新たな裏の依頼

 やた子に貰ったカードだが、人のいない、大きめの声が出てもいい場所で魔力を込めろと言われた。なので俺の部屋まで戻った。


「さて、何がどうなるのかね?」


 魔力を込めるとジョーカーの絵柄が光る。ここまでは一緒だ。

 学園長のサインも光る。


『ごきげんよう我が切り札。ダークネスファントムだ。わかっているとは思うが、これは裏の依頼だ』


 学園長の声がする。洒落た機能つけやがって。


『今学園に特別滞在中の講師を表向きには護衛して欲しい。君に護衛が向いていないことは承知の上だ』


 学園内で俺に護衛させる意味はない。そして殺すか壊すかが俺の得意分野。

 それでも依頼するということは、余程危険なのだろう。


『男の名はモッケイ。美術界では名を知らぬものはいない。伝説的な水墨画の巨匠だ。彼の絵は最低でも億の値がつく。国宝として王族が保管するものも多い』


「ほう、妙な依頼が来たものじゃな」


 リリアが入ってきた。こいつはギルメンだから問題なし。

 話の補足でもしてもらいたいところだ。


『建物の外で警護するものがレベル1。屋内がレベル2。本人についているのがレベル3。レベルが上がるほど実力者だ』


「なるほどな」


『君の目的は少し違う。彼の書く新作と、画材道具一式の警護もして欲しい』


 正直専門の連中に任せておけばいい気がする。

 つまり、きな臭くなるのはここからだ。


『道具はとある王族からの贈り物で、新作は当日に本人が持参する。どちらも価値あるものだ。彼の作品が失われ、闇に流れてしまうことは、世界の損失と言えるだろう』


「そんなんを講師に呼べるのか」


「学園のレベルの高さと知名度ありきじゃな」


『君たちにはレベル3の権限を与える。2と3の中間で警護し、必要ならば3の専属警護に当たれ。必要なものは追って渡す。ギルドメンバーの同行も許可しよう。モッケイ殿には許可を頂いてある』


 よくこんな意味のわからん不思議な話を承諾したなそいつ。

 お人好しか、でなきゃ自分の能力に自信でもあるのだろう。


『本人も承知の上での囮捜査といったところだ。気楽にやってくれたまえ』


「いいのかそれで……」


『やた子くんがそちらの自宅へ物資を届けたはずだ。使ってくれ。合言葉と目印は……』


 そこから細かい説明に入る。この時点で受けることは決めていた。

 裏の依頼なら、危険度は上がるが報酬はいい。

 少し金が必要だったところだ。


『なお、このメッセージは自動的に消滅する』


 カードは光の粒子となって消えた。いいセンスだ。


「それじゃあ行ってみるか」


「じゃな」


 自宅に届いた小包を開け、小さなバッチと建物の見取り図を確保。

 美術館から近い場所にあるホテルだな。そこの五階にいるらしい。

 装備を整えたら四人で出発だ。


「お勤めご苦労さまです」


 豪華なホテルに到着。階層は六階まで。屋上付き。

 外には見える位置にわかりやすく警備がいる。

 厳重な警備を確認しつつ、護衛対象の待つ部屋へ。

 さてどんな顔が出てくるのやら。


「失礼します。ダークネスファントムさんからの依頼で来ました」


「お待ちしておりました。どうもはじめまして、天才のおじさんで……おや?」


「おぉ?」


 おいおいあのおっさんじゃないか。

 最近よく見た天才自称するおじさんだよ。マジか。


「妙なこともあるもんじゃのう」


「これはこれは……これが友情の絆ですかね?」


「違うと思う」


 室内は広い。VIP用の部屋だ。俺たち以外に護衛の人が四人。

 全員強そうだ。それぞれ装備も違う。


「ここに来る途中で見覚えのある装備の連中を見た。確かおっさんを追いかけていた奴らだ」


「ええ、彼らは真面目に護衛してしまうので、絵を書くときもきっちりマークして、風景を乱しちゃうんですよ」


 そうだ。あの集団が広場でおっさんを追いかけていたのは、護衛するためだったんだ。人騒がせなやつ。


「……わざとか? あらかじめ友人枠を作り、俺たちのようなやつがいても不自然じゃないように見せかけるために……」


「いけませんねえ友情を疑っては。あれは完全なる偶然ですよ。昨日学園……ダークネスなんとかに適切な人材を回すと言われただけです」


「まさか全員に言わせてんのか、ダークネスファントム」


「いい迷惑ですよ。私にダークシャドウアートだかなんだか異名をつけようとしたので拒否しました」


 あの人自由過ぎないかな。そして無駄に人脈が広い。

 とにかく偶然らしい。俺の力を知らなければ、普通の学生だしな。

 わざわざコンタクト取る意味がないか。


「こちらは今回特別に雇われた騎士のみなさんです。とてもお強いらしいですよ」


 軽く挨拶をする。学生じゃないな。特殊任務につくSPか。

 かなりオーラがある。どうせ達人だろう。


「そちらはフルムーンとフウマの王族とお見受けします」


 おっさんはフルムーンを知っているのか。世間に疎いイメージだけど。


「ご存知でしたか」


「ええ、有名ですから。ジェクト様とコジロウ様は芸術にも一家言ある方ですから、有意義なお話もできました」


 あの人らも顔が広いな。まあ大国の王だから疑問はない。


「今はアジュのギルドメンバーです。お仕事の邪魔をするつもりはありませんので、どうぞお気遣いなく」


 SPの方々がほっとしている気がした。そりゃ護衛対象が増えたら困るわな。


「それで、今回の依頼は護衛ということですが」


「私と作品と……画材でしたね。はいこれ作品です」


 大きな絵が画板にかけられている。二作あるが……どっちも同じ絵だな。


「タイトルはそうですねえ……天才の抜け殻とでもしましょうか」


「失礼ですが、我々には同じ絵に見えます」


「本物はどっちだと思います?」


 何を試されているんだろうか。俺は護衛であって目利きじゃないってのに。


「暇潰しのレクリエーションですよ」


「おぬしに任せるのじゃ」


「がんばってアジュ」


 なぜ俺に丸投げだお前ら。こういうの得意だろ。


「…………どっちも同じに見える。同じ風景を同じ時間に書いている。っていうかこれ高いのか? なんか違うぞ」


「失礼だぞ君。申し訳ありません。我々にもわかりませんが、とてもいい絵です」


 SPもわからんらしい。じゃあ俺には無理。そもそもこれが高い理由がわからん。


「いいですね。ではダチことアジュさん。これどう思います? 素直な感想をどうぞ」


「お芸術はわからん。けど超高額とは思えない。どっちも贋作じゃないのか?」


「真作であって贋作ですよ」


「謎掛けはやめろ。俺は護衛だ」


「ギルドの方々も気づいているようですね。いい審美眼です。SPよりも感受性豊かなのは、お若いからでしょうか」


 実に楽しそうだが、ここまで来てクイズやらされる意味がわからん。


「モッケイ様、我々はどちらを護衛すれば?」


「どっちもですよ。最後のオークションに出る品ですから。丁重に扱う必要があるみたいです。苦労をかけますね」


 なんかうんざりしているな。天才にも面倒事はあるのだろうか。


「ではそちらと我々で、一作ずつ預かりましょう」


 片方をSPさんが持ち、俺たちにもう片方が渡される。

 あとで召喚機のスロットに入れておこう。


「さて、気晴らしに約束でも果たしましょうか。SPさんは部屋の外をお願いします」


「よろしいのですか?」


「ええ、友人とリラックスタイムを送りたいので」


「上下左右の部屋は我々の部下が詰めております。何かあれば遠慮なくおっしゃってください」


 それだけ言って退出。広くて豪華な部屋に、俺たち四人が残された。


「いいのか?」


「いいんですよ。私の命なんて、狙う意味がないはずですし」


 そう言ってもうひとつ画板を用意し、絵を書く準備を始めている。


「さーて、では並んでください。一枚に収めたいので」


「あの……何を?」


「彼と約束したんですよ。自分たちの絵を書いてくれって」


「そういや……言ったか?」


 律儀だな。それともホテルから出られない気晴らしなんだろうか。


「では改めまして、ダチのおっさんことモッケイの天才っぷり、お見せしましょう」


 大きな巻物を開き、真面目な顔で筆を取った。

 少し興味もあるし、その腕見せてもらおうか。

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