お茶とパスタとカジノ

 なぜかサクラさんとお茶飲んでいる俺。幸いにも普通の喫茶店だ。

 外観からおしゃれさん専用店だと思っていたのに中は普通。

 あんまりにも大きな声を出さなければ活気があるで済まされているのか、女達の会話がちょいとうるさい。


「おごってあげるって言ったのに」


「自分の分だけ自分で、が一番いい方法ですよ。でなきゃ割り勘で」


「そこで俺がおごりますよ、とかかっこつけないのね」


「かっこつけて得なんて一切ありませんからね。無駄金使う気はありません」


 部隊員でもない女におごるなど俺のプライドが許さない。しかしパスタ美味いなおい。マスターオススメとか書いてあったので頼んだボロネーゼが超絶美味い。週一で通ってやろうかしら。男一人で入るのがきついが我慢するしか無い。


「美味しそうに食べるわね」


「死ぬほど美味いです。食べたことのない魚介類が混ざってますね」


「ここのオススメは一切のハズレがないわ。変わってないわね」


「来たことあるんですか?」


「あるわよ。ここは魚料理と喫茶店メニューが食べたくなったら来るといいわ」


 魚は学園で釣ったり漁に出たりして取ってきてる新鮮な素材らしい。

 釣りの許可が出ている場所が結構あるらしいので、今度行ってみよう。


「それじゃあコイバナいってみましょうか」


「俺に恋とか一ミリも関係ないんで無理です。うわさ話からでお願いします。怪しい奴がいるとかそういうの」


「高等部なんでしょう? 浮いた話の一つくらいないの? サカガミくんならあるかなーと思って誘ったのに」


「絶望的人選ミスですね。で、うわさってなんです? 学園七不思議的なやつですか?」


「意外とせっかちね……七不思議ってまだあるのかしら。学園長がよなよな怪しい儀式をしているとか」


「俺は一つも知りません。あと学園長はそういう儀式をしていても違和感ないので不思議もなにもないです」


 あの思春期特有の病気をわずらい続けている学園長なら、確実にやってるだろう。容易に想像できる。


「学園が封印・管理している場所ってあるでしょう? 敷地内・外を問わずに」


「ありますね。行ったことないですけど」


 大昔に大きな戦いで舞台となった場所は負の思念がたまりやすいらしく、定期的に浄化しないとダメらしい。そのために学園が入り口を封印し、学園関係者以外は許可がないと入れないようにしてあると座学で習った。ダンジョンとして生徒に攻略させる修業の場と化していることも習ったさ。


「サカガミくんは戦闘系の科じゃないの?」


「一応勇者科です。でも戦闘とかめっちゃ怖いでしょう」


「それでも勇者の素質があれば有利じゃないかしら?」


「その辺イマイチわからないんですよね」


 勇者科は素質が無ければ入れない超特殊クラスだ。基本的に女性にしか素質がなく、男が発現することはまれである。能力自体もバラバラで、実戦経験を積ませるなどのきっかけを与えるか、突然の目覚めを待つしか無いとかなんとか。


「そのうち使いこなせるようになるわよ。それで本題だけど、使われていないカジノ施設があるのよ」


「カジノ? 学園に?」


「ええ、ギャンブラー科っていうのがほんの少しの期間あってね。まあ治安が悪くなるとか親御さんからの反対もあって即潰れた科なんだけど。」


 なにやってんだこの学園……見境なしかい。


「近々取り壊し予定のその施設に出入りしている怪しいローブ着た女の子達がいるって話よ」


「それだけだと取り壊しの関係者かもしれませんよ?」


「最近になってスケルトンやミイラが現れて取り壊しは中止されているのよ。なのに入っていく子がいるなんておかしいじゃない?」


「なーるほど。そりゃ妙ですね」


 まだあいつらの目的がわからない。信仰とか力を求める傾向はあるけど、それで何をするかが見えてこない。


「とりあえず行ってみます。ありがとうございました」


「いいのよ。これくらいなんてことないわ」


「思っていたより真面目に話してくれましたし、情報量ってことで俺のおごりでいいですよ」


「かっこつけないんじゃなかったの?」


「借りを作りっぱなしもアレなんで。絶対にふざけて終わると思ってたのでお詫びも兼ねてます」


 どうせのらりくらりと小馬鹿にされて終わると思っていたので普通にありがたい。ちゃんと会話できる人なんだな。これなら情報量として飯くらいは問題ない。クエが終われば金も入る。


「それじゃ、お言葉に甘えるわ。なかなか楽しかったわよ。何かあったら教えてね」


「はい、ありがとうございました」



 そして夕方になって、やってきました元カジノ。


「思ったよりでっかいな」


 見たところ三階建て。周囲は整備されているが近くに建物はなし。大人数で使うことを予定していたんだろう。かなり大きい建物だ。


「今から行くと夜になるのう……」


「よっしゃ引き返そうぜ」


 とりあえず下見に来たリリアと俺。どうやら敵は夜になると現れるとか。

 つまり今のうちに逃げるべし。


「ん、アジュとルーンか? お前らこんなとこで何やってんだ?」


「ヴァン? ちょっと秘密のクエでね」


 セットなどしていない真っ赤な短髪で筋肉質な男ヴァン。

 この男なら秘密と言っておけば無駄に詮索してこない。


「おぬしこそ一人でなーにやっとるんじゃ」


「オレは化物が沸いたっていうカジノの下見だ」


「俺達と同じか……やめとけ。夜になると室内はミイラと骨でびっしりらしいぜ」


「……ミイラっつったか? 敵について詳しく知ってるなら教えてくれ」


 急に真顔になるのはやめろ。なんか怖いぞ。必死さが見え隠れしている。


「あんまり詳しくは話せない。ミイラとスケルトンとかが夜になると徘徊するんだとさ。呼びこんでるんじゃないかっていう怪しい奴もいる。それ以上はクエの関係で言えない」


「その中に黒い犬の顔をした男はいるか?」


「はあ? なんじゃいそれは?」


「言っている意味がわからん。落ち着け。なんか変だぞヴァン。これじゃ答えようがない」


「すまねえ、はぁ……うっし落ち着いた。理由があってな。首から上が黒い犬になってる男を探してる」


「まんま犬の顔ってことか。悪い、わかんねえ。少なくともそういった情報はない」


 その男も謎ならそれを探しているヴァンも謎だな。

 でもあっちが深入りして欲しいと言わない限り詮索はやめよう。

 人には知られたくない過去もある。俺にも山ほどあるぜ。


「そうか、急に悪かったな。急ついでになんだがオレもついていっていいか?」


「ついていくって……カジノの中にか? 正直帰ろうと思ってたんだけど」


「それに秘密行動中じゃ。カジノ内に入ってもわしらは問題ないが、ヴァンがどうなるかは知らぬ」


「助手ってことでダメか? 戦闘なら役に立つぜ。報酬もいらねえ。目当ての男がいなければそっちの邪魔はしない。全部アジュの手柄でいい。頼む。この通りだ」


 真剣に頭を下げてくるヴァン。

 そうまでしてその男について知りたいんだろう。


「んーまあ強いのはわかってるし、俺の鎧のこともバレてるし……助手がダメとは言われてないよな?」


「味方が少ないとアジュはヘタレて逃げるからのう……ただし、見聞きしたことは他言無用じゃ。ヴァンっぽい男の幻覚が見えたような気がするが全て気のせいじゃ。面倒になったらこれで通すのじゃ」


「すまねえ恩に着る。借りは絶対に返す。絶対にだ」


 物凄く感謝されてしまった。よほどそいつを見つけたいんだろう。

 ちょっと注意深くカジノを回って見るくらいはしてみるか。


「よし、じゃあシルフィ達も呼んでから……」


「おお、偶然だな庶民よ!!」


「ファングか。またえらい偶然もあったもんだな」


「わが愛の調べによるとこのカジノが怪しいと睨んでいる。そこに現れるとはやるではないか! 流石は我が愛が見込んだ庶民よ!!」


 勝手に見込まないで欲しいです。そっとしといてくれ。


「ファングねえ……また素敵なニックネームつけたな坊っちゃん」


「む、ヴァンか。貴様がいるということは……やはりこのカジノで当たりか。貴様の狂った場所を嗅ぎつける嗅覚には一目置かねばならんな」


「なんじゃおぬしら知り合いか?」


「ああ、何回かヤバイ依頼をこなしたり死線を潜ったりしてな」


「学友との思い出としては上等だな」


 思わぬところで繋がっているもんだな。

 趣味が筋トレっぽいヴァンと、見るからに大貴族のファングが学友か。


「さあ皆の者! いざ行かん! 悪の枢軸へ!!」


「は? いやちょっとまてまだ仲間に連絡を……」


「愛の使者が成敗してくれるわ!!」


 入口の扉を豪快に開け放ち、ヴァンを引っ張って中に入っていくファング。


「おいおいどうする?」


「仕方あるまい。ミナさん、シルフィ達に連絡頼むのじゃ。晩ご飯までには帰るから待っていて欲しいとな」


「承りました」


「いたんですかミナさん」


 いきなり出てきてお辞儀をしたかと思えばもういない。

 あの人忍者か何かじゃないのか。


「なにをしているショミンズよ! 急ぐのだ!」


「変なチーム名を付けるな! しゃあねえ行くぞリリア」


「うむ、任せるのじゃ」


 こうしてカジノ攻略パーティーが結成された。晩飯までに帰れるといいなあ。

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