お祭り当日
「いやあすっかりお祭り当日だね」
「そうじゃな。今日は昼から四人で遊ぶために家を出たんじゃったな」
「そんな会話あるかい!?」
「まずどこから行きましょうか」
お祭り一日目。昼から屋台巡りに来ている。やたら人が多い場所がある。
「あれなんだ?」
「あれは料理大会で出された料理がそのまま出てるんだね」
「ほらほら実況中継されてるよ」
指差す先にはでっかい魔道ビジョン。
猛烈に薄型なのに死ぬほどクリアな映像がリアルタイムで届けられる。
簡易テーブルと椅子が並ぶ場所は画面がよく見える。
観戦しながら出てきた料理を食うわけか。
今は五回戦の最中らしい。
「三回戦テーマの『季節の野菜本格スイーツ風串焼き』だよー!」
店員らしき兄ちゃんが元気に売っているけど、どんな料理やねん。
料理勝負は毎回お題が変わるらしい。
三回戦がその季節のなんちゃらだったんだと。
「食えるのかそれ?」
「名前は妙でも調理科の上位にハズレはないわ」
「仮にも大イベントじゃからのう。作る方も本気じゃろ」
「一番評判がいいのは『たけのことニンジンのオレンジソースとそれ以外ぶっかけ串焼き』らしいよ」
「すげえゲテモノ臭だな。ほんとにうまいんだろうな」
「気になるなら一つ買ってみれば良い」
かなりの勇気いるわ。四品を一つずつ買う。
「……なんかしらんけど食えるな。美味いのが納得いかん」
「ほんの少しオレンジソースの味がするのがいいね。クセを消してる。全部のソースとかそれ以外を混ぜちゃったおかげだね」
食べたいと言ってきたシルフィに、俺のやつをちょっと食わせて出た感想がこれだ。
なるほど。少なくともハズレじゃない。四品ともかなり美味い。
「ここからちゃんとしたテーマになるじゃろ」
「四回戦は『さっぱりした魚料理』だってさ」
「えらいシンプルになったな。刺し身以外なら魚好きだぞ」
「五回戦は『じゃあ一回自由でよくね?』じゃと」
「ちゃんと考えろよ!?」
大丈夫なんかなこの大会。急に不安になってくるよ。
「違うわ。これは自由という『自分の全知全能をかけた最高の得意料理を出せ』と言っているのよ。ここで負けると一切の言い訳ができないわ。これは過酷な戦いが予想されるわね」
「イロハさんキャラ変わってませんかね?」
「これは一番自信のある料理がなにかで相当場が荒れるのじゃ。同じ料理が続けば審査員が飽きてしまう……運を味方につけることも重要じゃな」
「そんな解説いらんのさ。今日一日が飯食って終わるだろ。色々見ていくぞ」
「でもまだ料理勝負続いてるよ?」
シルフィの言う通りだ。モニターではまだまだ料理勝負が続いている。
準決勝第一試合か。決勝まで見ちゃいそうだなこれ。
「まだ試合があるから食べないでおこう。そう思っているといつの間にか準決勝くらいまで見てて、しかも売り切れで食べられなかったりするよ?」
「なるほど。変な駆け引きがあるわけだな」
「終わってもしばらくは看板メニューになるから、別の日に食べに行けばいいわ」
「こういうのは雰囲気も含めて楽しむものじゃ」
「そうだな。んじゃ色々見て回りながら食おう」
一理あるな。祭りの食い物は何故か美味く感じるものだ。
それからいくつか食ったがそれはもう美味かった。
達人育成学園の名は伊達じゃない。大満足だ。
「花見会場とライブと、料理大会の会場とか。あと露店とかあるよ」
「露店と屋台は違うのか?」
「食べ物かそうじゃないかの差かしら?」
「露店に行きます。決定です。いいねアジュ!」
なんかこっちを見てくるシルフィ。なにか伝えようとしている?
こういうときのシルフィは気を遣ってくれていると相場が決まっている。乗ってみよう。
「あー…………まあなんだ。たまにはいいかもな。パンフによると露店の先でライブやってるから見に行けばいいし」
「そうだね。行ってみよう!」
「いいわよ。行きましょう」
ライブ会場目指してのんびり歩く俺達。
赤い葉を付ける紅葉のような木が左右に植えられている道を歩く。
これは心が洗われるようだ。お祭りの人でごった返して無ければな。
「この辺は小物売ってる店だね。もうちょっと先にアクセサリーとか売ってるお店があります!」
「俺には無縁だな」
ガチャガチャ付けるの嫌い。
身体になんか付いてるのが違和感あって微妙なのよ。
「アクセサリーとはネックレスとか腕輪のことです!」
さらに付け足してくるシルフィ。
なにがしたいんだ? なんか狙ってるよなこれ。
「あっちにリリアのに似た扇子が有るわね。私もああいうの買おうかしら」
「ほほう、珍しい物売っとるのう」
イロハがリリアと一緒に近くの露店に行く。
リリアの扇子ね。リリアか……そういうことか。
「見てくればいい。俺とシルフィはあそこらへんにいる」
「そう、それじゃあ行きましょうリリア」
「ほいほーい。迷子になるでないぞ?」
「なるかっつーの」
お互いに見える位置で別行動する。
「変な気を使わせたな。俺が誘導すべきだった」
「いいよー。むしろちゃんと気がついただけアジュは鋭くなっています!」
「そら良かった。さてどんなデザインがいいかサッパリだ」
「そこでわたしの出番だよ。小さい頃から装飾品とかお芸術とか見てるし。偽物かどうかもバッチリだよ」
「おー、なんか久々にお姫様っぽいな」
「お姫様っぽくない自覚はある! けどそれでもいいかなー。わたしはお姫様するよりアジュ達と一緒にいたいし」
「それはきっとみんな同じ気持さ。さて選ぶか。シンプルなやつがいいんだけどな。ずっとつけてるとごてごてしてるのは邪魔だろ?」
露店を見ていく。この辺はそっち系の科が作っている奴も多い。
えらい出来が良いやつもある。
その中でシルフィ達の指輪に似ててリリアに合いそうなのを探す。
店の一つに指輪を多く扱っている店発見。
透明な妖精みたいな羽生えてる女の子二人がやってる店だ。
「いらっしゃいませー。どうですお兄さん? そちらの彼女さんにプレゼントでも」
片方が話しかけてくる。中々の営業スマイルだ。
「ふふ~。彼女さんだってさ。ベタだけど言われると嬉しいよね~」
シルフィが上機嫌だ。ベタってことは理解してるんだな。
それでも嬉しそうだから否定しないでおこう。
「こいつのつけてる指輪と似たデザインのやつを探してまして」
シルフィが左手の薬指につけている指輪を見せる。
「ほほう。シンプルだけど洗練されたデザインですね。一切無駄なく、それでいて決して下品にならない気高さ。その中にある絆が透けて見えるよう……おっと失礼しました。その指輪に匹敵するものですか……結構な難題ですね」
「似ててシンプルな奴がいいんですが」
「失礼ですが、彼女さんにはその指輪が一番お似合いです。大切だという想いがこもっていますよ」
中々誠実な店員さんだ。適当に似てる奴勧めればいいのに。
こういう人はいいね。一つくらい買ってあげたくなる。
「いや、こいつとは別のやつに渡すんで」
「その子はまだわたし達の中で指輪が無くて。その子にも彼のものだっていう証みたいなものがあればいいかなーって」
「え……っと……? 彼女さん? わたし……たち?」
いかん店員さんが混乱している。よく考えればわけわからん説明したかも。
「あー別に浮気とかじゃないです。むしろわたし達全員本気ですし。本気の証というか」
「やめとけ。余計混乱するぞ。とにかく似てる奴が欲しいんです」
「そう……ですか……ではこちらのシンプルな指輪で、何種類かありますよ」
店員さんが詳しくは聞かないでくれた。
でもこれじゃあ俺が女たらしのハーレム野郎だと勘違いされかねんぞ。
「どれがいいかね?」
「そこはアジュが選ぶの。女の子はそういうことを大事にします!」
「そうですね。自分のために選んでくれた、というのは嬉しいものですよ?」
シルフィと店員さんにそう言われては俺が選ぶしか無いな。
「ん、これ……かこれだな」
銀でなんの装飾もないやつか、ペアの指輪。
二つの指輪にそれぞれ一枚だけ翼が彫り込まれている。
でもペアってことはみんなのと違うデザインであるということ。
「アジュの考えてること当ててあげよっか? 羽のやつ気に入ったけど、わたし達のと違うから装飾ないやつにしようかなーって考えてる」
「大正解だ。これペアだろ? あいつだけ特別っぽくならないか?」
「気にしすぎ。わたし達は気にしないよ。そこ気にするぐらいなら日頃からもうちょっと女の子の気持ちに気づくこと」
「そりゃ難しいな。でも本当にいいのか?」
「いいよ。それでリリアの悩みが消えてくれたら嬉しいな」
いい子すぎて泣きそう。もうちょいシルフィに優しくしよう。
「うっ……うう……いい彼女さんですね……感動しました」
おおう店員さん二人が滝のように涙を流していらっしゃる。
「じゃあこれを。あとシルフィ達にもなにか買おうか?」
「今はいいかな。リリアがわたし達と同じになったら、その時は改めてプレゼントして欲しいな」
「わかった。覚えておく」
「ありがと。約束だよ」
「ありがとうございましたー!」
指輪は後でタイミングを見計らって渡さないとな。
向こうから二人が歩いて来る。ギリギリ間に合ったな。
「買い物はもういいのか?」
「うむ、それより有名な歌手が来るとかでのう。そっちを見に行こうと話しておったのじゃ」
「いいぜ、元々予定なんか決めちゃいないんだ。行ってみようぜ」
「早くに行って場所をとっておきましょう」
「よーし、しゅっぱーつ!」
祭りはまだまだ続くことだし。指輪は帰ってからでも渡そうかな。
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