魔法訓練とやた子

 魔法科で魔力の練り上げと、物質への付与についての授業があった。

 だもんで一人で個室修練場を借りていたりする。

 広さ三十畳くらいで、壁が特殊材質で魔力コーティングが施されている。


「はっ!」


 クナイにサンダーフロウをかけ、遠くへ投げる。

 そこからどれくらい持続するか。どの程度離れていても魔力供給できるか。

 あとはその精度とかをチェック。


「ふうぅ……せい!」


 次に電磁波と電撃の糸をばら撒く。

 糸の先を壁に飛ばし、魔力を流せるか実験。


「サンダードライブ!」


 ちょいと失敗。途中で破裂するか消えちまう。

 電磁波と細い糸に、大量の魔力は乗せられない。

 混ざるし、コントロールが乱れる。


「中継地点にはできんか」


 あと一時間くらいで部屋の使用時間が終わる。

 なんとか新技でも閃きたい。


「プラズマイレイザーと雷光一閃で、遠近両方の必殺技がある。これを改良するか、さらに上の魔法に……いやいっそ別の魔法を考えるか?」


 室内の装置で、動かない土ゴーレムを二体出す。

 初心者用の長巻を持って、すれ違いざまにまとめて切る。


「雷光一閃!!」


 弾けて砕け散るゴーレム。同時に武器もぽっきり折れる。


「出費が重なるな。早く理想の武器を作らないと」


 まだ難航している。何回か会って試行錯誤しつつ、お互いのリクエストを混ぜているが、それもあってかまだ製作途中だ。


「適当に……サンダー……ロケット?」


 再びクナイにサンダーフロウかけて、ロケットみたいに雷光噴射。

 その推進力を利用してさらに飛ばす。


「違う。こういうことじゃない」


 なんか違う。噴射のエネルギーを敵側に向けた方が強いだろこれ。

 噴射中に電撃をほぼ使い切るため、薄く雷まとったクナイというだけになる。

 つまり弱い。


「サンダーシードかけりゃいいだけだな」


 当てたら逆噴射でどうだろう?

 シードは丸く爆発だ。その力を一点集中して、今のロケットみたいに飛ばす。

 着弾・浸透・破裂・貫通のプロセスだ。


「試すか」


 ゴーレムを複数出し、クナイに噴射エネルギーを充填。

 一匹に軽く突き刺したら、そこから一気に雷を放出。

 普通はかなり眩しいはずだが、俺が作り出した光だからか、目が痛くもならない。

 魔法さんは便利だなあ。


「おおー……微妙」


 次の標的には投げて当てる。

 噴射エネルギーにより、半壊したクナイが戻ってきた。


「安物のクナイでやると壊れるな」


 別のことも試そう。指先から雷の糸を大量に出す。ストリングキーのイメージだ。

 あとは壁につけて、ももっちと戦ったときのことを思い出す。


「サンダーネット!」


 空中に雷の蜘蛛の巣完成。ゆっくりそれに乗るが。


「うおっと」


 足が突き抜けちまった。あの時どうやっていたっけな。

 確かこう……精神統一……いや乱れまくっていたか?

 うーわもう、だからテンションに身を任せるべきじゃないのよ。


「魔力を足の裏へ集中して……リベリオントリガー使ったっけ?」


 足の裏から微量な電磁波を放出。それを蜘蛛の巣にくっつけて着地。


「おぉ、いけたいけた!」


 逆さにぶら下がっても落ちない。これ便利だな。

 壁をダッシュとかできるかもしれない。可能性が広がったぞ。


「くっつくっていうか引き合うイメージだな」


 しばらく巣の上を歩く。無意識でもできるように馴染ませるのだ。

 体がごく自然に動くように、いつでもできるように。


「おー、また変なことしてるっすね」


「やた子?」


 なんかやた子がいた。呼んでいないし、何か予定でもあったかな。

 こちらに飛んできて、カードを渡してくる。


「お届け物っす。ジョークジョーカーのマスターさん」


 なるほど裏の依頼か。久しぶりだな。


「運び屋だったなお前」


「そうっすよ。見学スペースにいたっすけど、話しかけるタイミングを失ったっす」


 見学許可制な場所とかもある。無論邪魔すると叩き出されるが。

 第三者が見学して意見交換したり、有望株をギルド勧誘とか依頼とか、まあ俺には関係ないことだ。


「見学オフにしていなかったのか」


「なかったっすよ」


 こいつはうっかりだ。まあちょうどいい。やた子にアドバイスを求めてみよう。


「ならちょうどいい。俺はどうすりゃ発展するかね?」


「恋すか?」


「誰とだよ。恋に発展させる状況じゃねえだろ」


「付かず離れず惹かれ合う。こいつは複雑な恋模様っすね」


「叩き出すぞお前」


 真面目にやる気ないな。

 だがこの程度の雑談なら、集中が切れないことが発覚。

 もうちょい続けよう。


「壁や空中を移動する手段を模索中でな」


「うちみたいに翼があると、飛べばいいって結論出るっすねえ」


「便利なやつだ」


 羽があれば飛べる。移動手段や制空権確保など、できることは多い。

 より立体的な動きが可能だろう。


「これはこれで苦労とかあるっすよ」


「出し入れできるんだろ?」


「言い方が卑猥っす」


「下ネタは嫌いだ」


 さらについでだ。多少協力してもらおう。


「時間あるか? ちょっとこの包囲網を飛び回ってみてくれ。捕獲と感知の訓練がしたい」


「面白そうっすけど、うちは無料でお手伝いするほど、安い女じゃないっすよ」


「金なんぞ欲しくないだろ?」


 こいつヒメノの部下だからな。それなりに高給取りなはず。

 そういうとこちゃんとしているのが、あいつの数少ない利点だ。


「そうっすねえ……よく考えたらアジュさんに何かして欲しいかと聞かれれば……」


「そこだな」


「なんか依頼でも一回聞いてくれるとかどうっすか?」


「鎧使う系だろ? かなりマジで練習付き合ってもらうことになるぞ?」


 どうせ神話生物が関係してくることは明白。ならきっちり修練させるぞ。


「今回は普通に無償でいくっす」


「ひよったな」


「うちはまだまだひよっこっすね」


「なんだそりゃ」


「鳥ジョークっす。では飛び立つっすよ!」


 軽く空中を飛び回るやた子。

 サンダースプラッシュとネットで位置を把握し、素早く捕獲することが目的だ。


「そこだ!」


 クモの巣状にしたネットを飛ばす。

 先読みもしたが、やはり速い。当然だが捕らえられない。


「余裕っすね」


「まあそうだよな」


 なので数を増やす。

 逆に俺の動きが制限されないよう、ある程度離れた位置へ飛ばすことにも注意だ。


「ほーれほれ、捕まえてごらんなさーい!」


「うーわ……」


「そこまで引かなくていいじゃないっすか!?」


 後ろに下がりながらネットの連打だ。


「引き撃ちアタック!」


「意味変わってくるっすよ!」


 これは追いつけない。トップスピードならイロハでも目で追うのは難しいほどだ。

 さてどう小細工するかね。


「羽ブレード!」


 黒い羽が中を舞い。ネットを切断していく。


「反撃されることも考えるっすよ」


「そうか。これ脆いのか」


 糸は細い。張り巡らせても、俺が飛ばした魔力で維持されているだけ。

 つまり徐々に弱まって消えるし、細いなりの耐久力しかない。


「欠点多いなこれ」


「長所も多いっすから、ちゃんと伸ばすっす」


「了解」


 そして部屋の使用時間が終わる。

 とりあえず借りは作らないよう、何か奢ってやろう。

 そんな発想で屋台区域へ。


「好きなやつを三個くらい選ぶがいい」


「絶妙にせこいっすね」


「晩飯が入らないだろ」


 腹一杯になると困るのだ。雑につまむべし。


「律儀な人っすねえ」


「俺は他人に貸し借りとか作りたくないの。お前は安全な方だろうが、それでもだ」


「安全ねえ。実は危険かもしれないっすよ」


「俺に手を出さないだけで、十分安全だよ。ギルメンとは別の安心感だな」


 こいつに男女のどうこうは感じない。完全なる腐れ縁だ。

 そこが絶妙な安心感を生む。素晴らしいね。


「うちと一緒にいると安心しちゃうっすね? 一緒にいて楽しいわけっすねえ」


「そういうこと。お前なら問題ないしな。ほら行くぞ」


「……ずるくないっすか?」


「なにが?」


 よくわからんが難しい顔していやがる。渋い顔かな。


「…………別に。なんでもないっす。うちあれが食べたいっす!」


「はいはい」


 こんな感じでだらだらして、家に帰るのであった。

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