戦闘訓練して一緒にお風呂

 よく晴れた午後。授業も終わって自由時間。

 シルフィと庭で戦闘訓練。魔法はなし。体術のみ。

 つまり俺ガン不利である。有利な状況とかないけども。


「よーし、いっくよー!」


 ちなみに両者ズボン着用である。俺がスカートから着替えさせた。

 下着を覗いていると思われるのが不愉快だからだ。


「必ず手加減をしろ。俺はすぐ死ぬぞ」


「はーい」


 時間操作とライジングギア禁止ルールだ。

 基礎格闘力を上げるらしい。


「でははじめ!」


 リリアの合図でシルフィが迫る。

 回し蹴りを半歩下がって避け、軽く中下段に蹴りを放つ。


「そうそう、いい感じ」


 当然避けられる。そして二人のハイキックがぶつかる。


「地道にいくか」


 ローキックの連打へと変更。だが普通にガードされるし、シルフィにダメージを蓄積はできんだろう。


「付かず離れずじゃな」


「どうも接近戦は向かん」


 斬りつけて離脱か、遠距離魔法が本文だからねえ。


「やったことのない戦法を試すのじゃ。知り合いで手加減ができる今がチャンスじゃよ」


「物は試しか」


 高く飛んで飛び蹴りなんぞしてみる。


「モーションが大きすぎるのう」


 右足を掴まれ、横にぶん回される。

 男を片腕で振り回せるとは、やはりスペックおかしいな。


「せいっ!」


 空いている足で、胸のあたりめがけてキック。

 それを避けるかのように、全身を捻り俺の体を放り投げる。


「よっ、と」


 回転に逆らわず着地。からの飛び膝蹴りで一気に距離を詰める。


「積極的になってきたね!」


 俺のさらに上から飛び膝蹴りを仕掛けてきた。

 半身でかわし、今度は俺が足を掴んで下へ投げる。


「おわっと!?」


 安全に着地しているが、それは予想済みだ。

 空中で縦に一回転し、下のシルフィへ踵落としに入る。

 気にしていなかったが、素で3メートルくらい飛んでいたんだな。


「甘いよ!」


 頭の上で腕をクロスさせて、踵落としを防がれる。


「わかってんだよ!」


 腹筋フル活用。体を前に勢いよく折り曲げ、シルフィの両腕を掴む。

 両足を素早く折り曲げて引っ込め、右ストレートを放つ。

 これならシルフィの右腕は俺の左手が掴んでいる。


「ふふーん。まだまだ!」


 左腕をコマのように横に半回転させ、俺の腕を外側に弾く。

 すぐ左拳が来る。仕方がない。腕を離して仕切り直し。


「ここでもっと攻めるよ!」


 離れてくれない。この離脱できない状況がめんどい。


「ええい邪魔くっさいわ!」


 俺には似合わないが、左右のジャブ乱れ打ち。

 とにかく小技で攻め、余力を残して大技を回避しよう。


「もっと左右に小刻みに動くのじゃ」


「反撃いくよー!」


 シルフィも近距離での打ち合いに参戦。

 こちらの補足できるぎりぎりの速度で動いているな。

 集中を切らせば当たる。


「ちょっとスピード上げるよ」


「マジかよ」


 見えるものは避ける。それ以外はとりあえず止まらずに動く。

 なんとなく来そうなら避けて、危ないやつを腕でガード。

 腕を取ろうにも、ジャブしか来ないからタイミングが合わない。


「突きが来たらこうはたくか、外側に腕でぐいってやるの」


「こうか?」


 シルフィの動きを真似してみる。簡単な動きなのと、ある程度戦闘で目が慣れたことでコピーはできる。


「そうそう、いいかんじ」


 突く。払う。手刀をいなす。蹴りもガードとはたき落とす作業。


「今までの戦闘経験で、体と目は十分に準備ができておるのじゃよ」


 そういうものかね。しばらくやって、疲れたので終了。


「あー……きっつ……おつかれ」


「おつかれさま」


 へとへとである。俺は後衛向きなんだから、こういうのはいつまでも疲れるだろう。


「冬に汗をかきっぱなしはいかん。ちゃっちゃと風呂に入ってくるのじゃ」


「わかった」


「背中流すよー」


「なんでだよ」


「一緒に入らないと風邪引いちゃうよ」


 ……さてどうしたもんか。風邪引かれるのは確かに困る。

 戦闘訓練の相手をしてもらった恩もある。

 無下にするには条件が整っているな。


「…………変なことだけはしないでくれ」


「恥じらいと節度をもって、だね」


「そういうことだ」


 渋々だが了承し、二人で風呂へ。

 背を向けて服を脱ぎ、ちゃんとタオルを巻く。

 そこまでは自然に行われる。でないと俺が拒否るからだ。


「よし、じゃあ行くか」


「ええ、準備できているわ」


 脱衣所の扉を開け、風呂に入るとなぜかイロハがいる。

 しれっとタオル巻いてそこにいる。


「なぜいる?」


「お風呂に入りたかったからよ」


 堂々たる佇まいである。自分がいることに微塵の疑いもない顔だ。


「今日はわたしのご褒美なんだよ!」


「それも違うだろ」


「ただ偶然なぜかお風呂に入る時間が重なっただけよ」


「やめろ。風呂くらい静かに入りたいんだ」


 俺の心の平穏を脅かすのは、禁止の方向でお願いしたい。


「さ、風邪を引くわ。入りましょう」


「ううぅ……せっかくアジュとお風呂だったのに」


「おいおい頼むぞ」


 頼むから揉めるなよ。

 そう願いながら風呂の椅子に腰掛けると、素早くシルフィが背中を石鹸ついたタオルでこすってくる。


「まずはシルフィからよ」


 俺は知っている。シルフィを主役にし、満足させると同時に、自分も脇役として参戦するつもりだ。こいつはそういう知恵が働く。


「ふんふふーん。どう? 力加減だいじょぶ?」


「問題ない」


「そっか。じゃあこのままいくよー」


 絶妙な力加減でごしごししてくれている。

 うまくなったな……うまくなるのはいいことなのか?


「また難しいこと考えてるね?」


「そうだな。風呂でまで考えることじゃないか」


「そうよ、はい流すわね」


 流したら、あとは各自体を洗って浴槽へ。

 実にいい湯加減だ。本当に普通に横にいるだけだな。


「馴染んでいるわね」


「横にいるのが普通になってるね」


「確かに、これもおかしいっちゃおかしいんだよな」


 自覚はある。だが不快感はない。戸惑いもないかと問われれば否。


「こうして、一緒にゆっくりするのもいいよね」


 ゆっくりと俺の両肩に、二人の頭が寄りかかる。


「毎日はやめろよ?」


「そうね、毎日だと手間かもしれないわ」


「アジュがうえーって顔するからね」


「一人の時間っていうのは大切なんだよ」


「プライベートは必要ね」


 ずっと一緒は疲れる。それは仲が良かろうとも、気を許そうとも同じ。

 他人と一緒は心労が貯まる。本人も気づかないうちにな。


「育ったわね」


 俺の肩や腕を触っている。筋肉のことだろうか。


「トレーニングと戦闘で鍛えられたのね」


「おおー、前よりかっこよくなってる!」


「そうか?」


 かっこいいという単語と俺が結びつかん。

 そしてがっつり鍛えているわけでもない。

 よってわからん。前より体力はついたはず。


「確実に成長しているわ」


「男の人はこうなるんだね」


「私の成長も測るため、お互いに触るという……」


「それは却下で」


 そういうのなしで。普通に風呂入って出ればいいのだ。


「体力はついたと思う。昔よりはな」


「前はもっとぐったりしてたよね」


「そりゃ一般人丸出しだったからな」


 インドア派はそういうものだ。ここまで成長していることが一種の奇跡である。


「もっとがんばれば、もっと強くなるよきっと」


「もっとか……今日でかなりきつかったぞ」


「そういう調整だからよ」


「調整?」


「あなたがほどよく疲れて、ゆっくり限界を上げる。そういう加減なのよ」


 こいつらならそれも可能か。リリアなら完璧に理解しているのだろう。

 最効率ではないかもしれない。だが俺に合わせたメニューになっている。


「助かるよ。無茶な修行はしたくない」


「これからもこのくらいでいきましょう」


 この程度ならなんとかなるだろう。週に一回か二回なら。

 俺のペースでゆっくりやっていけばいい。

 まずは風呂に浸かって、それから飯だな。

 それくらいのプランでいいさ。

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