指輪とぶっちゃけトーク
ベンチに座り、一休みしながら次の予定を決める俺達。
離れた場所からテンポの良い歌声が聞こえてくる。
人混みがうざかったので、見に行くのを中止して休憩中だ。
巨大モニターでは、なんとなく見たようなアイドルが笑顔で歌って踊っている。俺なら確実にスタミナ切れて倒れるだろうな。
「疲れてないか? 結構はしゃいだだろ」
「大丈夫だよ。このくらいならへーきへーき」
「鍛えているから問題無いわ」
「むしろおぬしが心配じゃ」
「ふっふっふ。そりゃもう疲れてるぜ」
隠しても仕方が無い。誰かと行くお祭りって体力いるのね。
「珍しく一休みしようとか気を遣ったかと思えば……そんなところじゃと思っとったわ」
「いいんだよ、こうして座って花見をするのも粋だと思う。きっと」
「外でゆっくりってあんまりなかったもんね」
「今日はいい機会だったのよ。私達のお休みとしてね」
俺の左右にシルフィとイロハ。膝の上にリリア。最近定着している体勢だ。
膝の上に誰が座るかでちょっと揉めるところまで含めて、日常となりつつある。口に出さないけど身動き取りにくくてちょいめんどい。
「いまなら人も少ないし、ゆっくりお話できるね」
シルフィがこっちをチラチラ見ている。指輪を渡せということだろう。
イロハも察してくれている。だがはっきり言って難易度が高い。無理ゲー。
よく考えると女になにかやるっていうのはなんかなあ……失敗しそうだし。
地味にキツイわ。
「そうだなー。ゆっくりしようなー」
中身ゼロの返事をする。いやあこれはお腹痛くなりそうだ。
自分から女に対して動くのはマイナスイメージ強すぎる。
「何かを伝えたりするにはいいタイミングね」
イロハが影で俺のポケットを引っ張っている。
さっさと渡せということだろう。
「なんじゃ、なにか後ろめたいことでもあるのかのう?」
「なにもねえよ。ありそうなのはお前らだろ。今言えば多分許すから。俺も流れで言うかもしれん」
暴露大会にして巻き込んでしまおう。
みんな恥ずかしければ勢いに乗って言い出せるだろ。
流れで、というワードはリリア以外には別の意味合いで伝わってると助かる。
「仕方のない人ね……ちょっと待って。許すのね? 何を言っても許すのね?」
「怖いよ、何を言う気なんだよお前は」
イロハが今が好機とばかりに確認を取ろうとしている。なんだよ超怖いよ。
仕方ない。俺が強引に流れを作ったんだ。
元は俺がヘタレたからだし、今回は許そう。
「仕方ないな。今回に限り何を言っても許す。後ろめたいことがあったら言ってくれ」
「飲み物に唾液を入れようとしてごめんなさい」
「絶対いれんなよ!?」
「大丈夫よ二十分の葛藤の末、理性が勝ったわ。これは私の求めている性欲の解消方法ではないと気付いたの。二度としないわ」
「何から何まで最悪だよ。マジでよく勝ってくれたな理性。見直したわ。やるじゃんイロハの理性。あったんだな」
一発目でズドンと衝撃が来た。
やべえこれ次どんなの来るんだよ。
怖いからシルフィにいこう。
「じゃ、次シルフィで」
「わたし? えーっと……朝からお留守番のとき、こっそりアジュのベッドに入ってます。ごめんなさい」
「はいかわいい」
「かわっ!? ええ!?」
「うむ、シルフィは可愛いのじゃ」
よっしゃピュアじゃないか。よしよし可愛さでだいぶ中和できたぞ。
「シルフィもアジュの臭いを嗅いでいるのね」
「違うよ! わたしはベッドに残ってるぬくもりを感じてるだけだよ!」
「たまにそのまま眠りこけておるじゃろ」
「バレて驚かれたりしたね。あれは反省だよー」
そういや帰ってくると俺以外の匂いがしたりするからな。
こいつら日常的に俺の部屋に入ってんのかも。
「はい次リリアー!」
「後ろめたいことのう……本当にたまーに全員で寝るじゃろ? わしはそれ以外でアジュと寝ることが少ない」
「そうね、あまり見ないわね」
しかも変なことしてこないから、ちょっと安心してるかもしれん。
俺もあんま警戒してないな。
「実は早起きしてほっぺにキスとかしておる。すまぬ」
「なっ!? お前!?」
爆弾投下しやがったこいつ。気づかなかったぞ。
「えー! リリアずるい!!」
「迂闊だったわ……そう……やはり一番のライバルはリリアなのね」
「安心せい。毎回ではない。それに唇にはしておらぬ。そこは起きている時にして欲しいからのう」
「毎回じゃなくても困るぞ」
うっかりその瞬間に起きて、目があったらどうしたらいいんだよ。
いかんな。意識したら余計に指輪とか渡しにくいじゃないのさ。
「起きている時にして欲しい、の部分完全スルーしたわね」
「こやつに期待するだけ無駄じゃ」
「まだ早いよね」
「あとリリアはやる時は私に声をかけなさい。流石に独り占めは見過ごせないわ」
「イロハー? わたしもいるからねー? 絶対に止めるから。ダメだからね?」
みんながなにか言っているけど気にしている場合じゃない。
いかん、どう切り出せばいいんだ。
「はいアジュが後ろめたいこといってみよう!」
「なにかあるでしょう? ヒメノが好みとか」
「ああ、ぶっちゃけそこそこ好みだけどそれどころじゃ…………いやちょっと待て今のナシ」
「もう遅いのじゃ」
「ふーん、やっぱりヒメノが好きなんだ……むぅ……なんだよう……むうー」
シルフィが唸りながらぽかぽか叩いてくる。
今考え事してるからちょっとまって欲しい。
好みかなーくらいだよ。お前ら三人以上の相手なんていない。
「そこそこ好みである、というだけじゃろ? 好感度では圧倒的にわしら三人が上じゃ」
「…………コメントは控えさせてもらう」
「これは好感度が上がっているわね」
「うん、今のはわたしもわかったよ」
俺がピンチに追い込まれているので、とりあえず時間を稼ぐためにイロハに話を振る。
「はい二周目いってみよう。イロハから」
「アジュの下着を盗むために時間を止めて欲しいとシルフィを巻き込んでごめんなさい」
「わたしに飛び火した!?」
「ちなみにどうなったのじゃ?」
「流石にダメだよって断った」
「ナイスだシルフィ。ギルドの良心だな」
時間停止を下着ドロに使うんじゃありません。油断も隙も無いなこいつら。
「次はシルフィじゃな」
「えぇー今のじゃだめ?」
「ちゃんと断ったんだからいいじゃないか」
「そうね。今のは私が悪かったわ」
そこは本当に悪いので反省してくれ。
「じゃあ……アジュと二人でお出かけした時にさ、同じ飲み物買う時あるでしょ?」
「喫茶店とかでそうなる時があるな」
そういや、なんとなくお互いの好みが似ているのか、合わせて頼むことが多いな。
俺からの時もあるし、シルフィからの時もある。
「実はちょこっとだけ時間を止めてカップを入れ替えてました……ごめんなさい」
「意外と策士じゃな。間接キス狙いとは」
「クロノスの力を悪用しているじゃない。だったら下着の時も協力してくれてもよかったのに」
「下着は取ったらバレるし、良くないよ」
申し訳無さそうにしているシルフィ。まあ怒らないって決めたしな。
本人が反省しているみたいだからいいか。
キリっとした顔でぶっこんでくるイロハよりましだ。
「基準がわからん。どうコメントすればいいかもわからん」
「いっそ全肯定してしまうのもアリよ」
「アリじゃな」
「ナシだよ。家が無法地帯になるだろうが」
なんだその期待に満ちた眼差しは。絶対に許可しないぞお前ら。
「はいここで順番変えてアジュいってみよう!」
「私達が見ていない時に何か買っていたでしょう?」
そうだった。指輪渡すんだよ。本題完全に忘れてた。
「ん、そうだな。これ買ったんだよ」
まず自分の左手に指輪をしておいた。これを見せる。
「指輪? 貴方らしくないわね」
「洒落っ気出しおったな」
「ふんふむ、アジュはまだ後ろめたいことがあるとみたよ!」
「後ろめたいかどうかは知らんけど、これペアなんだよ。だからリリアにやる」
片方をリリアに手渡す。自然にできたはずだ。
「なぜわしに?」
「お前だけ指輪ないだろ? だから代わりと言っちゃ何だけどな。日頃の感謝と、指輪は必ず出してみせるから、もうちょい待ってて欲しいって気持ちを込めてみた。約束する。必ずお前に指輪をやるよ」
この辺が今の俺の精一杯だ。くさいセリフなんか思いつかない。
感謝しているのも事実。三人とも大切な気持ちも本物だ。
「……これで……ふふっ……おそろいじゃな。気を回しおって…………ううっ…………」
「泣いた!?」
ヘルプ、シルフィさんイロハさんヘルプ! 何で泣かれた!?
二人とも笑顔で見守ってる場合じゃないでしょうが。
なんですかその慈愛に満ちた微笑みは。
リリアが俺に背中を預けて首だけこっちを向く。
「本当に乙女心のわからんやつじゃな……ありがとうアジュ。幸せじゃ、ここまでしてもらえるとは思わなかったから……嬉しくて……一緒にいるだけで幸せだったのに……」
「リリアももっと貪欲になっていいわ。私達は三人でアジュを攻略するのだから」
「そうだよ! わたし達は一緒だよ! せっかくだしアジュが付けてあげなよ!」
「ナイスよシルフィ。ここでヘタレるのは許さないわ」
そっと指輪をはめてやる。ちょっと手間取ったけどな。
「これで三人とも指輪持ちに……なんだ?」
ピキピキと音がする。軽い何かにヒビが入る音がして、リリアの右腕につけている腕輪が砕け散る。
「おお? なになに? 大丈夫?」
「どうした? 何が起きている?」
俺がつけてやった指輪が光を放つ。
「この光は……もしかして」
光の収まった後には、リリアにもシルフィ達と同じ指輪がついている。
俺が買ってやった指輪は中指に移動していた。
「私達と同じ指輪……?」
「おおー! やったー!! これでみんな一緒だ!!」
「せっかく買ってやったってのにまったく……ま、よかったよ。約束は守れたしな」
「そうか……一緒……みんなと一緒……」
両手で指輪を包み込むリリア。さっきまでの泣き顔が嘘のように無邪気に笑うリリアは見た目相応の、可愛い女の子だ。
「ふう……いやマジ緊張したぞ」
「お疲れ様。やっぱりやるときはやる人なんだよアジュは」
「褒めてやるのじゃ」
「これで少しは自信が持てたかしらね」
どうだろうな。なんとなく顔を合わせるのは気恥ずかしくて、巨大モニターを見る。
「もうライブも終わったんだな」
今流れているのはなんかのインタビュー映像だ。
「それじゃあお祭りの続きといこうか。まだ食ってないもんとかあるしな」
「出発じゃ!!」
すっかり上機嫌のリリアにつられてこっちもテンションが上がる。
それから飯食って家に帰るまでは、俺の人生の中でもトップクラスに充実した時間だった。
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