。故に死など無意味なんだよ」
「所長という役職はあるのに、所長という個体はいない。お前らは何の繋がりもない他人のくせに、なぜか全員所長だ。その謎が知りたい」
「やはり君は素晴らしい。自力で辿り着いたのか? どうやって? 協力者にならないか?」
「断ると言った」
「待遇を変えよう。対等な協力者でいい」
いやに機嫌がいいな。プランターも襲ってこない。本当に勧誘しているのか?
「お前の上司にも会えるのか?」
「そんなものはいない。さあ貴重な協力者を傷つけたくない。どうか受け入れてもらえないだろうか」
「まだ勝てるつもりなのか?」
「君にこの研究所の全貌が理解できているのか? 他のアジトも襲撃されているようだが、ここさえ無事なら問題はない。プリズムナイトが気に入らないのなら捨てよう。どうかね? 君の体力にも限界はあるだろう」
「ここが無事なら……ねえ」
こいつの言い分はよくわからない。この研究所はもう破壊され、研究員はほぼ麻薬漬けのはず。なのに無事と言った? 再建できる? 無事な場所がある? どこにあるというんだ。
「隠し事が多いようだな、所長。そういうやつとは組まないことにしている」
「おっと、喋りすぎたか。勘のいい男のようだね。緊急性能テストだ。やれ」
プランターが再起動し、全身で俺に迫る。だがもう対策は考えた。手のひらに雷光を圧縮させて、光の玉をプランターの頭の奥深くまで浸透させる。
「はっ!!」
一気にプランターの全身を稲妻で染め上げて、内部から塵すら残さず消滅させた。とりあえず目の前の個体はこれで完全決着だ。
「やはり飼い慣らせる男ではないか。では失礼するよ」
「させるか!」
小細工をされる前に接近すると、さっきの所長よりどこか筋肉の付きがいいように見えた。
「いっちょまえにパワーアップか? だが無駄だ!」
手刀で首を跳ねると、やはり余裕の笑みをたたえて死んだ。こいつ自身が弱すぎるだろ。薬を使ってないにしろ、あまりにも弱い。
「戦力差もわからんのかねえ。メガネが曇っているぞ」
なんとなく生首からメガネを拾ってみる。もちろん呪いのたぐいが無いかは調べてある。所持品検査も必要だと思ったんだ。
「……ん? 伊達メガネかこれ?」
度が入っていない。じゃあなんでこんなもんを? おしゃれってわけじゃないだろう。俺はメガネを付けないが、鎧の知識を追加しても伊達メガネだと発覚。なんじゃいこれ。
「この眼鏡は必要ないはず。マジックアイテムでもない。さっきのやつより体格がいい。けど所長。所長はいない。顔は一緒……確かめるか」
血の吹き出す断面を雷光で焼き、生首と胴体を掴んで下へ降りる。
「悪い、これ保管してくれ」
「えっ、ちょっとアジュ?」
さっき殺したガラス窓の所長の元へ。こっちも死体は消していなかった。
「よし、まだあったな」
ささっと回収してみんなのいる場所へ帰還。どうやら戦闘は終わっているようで、俺の奇行に首を傾げていた。
「この死体を調べてくれ。多分別人だ。顔だけ整形されているんだと思う」
「どういうことですかな?」
「所長という肩書だけ与えられているっぽいんですよ。恐ろしいほど実態がない。他の研究員とやっていることは多分一緒だ」
説明中に素早くジョナサンさんによる検査が入る。手際いいなあ。そっちは任せて、俺は推理を続けよう。
「なるほどのう。それで紐付け切りができんかったわけじゃな」
「ああ、この規模の研究所だ。自分と背丈の同じ実験体くらいいるだろ。そいつ洗脳して、顔だけ整形しちまうんだ」
「所長本人がどこかにいるとしても、血の繋がりがないから因縁も発生しないのね」
「そっか、じゃあこの研究所のトップは誰なの?」
「わからん」
所長がいるのかいないのか。全員ダミーだとすれば、指揮系統が意味わからんことになる。組織が成り立たないだろう。
「どうやら本当に別人ですなあ。これは予想外ですぞ」
じゃあそもそも結局ボスは誰なんだ。誰がこんな大規模な真似をしているのか。そこがはっきりしなければ終わらない。こんなに不透明なの初めてかも。
「どういたしますか? 所長を探すことも視野に入れましょうか」
「まず全員を上に出す。地上の戦闘がどうなっているかも気になります。幸いもう少しで地上です」
いつの間にか、かなり上に来ていたようだ。これなら天井ぶった切って上に行ける。一応上に誰かいないか感じ取りつつさっさと移動だ。
「全員いるな?」
「おかげさまで生還いたしました」
なんとか一階まで戻ってこれたぜ。とりあえず戦況を把握したい。一番近くの窓から外をうかがう。
「おっ、アジュさん発見っす!」
「なんですって! わたくしのアジュ様が!!」
窓の外にやた子とヒメノがいる。今日一番のホラーだよ。
「お前らなんでいる……」
「普通にお仕事っす」
「お仕事でもお会いできるなんて、やはり運命ですわね。結婚式はいつにしますの?」
「この状況で色ボケんな!! 外はどうなっている?」
「完全に制圧済みっす。神様が複数いるっすから、逃げらんないっすよ」
いかに超人が強くとも、学園の教師と紛れ込んだ神々には勝てない。制圧は容易か。薬も効かないだろうし、初動が人間だけだと油断させれば、あとはまあ簡単でも驚かない。なら俺は俺の懸念を潰そう。
「よし、全員まとまって安全な場所まで行け。これで仕事は終わったはずだ」
ジョナサンさんとその部下は全員生還。その手にはしっかりと研究資料などの戦利品がある。途中で見つけては拾っておいたからな。成果はこんなもんでいいはずだ。
「アジュは一緒に行かないの?」
「少し気になることがある。三人は安全な場所で保護されてくれ」
「一緒に行けるわよ」
「納得したいだけだ。徒労に終わる可能性もあるし、薬だの神だのがいる場所に連れていきたくない。俺の帰りを待っていてくれ」
妙なしこりが残るというだけで、無駄な時間を取らせたくない。こいつらは安全でいて欲しいという気持ちもある。
「隣に並べる程度には強いつもりじゃ」
「わかっている。だからこそ、お前らは学生レベルだと誤解させておきたい。俺はほら、こうして変装できる」
ミラージュキーで完全に別人へと変わってみせる。魔力の質まで偽装できるので、まず俺だとは気づかれないだろう。ここまでやって、ようやく安全なのだ。俺達は物事の核心に迫りすぎてはいけないし、強い連中にその強さを認識されてはいけない。
「……何かあったらすぐに連絡して」
「約束する。俺の帰る場所を頼む。俺の無理を通すんだ、後で何かしてやるよ」
「深入りしすぎるでないぞ」
「絶対帰ってきてね!」
「任せろ」
渋々だが納得してくれたようだ。さて、となるとここから一人でどこまでやれるかだが。
「ではわたくしも行きますわ」
「なんでだよ。ではの意味がわからん」
「わたくしは最上級神ですわよ? 表にも裏にも通じております。パートナーとして最適では?」
こいつ無駄にスペック高いんだよなあ……荒事となれば使える強さなのは知っているし、俺達の事情にも詳しい。今のところ完全なる味方側でもある。性格以外パーフェクトかよこいつ。
「頼むから色ボケは控えてくれよ?」
「お任せくださいまし! ここで好感度を稼ぎ放題ですわ!!」
不安だ……不安しかないが、今は我慢しよう。我慢してヒメノと二人で研究所の地下へと戻っていった。
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